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ギフト持ちのカメレオン令嬢は縁を結ぶ  作者: たくみ


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16/19

16.後悔

 サランの言葉にその場はシーンと静まり返る。


「……お、お前はレイス様が好みなんだろう?」


 真っ先に正気に戻ったのはそれなりに経験値のある父である伯爵だった。


「はい。私は静かな人が好みです」


 認めよう。レイスの冷たい態度に心揺れた自分は彼女みたいな人が好みなのだ。


「じゃ、じゃあなぜ?私たちに気を使わなくて良いのよ?」


「母上それはレイス嬢に失礼です」


「あ、ご、ごめんなさい。どちらが良いとか私たちはこれっぽっちも思っていないわよ?」


 母上いいんです。好印象を誰に抱くかは自由なのですから。わたわたと慌てる両親からヒマリーに視線を向ける。真っ直ぐ彼女を見つめながら口を開く。


「ヒマリー嬢私と婚約していただけるだろうか?」


「え?は?え?」


 予期せぬ事態であたふたする様は可愛らしい。じーっと見つめているとその視線に落ち着いたのか彼女は少し頬を染めながら口を開く。


「よろしくお願いします」


 良かった。拒絶されなかった。たぶん大丈夫だとは思ったが、やはり返事を聞くまでドキドキだった。


「男爵も宜しいでしょうか?」


「あ、ああもちろん……だ、だが………その、君は……」


 ちらりと男爵が視線を向ける先にはいつもよりほんの僅かに目を見開くレイスがいた。その瞳には僅かにショックが見て取れて胸が痛んだが、サランは真っ直ぐ男爵の瞳を見て告げる。


「私は次期商会を率いる長となり伯爵となります。私は妻には同じ志を持ち共に道を歩んでほしいのです。私は表に出て妻は裏を支える、それも悪くはないでしょう。ですが私はお客様の笑顔を自らも大切にしたい。ヒマリー嬢もきっと私と同じ考えだと思います」


 ちらりとヒマリーに視線を向ければうんうんと嬉しそうに微笑む姿がある。きっと彼女は人の笑顔を大切にする人だ。自分に対しても使用人に対しても常に笑顔を絶やさない。


 絶やそうとしたら


 顔がひきつるほどに――。



 昨日の顔が思い出されてクスリと笑ってしまうサラン。


 伯爵家は一家総出で商会の表に出て支えるタイプだ。もちろん裏でも色々と努力はしている。だが自らがまずお客様と接する、現場を見るべしという考えなのだ。


「そうかそうか!それならばもちろんヒマリーを喜んで嫁がせよう!正直なところヒマリーの方が伯爵家には合うと思っていたんだよ!」


 突然男爵が元気いっぱい雄叫びのような声を出す。先程までもご機嫌だったが更に元気倍増に見えるのは気のせいだろうか。


「私たちはどちらのお嬢さんでも良かったのよ?でもサランがそう言うなら。ねえ?あなた」


「そうだな。サランの気持ちが一番だ」


 サランの両親も口ではそう言いながらホッとしているように見える。口元には堪えきれない笑みが浮かんでいる。


 どちらの親も明らかに嬉しそうで上がるテンション。サランとてその様子に笑顔を浮かべたかったが、そういうわけにもいかなかった。


 ヒマリーも嬉しそうにしてはいるものの少し戸惑っているようだ。


 それはそうだ。


 だってレイスを振る形になってしまったのだ。しかも彼女に決まりのような空気が醸し出されていたというのに。


 なんと声をかけるべきか……サランは思考を巡らす。


 だが、残念ながらそんなことを考えている場合ではないことに気づかなかった。


「………んで」


 ポツリと呟かれた言葉を拾えたのはサランとヒマリーのみ。親たちは気づかず盛り上がっている。


 あ、不味いかもしれない。


 サランは嫌な予感がしてヒマリーに手を伸ばす






 がその手は空を掴んだだけだった。


 ヒマリーの身体はレイスの細腕に囚われ、共に立ち上がったかと思うとその首筋にはナイフが突きつけられていたから。



「なんでよ!?なんで私じゃないのよ!?私の方が好きなんでしょ!?おかしいじゃない!なんでなんでなんでなんで!?いつもいつもヒマリーヒマリーって!今回こそは私が選ばれたはずだったのに!?」


 いつもの落ち着いた様子からは考えられない程大きな声がレイスの口から飛び出る。目は血走り怒りからか手は震え、ナイフが今にもヒマリーの首を傷つけそうだ。


「何をしているんだ!?」


 双子の父親がナイフを取り上げようと娘に手を伸ばすがヒマリーの首に薄っすらと傷がつき血が滲んだのを見て慌てて手を引っ込める。


「私を選びなさいよ!私がサラン様と結婚するのよ!決まってたじゃない!皆だってそう思ってたじゃない!」


 叫ぶレイス。


 双子の片割れになんという非道なことをと思う者はこの場にいなかった。あまりにもその叫びは悲痛だったから。


 彼女が今ああしているのは自分たちが早まったからだ。勝手に決めつけたからだ。もっと慎重に考えるべきだったのだ。彼女が今ああしているのは自分にも原因がある皆そう思い何も言うことができない。そして身体を動かすこともできなかった。







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