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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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5/19

5.視えるんです

 ジョンの手から力が抜け筆がその手からするりと落ちる。


 カタンッと筆が床に落ちる音がした後、静まり返る室内に聞こえるのはぎしりと鳴るソファとコツコツとヒールが床を叩く音のみ。


 ユリアは膝を曲げジョンの足下に落ちた筆を拾い上げる。腰を落としたまま彼の手を取るとその上に筆を置く。


「あ、ありがとうございます。じゃなくてなんで……!?」


「ふふふふ。まあまあ落ち着いて。カイン、温かい紅茶をお願い」

 

「長話になりそうですね。私の分もよろしいですか?」


「…………よろしいですよ」


 厚かましいカインに呆れつつ、立ち上がりちらりと描きかけの自分の姿を見る。まだ未完成だがなかなかの美人に描かれている。自分が美しいから当然なのだが。


 カインが準備している紅茶の香りが部屋に漂ってくるがジョンは固まったままだった。ユリアがあちらにとソファに座るように促すとやっと動き出す。ユリアが腰がけるのを見届け、正面に座るジョン。


 猛スピードで紅茶やらお茶菓子やらを用意したカインも失礼しますとユリアの隣に腰掛ける。


「私がカメレオン令嬢と言われる所以は理解できたかしら?」


 なんの前置きもなく直球で向けられた言葉に目を見開くジョン。


「……はい。でもその……なんで、彼女のことを……?憑依とか……?調べたとか……でしょうか…………?」


 ジョンの目が動揺からか忙しなく動く。


「ただ私は視えた者を演じただけよ」


「視えた者を演じる……ですか?」


 半信半疑といった目をするジョンにユリアは笑みを浮かべる。


「そうよ。私ね幼いころからその人の好きな人や人の好みがわかるの。視えるって言うべきかしら。何も視えない人もいるから全ての人のタイプがわかるわけじゃないんだけど……。私が素敵!とか思った時に発動する事が多いわ」


「えっ僕、素敵なところなんて見せました?」


「あなたの場合は描きかけの私の絵を見たときだったわ。見事な才能よ。もっと誇るといいわ」


「あ、ありがとうございます?」


 素直に褒めたのに疑問形とは自分に自信がないのだろうか。心を落ち着かせるかのように彼は紅茶をがぶ飲みしている。飲み干しふぅーっと息を吐くとユリアを真っ直ぐに見つめる。


「それにしても信じられないです。人がそんな能力を授かるなんて。まるで魔法みたいですね」


 まじか。


 ユリアとカインは同時に目を見開く。


「?な、なんですか?」


 ユリアとカインを何度も交互に慌ただしく見るジョンにユリアは口を綻ばせる。


 皆知っているものだと思っていたが、ただの有名人気取りだったようだ。自惚れと言うべきか。


「ジョンはギフトについては知っているかしら?」


「もちろんです!田舎貴族ですけど、世間のことを少しは勉強してますから!」


 誇らしげにドンッと自らの胸を叩くジョン。


 そんなに年齢が変わらないであろう彼にこう思うのはどうかと思うが、なんとも微笑ましい。


「ギフトとは特別な力ですよね!どんな能力かも決まっていないけれど普通の人間ではできないことができる特別な力!ただギフトを持って生まれる人は100年に1人いるかいないかの超激レア!」


 興奮しているのかどんどん目が輝いていく彼は夢を語る幼子のようだ。よくできましたと言わんばかりに微笑みながらうんうんと頷くユリアとカインを見て彼は更に言葉を続ける。


「特別な能力だけじゃないんですよね!?容姿、頭脳、財力全てを天から与えられ、周囲の人達にも恩恵を与えるって噂ですよね!?はあ……羨ましい。今この国にギフトを授けられた人間がいるなんて信じられませんよ!でもなんかこう自分のことじゃないのに嬉しくないですか!?」


「「全て……」」


 ユリアとカインの口から同じ言葉が漏れるが興奮しているジョンは気づかない。一瞬笑顔が強張ったことにも――。


「いやぁどんな方なんでしょうね?そんな幸運を手にした人っていうのは」


「あら、ギフト持ちが生まれたことは知っているのにその人の名前は知らないの?」


「え!?もちろん知ってますよ!あー…っと正確には家名しか覚えてないですけど」


「へ~」


「信じてないですね!?僕だってそれくらい知ってますから!ヒンメル伯爵家のご令嬢ですよ!」


「ピンポーン!で私の家名は?」


「ヒンメル伯爵家です!」


「ピンポーン!またまた正解!」


 パチパチパチと手を叩く音がユリアとカインの手元からする。


「やったあ!……って」


 拍手を送られ嬉し恥ずかしご満悦の表情がみるみるうちに強張っていく。それと比例するように少しずつ上がる腕。震える指がユリアに向く。


「人を指さすなって教わらなかった?」


「すみません!」


 慌てて膝に下ろされる手。


「顔を上げて?お話するときはちゃんと顔を見ましょうね」


 その言葉にゆるゆると顔が上げられる。


 目の前に……レジェンドがいる。生きる伝説が直ぐ側にいて自分に視線を向けている。


「私がギフト持ちのヒンメル伯爵家のご令嬢よ。ギフトは人のタイプや好きな人が見えること。どう?ギフト持ちを見た感想は?」


「え、えっと……さ、流石のご容姿ですね?」


 その言葉にブハッと吹き出すカイン。


 スパンッ!


 えっ?


 なんか今スパンと扇子にはたかれる音がしたような気が……カインの後頭部にすごいスピードで何かがあたったような気がするが……。


 目の前に座る2人は揃っておすまし顔で紅茶が入ったカップに口をつけ同時に飲み干しソーサーに戻す。一糸乱れぬその様はなかなかのシンクロ率だ。


 少し心が落ち着いたジョンの心にある疑問が湧く。


 聞いても良いのかわからないが聞かずにはいられない。


「あ、あのー……えっと視えるだけなんですよね?その……な、なんで演じる必要があるんでしょうか?」


 その目には疑問というよりも秘密を知りたいという期待の色が見え隠れしている。ここははぐらかさずにちゃんと答えてあげましょう。


 ユリアはんんっと咳払いをし、喉の調子を整えてから口を開く。


「もちろん……」


「もちろん?」


 ゴクリとジョンの喉が鳴る。


「趣味に決まってるじゃない」




 能力でもなんでもない。ただの趣味だ。


 視えちゃうから演じる。ただそれだけ。




 ジョンの口があんぐりと開いた。

 

 

 



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