28.ダメだ
3日後
屋敷近くのカフェで疲れ切ったユリアとカインは向き合っていた。
「どうしましょう」
「さあどういたしましょうか」
「カインあなた何か視えないの」
「生憎何も視えません」
「もしかして独身のまま生きていくんじゃないかしら」
「無きにしもあらずですね」
ゾ……と2人の背中に悪寒が駆け抜けた。
皇帝や隣国の王妃の頼み。できませんで終わらせても大丈夫みたいな雰囲気は出ていたがそういうわけにはいきませんというものだ。
社交界でも既に知れ渡り、失敗したらギフト持ちとしてのプライドはズタズタである。
先程からチクチクチクチクと痛い程の視線が突き刺さる。屋敷には王妃と皇太子がいるので落ち着かないので出てきたのだが、ここもあまり落ち着く環境ではなかったよう。
「ユリア様一つご提案が」
糖分補給をと頼んだフルーツタルトを口に運びモゴモゴしていたユリアにカインが声をかける。
「こうしてはどうでしょうか……」
周囲に聞こえないように身を乗り出しユリアの耳元で囁くカイン。
カシャーン!
カシャーン!
その色っぽい様に所々からフォークがお皿の上に落ちる音がしてくる。慌てる彼女たちを余所にユリアの口元は弧を描いた。
〜〜〜1時間後伯爵邸〜〜〜
ガラリ
「皇太子様、失礼致します」
「!?」
カインが扉を開けた先にはお風呂に入る皇太子の姿。大事なところは泡風呂なので見えない。カインの後ろからヒョイとユリアが顔を出し彼の剥き出しのヒョロヒョロの上半身をガン見する。
「……ダメだわ」
ユリアの残念な声の後に2人のため息が重なる。混乱する皇太子を置き去りに2人は失礼しましたと扉を閉めて出て行った。
「ほら行け」
「!?」
皇太子が庭園を歩いているとそんな声と共に大小様々な犬たちが飛びついてくる。
尻もちをつきながらスリスリと身体を寄せてくるふわふわの犬達に若干癒されつつも混乱していると垣根から覗く4つの美しい瞳を見つける。
「……ダメだわ」
そんな声と共に再び聞こえる2つのため息。
「撤収!」
その掛け声と共に犬達は走り去り、気づけば垣根から覗いていた4つの瞳も消えていた。
その後も
絵を描いては――ダメだわ
剣の稽古をさせられては――ダメだわ
料理を作らされては――ダメだわ
………………
ダメダメの嵐だった。
2人が何をしたいのか察した皇太子は申し訳なく思った。そして自分の為になんとか奮闘している2人の今の状況がとても心苦しい。
「お前たちは一体何をやっているんだ?」
伯爵の執務室に呼び出された二人は額に青筋を浮かべた伯爵に見下ろされながら正座していた。
「いや、あの……自分たちなりに頑張ろうと思っただけです」
「ほう。隣国の皇太子にダメダメ言うことがか?」
「違いますわお父様。ギフトが発動しないからダメだって言っただけで」
「それはお前が魅力に感じなかったということか?十分失礼だろうが!」
「それはお父様失礼よ」
「それはご主人様失礼です」
ハモる二人。仲が良いことだ。
「あ、すみません……」
やってしまったとばかりにちらちらとこちらの様子を伺う伯爵に皇太子は大丈夫だとフルフルと顔を横に振る。
「お、お怒りになってしまったのではないか!?」
青褪めた伯爵は慌ててしゃがみ込むと正座する二人にコソコソと確認する。
いや、違うから。怒ってないから。
「お父様やっちゃいましたね」
「ご主人様あれはきっと首を切り落としてやるのサインですよ」
二人の言葉に更に青褪める伯爵。
違うから。やめてあげて。
ていうかわかってるでしょ。君たち大丈夫だってわかってるでしょ?そんなにいたずらっぽく笑っちゃって。やめてあげて。もうこれ以上はやめてあげて。
伯爵の肩に手を置きフルフルと頭を振ればホッとする伯爵。そして彼は気づいたよう。目の前の2人がニタニタと笑っていることに。
パカパカと言葉なく口を開け閉めする伯爵に2人は声を上げて笑う。
あ、そんなことをしたら――。
「皇太子様誠に失礼いたしました。その広い御心に感謝申し上げます。もうすぐ夕食のお時間です。色々とお疲れでしょう?ささ、それまでお部屋でお寛ぎください」
そんなに爽やかな笑顔で言われたら頷くしかない。
足を動かし部屋の外に出て、あてがわれた部屋に向かう。
扉がパタリと閉まる音の後に聞こえてくる伯爵の饒舌な説教。
ディナーの時間に少々遅れてやってきた伯爵の顔はすっきり。
ユリアとカインの顔はげっそりしていた。




