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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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17/19

17.鎮圧

 普段出さない大声に疲れたのか荒い息を吐くものの叫ぶことをやめたレイス。誰も声をあげられない中、はーはーと懸命に息を整えようとするレイスの息遣いだけが部屋に木霊する。


 興奮する彼女に対しどうすればいいのかわからない。


 


 ……バタ……バタ……


『ちょ……困ります!』


 …バタ…バタバタ…バタ…


『お止まりください!』


 バタバタバタバタ


『そちらはいけません!』


 バタバタバタバタ!




 膠着状態が続く中、何やら近づいてくる足音。


 緊張感が更に増す。なんなんだ?この非常事態に?もう泣きたい。


 バタン!


「でやっ!」


「「「!!!」」」


 扉が派手な音を立てて開かれると同時にヒュンヒュンヒュンととても高そうな扇子が高速回転しながらレイスめがけて飛んでいき彼女の手にヒットする。


 カシャンッと音を立て床に落ちたナイフを慌てて男性陣が拾おうとするが、拾い上げにやりと笑ったのはもう1人の侵入者だった。


「執事殿……ありがとうございます」


 皆がホッとする中、執事殿――カインはささっと懐から取り出したハンカチでナイフをくるくると包むとどうぞとレイスに返す。皆がギョッとしたものの渡されたレイスはそれを再びヒマリーの首に押し当てるでもなく振り回すことなく暫く呆然としていた。


「そんなビクビクしなくて大丈夫よ。彼女も咄嗟にやってしまったものの本気ではないわ。ね?」 


 扇子を投げた張本人であるユリアは投げた扇子を拾い上げ立ち尽くしたままのレイスの背に手を添え優しく撫でる。


「ユリア様……」


 自分が犯した凶行に今更ながら気付き震え始めポロポロと目から溢れ落ちる涙。


「ご、ごめんなさい……ヒマリー……」


「大丈夫。私は大丈夫よ」


 ヒマリーはレイスに手を伸ばしゆっくりと抱き締める。なぜか涙が溢れてくる。恐怖か安堵かそれとも片割れの感情が移ったのだろうか。


 2人は暫く抱きしめ合ったまま涙を流し続けた。



 



 2人の涙が止まり落ち着いた後、婚約の書類にサインしたサランとヒマリー。


「え、えーと……ではこれで婚約成立ということで宜しいでしょうか?」


 伯爵の問いに頷く伯爵一家と男爵一家。


 そして椅子に腰掛けるユリアとその後ろに立つカインはおめでとうと拍手を送っている。


 え、いや、なんで?


 戸惑うような視線を受けながらもユリアは気にすることなく満足そうに1人微笑んでいる。


「ふふふ、また一組のカップルを縁を結んでしまったわ。流石私」


「もともと婚約予定でございましたが」


「お黙りカイン」


「あ、あの……ユリア様?」


 危機的状況を救ってくれたのには感謝するがその後もなぜか当然のように部屋に居座り続ける二人になんとも微妙な空気が漂っていたのだが誰も物申せずにいた中サランが勇気を出して話しかける。


「はい。どうかなさいましたか?」


「あの、なぜこちらに?」


「あなた達が危険な状態になるとお達しがあったの」


「はあ」


 誰から?とは誰も言わなかった。


「まあそんな些末なことはどうでも宜しいではございませんか」


 些末。他所様の家にズカズカと乱入し、ほとんど交流のない家の婚約に立ち会うことが些末。


 妙な沈黙がその場に満ちる。


「無事婚約が整い幸せいっぱいのあなたはちょっと黙っていてくださる?」


「え!?」


 予想外の言葉にぼっと顔が赤くなるサラン。ヒマリーも気恥ずかしそうな嬉しそうな顔をしている。両親たちも微笑ましげだ。


 皆が幸せそうな中、一人だけ下を向くのはレイスだ。


「大丈夫よ」


「………………………え?」


 その言葉が自分にかけられたということに気づくのに時間がかかったレイス。


「男なんて他にも山ほどいるのだからいつか良い出会いがあるわ。たぶん」


 たぶんて。皆口にしたかったが考え込むレイスを見て物申せなかった。


「……私だってそれなりに裕福な家の娘です。相手を選ばなければきっといつかは結婚できるでしょう。でも良い出会いなんてあるのでしょうか?だって私は暗くてジメジメして……それに好みなのに選ばれない女なのに」


 シン……気まずい沈黙が再び部屋に満ちる。


 慰めの言葉など自分たちには見つからない。ユリアはなんと答えるのだろうか?


「ほほほほほ。その答えを知っていたら私にも今頃素敵な婚約者がいるわ」


「ちなみにユリア様には素敵な相手からの申し込みはございません」


 え、ジョークのつもりなのだろうか。


 シン……と部屋は沈黙と冷気が漂った。


「ユリア様はお強いのですね。いろいろなものを持っているからきっと余裕がおありになるのでしょうね。私には何もないから羨ましい……」


「何もないなんて……なんでそんなことを言うのよ!?あなたには良いところがたくさんあるのに……!」


 ヒマリーが片割れの言葉に耐えきれないとばかりに声を張り上げる。


「ヒマリーにはわからないわ。人はね眩しいものに憧れるの。貴族の中でも特出した美しさ、明るさ、笑顔……そんなものに。私にはどれもないわ」


「レイス……」


 確かにそういったものは彼女にはない。それらは大切かもしれないがそれだけではないはずで。しかし彼女がそれらを求めているという事実は変わらない。どんな慰めの言葉も彼女の心には響かない。ヒマリーは口を閉じるしかなかった。


「異議あり!」

 

 パシンと扇子を手に叩きつける音と共にそんな声が上がる。


 そんなことを言うのはもちろんただ一人ユリアだ。


「あなたは既に大切なものを持っているわ。そしてあなたもそれはわかっている。ちなみに私もそれを持っているわ。あたな以上に」


 ん?なんだ?いい話風かと思ったらなんか自慢が入ったぞ。皆はそう思ったが口を噤んだ。レイスの瞳に期待という光が宿ったから。

 







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