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『誰も覚えていない三年二組』  作者: asnt2026


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第4話 久しぶり、初めまして

宴会場に入った時、最初に思ったのは、


少ないな。


だった。


丸いテーブルが三つ。


参加者はまだ十人ほど。


クラスには三十人前後いたはずだ。


もっと大勢が集まる光景を勝手に想像していた。


「こんなもん?」


真帆が小声で聞く。


「三十年以上前の三年生だからな」


受付で野崎から聞いた話では、連絡先を探すだけでも相当苦労したらしい。


実家へ電話し、親から本人へ連絡してもらった。


昔の同級生をSNSで探した。


分かる人間から別の同級生へつないでもらった。


それでも連絡がつかなかった者が多かった。


連絡がついても不参加。


この人数まで集まったのは、むしろ上出来なのだという。


会場中央のテーブルには、高齢の男女が座っていた。


悠人はネームプレートを見て、ようやく分かった。


担任だった梶原恒一。


副担任の小宮山紀子。


「先生、覚えてる?」


真帆が聞く。


「名前見たらなんとなく」


「私、全然分からない」


「お前の先生じゃないからな」


梶原は七十代半ばくらいだろう。


悠人が小学生だった頃の年齢を考えれば当然だが、自分の記憶の中にいる先生と、目の前の老人がうまく結びつかない。


事前に先生まで調べてくればよかった。


そんなことを考えていた時だった。


真帆の歩みが止まった。


本当に一瞬だけだった。


悠人は半歩先へ進んでから振り返った。


「どうした?」


「え?」


真帆はすぐに歩き出した。


「何でもない」


視線の先に一人の男性がいた。


細身。


短い髪。


黒いシャツ。


派手さはないが、落ち着いた雰囲気の男だった。


悠人が首から下げている名札を読む。


三田村圭介。


「あ」


今度は悠人が声を出した。


男もこちらを見る。


数秒。


そして表情が一気に変わった。


「悠人?」


名前を呼ばれた瞬間、記憶が戻った。


「圭介?」


三田村が笑った。


「うわ。マジか」


「お前、全然分かんなかった」


「そりゃお互い様だろ」


二人は自然に近づいた。


握手をするような柄でもなく、肩を叩くのも少し気恥ずかしく、結局二人とも中途半端に手を上げた。


「いつ以来?」


「小五じゃないか?」


「俺、途中で引っ越したからな」


「そうだったな」


「三十五年くらい?」


「怖い数字言うなよ」


笑った。


不思議なものだった。


野崎とは何を話していいか分からなかったのに、三田村とは名前を聞いた瞬間に昔の距離が戻った。


公園。


ファミコン。


駄菓子屋。


夏休みに二人で自転車を走らせたこと。


断片的な記憶が次々出てくる。


「変わったな」


悠人が言う。


三田村は自分の腹を見た。


「お前に言われたくない」


「俺は昔からこんなもんだ」


「いや、もっと細かった」


「小学生と比べるなよ」


横で結菜が三田村を見ている。


「娘?」


「ああ。結菜」


三田村が軽くしゃがんだ。


「こんにちは。お父さんの昔の友達です」


「こんにちは」


結菜は三田村を見たあと悠人を見る。


「お父さん、友達いたんだ」


「どういう意味だよ」


三田村が声を上げて笑った。


「いい娘だな」


「誰に似たんだか」


「お母さんでしょ」


結菜が即答する。


その時、三田村の視線が真帆へ向いた。


ほんの一瞬だった。


笑顔が止まったように見えた。


真帆も同じだった。


悠人にはそう見えた。


だが次の瞬間には、二人とも普通の顔に戻っていた。


「妻の真帆」


悠人が紹介する。


「どうも。三田村です」


「久住真帆です」


真帆は軽く頭を下げた。


三田村も頭を下げた。


妙に丁寧だった。


悠人は少しだけ引っかかった。


小学校が同じなら、まったく知らないということもないだろう。


「真帆も北野小だぞ」


「あ、そうなんだ」


三田村が言った。


「でも三年二組じゃないから」


真帆が続ける。


「私は一組」


「ああ。じゃあ分かんないか」


何でもない会話だった。


悠人の引っかかりも、その程度で消えた。


そもそも三田村は五年生で転校している。


真帆と親しかった可能性など、ほとんどない。


「今どこ住んでる?」


悠人が聞く。


三田村は県外の都市名を答えた。


「仕事は?」


「メーカー。営業」


「昔から人と話すの得意だったもんな」


「今は仕事だからやってるだけだよ」


話しているうちに、宴会場へ新しい参加者が入ってきた。


男性二人。


どちらも体格がいい。


一人は日焼けした肌に短髪。


もう一人は肩幅が広く、四十歳とは思えないほど姿勢がいい。


結菜が悠人の腕を引いた。


「お父さん」


「何」


「あの人たち同い年?」


「たぶんな」


結菜はしばらく二人と悠人を見比べた。


「全然違うね」


「何が」


「いろいろ」


「最近お前、父親への敬意が足りないぞ」


三田村が横で笑っていた。


二人の男性もこちらに気づいた。


ネームプレート。


瀬川亮介。


宮本大樹。


悠人にはどちらも名前に覚えがあった。


その二人が目を合わせた。


先に笑ったのは宮本だった。


「瀬川じゃん」


「ああ」


瀬川も笑った。


だが、その直前。


ほんの一瞬だけ。


二人の顔から表情が消えたように、悠人には見えた。

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