15.選択
ああ!今日も晴天で鳥達が鳴く声が聞こえる清々しい日だ。我が家の庭園の花は見事に咲き誇り目を楽しませてくれる。庭師さんありがとー!
現実を見よう。
目の前のこの異空間はなんだろうか?
サランはいつもの如く庭園で双子との4回目の見合いに挑んでいた。だが今日は3回目までとは違う。なんともギスギスした重苦しい空気が漂っている。
「レイス嬢今日のお召し物は素敵な色ですね。その色は隣国でしか染められないものでしたよね?」
「ええ」
相変わらず相槌なのか返事なのかわからないような返答のレイス。まあまあこんなのはいつものことだ。
「ヒマリー嬢この前お好きだと伺った紅茶を今日は用意してみたのですが如何ですか?」
「はい!とっても美味…………え、ええ」
目を煌めかせながら発された言葉は不自然に途切れ表情を消し素っ気ない返答をするヒマリー。
先程からこうなのだ。
これは……サランは零れ落ちそうになるため息を気合いで堪える。
誰かがユリアの言動を双子に伝えたのだろう。
だからヒマリーはレイスの真似をしようと頑張っている。
そう、非常に頑張っている。
根が明るくおしゃべりも好きなのだろう。先程から視線は落ち着きなく彷徨い、何か話しかける度に嬉しそうにするのに慌てて素っ気ない態度になるのにその顔は引きつっている。
気の毒なほどに。
見ていてとても心が痛む。見ていられずサランはレイスに視線を向ける。相変わらず視線は合わない。言葉もない。サランの好みは自分だと聞いただろうに嬉しそうな表情も一切ない。
ただ少しだけいつもより顔を上げ、胸を張っているような気はするが。
「父が明日午後に伺うので返事を聞かせてくれと申していました」
「え?」
レイスから初めて聞く会話らしい言葉、初めて話しかけられたことに頭が対処しきれず一瞬固まってしまった。
「心は決まっているようだしこれ以上長引かせる必要はないだろうと申しておりました」
固まるサランのことなど気にせず、いや気づいていないのか淡々と父親から言われたであろうことを口にするレイス。彼女はちらりとヒマリーを見る。その目に優越感のようなものが見えたのは気のせいだろうか。
「……あ、きゅ、急ですね…………」
サランの口から出たのはそんな言葉だった。その言葉に対するレイスからの返答はない。だろうなと思いつつどう言葉を続けるべきか模索するが見つからない。
「急で申し訳ございません。その……私たちも年頃ですので」
ヒマリーのフォローで気づく。ああ、そうか。選ばれなかった方は他の誰かと婚約をしなければならないのだ。サランがいつまでも2人を縛ってはいけないのだ。当たり前のことに考えが至らなかったことに頰が熱くなるのを感じる。
サランが言葉を失っている間にレイスは用は終わったとばかりに椅子から立ち上がると軽く頭を下げ去っていく。
お、おお明日全てが決まるというのになんたる冷淡じゃなくて冷静な態度。呆然と見送るサランだったが何やら視線を感じそちらに視線を向ける。
ばちりと合う目と目。
先程までのオドオドした様子はなくなり、いつもの彼女――ヒマリーの笑顔がそこにはあった。
「サラン様とのおしゃべりとても楽しかったです。本当にありがとうございました」
「こちらこそ楽しかった。ありがとう」
最後の笑みとばかりにふわりと微笑んだ彼女は深く頭を下げると振り返ることなく去っていった。頭を下げる前彼女の目尻が光ったように見えたのは気のせいだろうか。
翌日
「いや~めでたいめでたい!無事に婚約が整うこととなり感無量ですな!」
伯爵邸の応接室のソファでぽっこりお腹を叩きながら笑うのは双子の父親である男爵だ。その隣には妻である夫人とレイスとヒマリーが座っている。
「いやはや、ご心配をおかけしました。心が決まっているのならばさっさと返答をすれば良かったのですが、どちらも素敵な女性で心が揺れてしまったようで返答が遅くなり申し訳ない」
そう言って笑うのはテーブルを挟んで正面に座るサランの父である伯爵。その隣には夫人とサランがいる。
「結婚式はいつ頃にしましょうか?」
「1年後くらいでいかがですか?」
「妥当ですな。ですが娘は先に寄越しても宜しいでしょうか?次期伯爵夫人としての教育やそちらの商会に慣れさせたいものですから」
「もちろんです。厳しいことを言うこともあるとは思いますが、実の娘のように大切にお預かりしますので」
「おお、なんと有難いことでしょう!なあ!?」
両親同士で進められる結婚話。
ちなみにサランはどちらと結婚するとまだ言っていない。だが親たちがちらちらと視線を向けるのはレイスとサランのみ。
ヒマリーもそれを感じているのだろう。いつものように微笑みを浮かべているが、どこか無理をしているように見える。
ぼーっと彼女を見ていると目が合う。
僅かに見開かれるヒマリーの瞳。そして寂しそうなのに深められる笑み。その目尻からは今にも涙が溢れそうだ。
両親たちが何やら言っているが、気にせずサランは口を開く。
「僕はヒマリー嬢と結婚致します」




