1 俺様無能第一王子に冤罪で断罪されました
「聖女の名を語る悪女ホリー!私は正義の名の元貴様の悪事を暴き化けの皮を剥いでやる!そして私との婚約も破棄だ!」
ドゥシヨモネ王国謁見の間、玉座のある壇上からストルスル第一王子がわたしを指さし勝ち誇った様子で怒鳴っていた。第一王子の隣には何故か公爵令嬢が勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っています。
おかしいですね、わたしは第一王子の婚約者になった覚えは無いのですが。
わたしの名前はホリー。聖教国からドゥシヨモネ王国に派遣されている聖女です。
生まれは孤児で聖教国の正教会の孤児院で育った庶民ですが、5歳のギフト判定で聖魔法を授かり、12歳でドゥシヨモネ王国の正教会に移動し以来16歳になった今日まで聖女として働いてきました。
聖女の仕事として王国全土を覆う守護結界の維持と瘴気の浄化、欠損身体部位の治癒等です。
そして第一王子が言うように13歳の時にドゥシヨモネ王国の第1王子の婚約者にと請われました。が聖女ですので無理ですとお断りしました。
しかしこの国の国王陛下は諦めず婚約者候補でもいいのでとずっと仰ってました。
ですのでわたしと第一王子は婚約はしておりません。
それにドゥシヨモネ王国の第1王子ストルスル殿下は庶民聖女はお気に召さぬようで最初の顔合わせから
「なんだこの貧相なブスは! 俺の婚約者だ等と有り得ん!」
と仰せでした。
確かに第一王子は容姿端麗でしたから、茶色の髪に茶色の瞳で極々普通の顔のわたしがお気に召さなかったのでしょう。
わたしには聖女としてのお勤めがございますので第一王子にお会いしたのはそれっきりです。
王国の謁見の広間。かつて聖女就任に際し国王陛下に拝謁した場所。その国王陛下は今は病に伏せっています。
わたしが何度も治療を申し出ても第一王子に却下され続け、第一王子は勝手に国王代理を名乗り国政を動かしはじめています。
今日はこの謁見の間に国内の主だった貴族を集めわたしも重要な報告があるから一人で来るように申し渡されてこの場に呼び出されました。
普段は必ず聖教国から派遣された聖騎士と護衛騎士6名がわたしの護衛を勤めてくれています。
なのに護衛騎士は王城に入る事が許されず、聖騎士セイドリックもこの謁見の間から離れた控え室に留め置かれていた。
わたし達は何かおかしいと感じながらも国からの正式な召喚には従わざるを得ませんでした。
「貴様は聖女の立場を私物化し、あろうことか隣国へ情報を流していた。この証拠を見ろ!」
目の前に投げ捨てられたのは手紙の束。拾い上げ見てみれば聖結界や近衛騎士の配置等が書かれた物でした。
「このような物は存じ上げませんし、わたくしの手による物でもございません」
わたしはこんな物を書いた覚えもないし、そもそも一体誰に宛てて出すと言うのだろう?
「ヌケヌケと嘘をつくな! この情報を元に王城に侵入した曲者に我が父国王陛下は凶刃に倒れたのだぞ!」
「「「!!!」」」
ザワッと周囲の貴族達が驚きに声を上げる。
「! なんという事でしょう! 国王陛下はご無事なのでしょうか!? 一刻も早く治療を・・・」
「何を白々しい! 貴様が画策した事であろう!」
「!? わたくしはそんな恐ろしい事はしておりません!」
わたしは驚いて反論した。
「幸い我が父国王陛下はここにいるゴーディ・ヴィシャス公爵令嬢が治療してくれたおかげで大事には至らなかった 。しかし我が父国王陛下は毒により御声を失った! そして貴様は再三の要請にも従わず我が父国王陛下の治療を拒んだ! 治療を受けたくば退位し自分を女王として立てろと要求してきた!」
「わたくしはそのような事をしておりません!」
声を上げて否定するが周囲の貴族達の声がそれを遮る。
「なんという事だ!」「我々は騙されていたのか!」
「なんと下劣な!」「聖女などとは名ばかりであったか!」「偽聖女だ!」
周囲に集まった貴族たちから、いっせいに罵倒が浴びせられる。周囲を見渡すとわたしの治癒で回復した方たちの姿も見えます。その方々は目が合うと気まずげに視線を反らせた。
「違います!わたくしはそのような事はしておりません!」
「黙れ! 貴様の治癒など大袈裟に喧伝しているだけだろう! 公爵令嬢ゴーディ・ヴィシャスの純真な祈りに比べれば濁りきっている!今日この時をもって、貴様の聖女の称号を剥奪し、婚約を破棄する!」
「お待ちください! 言われなき罪は容認出来ません! それにわたくしは第一王子殿下と婚約しておりません!」
「ハッ! 婚約していないから 婚約破棄を受け入れないとは詭弁だろう! そこまでしてドゥシヨモネ王国の王族と成りたいのか浅ましい! この偽聖女を投獄しろ!」
その時だった。重厚な扉を蹴破るようにして、一人の男が踏み込んできた。
「――そこまでだ、愚か者共!」
聖教国の聖騎士セイドリックだった。
セイドリックはわたしを背に庇い第一王子から守るように立ちはだかった。
「セイドリック! 下がれ! 反逆のつもりか!」
「反逆? おかしな事を仰る。私は聖女ホリー様を護る聖騎士だ」
彼はわたしが聖教国で聖女と承認された5歳の時から共にあった。
騎士見習いから護衛騎士となり、わたしがドゥシヨモネ王国に移動する時には聖騎士に叙せられ共に王国にやった来た。
聖教国の聖騎士にしてわたしが最も信頼してる人。
「 この国が真実を見抜けぬ盲目の集まりならば、私は喜んで貴様らに剣を突きつける!聖女ホリー様を貶めるドゥシヨモネ王国等なんの価値もない!」
セイドリックは射抜くような視線を王子に向けそう宣言した。
「聖女ホリー様がどれほど身を削ってこの国の為に尽くしてきたか、一度でも考えたことがあるか? ……もういい。ホリー様、行こう。こんな国に貴女を置いてはおけない」
セイドリックはわたしを促し謁見の間を出て行こうとするがその背に第一王子の怒号が追いかけて来る。
「待て!聖女と 聖騎士を逃がすな!」
その声にセイドリックが闘気を纏うと第一王子派の近衛騎士も踏み込めずわたし達が出ていくのを止められることはなかった。
「ホーリー様少し急ぎますので失礼します」
廊下に出るとセイドリックはそう言ってわたしを抱え上げた。
「セイドリック下ろして! 足手まといになっちゃうわ」
「大丈夫です、ホーリー様は羽の様に軽いですから。しっかり掴まっていてくださいね」
至近距離で囁かれてわたしの顔はきっと真っ赤だ。
「逃がすな! 反逆者セイドリックと偽聖女を捕らえよ!」
王子の怒号が響き渡る中、セイドリックはわたしを横抱きにしたまま、神殿の回廊を風のように駆け抜けて行く。
わたしは落ちないようにしっかりとセイドリックにしがみつくしかないのだが、背後からは武装した近衛騎士団の足音が迫まってくる。
セイドリックは王宮を抜け、正門へと続く広場まで行き着きと足を止めました。
止まったのできつく瞑っていた目を開けると
そこには、百人を超える兵士たちが剣を構えて待ち構えていたのです。
「そこまでだ、セイドリック! 騎士の誉れを捨て、その女と地獄へ落ちるか!」
騎士団長の叫びに対し、わたしを抱えたままセイドリックは片手で聖剣を引き抜いた。
その刀身から溢れ出したのは、敵を焼き尽くすような苛烈な魔力だ。
「そこをどけ。私はこの国の騎士ではなく聖女様を守る為に聖教国から派遣された聖騎士だ。貴殿達とは初めから護る方が違うのだ」
セイドリックが地面を蹴った瞬間、爆風が巻き起こりました。
彼はわたしをを抱えたままとは目にも止まらぬ速度で兵士の隙間を縫い、剣を一閃。殺さず、しかし確実に再起不能にする一撃で、次々と包囲網を突破していく。
「聖騎士の力……これほどまでとは……!」
怯む兵士たちを尻目に、セイドリックは城門の巨大な鎖を一太刀で断ち切りました。
轟音と共に門が崩れ落ち、その向こうには王城に入る事を許されなかった聖教国の護衛騎士が駿馬と共に待機していた。
「ホリー様、聖教国に帰りましょう」
馬上の護衛騎士達は揃いの聖教国護衛騎士の出で立ちでしっかり旅支度をしてホリー達を待っていた。
「ホリー様、しっかり掴まっていてください!」
馬に飛び乗り、王都を駆け抜け一路聖教国へと向かう。
背後から執拗に追って来た兵が放つ矢はわたしが展開した聖結界の障壁に触れた瞬間、ことごとく弾け飛ぶ。
そして国境を越え眼下に広がるドゥシヨモネ王国を見ると聖女が張っていた王国の守護結界が崩れてゆくところだった。
「……見て、セイドリック。王国の守護結界が解けていってる」
一行は王国の象徴だった金色のベールが、砂が崩れるように消えていくのを足を止めて見つめた。
聖女の聖結界を失った王国は、もはや魔物を防ぐ術無くした。。
「これからドゥシヨモネ王国はどうなるのでしょう・・・」
「新しい聖女とやらが何とかするでしょう」
「そうですね、でも聖教国は新しい聖女の派遣をいつしたのでしょう?」
「ホリー様、聖教国からドゥシヨモネ王国に派遣された聖女はホリー様ただおひとりです」
「そうです! 勝手に聖女を名乗っているだけにすぎません!」
「まぁ、その聖女様が本物かどうかなどもう我々には関係ございません。あの国は聖教国からもう二度と支援を受けることはございませんから」
「そう、ですか・・・でも無辜の民達が安寧であればよいのですが」
「ホリー様、それはドゥシヨモネ王国が考えるべきものです。我々の支援の手を離したのはかの国です。ホリー様が憂う事はありません」
「・・・わかりました」
わたしはセイドリックの逞しい胸に顔を埋め、その温もりにすべてを委ねた。
(さようなら、皆様。どうか、新しい聖女様と『幸せ』に)
わたしは守護結界を維持する魔力の放出を止めたので久しぶりに負担が無くなって体が軽くなった。




