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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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21.奇跡の2人

「ユリア様教えてくださいよー!」


 ユリアの私室でそう叫ぶのはジョンだ。


「僕すっごい無礼なこととかと言っちゃいましたよ!」


 興奮している様子のジョンは声がでかい。ユリアは耳を押さえながら言う。


「正式な場ではカインの方が格上だけどここでは彼は執事よ。大丈夫よ他の使用人だって生意気な口をきいているでしょ?」


 確かに。フレンドリーというか頼りにしているというのか頼り過ぎというか使用人が公爵家の人間に接する態度でないのは間違いない。


「でもでもでもでも」


「うるさいわね。ちょこっと言うのを忘れていただけじゃない。それに誰かが話してると思っていたし」


 子どもが駄々をこねるようにしつこいジョンにユリアは苛立つ。


「……でもダルカン家のご子息って言ったらあれ、ですよね。その……ユリア様と同じで………」


 もごもごと口ごもり始めたジョンに仕方なしと息を吐くとカインを近くに呼び寄せる。


「改めてご紹介します。ダルカン公爵家の御次男カイン・ダルカン様御年24歳です。趣味特技は執事業、好きなことは執事業。そして未来視のギフト持ちの寂しい独身貴族様です」


 カインがギフト持ち――。


 その他にも色々と言いたいことがある様子のジョンだが、言葉は出てこない。その目はカインとユリアを交互に見るのに忙しそうだ。自分も人のことは言えないが公爵家の息子相手になんとも無礼というのか図太い男である。


「奇跡の2人が並んでる……」


 ジョンがぽつりと呟く。


 奇跡の2人。


 100年に1人生まれるか生まれないかというギフト持ちの人間。歴史上2人のギフト持ちが同じ世代に誕生したことはなかった。


 カインが100年ぶりにギフト持ちの人間として誕生し、その数年後にユリアが誕生した際人々は驚愕すると同時に狂喜した。


 ギフト持ちの人間が誕生するとその時代は様々な幸福に見舞われると言われているからだ。特に彼らが生まれた国は繁栄すると言われている。そしてその言葉通り帝国は未だかつてない繁栄を誇っている。


 奇跡の2人。


 そう呼ばれるのに時間はかからなかった。


「未来視……あ……だから!」


 ジョンの暗殺未遂もレイスの凶行もカインには見えていた。だから色々と先回りすることができ、調べることもできたのだ。


「すごい便利ですね」


 思わずそう呟いたジョン。ただただ本当にそう思ったのだ。だがカインの表情はどこか固い。ユリアもいつものように微笑みを浮かべてはいるもののその瞳は笑っていない。


「そんないいものではないですよ」


 カインの言葉にジョンは言葉を返すことができなかった。彼の表情がとても冷たかったから。




 ジョンが部屋を出て行き静まり返る部屋。カインも侍女たちも何も言わず静かに自分の仕事をこなしていく。 


「あれから10年も経ったのね」


 しみじみとユリアが呟くと侍女たちからお懐かしいと声が漏れる。彼女たちはユリアが赤子の頃からここにいる者たちばかり。


「……え、そこ触れます?ここはスルーする空気だったでしょう?」


「そこはほら、私だから」


 どんな理屈だよ。本当に変なお嬢様だ。


 くすくすと笑う侍女たちに鋭い視線を向けると尚更深まる笑み。その表情は慈愛に満ちていて気恥ずかしく、思わず向けた視線を逸らしていた。


「何よー。後悔しているの?別にジョンに話してもいいじゃない」


 後悔?そんなものするはずがない。適当に置かれた本棚の本を整理していたカインは手をとめると徐ろにユリアに近づく。足を止めたカインは軽く腰を折りその長い髪の毛を一房手に取り口づけながら上目遣いでユリアを見つめる。


「運命の出会いは秘めやかなものでなければ」


 美男美女の絡み。


 侍女たちの口からきゃあと黄色い悲鳴が上がる。



 ユリアも思わず頬を赤らめる




 なんてことはなく嫌悪感丸出しに眉間にシワを寄せた。


「……汚いんですけど」


「おっと、失礼致しました」


 カインの手袋は整理した際の埃で黒くなっていた。するりと髪の毛を放すカイン。


「秘めやかも何も皆知ってるじゃない」


 侍女から手渡されたハンカチで髪の毛を拭きながら呆れた様子でカインと会話を続けるユリア。


「ロマンが足りませんねー。そんなんだから婚約者が決まらないんですよ」


「いいのよ。最悪あなたがもらってくれるでしょ?」


「喜んで」


 軽い冗談のようなやりとり。本気か冗談か。


 侍女たちには判断がつかなかった。




 深夜カインは昨夜と同じように月を見ていた。


 昨夜より小さいが相変わらず美しい。見ていて心が癒やされる。


 父親と会った日は疲れるのだ。嫌いではない。肉親の情もある。ただ普通より薄いかもしれないが。自分にとって父親よりも、いや……血のつながった彼らよりも伯爵やユリアの方が大切な存在であるというだけで。


 心地よい風が頬を撫でる。


 かつての自分は何よりもあの人たちが大好きで仕方なかったというのに、人とは不思議なものだ。





 カインはゆっくりと目を閉じた。






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