第4話 久しぶり、初めまして
宴会場に入った時、最初に思ったのは、
少ないな。
だった。
丸いテーブルが三つ。
参加者はまだ十人ほど。
クラスには三十人前後いたはずだ。
もっと大勢が集まる光景を勝手に想像していた。
「こんなもん?」
真帆が小声で聞く。
「三十年以上前の三年生だからな」
受付で野崎から聞いた話では、連絡先を探すだけでも相当苦労したらしい。
実家へ電話し、親から本人へ連絡してもらった。
昔の同級生をSNSで探した。
分かる人間から別の同級生へつないでもらった。
それでも連絡がつかなかった者が多かった。
連絡がついても不参加。
この人数まで集まったのは、むしろ上出来なのだという。
会場中央のテーブルには、高齢の男女が座っていた。
悠人はネームプレートを見て、ようやく分かった。
担任だった梶原恒一。
副担任の小宮山紀子。
「先生、覚えてる?」
真帆が聞く。
「名前見たらなんとなく」
「私、全然分からない」
「お前の先生じゃないからな」
梶原は七十代半ばくらいだろう。
悠人が小学生だった頃の年齢を考えれば当然だが、自分の記憶の中にいる先生と、目の前の老人がうまく結びつかない。
事前に先生まで調べてくればよかった。
そんなことを考えていた時だった。
真帆の歩みが止まった。
本当に一瞬だけだった。
悠人は半歩先へ進んでから振り返った。
「どうした?」
「え?」
真帆はすぐに歩き出した。
「何でもない」
視線の先に一人の男性がいた。
細身。
短い髪。
黒いシャツ。
派手さはないが、落ち着いた雰囲気の男だった。
悠人が首から下げている名札を読む。
三田村圭介。
「あ」
今度は悠人が声を出した。
男もこちらを見る。
数秒。
そして表情が一気に変わった。
「悠人?」
名前を呼ばれた瞬間、記憶が戻った。
「圭介?」
三田村が笑った。
「うわ。マジか」
「お前、全然分かんなかった」
「そりゃお互い様だろ」
二人は自然に近づいた。
握手をするような柄でもなく、肩を叩くのも少し気恥ずかしく、結局二人とも中途半端に手を上げた。
「いつ以来?」
「小五じゃないか?」
「俺、途中で引っ越したからな」
「そうだったな」
「三十五年くらい?」
「怖い数字言うなよ」
笑った。
不思議なものだった。
野崎とは何を話していいか分からなかったのに、三田村とは名前を聞いた瞬間に昔の距離が戻った。
公園。
ファミコン。
駄菓子屋。
夏休みに二人で自転車を走らせたこと。
断片的な記憶が次々出てくる。
「変わったな」
悠人が言う。
三田村は自分の腹を見た。
「お前に言われたくない」
「俺は昔からこんなもんだ」
「いや、もっと細かった」
「小学生と比べるなよ」
横で結菜が三田村を見ている。
「娘?」
「ああ。結菜」
三田村が軽くしゃがんだ。
「こんにちは。お父さんの昔の友達です」
「こんにちは」
結菜は三田村を見たあと悠人を見る。
「お父さん、友達いたんだ」
「どういう意味だよ」
三田村が声を上げて笑った。
「いい娘だな」
「誰に似たんだか」
「お母さんでしょ」
結菜が即答する。
その時、三田村の視線が真帆へ向いた。
ほんの一瞬だった。
笑顔が止まったように見えた。
真帆も同じだった。
悠人にはそう見えた。
だが次の瞬間には、二人とも普通の顔に戻っていた。
「妻の真帆」
悠人が紹介する。
「どうも。三田村です」
「久住真帆です」
真帆は軽く頭を下げた。
三田村も頭を下げた。
妙に丁寧だった。
悠人は少しだけ引っかかった。
小学校が同じなら、まったく知らないということもないだろう。
「真帆も北野小だぞ」
「あ、そうなんだ」
三田村が言った。
「でも三年二組じゃないから」
真帆が続ける。
「私は一組」
「ああ。じゃあ分かんないか」
何でもない会話だった。
悠人の引っかかりも、その程度で消えた。
そもそも三田村は五年生で転校している。
真帆と親しかった可能性など、ほとんどない。
「今どこ住んでる?」
悠人が聞く。
三田村は県外の都市名を答えた。
「仕事は?」
「メーカー。営業」
「昔から人と話すの得意だったもんな」
「今は仕事だからやってるだけだよ」
話しているうちに、宴会場へ新しい参加者が入ってきた。
男性二人。
どちらも体格がいい。
一人は日焼けした肌に短髪。
もう一人は肩幅が広く、四十歳とは思えないほど姿勢がいい。
結菜が悠人の腕を引いた。
「お父さん」
「何」
「あの人たち同い年?」
「たぶんな」
結菜はしばらく二人と悠人を見比べた。
「全然違うね」
「何が」
「いろいろ」
「最近お前、父親への敬意が足りないぞ」
三田村が横で笑っていた。
二人の男性もこちらに気づいた。
ネームプレート。
瀬川亮介。
宮本大樹。
悠人にはどちらも名前に覚えがあった。
その二人が目を合わせた。
先に笑ったのは宮本だった。
「瀬川じゃん」
「ああ」
瀬川も笑った。
だが、その直前。
ほんの一瞬だけ。
二人の顔から表情が消えたように、悠人には見えた。




