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Chapter.4 ロッテン・オールドフレンズ

オッドホーンは自らの痕跡を消すために麻薬取締局時代の同僚を消し始めた。

先手を打たれ五人が死亡し、生き残ったのはただ一人のみ。

エヴァはCLAWの強引なやり方に納得がいかず、一人で生き残りを捜索するが…

「エイヴァ捜査官、進展はどうだ?」


エヴァ四等巡査こと連邦捜査局捜査官エイヴァ・バットリー・キャンベル捜査官はCLAW内での任務を終えると、本部を離れ供与された覆面パトカーのフォード・マスタングボス302の内部で秘匿回線を使用して、本来の上司であるFBI副長官へと報告を行うのが仕事である。


彼女は仕事中の突入時にプレートキャリアに装着しているボディカメラを使用して、CLAWが何を行っているかについての映像を逐一送り、現場から強奪に近い方法で奪い取った物を不正の証拠として提出する任務を請け負っている。


「ええ、良い形で潜り込めています。奴らは車好きの連中ばかりだから仲を深めるのも容易い。」


「良い兆候だな。それで、USBメモリの足掛かりは掴めたか?」


「エリス・アンフォーチュンから引き出した情報ですが、副長官が仰っていたUSBが紛失した時期と今より一年半前にCLAWこと旧特殊捜査任務懲罰部署に所属していたチームリーダーであるクロウ・S・マーロンが死亡した時期と一致しているのです。何かあるとすれば、彼女が関与している可能性が高いかもしれません。」


「クロウ・S・マーロンか。書類によればとんだ悪徳警官だ。」


「単なる死んだ悪徳警官の一人がFBIの機密を握っている…何か裏があるのかもしれません。」


「彼女がCLAWに入る前に住んでいた家は一度調べたが、中はもぬけの殻だった。絶対何か裏があるはずだ。引き続き捜査を頼む。内部の情報はFBIの最高機密事項だから手に入れても解析はするな。お前と同じ他の潜入捜査官の情報も入っている。」


「わかりました。引き続き捜査を続けます。失礼します。」


エヴァは通信を切ると、そのまま自身が泊っている安いモーテルへとマスタングを停めた。


彼女がCLAWクルーとして過ごしている間はずっと本部から五キロほど離れた近くにはガソリンスタンドしかない田舎町のモーテルを拠点としている。


そこでボス302の給油を終えた後、プラスチックの容器に入った五ドルの冷たいサンドイッチと四ドルのサラダを食べ、ルートビアを飲む機械のような生活である。


潜入捜査に入る前は健康的な食品とバランスの良い食事を取って、なるべく体に良い生活を心がけていたが、ここ最近は栄養も偏りがちで肌は荒れ気味。


ずっとこんな生活を続けていては体に悪いと心の中でずっと思っている。


現在スネークビーチ市警のエヴァ四等巡査としての住所はスネークビーチ内に存在しているが、実際のところそれはFBIによって用意された隠れ家にすぎない。


書類に書かれている経歴は全て偽物であるし、年齢も情報操作のためにリーダーであるタイラーとの関係を深めるために二十五歳となっているが、実際のところは二十八歳である。


家族は先祖代々FBIの家系で祖父は中国系移民二世でありながら、差別と偏見が根強かった時代にFBIに入った偉大な人であり、父親もまたその意思を継いでFBIの捜査官となった。


父は十数年前にとある事件の捜査の最中に警官に誤射され亡くなってしまった。そんな私が誤射で民間人を殺して左遷された警官を演じるとは世も末だなと思う。


CLAWに潜入捜査に副リーダーとして入ってから早一か月は過ぎたが、皆タイラーの命令で動いており、自分が付け入る隙が少なく何か異論を言ってもねじ伏せられてしまうことには不満だったが、心の奥底で本当にCLAWのクルーが悪い連中なのかという雑念も沸き始めている。


そんなことを考えながら愛用のスミスアンドウェッソンのミリタリーアンドポリス・R8の分解清掃を行う。


この銃はエヴァのジンクスに由来するチョイスであり、実用性とリボルバーの堅実性を兼ね備えたこだわりの一丁である。


数年前、まだFBIで他の仕事に当たっていた際に使用していたシグ・P320がジャムを起こした上、その際に敵から負った傷で生死の境を彷徨ったことがあった。


それ以来、予備として腰にP320を携帯してはいるが、何故だか抜くのが怖くなっていった。


そして何の因果かオートマチックを抜く度に何故か不運なことが起きるようになっていき、行きついた先がシングルスタック並の容量とリボルバーの確実性を持ったこのR8であった。


ダブルアクションピストルではあるが、未改造の状態でもシングルアクション並みのトリガープルを実現している。


エヴァはこれを信用できるガンスミスに依頼して内部をミリ単位で調整してカスタマイズしており、更に軽いトリガープルを実現している。


自慢の銃の整備を終わらせると、いつ誰に襲われても大丈夫なように枕の下に隠して眠りにつく。


CLAWに対する情はストックホルム症候群に近い何かかと割り切り、その晩はそのまま瞳を閉じた。






「ヒトキリ、しくじったな。」


オッドホーンはCLAWへの宣戦布告の狼煙としてイブキ・シバミネに対してヒトキリを差し向けたが、ハイウェイでのドラッグレースに敗北して370ゼットは完全にクラッシュして爆発炎上。


間一髪で落下中のゼットから脱出し、近くにある湖に飛び込んだことで死は免れたが作戦には失敗してしまった。


ヒトキリは申し訳なさそうな表情でオッドホーンの前で膝をついた。


「そういうこともある。確かにムカつくが私はお前の腕を疑ってはいない。何よりもお前は刀を持って行かなかっただろう?」とオッドホーンが語り掛けるとヒトキリは同意して頷く。


ヒトキリの使用している刀は〝朧月〟という五百年前に服部半蔵という刀鍛冶によって打たれた物で真の強敵と認めた相手にしか使用してはいけない。


なぜなら、この刀は持ち主の命を吸い取る妖刀で真の強者を相手にした状態でないと抜くことができないと伝えられており、ヒトキリはその伝説に従っているからだ。


「お前は次の戦いに備えて瞑想していろ。自慢の車がペシャンコになって残念だろうが、あとで代わりを用意してやるさ。ああそうだ、マヌエラ少し話がある。」


オッドホーンが指をスナップすると端っこで体育座りをしながらユーチューブでAPT.を聴いていたマヌエラがやってくる。


「どうしたの、マム。」


「私の身の上が連中に知れた現状、昔の知り合いを消して存在を抹消しようと試みているんだが…一番邪魔な奴はクルティードの下っ端のシカリオには任せてはおけない。そこでお前には…そいつの抹殺のバックアップを頼みたい。チャンスがあればCLAWの連中も殺してきてほしい。前もクルティードからの依頼で元CLAWの連中を消しただろう?」


「わかった。けどマム、いつになったら私の家族の仇について教えてくれるの?」


「それは目下調査中だ。任務が終わったらどびっきり美味しいアイスクリームを食わせてやる。」


「…わかった。」


「よし、いい子だ。」


オッドホーンはマヌエラに対してまるで自分の実の子供であるかのように接している。それはオッドホーンがDEAの仕事で無意識のうちに薬物を摂取したのが積み重なっていった結果、不妊症を引き起こしてしまったからだ。


これまでストレス発散のためにセックスワーカーの男を幾度となく避妊具なしで抱いてきたが、一度だって妊娠したことはない。


殺しを依頼するCEOとその殺しを請け負う殺し屋という関係にも関わらず、何故だかオッドホーンはマヌエラを溺愛している歪な関係だ。


何度も家族の仇について問われているが、あえて話してはいない。


何故ならそれで自分とマヌエラとの関係が壊れてしまうことに、恐怖心を感じているからだ。


「それでマム、情報は?」


「ああ、こいつだ。ムカつく顔をしてる。リジー・リーだ。居場所は〝私の特別な知り合い〟が入手した発信機で探せばすぐに見つかる。いいか、CLAWのメンバーは二の次でもいいから、シカリオがしくじりそうだと判断したならこいつだけは確実に消してくれ。」


「わかった、マム。愛してる。」


「ああ、マヌエラ、愛してるよ。」


オッドホーンはマヌエラを抱きしめると額にキスをし、そのままマヌエラはビソンテスの部下数人を呼び出してシボレー・サバーバンを出発させた






「おい、警視から情報が入った。」タイラーは真剣そうな表情をしながら、全員が待機してるプレハブ小屋へと入った。


「なんでも元DEAの職員が連続して殺害される事件が起きているらしい。そこで警視が情報を洗ったところ、こいつらと関わりがあった見覚えのある人物が出てきた。」


「オッドホーンか。」


「そうだ。しかも残虐なやり方ばかりをしている。お前らも見覚えがあるだろう?皮を剥がしてその皮を送り付けるって。」


「つまり、オッドホーンは自分の組織に足がつかないようにするために、何らかの関係があるロス・クルティードのシカリオに仕事をやらせて自分の痕跡の抹消を始めたってことか?」


「ああ、確証はないが多分そうだ。我々に嗅ぎ付けられ始めたことで情報を知っている近い関係にあった人間を片っ端から殺して回ってるみたいだ。これまでに五名が殺害され、オッドホーンと関わりがあった職員はあと一人しか生き残っていない。CLAW以外にもこの事件に足を突っ込んでいる組織がいるようだから、先回りしてそいつを救出する必要がある。名前はリジー・リー。名前の通りアジア系。だが、一癖ある人間みたいだ。」


タイラーはプロジェクターで画面にパソコンの映像を映し出すと、そこにはやつれた顔をした三十代ぐらいの女性が映っていた。


経歴は麻薬取締局の特別対応チームでオッドホーンと共に活躍したというと輝かしいものがあったが、何を思ったのか押収した薬物の一部を民間に流したうえで私的利用を行い、それが発覚して懲戒免職処分となっている。


現役時代の写真は肌にハリとつやがあったが、現在の身分証明書に使われている写真を見た瞬間、アンジーは一目見てリジーが薬物中毒になっていることを見抜いた。


現在は落ちぶれた末にアニマルシティのコングトンで路上売春を行う娼婦となっているようだ。そしてその金のほぼ全てを薬物につぎ込んでいる。


違法売春を繰り返していた影響で軽く確認しただけでも十件の逮捕履歴があった。


「救出ってか、拉致ッスよね。他の法執行機関も介入しているのにわざわざ我々が非合法なやり方でそいつらを拉致って何になるっていうんスか。それこそFBIとかに任せるべきじゃ。」


「他の法執行機関はオッドホーンとクルティードの関連を何も知らない。このままただ保護されただけじゃ刑務所で殺される可能性だってある。そうなれば、やがて回り回って市民にも影響が起きる。私たちは言わば水こし器だ。汚れを受け止めないと。」


「はぁ、そうッスか。自分、一応副リーダーって立場なんスけどね。誰も何も聞いてくれないじゃないスか。序列じゃ私は二番目なのに誰も私の異論を受け止めようともしてくれない。仲は深まってると思ってたんスがね!自分はアニマル市警上層部の公認を受けてるんスよ?少しは意見を聞いてくれても。」


「私も最初は違和感を感じてた。でも、CLAWというのはそういう組織だ。慣れるしかないんだよ。」


「…わかったッス。じゃあ自分は単独で動かせてもらうッス。」


「おい、待てエヴァ!」


エヴァはタイラーの言葉を無視して覆面パトカーのボス302に乗り込むと、そのままCLAW本部を出発してコングトンに向かいつつ、自身のFBIの副長官に連絡を取る。


「副長官、元麻薬取締局の人物を探してます。名前はリジー・リー。中国系でやつれた顔をした娼婦の女です。」


「何故、そいつを追っている?お前の主目的ではないはずだが。」


「この女はビソンテスの情報と繋がるカギになるかもしれません。オッドホーンと元同僚で、オッドホーンは自身と関連のある人物を消して回ってます。コイツを合法的に捕まえて私の真っ白な正義を信じる心をCLAWの連中に証明してやりたい。今情報を調べている警察官をFBIの権限で遠ざけてください。捕まえた後はそちらに引き渡しますから、調べた情報をこちらに流してほしいんです。」


「ほう?オッドホーンと関わりがある人物か…なら、了解した。そいつを捕まえたら回収ユニットを派遣する。くれぐれもCLAWの連中に見つからない様に。」


「了解です。通信終了。」


エヴァはコングトンへと到着すると、盗まれないように人気の無い場所にボス302を停めた。


コングトンはスニッド・ロウと比べればまだマシな地域ではあるが、アフリカ系のギャング集団であるグローブ・ファミリーとセルビア系のギャング集団であるグループ・ベオグラードが常に抗争を行っている地域であり、警官もめったに近寄ろうとしないアニマルシティの魔境の一つである。


一見ただの住宅街のように見えるが、あたりに置かれている乗用車は勝手にパーツを抜かれて錆びたボディだけになっており、壁にはそれぞれのギャングの縄張り争いの痕とみられる銃痕やグラフィティがみられる。耳をすませば遠くから九ミリ弾の発砲音が聞こえるような場所だ。


ホルスターに入っているR8リボルバーをいつでも抜けるように警戒しつつ、セックスワーカーの街娼がいる地域へと向かう。


頭の中に入っているリジー・リーの顔写真と、あたりの街娼の顔を比べながら必死で探す。


街娼たちは誰もが虚ろな目をしていて腕には注射器の痕があり、性行為に及んだ後に手に入れた金も全て薬物につぎ込んでいるようだった。


年齢も様々で三十代から四十代、酷いものだとまだ成年もしていないであろう女の子もいた。


心の中でこの社会構造を作った人間たちを恨みながらリジー・リーを探していると、派手な喘ぎ声を上げながら現在進行形でギャングとみられるタトゥーの入った男に壁に押し付けられながら外で性行為をしている三十代ぐらいのアジア系の女がいた。


「あー、すんません。リジー・リーさんですか?アニマル市警のエイヴァ・バットリー・キャンベル四等巡査というものですが…」


「あんっ、あんっ、ジェイコブ、すごいわ、あなたのとっても大きくて逞しいっ!」


「…」


エヴァは暇つぶしに性行為中の男女がどれだけ知能が下がっているかについての論文を読んだ大学時代を思い出しつつ、もう一度名前を呼んだ。


「あんっ…ああ?誰、あなた。私は今このジェイコブとヤってる最中だってのに。もしかして3Pをご所望かしら?」


「いえ、そういうわけではないんですけど…」


「リジー、出る!出る!」


「ああっ、ジェイコブ、全部飲み込んであげるわっ!」


ジェイコブが絶頂している様を見ながら、エヴァは何故こんなところに来てしまったのだろうと頭を抱えそうになった。


「あの、終わったならこっちの要件を…」


「待ちなさい。セックス・ワーカーは仕事が大事なの。オーラルセックスまでしてようやくフィニッシュよ。プロ意識をもって私はセックスを仕事にしてるわけ。」


リジーがジェイコブのナニを咥えようとした瞬間にエヴァは「リジー・リー元特別捜査官!」と叫ぶと、リジーは動きを停めた。


「…なんであんたが私が元DEAだってこと知ってるわけ?」


「おい、早く舐めてくれよぉ…」


「あぁ、ごめんなさいジェイコブ。少し用ができちゃったみたい。後でまたシコシコしてあげるから。」


「はい…」


ジェイコブはパンツを着なおすとそのままバツが悪そうにその場を後にした。


「で…なんの用?私は今おクスリの代金稼ぎで忙しいんだけど。」


「単刀直入に言うと、あなたは命を狙われています。」


「命?こんな街で体売ってるだけの私が命を狙われるなんてことある?」


「カレン・パッカードについてご存じですか?」とエヴァが言うとリジーの顔色が変わった。


「カレン…カレン…あのクソアマ、私を殺そうっていうの?あいつは私をビジネスに入れてくれなかった上に、ヤクヤって流してることをタレこんで私をこんなにしやがったのよ。あいつがチクらなければこんなことにはならなかったのに。そのうえで私まで殺そうっていうの?信じられない…」


「既にオッドホーンと同じチームにいた他のメンバー五人は殺害されてます。彼女は今民間軍事会社の長となって自分の痕跡を消すために過去の仲間をカルテルと共謀して殺して回ってる。あなたが最後だ。せめてあなただけでも私は助けたい。」


「カルテルと共謀…?あいつも腐れ外道に堕ちたのね。なんだか清々した気分だわ。」


そう話していると体にタトゥーを入れたイカれた目つきをしたカルテルのシカリオと思しき人間が遠くに見えた。シカリオたちは周りにいる街娼たちに安いサタデー・ナイト・スペシャルを向けて顔を手元で持っている写真と見比べながら、誰が殺害対象であるかを見定めているようだった。


そしてリジーと同じ中国系や顔立ちの似ているアジア系の街娼を特に躊躇もなく撃ち殺していき、ついにはこちらと目が合いついには銃撃を開始し始めた。


おそらく彼らが件のロス・クルティードのシカリオなのだろうと、確信したエヴァはリジーの手を引くと、ボス302を停めてある場所へと急ぐ。


「な、なんなのよあいつら。この辺じゃ死体なんて珍しくもないけど、見境なく人を撃つなんて!」


「だから言ったでしょう!カレンは本気であなたを殺しに来てるんですよ!」


「じゅ、銃は、銃はないの!?私だってプロだったんだから撃ち方ぐらいはわかる!」


エヴァはジンクス故に嫌な予感がしながらも、リボルバーとは別のホルスターから予備で携帯していたシグ・P320ピストルをリジーに渡した。


そして全力疾走しながらボス302の元へと行くと、ただいま現在進行形で明らかに窃盗犯とわかる街のゴロツキが窓ガラスを割って盗もうとしている最中だった。


「あー、もうもうもう!早速悪いことが起きた!本当に最悪!」


「それは覆面パトカーだから盗んだら確実に足が付く。」と言ってエヴァは窃盗犯に対して銃を突きつけた。


「この街でこんなに状態のいいマスタング、しかもボス302なんて置いてたら盗まれるに決まってるじゃねえか。俺は悪くねえ、この車を貰う!」


「なら正式な手続きに則ってお前を逮捕──」とエヴァが口ずさんだ刹那、その窃盗犯の頭に風穴が空くとそのまま地面へと倒れて動かなくなった。


「…なんで撃った?」


「こんなやつに構ってたら私は殺されちゃうわ。命が大事ですもの。他の人間を蹴落としてでも生き残ってやる。」


「この人は確かに窃盗犯だったかもしれないけど、ただの盗人で人殺しでもなんでもないじゃないか。なんで殺す必要があった!」


「あら?あなたが私に銃を渡したのよ?」


「…ッ…クソが…」


エヴァは行き場のない怒りを感じながらも、リジーをボス302の助手席に座らせる。


リジーの股からジェイコブの出した精液がシートに漏れ出して付着していて、更に気分は最悪になった。


シカリオたちが銃声を聞きつけて追跡し始めると、エヴァはボス302のギアを入れてフルスピードで走らせる。


その様子をビソンテスのマヌエラはSA58狙撃銃のスコープ越しから確認した。


「…マム、やっぱりシカリオは使い物にならなかったみたい。すぐに逃げられちゃってるよ。」


「はぁ…やっぱり下っ端は使えないな。クルティードはどれだけ私たちのことを下に見ているんだか…マヌエラ、好きにチームを動かしていいぞ。なんとしてもリジーを消せ。」


「わかった。通信終了。」


マヌエラは無線を使って周りでシボレー・サバーバンの中に待機しているビソンテスの人員に連絡を取ると、スコープで現在地を確認しながら指示を促した。


「路地に待機してるアルファチームへ。少し早めに出て突っ込んであの車を停めて。」


「了解。」


マヌエラの指示を受けたアルファチームのサバーバンはそのまま突っ込むと、ちょうどやってきたボス302のフロント側へと激突する。


激突したボス302はそのまま一回転すると、あたりの住宅街の壁に突っ込んでクラッシュする。幸運なことにその壁で外と隔たれたお陰でしばらくはしのげそうだった。


衝撃でリジーは気絶し、大焦りでエヴァはFBIの副長官に無線連絡を入れる。


「こちらエヴァ捜査官!リジーの確保には成功したが、武装した敵に襲われて絶体絶命の状況!救助を要請します。」


「わかったエヴァ。回収ユニットの一部を現場に向かわせる。現地まで大体十分掛かるだろう。やりすごせるか?」


「努力します!」


エヴァはのびているリジーを無理矢理車から引きずり出すと、民家の窓ガラスを割って無理矢理室内へと侵入した。


だがまたしても不運なことが起きる。中には明らかにアフリカ系のギャングと思しき拳銃で武装した連中が十人ほどいて、エヴァを睨んでいた。


「おうおうおう、ここがグローブ・ファミリーの縄張りだって知って入ってきてんのか?窓ガラスまで破りやがって。」


「クソ、またか、嫌なことがなんでこんなに重なるんだ…!」とぼやきながら、エヴァは持っている銃を床に置いて手を挙げた。


「なんだ警察の姉ちゃん。街娼なんて引き連れて…それに壁にはとんでもなく良い車が突き刺さってやがる。映画の撮影かなんかか?」


「説明してる時間はない。外を見てみろ、完全武装した連中が山ほどいる。私は逃げてるだけでお前らを逮捕したり検挙する気はない!」


「映画の主人公気取りか?ジョン・ウィックか、それともジェイソン・ボーンか…もしかして妄想気質のイカれた奴なのかお前は。」


「だから外を見ろって!」とエヴァが呟いた瞬間、五・五六ミリの銃声が響き始め、グローブ・ファミリーの連中は部屋の隅へと隠れた。


「なんなんだアイツら、てめえとんでもない連中を引き連れてきやがったな。なんだあれはFBIかなんかか!」


「FBIがそんじょそこらのギャングを完全武装で襲うわけないだろうが!ともかく応戦しないと死ぬぞ!」


エヴァの真剣な表情を見たグローブ・ファミリーの構成員は持ち運びやすいように選ばれたストックレスでフルオートに改造された違法な短銃身のルーマニア製ドラコAK・ピストルを取り出すと、ビソンテスの構成員に反撃を始めたが照準も使わない所謂〝ギャング撃ち〟であったためにまともに当たっていない様子で一人、また一人と倒れていく。


エヴァは死んだ一人からそのドラコ・AKを拾って弾倉と薬室を確認すると、裏側にある玄関へとリジーを引っ張りビンタして目を覚まさせた。


「あぁ…?あぁ、何?花火パーティでもやってんの…パンパンパンパンうるさいけど…」


「完全武装した民間軍事会社の構成員がお前を殺すためにこっちまで迫ってるんだよ!」


「なーんかあたしどうでもよくなってきちゃった。」


「どうでもよくないだろうが!」


リジーの手を掴んで玄関の扉を蹴破ったエヴァはおそらくこのグローブ・ファミリーが使用しているであろう大きなウイングが取り付けられ外装にカワサキ・グリーンの塗装と趣味の悪いステッカーが大量に貼られたATのEK型シビック・フェリオを見つけると、窓ガラスを割ってドアを開け、ハンドル下部分にある樹脂製の外装を剥がし、三種類ある配線を繋ぎ合わせると、スターターコードを接触させて強引にエンジンをかけ、そのまま発進する。


エヴァの様子を再度マヌエラはスコープの中に捉える。


「あ、見つけた。緑の車に乗ってる。付近のブラボーチームは緑の車を追って。私はエンジンが停めれるかちょっと撃ってみる。」


マヌエラは息を止めるとそのままSA58の引き金を絞る。放たれた弾丸はシビックのサイドミラーへと着弾した。


「やっぱり小銃用の弾丸じゃ八〇〇メートル先は無理。五〇口径持ってくれば良かった。ブラボーチーム、頼んだよ。」


ブラボーチームを乗せたサバーバンはシビックの追跡を開始した。


エヴァは街を出るためにシビックを運転しながら、先ほど拾ったドラコで後ろに向かってやたら滅多に撃つが窓ガラスにヒビを入れるのが精いっぱいでそのまま弾切れを起こすと外へと投げ捨てた。


リジーも体を隠すようにしながらP320でブラインドショットを行うが、やはり明後日の方向へと飛んでいく。


「もっと良い銃はないわけ!?弾切れなんだけど!」


「知るわけがないだろ!」


サバーバンはシビックの後部へと追突すると、その衝撃がエヴァたちを襲う。


接合が上手くいってなかったのか、はたまた強引に取り付けられていたのかその衝撃で後ろに付いたウイングはどこかへと飛んで行ってしまった。


「リジー、アクセルとハンドルを!」


「え!?」


「こうなったらR8で勝負だ。」


エヴァはシビックから身を乗り出すとR8リボルバーのハンマーを起こしてサバーバンのタイヤを狙った。追突されるほどの近距離であった為、そのまま運転席の窓ガラスに向かって二発、前輪に向かって正確に二発撃ち込むとタイヤがバーストしてサバーバンの挙動が乱れ、急激に減速していった。


「よし、ようやく停まった…」


運転席へと戻ったエヴァは心の中でやはりリボルバーの方が自分には向いていると感じた。


そしてようやく長い時間を終えてFBI・スワットの覆面サバーバンが三台ほど接近してくる。


エヴァは明らかに族車なシビックから体を出してバッジを見せて必死にアピールをすると、FBI・スワットの構成員はそれに気づいたのかバンを停めるとビソンテス側のサバーバンへと銃撃を行い、ビソンテスの構成員はこれ以上の深追いは無用だと悟ったのか撤退していった。


「あー、しくじっちゃったかぁ。マムに怒られちゃうなあ。」とぼやくと、無線機から「いや、マヌエラ。とある筋から情報が入った。もう不安視する必要はない。私が退却させた。マヌエラも帰っていいぞ。」とオッドホーンの声が聞こえた。


「いいの?」


「あぁ。もう心配はいらない。」


「わかった。ところで…アイス買ってきてもいい?」


「いいぞ。」


そんな親子のような会話を繰り広げるとマヌエラは八〇〇メートル離れた狙撃ポイントから姿を消した。


エヴァはリジーと共にFBIのサバーバンへと移った。


「…あんた、FBIだったの?」とリジーに聞かれると、現状嘘をつく必要はないと考えたエヴァは素直に素性を明かした。


「そうです。私はエイヴァ捜査官。あなたがロス・ビソンテスという民間軍事会社とロス・クルティードという麻薬カルテルに命を狙われていると聞いてやってきました。これからFBIにあなたの身柄を引き渡して保護してもらいますから安心してください。今回は保護なので薬物使用や売春行為では咎めません。殺人行為も…」


「ふぅん。それで対価に私にカレンのことを話せってことね。まあいいわ。その代わりスイートルーム並の部屋を用意しなさい。」


「わかりました。その代わりちゃんとした情報提供をお願いします。」


そんな会話をしている最中にCLAWのメンバーが使っているダッジ・チャージャーRTとすれ違い、ボス302を残したままであることに気づいた。


「マズい、リジーは任せた。私はCLAWのメンバーと合流してくる。」


そういって少し離れた地点でエヴァはサバーバンから降りた。


「おい、相棒見ろよ。緑色のシビック・フェリオが置いてあるぞ。カッコいいなあ。」


「あんなののどこがいいんだよ。どっからどう見てもギャングの車じゃねえか。それより、さっき派手な銃声が聞こえたがこの辺で銃撃戦をやったってことだよな?」


「あそこに薬莢、落ちてる。」


ブルーが指差した先にアンジーは車を停めると三人は降りてあたりを確認した。


するとブルーは落ちている薬莢を拾ってとある違和感に気づく。


「ボス、これを見て。」


「なんだ?普通の五・五六ミリ弾に見えるけど…薬莢が長いな。」


「これは空砲。海兵隊の訓練で使ったことがある。こんなところに落ちてるなんて変。」


「確かに変だな…おい、あれを見てみろ黒煙だ。シバサン、ルフィナ、リジーの捜索を一旦中止して煙の方を確認してくれないか?私たちもすぐに追いつくから。」


「了解。こっちは街娼の遺体を見つけた。全員アジア系だったけど、リジーはいないみたい。すぐ近くだから見に行くね。」


CLAWのチームは先ほどエヴァが銃撃戦を行った建物に移動すると、中にいるアフリカ系のギャングは全員死亡していて、黒煙が出ているのは見覚えのある車だった。


「おい…アレはエヴァの車じゃないか…?」


「嘘だろ、おい、エヴァ、エヴァ!」


タイラーは大焦りで車の内部を確認するが、中にエヴァの姿は無かったため、そっと胸をなでおろした。


「とりあえずリジーの捜索は中止だ。エヴァを探そう。」


そうタイラーが話していると、外から車のエンジン音が聞こえる。


「お~い。みんな、いるッスか~?」


「エヴァだ!」とタイラーは喜ぶと先ほどの緑色のシビック・フェリオの隣で手を振っているエヴァの姿が見えた。


「お前、何やってたんだ。心配したんだぞ。それに車はあんなになっちまって…」


「自分もリジーを探してたんスけど、ビソンテスに襲われた挙句FBIに先越されちゃって…逃げ回ってたんスけど、先輩たちの車が見えたんで道端にある車拾ってここまで追いかけて来たんスよ。」


「そうか…よかった無事で…」というとタイラーはエヴァを抱きしめた。その様子にエヴァは少し嘘をついたことに対する申し訳なさを感じた。


「自分もちょっと独断専行が過ぎたッス。ごめんなさい。それに車もあんなになっちゃったし…」


「このあたりじゃ生きてるだけでも儲けもんだよ。今度からはお前の車にもシビックみたいにエアタグ付けておかないとな…じゃあとりあえず…あのシビックで帰るか?」とタイラーは冗談を飛ばすと、自然と微笑みがこぼれた。






数日後、CLAW本部ではいつものように皆で日常会話をしていた。


「私は最近さ、子供の頃に見てたドラマとかアニメの懐かしいグッズを集めるのにハマってるんだ。パワーレンジャーとかさ。」


「自分はパワーレンジャーはニンジャストーム世代ッスね。」


「ニンジャストーム?ニンジャストームっていえば二〇〇二年だから私はまだ二歳の時だ。エヴァは私とタメじゃなかったっけ?ミスティック・フォース見てなかったの?」


「あ、いやその、あれです。ケーブルテレビの再放送でみてたんスよ。自分ニンジャが好きなもんですから…」


「なるほどな。ニンジャかっこいいもんなわかるよ。あとそれから遊戯王カードとかポケモンカードとか…トビー・マグワイアのスパイダーマンとかも懐かしい。」


「スパイダーマン!懐かしいッスね…自分も親に連れられて劇場に見に…いや、記憶違いッスね!多分ビデオで見たッス!」


そんな会話を続けていると、本部についているボロテレビでニュース速報が流れる。


「先日、FBIが使用しているバンが何者かの襲撃に遭い、スワット隊員四名が死亡しているのが発見されました。彼らは元麻薬取締局のリジー・リー捜査官を重要参考人として輸送中でしたが、何者かの奇襲に遭い全滅したとのことです。リジー・リーさんの行方は未だに分かっておらず、拉致もしくは殺害された可能性が高いとのことです。続いての…待ってください。速報が入りました。先ほど、リジー・リーさんの遺体が近くの食肉加工場で発見された模様です。リジー・リーさんは業務用のミートミンサーに入れられたことによる全身挫傷で死亡した模様です。警察はこれを最近世間を騒がせているロス・クルティードの仕業だと考え、捜査を続ける方針のようです。続いてのニュースです──」


「リジー・リー…殺されたのか。」とタイラーが呟くと、エヴァは放心状態になった。


頭の血流が巡りに巡って気が動転しそうになった。「あの時CLAW全員で行っていればもしかすれば生きたまま助けられたのではないか?」という考えが止まらなかった。


きちんとタイラーに従っていればあの時の盗人もギャングもFBI・スワットの隊員も死なずに済んだのではないか、という考えに支配された。


しかし、よくよく考えてみれば違和感があった。何故ビソンテスは正確にエヴァの位置を特定できたのか?そして何故アメリカが誇る最強の特殊部隊の一つがこうも軽々しく皆殺しにされたのか、と。


こうして一つの結論が頭の中で導き出された。CLAWの内部には自分以外にも外部に内通している裏切り者が存在する。


そして何よりも絆されかけていたが、この中で一番怪しいのは躊躇なくグレーな作戦を実行し、自分を懐柔しようとしているこのタイラー・ナイトウッド一等巡査部長ではないか、と…

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