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第12話 女装しにおいでよ

 ちょっとだけ、時間をジャンプさせています。


 職場で、コロナが出たので、職員全員のPCR検査をしているのですが、結果が早くて今日、遅くとも明日ということなんですね。無症状の患者も多いそうですから、誰か感染してるかも。

「ようやくクラスのみんなも少しは私の着替えに慣れてきたようね」


 次は体育の時間。1組と2組の男子は1組の教室で体操服に着替えをしているわけ。ちなみに女子は2組の教室で着替えてるわよ。こらこら、覗きにいこうなんて思っちゃダメよ。


「慣れたというか、慣らされたというか。俺はもう女子の下着姿を見ても興奮できないかもしれない」


 女子の制服を脱いで上半身キャミソール姿になった私の横で、天光明生くんが嘆いている。


「下着姿を見ても興奮できないかもしれなくても、触ったらたぶん興奮できるから大丈夫♪」


「俺、女子の下着姿を見たら触らないといけないんですか?」


「あはは、何もそんなこと言ってないじゃない」


 何かツボに入っちゃったのか、笑いが止まらない。あはは、馬鹿よねぇ。というわけで私は笑いながらキャミソールを脱いで、上半身はブラジャーだけになったのでした。


 でも、このブラジャーの中には夢じゃなくて詰め物が入っているのよね。


 しかしそんな私の姿を見て、姿見鏡平くんはため息をついているんだけど、どうしたのかしら?


「僕の場合は、触っても興奮できなくなってるかもしれない」


「どういう意味なの?」」


「いや、最近、筋肉フェチの空木美鳥ちゃんと、その、筋トレデートをしてるんですけど……」


「筋トレデート!? 何それ。初めて聞いたッ!!」


「よくあるらしいですよ。恋人同士でスポーツジムに行って筋トレするっていうデート。つらい筋トレもデートだったら楽しくできるっていうことで」


「へえ、でもスポーツジムって高いでしょ? 大丈夫なの?」


「だから僕たちの場合は、スポーツジムを使うんじゃなくて、公園とかで筋トレしながらデートしてるんですよ」


「はああ、青春してるわねえ。もしかして美鳥ちゃんも筋トレしてるの?」


「ええ、それもけっこうきわどい恰好で」


「ほうほう、詳しく。お願いプリーズ」


「それで柔軟するときとか体をお互いに押さえたりするし、体を温めるために軽いジョギングしたりすると暑くなるから、美鳥ちゃんが着ていたTシャツを脱いでタンクトップ姿になったりするわけですよ。下はショートパンツとかで……」


「……それは、ちょっとその、アレね」


「しかもそのあと柔軟体操したりするときにお互いの手を握って体側を伸ばしたりするし」


「なるほどなるほど、で?」


 私は上半身がブラジャーのみであることを忘れて、鏡平くんの話に聞き入っていったの。


「それから腕立て伏せするときは、美鳥ちゃんが負荷になるって言って、僕の背中に乗ったりするんですよ」


「ちょっと待った。どんなふうに乗るのよ。そこが重要よ」


「だからその、美鳥ちゃんは僕の背中に対して横向きになって座るんです」


「ほ、ほぉおう。馬乗りじゃなくて横向きで足をそろえて斜めにしているわけですね? 女の子らしい感じじゃないですか。で、感触も分かっちゃうわけ?」


「ええ、まあ。ばっちりと。ふわふわもちっとした感触が。それで興奮しそうになるのを我慢してるうちに、その程度では興奮しなくなりました」


「あらら、それは災難だったわね。でも大丈夫。見ても触っても興奮できなくても、美鳥ちゃんなら鏡平くんの体というか筋肉を触ってくれるでしょ? それって興奮しないの?」


「いえ、前は興奮しましたけど、今はもうすっかり慣れてしまって、その程度は当たり前になってしまったんですよ。いったい僕はどうしたらいいんですか。好恵さんッ!」


 握りこぶしを作って力説し始める鏡平くん。ちッ、リア充め。私もそんな相手が欲しいのに。もう、十分に甘味は味わったから、もうこの話は無しにしよう。


「ま、シチュエーションを変化させてみたら、興奮できるようになるかもね。色々がんばってみたら?」


 そんなこんなで話をしていたら、今度は岩縄結止くんが話しかけてきた。


「好恵さん。そろそろ上を着ないと、2組のまだ好恵さんに慣れていない男子たちが前かがみになってるんだけど」


「え、やだ。本当だ。てへへ。ええと、ごめんなさいね。今、ちゃんと着ますから」


 私はすぐさま体操服の上を着たのでした。もちろん詰め物いっぱいのブラジャーは身に着けたままよ。だって体操服姿の時って女装しようと思ったら下着とかしかないんだもん。


「下のほうはスカートを穿いたまま体操服のハーフパンツを穿けるから、問題ないわよね♪」


 と、思ったのだけど、そういったシーンを見慣れていない男子たちにしてみたら、スカートを穿いた私が、スカートの横から手を入れてハーフパンツを着ようとしているシーンは、十分に興奮できるシーンだったみたい。


「好恵さん。ダメです。2組の男子たちの前かがみ率上昇しています。危険水域です」


 女装したい気持ちがあるという湧谷拓水くんが、緊急事態を告げてきた。しまった。まだ私のこの姿に慣れ切っていない男子がこんなにもいたのねッ!


「それはまずいわね。もうさっさと着替えを終わりましょう」


 私は体操用のハーフパンツをくいッと腰まで上げ切ると、スカートとその下に着けていた腰やお尻の辺りを女の子のように大きく見せるのに役立つボリュームアップパニエを脱いだのよ。


「ほら、これなら普通の体操着姿だから、もう大丈夫でしょ?」


 ふふんと、鼻を鳴らして拓水くんに聞いてみる。


「うーん、なんだか好恵さんの腰とお尻の具合が前の体育の時間の時よりも女の子っぽいんですけど、どうなっているんですか?」


「あ、それなら腰の横とかお尻とかにボリュームが出るように、ハーフパンツの中に詰め物を縫い付けてあるのよ。そのせいかな」


 スカートを穿いているときは、ボリュームアップパニエをスカートの下に穿くことで、スカートがふわっと広がり、腰のくびれがあるように見えてくるんだけど、体育でハーフパンツを穿いてたらどうしても腰の辺りが男の子にしか見えなくなっていたのよ。


 だから入学祝いで壱琉お兄ちゃんからもらった小型ミシンを使って、ギャザーをつけた布を何枚か重ねて、ハーフパンツの内側に縫い付けたわけ。ちょうどよい具合に私のお尻が大きく見えるようにするには、ちょっと苦労したけど、苦労した甲斐があったみたい。


「すごいですね。さすがに女装の上級者ですね」


「ふふ、ありがとう。それはそうと、拓水くんもかなり体がしぼれてきたわね」


「ええ、ぼくも毎日の適度な筋トレと食事制限を頑張ってますから」


「うーん、そろそろかな。拓水くん、今度の日曜日にうちに来ない? 今の体をしぼった拓水君なら、私の持っている服でも入りそうだし、試しに色々着てみない?」


 私よりも拓水くんのほうが背が少し高いんだけど、めちゃくちゃ大きな差があるわけじゃないから、何とかなるような気がするのよね。


「え、いいんですか?」


「いいわよ。拓水くん、まだ女の子の服って持ってないんでしょ? 似合う服があればもっていってくれてもいいから」


「そんな、悪いですよ」


「大丈夫、大丈夫、遠慮しないの」


 ていうか、小学校2年生まではお兄ちゃんたちから服のおさがりをもらうばかりだったから、自分の服を誰かにおさがりするっていうのは、なんとなくうれしいのよね。


「じゃあ、今度の日曜日にお邪魔してもいいですか?」


「OK♪ 待ってるわよ」







「ねえ、好恵ちゃん。湧谷くんから聞いたんだけど、今週の日曜日に湧谷君が好恵ちゃんの家に行くことになったって聞いたんだけど、それは正確な情報なのかな?」


 翌日、登校してきた私に、王子様系女子の家鳴風音ちゃんが尋ねてきた。おや、情報が早いね。


「本当よ。拓水くん、前から女装したいって言ってたでしょ。だから私の服を着せてみようかなって思って、家に招いたわけ」


「それ、ボクも行っていいかな。ボクも湧谷くんが女装するところ見てみたいんだ」


「ふふふ、恋人としては、彼氏がどんなにかわいくなるのか知りたいっていいうこと?」


「まだ恋人候補かな。湧谷くんが女装してどれくらいかわいらしくなるのかを見て、合格したら恋人に昇格ってことで」


「あらら、厳しいわね」


「だって、ボクを(した)う子猫ちゃんたちはいっぱいいるからね。彼女たちが納得するくらいのかわいらしさじゃないと湧谷君がいじめられちゃうかもしれないし、かわいそうだよ」


 ほほう、まずは風音ちゃんを王子様として慕ってる女の子たちを振ることを心配するんじゃなくて、拓水くんがいじめられちゃうかもしれないことを先に心配するなんて、完全に拓水くんのことを一番に選んでますね。なるほど、なるほど。


 そうやって無言のまま何度もうなずいていると、風音ちゃんが聞いてきたのよ。


「何か、すごく納得してるみたいだけど、どうしちゃったの?」


「あ、風音ちゃん。何でもないの。でも、風音ちゃん、前はかわいい女の子が好きって言ってたのに、拓水くんのことがかなり好きになってきたみたいね♪」


 すると風音ちゃんはちょっとだけかもしれないけど、ほほを染めたのよ。ピンク色にね。まあ、かわいい。風音ちゃんは私よりもずっと背が高いんだけど、なんでこんなにかわいらしく感じるんだろうね。


「いや、ボクは、その、確かにかわいい女の子が好きだったけど、男の子でもかわいければいいかなって思わなくもないというか、なんというか……」


 ふむふむ。完全に自分の恋心を自覚しているわけじゃないのね。じゃあ、もう一押しする必要ありってことかな。


「ま、そのことはいいわ。それよりも聞きたいんだけど、風音ちゃんって普段、家ではどんな服を着ているの?」


「ボクは見てのとおり背が高いからね。レディース向けの服だとサイズが合わないものが多いんだよ。だからユニセックスな服とか、メンズものを着ることが多いかな。まるで男の子みたいな恰好だって、よく言われるよ」


「風音ちゃん、カッコイイものね。確かにメンズもののほうが似合いそう。でも、男装してるわけじゃないのよね?」


「ああ、ボクは男装しようとしているわけじゃなくて、サイズ的に着られる服を着たらそれがメンズものだったってだけだから。男装してるって気はないよ」


「でもさ、拓水くんが女装するなら、隣に立つ風音ちゃんは男装したほうがカップルとして似合うんじゃない?」


「え、そうかな? でも男装って言っても今以上にどうしたらいいのかわからないよ」


 ちょっと困った顔の風音ちゃん。


「私が女装する時に一番に気をつけているのは、肩と骨盤のバランスなのよ。男も女も実は肩幅にものすごく大きな差は無いの。平均すると女の子のほうが肩幅が小さいんだけど、実際にはばらつきがあるから、男の子よりも肩幅が広い女の子もいるわけ」


「うーん、それはそうかな」


「だけどね。女の子は骨盤が大きくて男の子は骨盤が小さいから、肩幅に対して骨盤が大きく見えれば女の子の体形に見えるし、逆に肩幅に対して骨盤が小さく見えれば男の子の体形に見えるという理屈なの」


「えーと、だからボクはどうすればいいのかな」


「メイクや髪形とかは今は無視して、服装だけなら肩パッドがついていて肩幅を大きく見せるメンズのジャケットを着たら、それだけでも男っぽさが増すわよ」


「肩パッドが付いたジャケットかあ、持ってないぞ」


「じゃあ、私が肩に付ける取り外しできる肩パッドを作ってきてあげるから、それを付けてからメンズの服を着たら大丈夫よ。そんなに難しいものじゃないから、明日には持ってきてあげるわ」


 まあ、ミシンの扱いにも最近は慣れてきたことだし、すぐに作れちゃうでしょ。多分ね。


「ありがとう。でも好恵ちゃんは女装してる側なのに、なんで男装のほうにも詳しいの? 感心しちゃうな。ボク」


「女装のやり方を調べるには、男女の骨格の違いを調べなきゃいけないでしょ。その流れで女性に見える着こなし方を調べていくと、逆に男性に見える着こなし方ってのも自然と知ることになったわけ。ただそれだけよ」


「ふーん、じゃあ、今度の日曜日は、男装したボクの隣に女装した湧谷くんが居ることになるんだね」


「そうそう、そういうわけ。ところでさ、いつまで拓水くんのことを堅苦しく湧谷くんって呼んでるの? いい加減に拓水くんって呼んであげればいいのに」


 私がそう言うと、ピンク色に染まっていた風音ちゃんのほほが、さらに染まって顔中が赤くなってきちゃった。


「だ、そ、そんな、恥ずかしいだろッ!!」


 うわあ、これはこれでかわいい反応だなあ。


「じゃ、これから特訓しよう。繰り返して。ハイ、『拓水くん』。プリーズ」


「いや、だから、見てる、湧谷くんも見てるって、ほら、あそこ。だからッ!!」


 そうして指さす先には、席に着いたまま顔をこちらに向けて、その顔を風音ちゃん以上に赤くさせている拓水くんが居たのでした。


 ごっめーーん♪ 分かっててやりました。リア充目指すなら、これくらいの恥ずかしさは乗り越えてもらわないとね。

 というわけで、次回はまた服多家になりますよ。(予定)


 順調に少しずつ読者さんが増えているようで、うれしいですね。色々感謝です。

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― 新着の感想 ―
[一言] Call of Femboy (男の娘の呼び声)ですね!
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