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断罪された聖女ですが幼なじみの聖騎士と他国で幸せに暮らします  作者: 小兎


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3 旅の準備


リリエラに案内され、教会の奥にある応接室へと通されました。


そこは、ドゥシヨモネ王国の冷え冷えとした王宮とは違い、柔らかな光とハーブティーの香りに包まれた、心安らぐ空間でした。


私が一息ついたのを見計らって、セイドリックやアシャンたち護衛騎士団も同席し、これからの旅路についての相談が始まりました。


「ホリーお姉様、ここから聖教国まではまだ距離があります。まずはしっかりとした馬車を調達しましょう。私の権限で、バッチェリでも最高級の、長旅でも疲れにくいものを手配させますわ」


リリエラが力強くそう言ってくれると、アシャンが手帳を広げて頷きました。


「感謝いたします、リリエラ様。あわせて、ホリー様の衣類や身の回りの品、それから我々の食料と馬の飼い葉も補充せねばなりません。ドゥシヨモネ王国からは、文字通り身一つで出てきてしまいましたから」


アシャンの言葉に、私は自分の格好を見下ろしました。聖女の正装はあちこちが土で汚れ、昨夜セイドリックが貸してくれたマントがなければ、夜の寒さに震えていたことでしょう。


「……皆さん、ごめんなさい。わたくしのせいで、こんなに急な旅をさせてしまって」


私がうつむくと、隣に座っていたセイドリックが、そっと私の手に自分の手を重ねました。


「ホリー様、それはもうおっしゃらない約束です。我々は、貴女が笑顔で聖教国に帰れるよう、最善を尽くす。それが今の我々の任務であり、誇りなのですから」


「そうですとも! 旅支度なら僕たちに任せてください。ディーノは目利きがいいし、ビスタは力仕事担当、僕は美味しいお店を探してきますからね!」


フリオが明るく胸を叩き、ディーノも小さく「……任せろ」と頷いてくれます。


「リリエラ様、この街から聖教国へ向かうルートですが、不測の事態を避け、各街の教会を中継地点とする手はずでよろしいでしょうか?」


セイドリックの問いに、リリエラは真剣な表情で地図を広げました。


「ええ。すでに私の方から、近隣の教会には『大切な賓客が向かう』と極秘で伝令を出しておきます。ドゥシヨモネ王国の手が回る暇など与えませんわ」


信頼できる仲間に囲まれ、具体的な計画が立てられていく。

昨日までの、明日さえ見えなかった絶望が、確かな「希望」へと変わっていくのを私は感じていました。


「お姉様、明日からは忙しくなりますわよ。旅の間に必要なお洋服や、身の回りのものを買いに街へ行きましょう!」


リリエラが楽しそうに明日の計画を立ててくれました。

ドゥシヨモネ王国での心労と、昨夜の強行突破で私の体は思った以上に悲鳴を上げていたようで、バッチェリで旅の準備を整える数日間は、ゆっくりと静養に充てることが決まりました。


翌日。


リリエラが用意してくれた、街に馴染むシンプルながらも可愛らしいドレスに着替え、私は数人の護衛を引き連れて市場へと向かいました。


「ホリー様、あまり無理をなさらないでくださいね」


そう言って私の隣にピタリと寄り添うのは、セイドリックです。アシャンやフリオたちは、少し離れた位置から周囲を警戒しつつ、私たちの買い物の荷物持ちを買って出てくれていました。

賑やかな市場を歩いていると、ふと甘い香りが鼻をくすぐりました。


「あ……」


足を止めた視線の先には、透き通るような琥珀色のジャムがたっぷり乗った、焼きたての焼き菓子。


「これ、聖教国の孤児院で、たまに先生が作ってくれたお菓子に似てるわ」


懐かしさに目を細めていると、セイドリックがすかさず店主に銀貨を差し出しました。


「これをもらえるかな」


「えっ、セイドリック、いいのに」


「いいえ。あなたはいつも自分のことを後回しにしてきました。これからは、食べたいもの、やりたいことを我慢しなくていいんですよ、ホリー様」


彼は受け取ったばかりの温かい菓子を、一口サイズに割って私の口元へ運びました。

幼い頃、怪我をした私を励ます時に彼が見せてくれた、あの優しい眼差しのまま。


「はい、あーん」


「っ! ……もう、子供じゃないんだから」


顔がカッと熱くなるのがわかります。

でも、断りきれずにそっと口に含むと、懐かしい甘さが口いっぱいに広がりました。


「……おいしい」


「それはよかった。あなたが笑ってくれるなら、私は何だって買い占めますよ」


大真面目な顔でとんでもないことを言う彼に、私はまた顔を赤くしてうつむくしかありませんでした。


ドゥシヨモネ王国にいた頃には忘れていた、胸の奥が温かくなるような、甘酸っぱいひととき。


後ろの方でフリオたちが「隊長、やるなぁ」「ホリー様、真っ赤だぞ」とヒソヒソ笑っているのが聞こえて、私は慌てて歩く速度を上げたのでした。




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