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断罪された聖女ですが幼なじみの聖騎士と他国で幸せに暮らします  作者: 小兎


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9 セイドリックの告白


翌朝、カーリンから「頑張ってね、猛獣使いさん」なんて冗談めかした見送りを受け、私たちは最後の中継地点であるリンデールを出発しました。


馬車の窓の外を流れる景色は、徐々に私の見慣れた聖教国の険しくも神聖な山並みへと変わっていきます。

いよいよ、本当に帰ってきたのだという実感が湧いてくると同時に、昨夜聞いたセイドリックの過去が胸に蘇りました。


(あんなに荒れていた男の子を、私が変えてしまったなんて……)


今のセイドリックからは想像もつかない姿です。

でも、今の彼の完璧すぎるほどの微笑みが、私を守るために彼が選んだ「仮面」なのだとしたら。


気になって、向かいに座る彼をチラリと盗み見てしまいました。すると、視線に気づいたセイドリックは、まるで見透かしたようなタイミングで、ふわりと慈しむような笑顔を向けてきました。


「どうかなさいましたか、ホリー様。聖教国が近づいて、緊張されていますか?」


「え、ええ……。少しだけね」


私は慌てて視線を泳がせました。

聖教国に着いたら、彼は本当に「一人の男として」何かを伝えてくれるのでしょうか。

それとも、私の知らない「凶犬」の顔を見せることになるのでしょうか。


ニコニコと、相変わらず穏やかで端正な彼の顔を見ていると、何を考えているのか全く分からなくて、私の心臓だけが勝手に騒がしく脈打っています。


(……ずるい。セイドリックだけが、いつも通りなんだもの)


私はぎゅっと膝の上の裾を握りしめ、刻一刻と近づく故郷の門を、期待と不安が入り混じった気持ちで見つめていました。



聖教国の重厚な門をくぐり、ついに私たちは懐かしい聖都へと帰還しました。


王宮のような冷ややかさとは無縁の、柔らかな光が差し込む大聖堂。そこで私たちを待っていたのは、慈愛に満ちた眼差しで微笑む、老教皇様でした。


「真の聖女を害し、その慈しみを知らぬ愚か者共よ……。ホリー、セイドリック。よくぞ無事に帰ってきてくれた。心から歓迎しよう」


教皇様の温かい声が、旅で強張っていた私の心を優しく包み込みます。


ドゥシヨモネ王国での辛かった出来事が、ようやく遠い過去のことのように感じられました。

教皇様は、しばらくは体を休めてゆっくり過ごすと良い、と労いのお言葉をかけてくださいました。


するとその時、私の隣でセイドリックがすっと教皇様の前に膝をつきました。


「教皇様。ドゥシヨモネ王国に赴任する前にお約束していただいた件、今こそ履行していただきたく存じます」


真っ直ぐな、一点の曇りもない声での申し出。教皇様は一瞬目を見開いた後、やれやれといった様子で首を振りました。


「セイドリック、お主という奴は……。帰って来るなり、全く仕方のない奴だ」


「セイドリック? 教皇様と、何かお約束をなさっていたの?」


思わず聞き返した私に、セイドリックは立ち上がり、今まで見たこともないような少しだけ意地の悪い、けれどどこまでも愛おしげな笑みを向けました。


「ええ。私はドゥシヨモネ王国にホリー様を派遣することには、最初から反対でした。そんな所へ行かせるくらいなら、いっそ私と結婚させてほしいとお願いしたのですよ。なのに教皇様ときたら、ホリー様がまだ若すぎるという理由で反対なさったんです。お陰でホリー様は、あんな国でいらぬ苦労をする羽目になって……」


「なっ……!?」


あまりの爆弾発言に、私の顔は一瞬で火が出そうなほど熱くなりました。


三年前、私たちがまだ出発する前から、彼はそんなことを教皇様に直談判していたなんて。


「セイドリック、それは本当なの……?」


「本当ですよ。だからこそ、今度こそは邪魔させません。教皇様、約束通り、彼女の護衛騎士としての任を解き――彼女の夫としての誓いを立てる許可をいただけますね?」


セイドリックのあまりにも堂々とした宣言に、教皇様は呆れ果てたように笑い、私はただ、信じられない思いで彼の逞しい背中を見つめることしかできませんでした。


「……許可しよう」


教皇様の重みのある、けれどどこか楽しげなそのお声が、静かな大聖堂に響き渡りました。


「ありがとうございます」


セイドリックは深く一礼し、それからゆっくりと私の方に向き直りました。

そして、教皇様の御前であることも忘れたかのように、私の前で片膝をついたのです。


大きな、けれど少しだけ震えている彼の手が、私の手を取ります。


「ホリー。……孤児院で貴女に出会ったあの日から、ずっと、ずっと貴女だけをお慕いしておりました。ドゥシヨモネ王国での辛い日々も、貴女を守り抜くことだけを糧に生きてきました」


真っ直ぐに私を見つめる彼の瞳は、かつての荒んだ少年の面影などどこにもなく、一人の男性としての深い情愛に満ちていました。


「どうか私の妻となって、この後の人生を、私と一緒に歩んでいただけますでしょうか?」


突然のプロポーズに、私の心臓は壊れてしまいそうなほど激しく脈打ちました。


これまでの旅路での彼の優しさ、あの礼拝堂での決死の覚悟、そして今語られた積年の想い。


あまりの嬉しさと、彼への愛しさが溢れ出して、視界がじんわりと滲んでいきます。


私は、自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しながらも、しっかりと頷きました。


「……はい。喜んで」


私の返事を聞いた瞬間、セイドリックの顔がパッと輝きました。彼は勢いよく立ち上がると、「ありがとう、ホリー! 愛してる!」と叫んで、私を力いっぱい抱きしめました。


「わっ……!? セイドリック、教皇様の前よ!」


慌てる私を余所に、彼は私を軽々と抱き上げると、そのまま子供のようにくるくると回りました。


「あはは、ホリー! 本当に嬉しい……! 夢じゃないんだな!」


耳元で響く、心底幸せそうな笑い声。

いつも完璧な「聖騎士」の仮面を被っていた彼の、こんなにも無防備で満面な笑顔を私は初めて見ました。


(……なんて、子供みたいで可愛いのかしら)


私を回す彼の腕の逞しさと、その笑顔の幼さ。

そのギャップがたまらなくて、私も彼にしがみつきながら、声を上げて笑ってしまいました。


断罪の果てに辿り着いた、本当の居場所。

大好きな人の腕の中で、私はようやく、心からの「幸せ」を掴み取ったのだと確信したのでした。














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