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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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26/31

26.ボンボン執事誕生

 翌日の早朝ヒンメル伯爵が猛スピードで馬車を走らせ公爵邸にユリアを迎えに来た。


 父としてはもっとユリアを預かりたかったようだが、危険な目に遭わせた以上伯爵の申し出を退けることはできなかったよう。


 馬車の前まで皆でユリアを見送る。


 これで会うことはないだろう。自分は引きこもりだし。ユリアも誘拐とか暗殺とかの可能性が高いのでなるべく外出は控えているようだし。


「お兄さん」


「これ、ユリアお兄さんなどと……」


「伯爵構わない。なんだ?」


 伯爵がユリアを諌めるのを遮る。真っ直ぐに自分を見上げるユリアを屈むことなく見下ろす。交わる視線。周囲が息を呑むのがわかった。


「縁というのは不思議なものなんだよ。無理矢理繋ごうと思っても繋がらなかったり、ほっといても繋がることもある。繋がらなくて良いものが繋がっちゃうこともある。適当な選択によって繋がることもある」


「?」


「だけどね、必ず繋がる縁がある」


「必ず繋がる縁?」


「そう、私が紡ぐ縁」


 ギュッと両手に小さい温もりを感じる。


 ニヤッといたずらっぽく笑う彼女に能力の自慢かと呆れるがカインの口には笑みが浮かんでいた。


「そうか。じゃあいっぱい縁を繋いでやれ」


 国のためにも。俺の分までお前が頑張れ。


 そんな思いでギュッと手を握り返し、すぐに離す。


 馬車に向かうユリアをぼーっと眺める。


「――――――!?」


「カインどうかしたか?」


 顔色を変えた息子を気遣う父親の声はカインの耳には入らなかった。一歩足を踏み出す。


「おい!」


 振り返るユリアと再び目が合う。


「お前明日ヒール履くなよ!階段を転がり落ちるぞ!?」


 その言葉に皆が息を呑む。


 一人の女の子を除き。


「へー……絶対に履いちゃお」


 お手並み拝見~と言いながらさっと馬車に乗り込むユリア。


「ちょ、ま、待て!マジでやめろ!危ないだろうが!」


 カインの叫びを見事にスルーしながら走り去っていく馬車。その中からは楽しみだなーという能天気な声が聞こえてきた。


「な、なんてやつだ…………」


 ユリアの変人思考に驚愕していたカインは周囲の歓喜の悲鳴に全く気づかなかった。





 それから2日後の新聞にはユリアが階段から落ちたこと。幸いなことにケガはなかったことが掲載されていた。マジで試しやがった。カインはため息を吐いた。


 そしてなんとなくそのまま新聞を読んでいるとある記事が目に入ったカインは新聞を強く握りしめ父親の元に走った。


 

 



 ~~~ヒンメル伯爵邸~~~



「「「…………………………」」」


「えー、では今から執事の採用面接を行いたいと思いますが…………皆さん聞いてます?」


 ヒンメル伯爵の声など聞こえていないであろう彼らは椅子に腰掛けながら見目麗しい一人の少年に視線は向けられないが意識を向けている。


 はあと息を吐く伯爵の隣に座って腰掛けるユリアはクスクスと笑う。ギロリと父に睨みつけられるが笑い続けている。


 面接にならないと美貌の少年――カイン以外の応募者には帰ってもらった部屋では伯爵がカインになんとか帰ってもらおうと奮闘する。


「あのー……カイン様?うちの執事になるということは私たちにこき使われると言うことでして」


「もちろん存じております。こき使ってくださいご主人様」


「ヒッ……!」


 格上の公爵家の次男にご主人様と言われ今にも倒れそうな伯爵を使用人たちが支える。


「ああいけない。私がお運びしましょう」


 カインが立ち上がり伯爵を抱えようとしたところで伯爵の目がカッと見開かれる。


「大丈夫です!」


 そうですかと言いながら椅子に戻る。


「まあまあお父様、覚悟を決めましょうよ」


「どんな覚悟だ!?」


 娘の能天気な様子に伯爵の額に青筋が浮かぶ。


「もちろん公爵家の息子をこき使う覚悟ですよ。いいじゃないですか。公爵家の息子がいれば今まで以上に色々とやりやすいですよ」


「それは……」


 仕事上はやりやすくなるかもしれない。だがプライベートでは無理というものではないのか?


「ごちゃこちゃ言ったって仕方ないでしょう?だってこれはもう決定事項でしょう?」


 そう言ってユリアが掲げるのは2枚の推薦状と書かれた紙。


 一枚には公爵家の印が


 もう一枚には皇家の印が押されている。


 推薦などという柔らかいお言葉だがこれは所謂


「お達しよね~」


 そうだ。カインを雇えというお達し。もとい命令だ。


 自分がごねてもどうにもならぬのだ。


 それならもっとポジティブに考えるべきだ。そうだ2人もギフト持ちが家にいるのだ。これからもっと栄えていくに違いない。


「ふ……ふふっ」


 何やらお下品な笑みを零す伯爵にユリアもカインも守銭奴は単純だと温かい視線を向ける。


「ま、まあではこれから執事ということで。よろしく頼む。仕事とプライベートはお互いきっちりわけような」


 はっはっはっと笑いながらカインの肩をぽんぽんと軽く叩く伯爵。


 見事な切り替えだ。


「ではユリアあとは頼んだ」


 先ほどまでの慌てぶりはなんだったのか。ご機嫌な様子で部屋を出ていく伯爵だった。父の後ろ姿を見送りカインに視線を移したユリア。


 2人の目がばちりと合う。


 ユリアはカインの前に椅子を持ってくるとどかりと座る。


「面白いことを考えるのね?」


「お好きでしょう?」


「婚約の申し込みでもしてくるかと思ったのに」


「ロリコンと噂されるのは遠慮したかったものですから」


 貴族社会で幼いうちから婚約するなんて不思議なことでもない。20以上離れていたらそう言われたかもしれないがたったの6歳くらい何も言われるはずはないのだが。


 ユリアは本当?と軽く笑う。


「色々と考えた末ですよ」


 ユリアには兄がいる。彼の基盤がしっかりしていないうちの婚約はまた悪夢の再来といきかねない。それに周りからもゴチャゴチャと言われそうだし面倒だ。


 それになんか執事という文字をみたときにこれだと思ったのだ。


「まあいいや。これからよろしく?カイン」


「よろしくお願い致しますユリア様」



 こうして変な主従関係は成立することとなった。





 

「カインさーん!」


 庭園の側を通ったときカインは後ろから呼ばれ振り向く。


「この前は助かったよ。あ、これ嫁が作ったアップルパイ食べてくれよ」


 そう言って可愛らしい小包を出してくるのはぎっくり腰が治った庭師長だ。


「ありがとうございます」


「それはこっちのセリフだよ!じゃあな!」


 ばしっと思いっきり背中を叩かれひりひりするそこをさすりながら彼の背を見送る。


 公爵家の次男であったころ……いやまあ今でもその身分ではあるのだが、それはいい。あの頃を振り返ると恥ずかしい。


 まさしく甘えん坊だったのだ。


 ここに来てからたくさんの人と接することになった。最初は皆近寄ってこなかったが執事長のスパルタ指導のもと頑張るカインにだんだん近寄ってくるようになった。


 あとはあれだ。伯爵とかユリアにこき使われまくったからかフレンドリーに接してくれる人が多くなった。


 結果的にいいのか悪いのかよくわからないがここではただのスーパー執事として扱われるようになった。


 ここにいるとギフトが自然に使える。たまに変な目で見られることもあるが、ユリアが側にいる。ありがたいと思ってくれる人がいる。頼ってくれる人がいる。


 ユリアが話した縁の話。自分が今ここにいるのはユリアが結んだ縁なのだろうか?聞いたところで彼女は答えてはくれないだろう。


 ユリアとの縁がいつまでも途切れぬものであることを自分は祈っている。






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