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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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20/31

20.父と息子

 昼食を終えた伯爵とユリアは外でお客様の到着を待っていた。彼らの背後にはズラリと使用人が並んでいる。


 1台の馬車がやってくるのが見えると皆一様に背筋を伸ばし伯爵家の使用人としてふさわしいであろう外面を貼り付ける。


 御者が降り恭しく馬車の扉を開く。


 それと同時に皆一斉に頭を下げる。


「お出迎えありがとう。だがそんなに畏まる必要はないぞ。ほら頭を上げてくれ。伯爵もユリア嬢も皆も頭を上げてくれ」


 馬車を降り地面に足をつけた男性が伯爵に近寄り頭を上げさせる。伯爵が頭を上げるとユリアと使用人もそれに続く。


「滅相もございません。お出迎えぐらいさせてくださいませダルカン公爵様」


 その言葉にニッと笑うのはこの国の宰相にして序列1位の大貴族ダルカン公爵家の当主である。アメジストを思わせる美しい紫色の瞳と艶のある漆黒の髪の毛を持つ威圧感漂う美丈夫である。


「皆の歓迎する気持ちはしっかり受けとった。さあ皆仕事に戻るといい。私はただ遊びに来ただけなのだから。おおユリア嬢!そなたは会う度に美しくなっていくなあ」


「公爵様は眉間のシワが増えていかれて渋みが増していかれますわね」


「これユリア!」


「なんですかお父様?陛下に信頼される公爵様のご心労を察しただけですのに」


「それは世では余計なお世話というのがわからんか?」


「まあまあ伯爵。私は気にしていないから庭園に参ろう」


「はっ!」



 自分の屋敷かと思うほど慣れた様子で庭園に足を進める公爵。


『ユリアいい加減にしないか。お行儀よくしなさい』


『べー』


『んなっ!?』


 後ろを歩く伯爵父娘の静かなような静かでないようなやりとりに彼は笑みを漏らしていた。



 庭園に着いた彼らはカップに注がれる紅茶をじーっと見ていた。


 カチャ……カチャ……


 ほんの僅かに音を立てながら用意される茶菓子やお茶。ポットをテーブルに置くと使用人たちは一斉にその場を離れた。


 彼女らと入れ替わるように1人の男が3人に近づく。


 伯爵とユリアが椅子から立ち上がり、出迎えるように頭を下げる。


「やめてくださいよ伯爵様、ユリア様」


 苦い笑みを零しながらその場に立っていたのはカインだ。


「そういうわけには参りませんわ」


 頭を上げたユリアはいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。


「今のあなた様は執事ではなく、カイン・ダルカン公爵令息様なのですから。格上の公爵家の方に敬意を払うのは当然ですわ」


「気持ち悪いからやめてください。というか私はあの日からあなたの執事ですから。構いませんよね父上?」


「もちろんだ。上だの下だの関係ない。そんなことを気にしていたら恩人である君たちには私こそ頭を下げなければならない。おおそうだ。一度下げておこうか」


「「おやめください」」


 伯爵父娘の慌て顔に立ち上がりかけた公爵は再び椅子に腰を下ろす。カインも伯爵父娘も座る。それから何気ない会話を皆でしていたがカインだけは口を開く様子がない。


 公爵がんんっと軽い咳払いをする。


 その瞬間父娘の瞳が少しだけ鋭くなる。ふーっと心の中で深く息を吐き、互いにアイコンタクトをとる。


『くるぞ』


『準備オーケーよ』


 公爵は息子に視線を向けるとカインと彼の名を呼ぶ。

  

「元気だったか?」


「ええ」


「困ったことはないか?」


「ええ」


「ユリア様とは仲良くやっているか?」


「とっても」


「伯爵とも仲良くやっているか?」


「とっても」


 …………………


 公爵がカインに質問をし、カインがそっけなく答えるという時間が過ぎていく。


 居た堪れない。


 めちゃくちゃ居た堪れない。

 

 王様に匹敵するほどの権力を持つ公爵が息子に冷たくされる姿を見るなんて。カイン公爵様の顔を見て!あなたと少しでも会話しようとする必死な姿を見て!


 そんな父娘の心の叫びは届かず、カインはパクパクとお菓子を食べている。結局最後までそっけない態度を貫いたカイン。親子の会話はいつものように呆気なく終了した。



「ではまた」


 馬車の窓からそう言って去って行った公爵。馬車が見えなくなるとはーっと盛大に詰めていた息を吐く父娘。


「仲がよろしくて何よりですね。では私は仕事に戻ります」


 そんなことをしれっと言って父娘の前から去っていくカイン。


 お前ももう少し仲良くしろ!と叫びたいくらいだったが、何もしていないのに疲れ果てた二人にその気力は残念ながらなかった。


 ユリアはその背を見送りながら緩やかに口角を上げる。


 あんな態度だが彼は父親のことを嫌っているわけではない。深い愛情を持っているわけでもないが、やはり他人とは違うというもので。


 その背はいつもよりご機嫌にユリアの目には映った。





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