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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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19/19

19.助けてください

 月明かりに照らされるヒンメル伯爵邸の廊下を歩く影が一つ。その影は窓から見える真ん丸な満月に気づくと足を止めた。


 そ……と窓を開けると涼しい風が頬を撫でる。


 彼はじーっと満月を見つめる。今宵の満月は普段より大きい。これを見ると彼は思い出す。


 とても悲しかった日と生涯忘れられない自分の転機となった日のことを――。


「おや、眠れませんか?」


 彼に近づくのはこの家の当主である伯爵だ。

 

「敬語はおやめください」


「今は二人っきりですから」

 

「あなたは私の雇い主であり、恩人です。それに……血のつながりはありませんが父親だと思っています」


「あなたの父親などと……あの方に自慢しなければなりませんなあ!」


 はっはっはっと笑う伯爵に彼は呆れる。


 これは信じていないな。本心なのに。


 本当に伯爵には感謝している。自分の父親と伯爵どちらかを選ばなければならないのであれば迷うことなく伯爵を選ぶほどに。


「それに恩人などと滅相もない。あなたのお陰でユリアは更に自由に羽ばたけるようになったのですから」


「少々自由過ぎると思いますけどね」


「確かに」


 そう言うと再びはっはっはっと笑う伯爵。


 彼は軽く目を細める。普段うるさい父親ではあるがなんやかんやいってユリアのことがかわいくて仕方ないのだ。


「おお、せっかくのお月見を邪魔してはいけませんな。それではお休みなさいませ――――カイン様」


「良い夢を。伯爵様」


 その場にいたのはユリアの執事であるカインだった。


 彼は伯爵が去ると、再び満月に視線を向けた。






 翌朝


「カインさ~ん」


 何やら情けない声に呼ばれ振り向いたカインはぎょっとした。


「それは…………痛くないのかい?」


 彼の頰には左右両方共にくっきりと手の跡がついていた。


「嫉妬の証なので幸せな痛みです!昨日遅くなるのに連絡し忘れちゃったんですよ~。そしたらネラが浮気者ー!って嫉妬してパンッパンッパーンッて…………むふふふふ」


 嬉しさから笑っているのは察せされるのだが、なにか気味が悪い。思わず一歩足を引いてしまうカイン。


「ちゃ、ちゃんと冷やしてくださいね?」


「はい!カイン様は本当にお優しいですね」


 本当にカインは優しい。ユリア以外には、だが。


「それでどうかしましたか?」


「あ、え、えーと……ちょっとはげまして……ちょ、こ、こちらに……」


 は?


 はげた?


 ジョンが?


 こちらにと手招きしながら足を動かすジョンについていく。彼の後頭部を見るにはげてはいなさそうだが……。懸命に隠しているのだろうか。


 ジョンが足を止めたのでカインも足を止める。


 そしてそこであー…と口を軽く開く。



 確かにハゲてるわ。


 庭園にたくさん生えている立派な木のうちの一本の一部分が。


 あれは剪定に失敗しちゃった感じ?


 恐る恐る近くで縮こまる庭師たちを見ると下を向いて震えている。だがそこであることに気づく。


「親方は?」


 数いる庭師の一番年長者であるじいが親方を務めているのだが彼の姿が見当たらない。


「親方が梯子の上でこう背を伸ばした瞬間に腰をぐきっとやっちゃってその衝撃でパサリといったそうです」


 お、おおそれは色々と問題発生して大変だっただろうに。


「……落ちたり、ケガはなかったのかな?」


「彼らが下で支えたそうです。親方はその衝撃で失神して現在医務室にいらっしゃいます」


 とりあえず大きな怪我はなさそうでホッとする。


 そしてまた嫌なことに気づきさーと青褪める。


 カインの顔が青褪めたことで周囲にいた下っ端庭師たちは居た堪れず身を更に縮める。


 あ、ごめん。


 いやでもさーこれ誰が直すの?


 いやいや待て自分。親方がいても切っちゃったものはどうにもならないから一緒のような。いやでも何かうまくごますことができたかもしれない。


「これどうしましょう?」


 やめてくれ、そんな期待した目でこちらを見ないでくれ。


 ジョンや庭師たちの縋るような目が痛い。


 そのままにしておこうと言いたいところなのだが午後から大事なお客様が来るのだ。その人は庭園を散策するのが好きで……こんなハゲた木は見せられない。


 冷や汗が背中を伝う中ひたすら考える。


 ユリアに相談を――いや、絶対に嫌だ。


 絶対にあらそんなこともできないの?とニタニタと笑うに違いない。嫌だ絶対に嫌だ。


「――伯爵に話してくる」


「そうですね!伯爵に相談しましょう!」


「いや、いい考えが浮かんだ。あとは任せろ」


「「「はい!」」」


 ジョンだけでなく庭師たちからも元気な返答があった。


 それに軽く笑うとカインは駆け出した。


 その背を見送るジョンは思った。


 なんてかっこいいんだろう。自分もあんなふうに――。


 そこで気づく。


 なんか今カインがワイルドだったような気が――まあいいか。とりあえずカインに相談して良かった。ジョンは自分の仕事に戻った。 




 数時間後――――



「「「おーーーーーー!」」」


 感心しているのか喜んでいるのかよくわからない声が庭園に響いた。再び庭園に集合したジョンと庭師たちは目の前に聳え立つ木を見上げる。


「急いで同じ木を用意してハゲ木を引っこ抜いて差し替えました。あとはお願いします」


「「はい!お任せください!」」


 そう言うと庭師たちは周りの木と同じような形に剪定していく。


「よく間に合いましたね」


「伯爵家はお金持ちですからね」


 伯爵に頼んでふんだんに金を使わせてもらいました。


「ははは、またまたご謙遜を」


 いやまじな話なんですけど。


「とりあえずお客様が来るまでに間に合いそうでよかったです」


「そうですね……」


「?」


 心なしか不機嫌に見えるカインにジョンは首を傾げるのだった。

 





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