第11話 お昼ごはんを食べよう
ちょっと早めに仕上がったので、連日になるけど投稿しました。
「ええと、それでは私のわがままでこういう席になりましたけど、よろしくお願いします」
今がどういう状況か説明しましょうね。実はお昼休みの時間なんですけど、私の女の子の友達4人と、男の子の友達、つまりは『好恵ちゃん親衛隊』のメンバー4人、そして私を含めた合計9人のメンバーが一緒になってお昼ご飯を食べようということになってるのよ。
教室内で9人も集まって一緒に食事となると、かなりのスペースを取ってしまうから他の人たちにしたら邪魔になるでしょ。
だから私たちは中庭にそれぞれレジャーシートを敷いて車座になっているんだけど、ちょっと目立っちゃったかな?
とりあえずみんなで『いただきます』をして、それぞれお弁当を食べ始めたんだけど、実はこの昼食会(?)、裏の目的があったりするのよね。
例の『好恵ちゃん親衛隊』の参謀を名乗る岩縄結止くんが空木美鳥ちゃんを好きだということなので、あわよくば上手くいくようにしてみようっていうわけ。
はてさて上手くいくかしら。まずはまったく別の話題からしていくとしましょうか。
「そういえば拓水くん、ちゃんと腹筋運動はしてるかしら?」
私が話しかけたのは湧谷拓水くん。女の子になりたい訳では無いけど、きれいでかわいい女の子の服を着たいという願望があるちょっと女顔の男の子なの。
「はい、好恵さんのアドバイス通り、朝晩、腹筋運動は欠かさずやっています」
「そう、それはよかった。とにかくお腹まわりに贅肉はつけちゃダメよ。お腹の周囲が太くなるとどうしても男性っぽくなるから、女装には大敵なのよね」
「ぼくも早く好恵さんみたいな女装ができるように頑張ります」
「でも腹筋運動のやりすぎには注意よ。筋肉が付き過ぎちゃうと腹筋が割れてぼこぼこのお腹になっちゃうから、そこは適当にセーブしてね。あと摂取カロリーを少なくして体脂肪を全体的に落とすのもウェストを少しでも細くするにはいいわね」
等と話していると、会話の内容に興味を持ったのか、女子たちから質問が飛んできたのよ。
「なあ、好恵ちゃん。もしかしてアタシの聞き間違いじゃなければ、涌谷拓水くんだったけ、涌谷くんが女装するっていうように聞こえたんだけど」
まず聞いてきたのは空木美鳥ちゃん。4人の女の子の中で一番ちゃきちゃきしている江戸っ子みたいな女の子。
「聞き間違いなんかじゃないわよ。拓水くんが女装したいって言うから、相談にのってあげてるの。ね♪」
「はい、ぼくは前から女の子の服を着てみたかったんですけど、自分は男だからって思ってあきらめていたんです。でも好恵さんを見て、男でも女の子の服を着てもいいんだっていうふうに思い直すことができたんです」
少し前までとは違って、明るく元気よく答える拓水くん。うんうん、私みたいな理由で女装を始めるような人間とは全然ちがうわね。
「ほら、よく見てよ。拓水くんの顔って、ちょっと女顔で、女装したらものすごく似合いそうな気がしない?」
「へえ、確かに言われてみれば、ボクから見ても涌谷くんって、かわいらしい顔をしてるね。なるほど。これは女装した時の姿が楽しみだ」
続いて話にのってきたのは家鳴風音ちゃん。かわいい女の子が好きな王子さま系女子なんだけど、私への態度を見ていたら、かわいければ女装男子も守備範囲内じゃないのかな。
……あ、そうか。このふたりをくっつけちゃうという手も有りかもね。
「でも、女装するのに腹筋を鍛えなくちゃいけないだなんて、私、知らなかったな。好恵ちゃんも腹筋を鍛えたりしているの?」
次に聞いてきたのは野山愛花ちゃん。普通の女の子なんだけど、男子相手だと緊張しちゃうみたい。
まあ、女の子にしか見えないような女装をしている私相手なら緊張しないんだけどね。
「愛花ちゃん、絶対に腹筋を鍛えなくちゃいけないなんてことは無いわよ。でも普通は男の体は油断するとお腹から太って来るのよ。だから女装をしようとするなら腹筋は鍛えておいたほうがベターかな? もちろん私も朝晩の適度な腹筋運動は欠かしていないわよ」
「へえ、そうなんだ。女装するのも大変なのね」
「そう、大変なのよ。あ、でも大変といえば、岩縄結止くんのほうが大変よ。結止くんもけっこうハードな筋トレしてるらしいから」
と言って、私は当初の裏目的である岩縄結止くんを空木美鳥ちゃんへアピールする作戦を始めたのでした。まる。
「へえ、そうなんだ。で、岩縄くんは筋肉すごいのか?」
ほらほら、さっそく美鳥ちゃんが喰いついてきた♪
「ええ、まあ、いちおう仮にも男同士だから体育の時間に一緒に着替えてるから、見せてもらいましたけど、すごいですよ。……うちの二番目のお兄ちゃんには負けるけど」
ふふんと、兄自慢♪
するとひそひそと男子たちが女子たちに内緒話をする声が聞こえてきた。
「なあ、好恵さんって、もしかしてブラコン?」
「かんぜんにブラコンよ。もうからかうのが嫌になるくらいのガチブラコン」
などという声が。
ふっ、言いたい人には言わせておきましょう。でもうちのお兄ちゃんたちのすばらしさを訴え続けて、もしも男の筋肉が好きっていう美鳥ちゃんとか、その他の女の子たちがお兄ちゃんのことを好きになっても困る。
「まあまあ、うちのお兄ちゃんのことはおいといて、本当に結止くんの筋肉はすごいわよ」
と言いつつ、私は結止くんのもとに行くと、おもむろに結止くんの体を触り始めたわけよ。
「ほう、この肩の盛り上がった筋肉。腕も太いし、もしかしたら私の体格だったらぶら下げられちゃうんじゃないかな? 腹筋もぼこぼこと割れてるし、お尻も固いのよ。私と比べてもさらに固いんだから本当にすごいわよね」
私はそう言いながら結止君の肩から腕、腕から腰、そしてお尻へと手を伸ばして撫でまくっちゃった。
「あ、こら、好恵ちゃん、はしたないわよ。男の子の体を撫でまわしちゃダメじゃないの」
「大丈夫よぉ、愛花ちゃん。いちおうこれでも私も体は男だし、こう見えても男同士だから触っても大丈夫なのよ。ね、結止君♪」
「いや、オレは別に男だろうが女だろうが、誰に触られても、触られるくらいだったら別に気にならないぞ」
「え、ということはアタシが触っても大丈夫なのか?」
ほらほらほら、速攻で美鳥ちゃんが釣れましたよ。ふふふ、計画通り。やっぱこういう恋のキューピッド役って楽しいよね。
「べ、別にかまわないぞ。良かったら触ってみるか? 変なところを触らなければ大丈夫だ」
「そう? じゃ、遠慮なく。あ、そうそう変なところはダメってことだけど、好恵ちゃんが触っていたお尻はセーフよね?」
そして美鳥ちゃんは『すごい。こんなに太くて固いの? うわ、カチカチだあぁ』等と、どこか誤解を招きそうな感想を述べながら結止くんの体を触っている。まあ結止くんは美鳥ちゃんのことが好きということだから嫌がることなく、むしろ喜んで美鳥ちゃんに体を触らせているみたい。
よし、とりあえず裏の目的達成ね。じゃあついでに他の男子たちも売り込んじゃいますか。
次のターゲットは姿見鏡平くんと夜山優月ちゃんかな? ふたりともアニメ好きという共通点があるようだしね。
「ま、それはそれとして、そういえば鏡平くん。その後、何とかなりそう?」
「好恵さんに教えてもらった理屈は分かるんですよ。のどぼとけを上にあげるようにしつつ、声帯をしぼって声を出すんですよね」
「ええそうよ。最初は手でのどぼとけを上に押し上げてしゃべってみると簡単に女の人の声っぽくなるわよ」
「そこまでは出来るんですけど、手を添えないでやると、ちょっとまだ納得いかない声にしかならなくて……」
「焦ることないわよ。まだ私たちって高校生になったばかりだし、アニメの声優を目指すにしても女の声を出す訓練だけじゃなくて、演技力というか表現力も磨かなくっちゃね」
「あ、そっちのほうは前から頑張ってます。僕、中学の頃は演劇部に入っていたんですよ」
などと話していると、やっぱりアニメおたくの夜山優月ちゃんがこっちに注目してきたみたい。でもさすがに話しかけてくることは無いようだから、私から話してみようかな。
「そうそう、確か優月ちゃんってアニメが好きだったわよね。鏡平くんはアニメの声優を目指して努力していて、その為に私のように女の声も出せるようになって演技の幅を出したいそうなんだって」
「声優、それは一握りの限られた人だけが掴める栄光。そこを目指すのはいばらの道。そこを真剣に目指すのなら、わたしは岩縄くんを尊敬する。いい加減な気持ちなら軽蔑するけど」
うわ、さすがに本物のアニメおたくだ。言うことが厳しい。ていうかいつもと口調が違うんですけど。
「僕は真剣ですよ。ええと、観月さん」
「ふ、じゃあこのセリフを読んでみて。ソードアートオフラインのキリヒト様の名セリフを」
観月ちゃんは、ササっとスマホで検索した画面を鏡平くんの目の前に突き出したんだけど、どうなるんだろう。そういえば私って鏡平くんの演技力をまだ知らないのよね。
「わたしが感動するほどの演技力なら、彼女になってあげてもいいわ。ま、できないでしょうけどね」
「ふ、その勝負受けた」
うわっ、なんだかふたりの周囲だけ雰囲気が違うッ!
「この画面のセリフを読めばいいんだな」
鏡平くんの言葉に対してこくりとうなづく観月ちゃん。ピーーンとした空気が張り詰める。ええと、ふたりの間だけね。
そして鏡平くんが、セリフを読み上げ始めたのよ。感情をこれでもかと込めてッ!
『この命は君のものだ、アサッテナ。だから君にすべて捧げよう。最後の一瞬まで共に』
「好きッ! 結婚してッ!!」
観月ちゃん、いきなり鏡平くんに抱き着いちゃった。ほへえ。私はそのアニメをよく知らないんだけど、よっぽど本物そのものの声と雰囲気だったのかしら?
というわけで、涌谷拓水くんと家鳴風音ちゃん、岩縄結止くんと空木美鳥ちゃん、そして姿見鏡平くんと夜山観月ちゃんの3組のペアが、それぞれ仲良く会話しているというか、軽くイチャついているというか、そんな状況になってしまったのよ。
私が演出した状況なのに、なんだか疎外感かも。あ、そういえばまだフリーな男女がいたっけ。と、思って天光明生くんと野山愛花ちゃんのほうを見たんだけど……。
「な、なんだかすごいことになってますね」
「ほ、ほんとうにどうしちゃったのかしら」
「あの、じつは俺、ほ、本当なら、お、女の人と話すと緊張しちゃって、何も話せなくなるんだけど、なんでかな。あまりにも驚いちゃったからかもしれないけど、その、野山さんとはちゃんと話せてる。のかな」
「ええと、私もなんですよ。わ、私も男の人と話すのは、その、き、緊張しちゃうんです。頭の中が白くなっちゃって、えへへ、でも、変ですね。私も驚き過ぎちゃったのか、なんだかいつもよりも普通に話せているのかも」
「あはは、俺たちってもしかして似てるのかな」
「そうですね。似てるのかもしれませんね」
「あれ、だんだんと、どもらずに話せるようになってきたような。女の子と話していて、どもらずに普通に話せるのは、俺、初めてじゃないのかな」
「ほんとだ。私も、もうどもってないみたい。男の人と普通に話せるのって、好恵ちゃん以外じゃ初めてかも」
「好恵さんの場合は、純粋な男の人って言っていいのかな」
「うふふ、そうですね」
と、明生くんと愛花ちゃんは、砂糖製造機となっていたのですよ。びっくりですね。というか他のペア3組も、そろって砂糖製造機になってるじゃない。もうッ!
「せっかくみんなに分けてあげようと思ってお弁当のおかずを作ってきたのになあ」
しょうがないから全部自分で食べちゃおうか? それとも職員室で食事をしているだろう不破先生に持っていこうかしら?
「「「「「「「「いただきます。ありがとう」」」」」」」」
ところが、ふとつぶやいた言葉をとらえた8人は、すぐさまイチャつくのを止めて私が持っていたお弁当のおかずに箸やフォークを伸ばすと、あっという間にたいらげちゃったのよ。
「いやあ、好恵さんの料理がおいしいってことは、不破先生から聞いてますからね」
「ほんと、おいしいわね」
などと言う彼ら彼女たち。ふふふ、こいつらはーーっ!
ふん、私だって一緒になって砂糖を作ってくれる相手をすぐに見つけてやるんだからね。現状、まったく当てはないけど……。
でも、私にピッタリ合う相手ってどんな相手なんだろう?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
最近、読者さんが増えてきたようでうれしいです。




