25.賊
久しぶりに食堂に来た。
一言も話すことなく目の前に並べられたディナーを黙々と口に運ぶ。
目の前ではユリアが父と母と兄と和やかに話をしながら食事をしている。彼らはカインにも話を振るがそっけない返事しかなく気不味い雰囲気が漂う。
だから嫌だったのだ。だがたまには皆で食事をと言われ断ろうとしたがユリアが足にくっついて離れなかったので仕方なく来た。
デザートを食べ終えたカインは席を立つ。暫くすると後ろからたったっと軽い足音が聞こえてきて振り返る。
「お兄さん」
「なんだ?デザートは食べたのか?」
デザートどころかまだメインのステーキを食べている途中だったと思うのだが。
フルフルと頭を横に振るユリアにため息が出る。
「俺のことはほっとけ。父上が何を言ったか知らないが俺は誰ももう心に置かない。父上の力が怖いならなんとかしてやるからお前はもう帰れ」
「お兄さんは甘えん坊だね」
「は?」
「構ってちゃんだ」
「何を……」
「ギフトがある人間を尊敬するのも当たり前、不気味に思うのも当たり前、妬ましいと思うのも当たり前、消したいと思うのも当たり前、利用しようとするのも当たり前だよ?親だって一緒。まして貴族なら……ね」
いろいろな事情、しがらみ、力関係、頭を悩ませることは多い。
「親の無償?純粋?な愛が得られなくてうじうじするなんてお兄さんは甘えん坊だね。ギフト持ちが生まれた以上そりゃあ親だって色々と思うところはあるさあ。運は上がる、国も栄える。だけど圧倒的な美貌、頭脳、不思議な力。理解の及ばぬ化け物みたいなものでしょ?人は自分と違うところに尊敬や嫌悪を感じるものだよ」
「……お前本当に8歳か?」
「お前って言うなって言ってるでしょ?」
一瞬怒りで頭がカッとなったが、ユリアの冷静な言葉にカインも冷静になってくる。
「でも子どもが母親に愛してほしいって思うのも、そんな化け物をみるような目で見ないで欲しいっていうのも当たり前だけどね。誰が悪いわけでもないよ。仕方ないよ」
「お前……ユリアもか?」
「いや、うちお母様亡くなってるし」
「………………そうか」
「うちは怖がられてはいないかな。どちらかというと金の成る木?お父様からありがたやーって感じでお兄様よりも特別待遇を受けてるって感じはちょこっとするかな。家臣たちからは敬意と恐怖って感じ?触れたらヤバいみたいな。最近は色々な意味でマジかって目で見られてるかもだけど。私あんまり人目気にしないから。せっかく力があるのに勿体ないじゃん」
「強いな…………というか本当に8歳か?」
きゃー!
屋敷に悲鳴が響き渡る。
「なんだ?」
ダダダッとかける足音が耳に届く。
そして剣が打ち合う音や野蛮な咆哮や下卑た笑いも。
「賊か!?こっちだ!」
ユリアの手を掴み走る。とにかくどこかの部屋に。
そう思ったが遅かった。
「いたぞ!」
「おいおいもう一人のギフト持ちもいるじゃねえか!」
ドカドカと近づいてくる賊たち。反対側から現れた賊たちのせいで逃げようにも挟み撃ちされている。
「恨むならギフトなんて持ってきた自分たちを恨め」
リーダーらしき大柄な男が近づいてきて剣を振り被る。
剣がなくては戦えない。体術も多勢に無勢だ。
いや、体当りしてなんとか逃げるか。
身構えたカインは目を見張る。
「お、おい……」
カインの視線の先ではユリアが剣を振りかぶったまま固まるリーダーと見つめ合っていた。
「リーダー何やってるんですか?」
「惚れちゃったんですか?いくら美人でも子供ですよお」
賊たちがケラケラと笑うが動かない。賊たちは困惑気味にリーダーとユリアに視線を向ける。そして彼らはユリアを見て固まる。
何かよくわからないが今のうちに逃げよう。
ユリアの腕を掴もうとして気づく。
………………誰だ?
「マ、マリー……?」
「あなたまた浮気したでしょ!」
そう叫んだ後ちらりとユリアが見る先には一人の女性の賊。
「ち、違うんだ!お前がいなくなって寂しくて……!」
その言葉に女性の賊は悲しそうな顔をする。
「ふふ……嘘ばっかり。彼女のこと愛してるんでしょ?」
「違う!」
「いいのよ。私が願うのはあなたの幸せだから」
「マリー……」
リーダーに微笑みかけるユリアを信じられない思いで見つめるカイン。
いや、本当に誰?マリーって誰?
え、この人マリーなの?
僅かに背を丸め、恥ずかしそうに耳を触りながら暖かい微笑みを浮かべている。
「ああ、その恥ずかしそうに耳を触る癖、笑ったときにできる深い笑窪、僅かに上がる左の口角。マリーお前なんだな……俺は本当にお前以外と幸せになって…いいのか…」
コクリと頷くユリア。
リーダーの目から涙が溢れ、周囲の賊たちの目からも涙が溢れる。そして抱き合うリーダーと女の賊。そして更に号泣する賊たち。
突然始まった意味の分からない劇のようなものにカインは呆然としているとバタバタと駆け寄ってきた兵士たちが賊を捕獲する。
周りがバタバタと慌ただしい中カインの心は静かだった。そしていつものように微笑む彼女しか目に映らなかった。
これが彼女のギフト――
「…………憑依」
「違う!みんなそれ言うの何で!?」
「あ、なんかすまない」
ぷんぷんと可愛らしく怒りを表すユリアに思わず謝罪していた。
「私のギフトは素敵だなーと思った瞬間にその人の心の中にいる人、好みが見えること!」
そうだった。聞いたことがある。
ギフトを利用し人の真似をする変わり者。
蔑むものがいるのもわかる。
だがこれは――――――ちょっと面白い。




