22.出会い
~10年前~
『触らないで!あなた気持ち悪いのよ!なんで……なんで私の子がギフト持ちなのよ!あの子の邪魔をしないで!人の人生を覗かないで!どうしてあなたは普通に生まれなかったのよ!このバケモノぉ!!!』
人生最悪の日。
あの人は涙を流し顔をクシャクシャにして声を枯らさんばかりに叫んでいた。
『ああなんて私は幸運なのかしら。あなたみたいな奇跡の子を授かるなんて』
『あなたのお陰で公爵家は更に栄えたわ。本当にありがとう』
『大切な大切なカイン。私の宝物』
かつては眩いほどの愛情に満ちた笑みを向けてくれていたというのに人とは残酷な生き物だ。
「……様ぁ……カイン様ぁ」
近くで甘ったるい媚びるような声がし夢から覚める。ゆっくりと目を開けば目の前には15、6歳くらいの顔にゴテゴテに厚化粧を施した少女がいた。
「……なんだ?」
香水臭いし煩わしい。目の前から消えてほしい。
というかそんなふうに覗き込まれては起き上がれない。自邸のソファに寝転がっていたカインは不機嫌を隠さず顔に出す。
「ねぇ、私と愉しいことしませんか?」
そう言って少女はカインの手を取ると自らの胸元に押し当てる。柔らかい感触だがただそれだけだ。というよりも人の眠りを妨げて親からの任務を遂行しようだなんて厚かましい。
思いっきり振り払うと少女は尻もちをつく。酷いと涙を浮かべる少女を睨みつける。
「お前みたいな不細工の色仕掛けにのるやつがいるのか?」
カインがそう吐き捨てると頬を染め走り去る少女。
鬱陶しい。
何度目だ。
「カイン」
「なんですか父上」
こんな鬱陶しいことが何度も起こるのはこのやたらと地位の高いこの男のせいだ。身を起こしたカインは眼の前に立つ父親を見上げる。いや、睨み上げる。
「今日から8才の女の子を預かることになったから仲良くするように」
女の子?
「俺はロリコンではありませんよ」
「そういう意味で預かるわけではない」
ここ3年程父親は様々な年頃の女を連れてくるようになった。なぜかって?それは全て自分が持つ未来視のギフトのせいだ。
「どうだか。なんにしても無駄ですよ。俺のギフトは二度と発動しない」
そう言い捨てると口を開こうとする父親を置き去りにカインは部屋を出て行く。
「……そうではない。私はお前に幸せになってほしいだけなんだ」
早足に去ったカインに父親の声は届かなかった。
あーイライラする。
何が女の子だ。
マジで人をロリコンだと思ってるんじゃないよな?カインの背にぞわりと悪寒が走る。勘弁してくれよ。
早足で廊下を歩いていたカインは足を止め、窓の外を眺める。
「お兄さん」
眩しい。
「お兄さん」
今日は雲一つない青空だ。
「お兄さんお兄さんお兄さんお兄さん……おいジジイ」
「誰がジジイだ」
ばっと声がする方――下を向く。
「返事がないから耳が遠いのかと思って。見た目よりジジイなのかなって……」
「なぜそうなる」
気づいていた。なんか子供の声がすることは気づいていた。恐らく父親が言っていた女の子だということもなんか察していた。だからあえて無視したのだが。
まさかジジイと言われるとは。
カインは女の子をじーっと見つめる。
見たことのない女の子。というか今まで見てきた女の子の中で一番美しい子だ。そしてはっと気づき、交わるスカイブルーの瞳とアメジストを思わせる深い紫色の瞳。
「お前……」
「レディにお前言うな」
口のお悪いお子様である。
「……クソガキ様はヒンメル伯爵家のギフト持ちか?」
「ユリア・ヒンメルにございます。本日からこちらでお世話になります。よろしくお願い致します」
クソガキには反応せず8歳とは思えぬ見事なカーテシーを披露したユリアにカインは気不味くなる。なんだか大人げない対応をしたかもしれない。
「カイン・ダルカンだ」
よろしくとは言わない。よろしくするつもりはないから。なんか調子が狂うなと思いながらその場を去るカイン。
「……ユリア」
「お父様何をやっているの?隠れんぼ?」
カインの背中が見えなくなり聞こえてきたのはユリアの父親の声。大きなお高そうな壺の影からの登場だ。
「カイン様がどんな方かと思って覗き見ていただけだ」
大人がついているときと子供だけのときでは態度が違うということはよくあることだ。
「なかなか頑固そうな方だな。嫌なことがあったら公爵様に言うんだぞ。すぐに迎えに来るからな」
ユリアの頭を撫でながら言う父にユリアは笑う。
「あら、帰らせてもらえるの?」
ユリアを預かりたいと頼み込んできた公爵に断りきれなかったのは一体誰だったか。
「役に立たないとわかれば帰らせてもらえるだろう」
「私次第じゃない」
ぷくっと頬を膨らませる娘の頭を再度撫でる父。
「どうせすぐ帰ることになる。人の心というのは難しいものだ。子どものお前に手におえる問題ではないさ」
カインはここに来た少女たちを全てすぐに返している。特大の涙付きで。父の目には同じように帰ってくる娘の未来が見えた。
まあ娘は泣きはしないだろうがな。
そう思いながら父はユリアを置いて帰っていった。




