2 聖教国に帰るまで
ドゥシヨモネ王国の守護結界が崩れていくのを見届けた後ドゥシヨモネ王国の隣の国バッチェリの森の中を移動していた。
日が傾きはじめた頃早めに野営の為に馬の足を止めた。
「ホリー様国境を越えたので追っ手の心配はもうありません。我々が御守りいたしますので安心してください」
「そうです! 森の獣等我々が追い払いますよ!」
わたしはホッと息をついた。長時間の馬での移動で身体が強ばってしまっているようでセイドリックに馬から下ろしてもらったらそのまましゃがみこんでしまった。
「ホリー様大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です。ホッとしたら力が抜けてしまいました」
セイドリックはわたしを軽々抱き上げ護衛騎士達が設えてくれた場所に座らせてくれた。
背後では護衛騎士たちが、手際よく火を起こし食事の準備を始めている。
「聖女様、セイドリック様! 火が起きました。今夜は干し肉と香草のスープですが、精一杯もてなさせていただきます!」
護衛騎士の一人フリオが明るく声を上げると、張り詰めていた空気がふわりと緩みました。
セイドリックは自分のマントを広げてわたしを包み込むように掛けてくれて、隣に腰を下ろした。
「夜は冷えますからね、暖かいスープを飲んで休んでください」
「はい。ありがとうセイドリック」
焚き火を囲んでそれぞれ食事が終わると護衛騎士の中で1番年嵩のアシャンが
「セイドリック隊長この後どういうルートで聖教国戻りますか?」
「そうですね、なるべくホリー様に御負担が無いようなルートがいいのですが」
「でしたら各国の聖教国教会を経由してはいかがでしょう?」
がっしりとした体格で盾持ちのビスタが提案してきた。
わたしを護衛してくれている騎士達は
聖騎士セイドリック(25歳)
筆頭護衛騎士アシャン(29歳)
護衛騎士シグマ(剣士)(24歳)
護衛騎士ビスタ(盾)(27歳)
護衛騎士ディーノ(弓)(23歳)
護衛騎士エリック(剣士)(26歳)
護衛騎士フリオ(剣士)(20歳)
の7名です。皆さんドゥシヨモネ王国に来る前からの護衛騎士達です。
「そうですね。バッチェリで馬車の調達や物資の補給もしましょう」
アシャンが御不自由をかけた申し訳ございませんと謝って来るので
「とんでもございません、わたくしがドゥシヨモネ王国での不手際が発端です。わたくしの方が皆様に謝らねばならないのです。本当に申し訳ございません」
「ホリー様が謝る事なんて何もないです! いつもいつも無理難題を言って来たのはドゥシヨモネ王国の方です!」
プンスカと頬を膨らませて怒るのは最年少のフリオ。普段はとっても明るいムードメーカーですが、ひとたび剣を抜けばその技量はセイドリックの次に強い人です。
「ホリー様は何の落ち度も無いです、阿呆なのはあの国の奴らです」
ディーノがボソッっと呟く。あまり口数の多い人ではないですけど、いつもわたしを気遣ってくれます。
「ホリー様明日も移動になります、少しでもお身体を休めてください」
セイドリックに言われるままにわたしはその場で毛布に包まって横になった。
一夜明けたバッチェリの森は、昨夜の緊迫感が嘘のように静かで、朝日が差し込む木漏れ日が眩しいほどでした。
「ホリー様、顔色が少し良くなりましたね」
目を覚ましたらセイドリックの膝枕で寝ていたようでびっくりして飛び起きてしまった。
「ごめんなさいセイドリック重かったでしょう」
セイドリックが優しく微笑みながら、私の手を取って立ち上がらせてくれました。
「いいえ、むしろ役得でした」
そんな事を笑って言うものですから何だか顔が火照ってしまいます。
昨夜、彼がかけてくれたマントの温もりもまだ肌に残っているような気がして、私は少し照れくさく思いながらも、彼の差し出した手をしっかりと握り返しました。
一行は一路、バッチェリの街にある聖教国教会を目指します。
ドゥシヨモネ王国で、あの冷酷な言葉を投げつけられた謁見の間を思い出すと、今でも胸がキュッと締め付けられます。
けれど、わたしとセイドリックが二人乗りする馬の前後を固めるアシャンやフリオたちの頼もしい背中を見ていると、「私はもう一人じゃないんだ」と、気持ちが穏やかになっていくのを感じました。
街に入り、白亜の壁が美しい教会の門をくぐると、そこには見覚えのある一人の少女が立っていました。
「お姉様! ホリーお姉様!!」
馬が止まるのももどかしいといった様子で駆け寄ってきたのは、聖女リリエラです。彼女は私が聖教国にいた頃から、実の姉のように慕ってくれている大切な妹分でした。
「リリエラ……」
セイドリックに抱き上げられるようにして馬から降ろしてもらうと、彼女は勢いよく抱きついてきました。
「お話は伺いました! あのドゥシヨモネ王国の不作法者たちめ、お姉様をあんな風に扱うなんて万死に値します! 私が今すぐバッチェリの全戦力を持って抗議に……っ!」
「落ち着いて、リリエラ。私は大丈夫よ」
プンプンと頬を膨らませて怒るリリエラの姿は、かつて孤児院で一緒に過ごした頃と何も変わっていなくて、私は思わずクスリと笑ってしまいました。
「……よかった。本当にお顔が見られてよかったです、お姉様」
リリエラは私の手をぎゅっと握りしめ、大きな瞳を潤ませながら微笑んでくれました。




