第13話 え、好恵に男が?
また亀進行になってしまいました。それにしても、このペースで投稿するのキツイ。他の楽しみとかをほとんど排除してこのペースなんですよね。小説書きって一種の修行だという感想がひしひしと身に沁みます。
職場でのPCR検査では、全員が陰性でした。よかったよかった。
「あ、ちょっとみんなに報告。今度の日曜日に友達がふたりやってくるから、よろしくね」
夕食の席で、私はお父さんとお母さん、それに3人のお兄ちゃんたちに、そう報告したのよ。
「へえ、友達が来るのか。やっぱり女の子かい?」
お父さんがニコニコした顔で聞いてきたけど、うーん、やっぱりそう思っちゃうよねぇ。公式というか対外的というか、私自身以外の人の認識は家族も含めて、私のことを性同一性障害だって思ってるんだから。
つまり私が友達を連れてくるなら、それは女の子っていうことになるわけで、今までも小学校、中学校と家に連れてきた友達はみんな女の子だったわけだし。そう思うのも無理ないよねえ。
「ううん、女の子ひとりに、男の子ひとりなんだけど」
私がそう言ったとたん、お父さんがピーーンと緊張したのが分かったの。ちなみに3人のお兄ちゃんたちも動きが止まっちゃったみたい。ぱくぱくと食事を続けているのはお母さんだけかな?
「よ、好恵。そのふたりとは、どういった関係なのかな?」
あーあ、やっぱりお父さんもお兄ちゃんたちも、私が男の子を家に連れて来るのは、オトコを、つまり恋人を連れて来るものだと思い込んでるわね。お母さんは『年頃の女の子はそんなものよ』って思ってるらしいけど。
「どんな関係って、高校の友達よ」
「ま、まさか付き合ってるとか?」
「まあ、友達付き合いという意味でなら付き合ってるかな?」
なんだかお父さんが考えていることが手に取るように分かって面白いんですけど。
お父さんも、本来なら味わえなかった娘を持った父の気持ちってものを味わえてよかったのかな。
「心配しないで。恋人とかじゃないから。ていうか、友達の男の子と女の子はお互いに恋人前提で付き合っているというか、その直前だから、私とは何もないわよ」
あまり心配させ過ぎて、お父さんの心臓にダメージを与えちゃうのも悪いから、さっさとネタばらししちゃった。
「そうか、恋人じゃないのか」
明らかに安堵するお父さんなんだけど、私の本当の性別が男だってこと忘れてるんじゃないのかしら? ……うん、忘れているわね。
「好恵、じゃあどういう関係の友達なのか聞いてもいいか? 俺としては単なる興味本意で好恵に近づいてくるようなやつじゃないとは思うんだが、いちおう聞いておきたい」
壱琉お兄ちゃんとしては、常に女装をしているリアル男の娘を興味本意で見たいというだけの人がやって来るのを警戒してるんだろうね。有りがたいことです。
「あ、それなら大丈夫。ふたりともある意味、私の同類だから」
「どういう意味で同類なんだ? まさかふたりとも性同一性障害だとか?」
まさかそんな確率が? って思っちゃうわよね。壱琉お兄ちゃん、ちょっと悩み顔です。
「簡単に説明すると、男の子のほうは昔からきれいでかわいい女の子の服を着てみたいって思ってただけの子なの。でも女の子になりたいってわけじゃないみたい」
「ああ、ということは異性装者ってやつか」
参彦お兄ちゃんが適切な言葉で表現してくれた。そう言えばネットで調べていたら異性装者っていう言葉があったような気がする。
「参彦、その異性装者って、何だ?」
よく分かってなさそうな真弍お兄ちゃんが光彦お兄ちゃんに質問している。そうそう、難しい質問は参彦お兄ちゃんに聞いてください。私なんかよりもずっと頭がいいんだから。
「正しいかどうか分からないけど、僕が理解したところだと、自分自身の性別は男であるとちゃんと認識しているんだけど、服装は女性の服を着たいという欲求をもって、そのように実行する人のことをいうらしいよ。ちなみに女性の場合は男装したいという欲求がある人のことをいうけど、その数は男性の異性装者に比べてはるかに少ないらしいね」
はい、参彦お兄ちゃん、説明ありがとうございました。
「つまり好恵の場合とは違うってことだな?」
真弍お兄ちゃんは、さらに参彦お兄ちゃんに質問してるんだけど、やっぱり私のことはそういう理解をしてるのね。しょうがないことだけど。
「うん、異性装者の場合は、自分の性自認とは違う性別の服装を着ているけど、好恵の場合は自分の性自認は女性で、だからその性自認に合った服装をしているというところが違うね」
「なるほど。分かったような分からないような世界だけど、何となく分かった」
自分なりに納得できたのか、真弍お兄ちゃんは、うんうんとうなずいている。
「で、女の子のほうも、その異性装者ってやつなのか?」
壱琉お兄ちゃんが、また聞いてきた。そう言えばそっちの話はまだだったわね。
「女の子のほうも、今回は男装してくるはずなんだけど、正確には異性装者ってわけじゃないの」
風音ちゃんは、背が高いから着られる服を探すと、自然とメンズ服が主体になってくるってだけで、わざわざ男装したいって思ってなかったわけだからね。
「ただ、普段から身長の関係でメンズ服を中心に着ていただけなんだけど、恋人候補の男の子が女装したいっていうなら、ちょっと今回は本格的に男装してみましょうっていうノリで男装するだけなのよ」
うーん、意外と風音ちゃんのことを説明するの難しいかも。
「ねえ、好恵ちゃん。その女の子が男装するとどんな具合になるのかしら?」
ここでお母さんが話に加わってきた。なんだか興味が出てくるポイントが有ったのかな?
「たぶんその子が男装しても、男そのものには見えないと思うわ。そうねえ、あまり派手じゃない宝塚系の男装って言えば近いかもしれないかな」
「あら、それなら見てみたいわね。かなり興味あるわよ。お母さん、そういうの好きだから」
あらら、お母さん、宝塚が好きなのか。知らなかった。
「でも、その女の子、風音ちゃんっていうんだけど、風音ちゃんが男装した姿って、実はまだ私は見てないのよ。たぶん男装すると宝塚系になるかなって、私が勝手に想像しているだけなんだから」
「好恵ちゃんの見立てなら、間違いないわよ。お母さん、楽しみ」
なんだか期待値を上げすぎちゃったかな。実際に風音ちゃんを見た時にがっかりしないといいんだけど。でもまあ、風音ちゃんはもともと王子様系女子なんだから何とかなるかな?
「そういえば、男の子のほうの名前はなんていうんだね?」
お父さんが聞いてきた。
「涌谷拓水くんっていって、背が低いの。私よりちょっと高いくらいだから小柄よね。それで女の子のほうのフルネームは家鳴風音ちゃんっていって、クラスの男の子たちと比べても負けないくらいの背の高さなの」
私は右手を上げ下げしてふたりの背の高さをジェスチャーで示しながら話したわけ。
「それでね、その拓水くんが女の子の服を着たいけど、まだ女の子の服を持っていないって言うから、もう私が着なくなった服をもらってもらおうかなって思ってるのよ」
いちおう服をあげる予定なのを言っておかないと、やっぱりちょっとまずいわよね。
「そうねえ、好恵ちゃんもけっこういっぱい服を持ってるものね。着なくなった服の一着や二着くらいあげてもいいんじゃないかしら」
そうですね。お母さん。しかもすべての服がおさがりじゃなくて新品で買ってもらったものばかりだなんて、昔を思えばありがたすぎちゃいます。
「ありがとう、お母さん。実は私って誰かに自分の服をあげたことなんて一度も無いから、ちょっと楽しみなのよ」
ここ、一番の本音よ。
「それで、女の子のほう、家鳴風音ちゃんか、その子は何でうちに来るんだね?」
「それはね、お父さん。彼氏が可愛らしく女装した姿を早く見たいからよ」
「ああ、そういうことか」
「そうそう、そういうこと♪」
と私が楽しく会話していると、お母さんが聞いてきたのよッ!
「へえ、世の中には色々なカップルがいるものなのね。そういえば今まで聞いたことがなかったけど、好恵ちゃんの好みなタイプってどんな男の子なの?」
うーん、困った。本当の私は性同一性障害でもなんでもない、ただ成り行きで女装してるだけの普通(?)の男の子なわけよ。
だから普通に本音で言えば、かわいくて美人な女の子が好きってことになるんだけど、その答えじゃ不味いわよね。
「ほら、恥ずかしがっていないで、この機会に言ってみたら? お母さん、好恵ちゃんの好みのタイプを知っておきたいな」
さあ本当に困った。しょうがない。とりあえず不破先生や友達たちに言った内容でごまかすことにしましょうか。
「好みなタイプの男の子って言っても、お兄ちゃんたちのせいで、私の男の子を見る基準がめちゃくちゃ高くなってるんだもん。現実にはなかなかいないわよ」
私はそう前置きしてから、言ったのよ。
「だって壱琉お兄ちゃんよりもイケメンで、真弍お兄ちゃんよりも体格が良くて、参彦お兄ちゃんよりも知識豊富で頭がいい男の子っていると思う?」
そこでわざとらしく大きなため息をついてみせる。そして……。
「いないでしょ? そんな男の子。まったくお兄ちゃんたちをいつも見てるせいで、普通の男の子たちがダメダメに見えてきちゃって仕方がないのよ。そんな私が男の子と恋するなんて、夢のまた夢なのよ。まったくもう、お兄ちゃんたちがカッコよすぎるのがいけないのよ」
と、逆切れしてみせる。さて、これでごまかせたかな?
「ごめん、好恵。俺がイケメン過ぎるばっかりに……」
「すまん、好恵。俺の体格が良すぎるばっかりに……」
「ごめんな、好恵。僕の知識が多くて、頭も良いばっかりに……」
と、お兄ちゃんたちが私に頭を下げてあやまってくれているんだけど、ううう、その笑顔はなんなのよッ!!
「お兄ちゃんたちッ! あやまってるのになんで笑顔なのッ!!」
演技でなく、素で怒れてくるのはなぜ? もう、ほんとに、もうッ!!
「「「いや、好恵にほめられてうれしいから♪」」」
ううう、怒れてくる。でもお母さんの『好みの男の子のタイプを教えて?』という質問はうやむやにできたかな?
「ああ、その、好恵。ちなみにお父さんのことはほめてくれないのかな?」
「はぁ?」
ああ、いけない。あまりにナナメ上からの質問に、思わず間抜けな声が出てしまったじゃないの。おかげで怒りも吹き飛んだけど。
「お父さん」
「ん、なんだい?」
これは、ものすごく期待してるわね。でも期待は無残に裏切られるのよ。
「私、お父さんのことは好きだけど、恋愛としてみたら年齢的に対象外なの。ごめんね」
「ガーンッ!!」
……本当は息子のフェイクな娘に恋愛対象外と言われて、そんなにショックなの? ほんとにもう男ってバカばっかりなのかもしれない。ええ、そうよ。私も含めてね。
なんか、もう少し本音を話してみようかな。
「それからね、ひとつ言っておきたいことがあるの」
「なに、好恵ちゃん」
「お母さん。そしてお父さん。ふたりは私たち4人の子供を育てて楽しかった? それとも苦しかった?」
私は先ほど前とは違って、これ以上は無いほどの真面目な顔をして、お母さんとお父さんに話しかけたのよ。ある意味、ここが勝負どころなのは間違いないわ。
「出産は苦しかったし、子育ても4人となると大変で苦しかったわ。でも今となっては楽しかった思い出ばかりだったわ」
「うん、お父さんも家族を養うために仕事を頑張ったし、4人も子供がいるとお母さんだけでは手が回らなかったから、子育ても頑張った。大変だったけど、やっぱり今となってはお母さんと同じで楽しかった思い出しかないな」
「そうでしょうね。私もきっとそう思うわ。だからね、私もいつかいい人を見つけて結婚するかもしれないけど、その人が男の人ばかりじゃなくて、女の人かもしれない可能性もなくはないのかもしれないって最近思うのよ」
さあて、ここで、『私の恋の相手は男の人ばかりじゃなくて、女の人もありうる』ってことを理解してもらわないと。
ていうか、本音としては私の恋の相手は女の人しかいないのよ。男と恋をするとか、ましてや結婚するとか無理。そもそも私、性転換手術してまで女になりたいなんて思ってないもの。
「つまりね、私も将来的にはお父さんやお母さんと同じように、恋する相手と一緒に子供を育ててみたいのよ。私の性自認は女かもしれないけど、自分の血を引いた子供を育ててみたいという気持ちも強いし、だったら恋の相手は女の人になる可能性もなくは無いのよ。わかるかしら」
ふふふ、ここまで断言すれば、将来的に私が女性を恋の相手に選んで、女装をやめるきっかけを作れるんじゃないかしら。
そんなことを考えて、心の中でドヤ顔をしていたんだけど、まわりの雰囲気は私の想定外になってしまっていたの。
「えっぐ、ぐすん。ご、ごめんなさいね。好恵ちゃん。お母さんが好恵ちゃんをちゃんとした女の子に産んであげられなくて、ごめんなさい」
えっ、お母さん、泣いてるっ!?
「三千子、泣くなよ。俺まで悲しくなってくるじゃないか。うっ、うっ、うっ」
お、お父さんまで泣き出しちゃった。ええッ、ど、どうしたらいいの?
「ごめんな、好恵。好恵の本当の気持ちも知らずに……」
いや、壱琉お兄ちゃん、それ、誤解だから。
「バカだ、俺はバカだった。好恵。俺を殴ってくれっ!」
真弐お兄ちゃん。その体を私が殴ったら、私のこぶしのほうがクラッシュしちゃいます。
「ふと、思ったんだけど、今度の日曜日に来る男装女子の家鳴風音ちゃんは、湧谷拓水くんとはまだ完全な恋人にはなっていないんだろ? だったらその家鳴風音ちゃんを好恵が奪っちゃったらどうだろうか?」
うぇ? な、なんてこと言うの。参彦お兄ちゃんはッ!?
「あ、それいいッ!」
「その男装女子の女の子に、好恵の良いところをアピールしまくってやろうッ!」
「よおし、お母さん。がんばっちゃう♪」
「お父さんも、好恵を応援しているからなッ!」
なぜかこんなノリになってしまったうちの家族たちなんだけど、どうしよう。
風音ちゃん、拓水くん、ごめんなさい。うちの家族が迷惑かけちゃうかも。まったく、なんでこうなったんだろう。私、何かまちがっちゃった?
途中、ちょっと重い雰囲気にもなりましたが、最後はやっぱりほのぼの(本当にそうかぁ?)になりましたね。
でも、次回どうなるんでしょうね。私もこの展開にはびっくりですよ。夜勤明けの回らない頭で書いていたからかな?
それはそうと、いつも読んで下さり、ありがとうございます。閲覧数とか、いろいろ励みになります。




