11 セイドリックと一緒に
「セイドリック……。なんだか、まだ実感がわかなくて。本当に、あなたの奥様になったのね」
私は振り返り、彼の首にそっと腕を回しました。すると、セイドリックの瞳がとろけるような愛おしげな色に細められました。
「っ……!」
不意に彼に抱き上げられ、視界が揺れます。彼は私を離さないまま、寝室にある柔らかなベッドへと、ゆっくりと沈めるように降ろしました。
「ああ。もう君を『聖女』として崇める必要も、遠くから見守る必要もない。……俺だけのホリーだ」
重なり合う体温。セイドリックの大きな手が、私の頬を包み込みました。親指でそっと唇の輪郭をなぞるその仕草の一つひとつが、まるで壊れ物を扱うかのような、深い慈しみを感じさせます。
「……少し、怖い?」
覗き込んでくる彼の瞳に不安の色が混じりましたが、私は首を振って、彼の手のひらに頬を寄せました。
「ううん。あなたとなら、どこへだって行けるわ。あの断罪の日、私を救い出してくれた時から、私の心はもう、あなたのものよ」
私の言葉を聞いた瞬間、彼の瞳に一層強い熱が宿りました。
外は静かな夜。でも、この部屋の中だけは、二人の吐息と高鳴る鼓動が、甘く溶け合っていくのを感じていました。
私のその言葉が合図だったかのように、セイドリックは深く、深く、私の唇を奪いました。それは騎士としての誓いなどではなく、一人の男としての情愛をすべて込めた、長く熱い口づけでした。
「愛している、ホリー。君に苦しい思いをさせた分、この一生をかけて、君を世界で一番幸せにしてみせる」
彼は私の耳元で甘く囁きながら、震える指先で衣の紐をゆっくりと解いていきました。露わになった私の肌に、彼は新たな誓いを刻みつけるように、何度も何度も唇を落とします。
かつての冷たい王宮、私を否定し、罵倒した人々……。そんな苦い記憶の破片は、セイドリックの熱い吐息と力強い抱擁の中に、跡形もなく溶けて消えていきました。
窓から差し込む静かな月明かりが、私たちを祝福するように照らしています。
この夜、私たちは初めて「夫」と「妻」として、夜が明けるまで何度も愛を確かめ合ったのでした。
柔らかな朝陽が、白いカーテンを透かして新居の寝室に差し込んでいました。
まぶたに感じる光の温かさに、ゆっくりと目を覚ますと、すぐ隣には、愛おしそうに私を見つめるセイドリックの穏やかな瞳がありました。
「おはよう、ホリー。よく眠れたかい?」
「おはよう、セイドリック……。ふふ、そんなにじっと見つめられると恥ずかしいわ」
昨夜の熱情を思い出してしまい、私は慌ててシーツを胸元まで引き上げました。そんな私を愛しくてたまらないといった様子で、セイドリックは私の額に羽毛のような軽いキスを落としてくれました。
「君があまりに幸せそうに眠るから、つい見惚れてしまったんだ。さあ、起きて。温かい朝食ができているよ」
彼の優しい声と、キッチンから漂ってくる香ばしい匂い。
ああ、本当に私は、彼の妻になったのだわ。
かつての孤独な聖女ではなく、一人の愛される女性として迎える、最高の朝。
私は幸せな溜息をつきながら、彼が差し出してくれた手をしっかりと握り返しました。
「聖騎士様がエプロン姿なんて、他の人が見たら腰を抜かしてしまうわね」
私がクスクスと笑いながら言うと、セイドリックは少しも照れることなく、むしろ誇らしげに胸を張りました。
「今の俺はただの君の夫だよ。……ほら、あーんして」
彼はフォークで小さく切り分けた、ふわふわのオムレツを私の口元へと運びました。かつてジノツキ王国の市場でしてくれた時と同じ、優しくて、少しだけ強引な「あーん」です。
「もう、子供じゃないんだから……」
顔を赤くしながらも、差し出されたそのひと口を食むと、口いっぱいに濃厚なバターと卵の優しい味が広がりました。
「美味しい……! セイドリック、お料理上手なのね」
「君に喜んでもらえるのが、何よりの誉れだ。これからは毎朝、こうして君の笑顔を独占できるんだな」
満足げに目を細める彼の表情は、騎士としての鋭い「牙」を隠した、甘く穏やかなものでした。
断罪の果てに辿り着いた、小さな家での穏やかな食卓。
私たちは何度も微笑み合いながら、ゆっくりと、新しい人生の最初の朝食を楽しんだのでした。
彼は私の手を取り、その指先にそっと唇を寄せました。
かつて、冷たい石造りの聖堂でたった一人、孤独に祈りを捧げていたあの頃の朝とは違います。
今の私の目の前には、私だけを愛してくれる人がいて、湯気の立ち上る温かな食卓があります。
「ねえ、セイドリック。今日は食後にお庭に花を植えましょう? 私たちの、本当の『加護』が宿るように」
「ああ、喜んで。君が望むなら、この家を世界で一番美しい花園にしよう」
私たちは見つめ合って微笑み、新しい人生の、最高に幸せな最初の一歩を噛みしめました。
不当に断罪されたあの日、すべてを失ったと思っていたけれど。私は今、あの日々さえも愛おしく思えるほど、かけがえのない宝物を手に入れたのです。




