12 あれから10年経ちました
聖教国に戻りセイドリックと結婚してから、早いもので十年の歳月が流れました。
かつてドゥショモネ王国で「偽の聖女」と蔑まれた私は、今や聖教国で「慈愛の母」と慕われるようになり、その隣には変わらぬ献身を捧げてくれる夫、セイドリックがいます。
そして、私たちの間には賑やかな三人の宝物が授かりました。
「お父様、見て! 剣のお稽古、昨日の倍は振れたよ!」
陽光が降り注ぐ庭で、元気な声を上げて木剣を振るうのは、セイドリックの面影を強く宿した長男のソルです。
9歳になった彼は、お父様のような立派な騎士になるんだと毎日張り切っています。
「ああ、筋がいい。だが力任せにならず、足元をしっかり固めるんだぞ」
セイドリックは、かつての冷徹な聖騎士の顔をどこへやら、今はすっかり目尻を下げて、誇らしげな息子の頭を優しく撫でています。
その足元では、5歳になる双子の娘、ステラとルナが私のスカートの裾をぎゅっと握って、顔を見合わせて笑っていました。
「お母しゃま、お花が咲いたわ! ステラとルナのおいのり、とどいたのかな~?」
二人は、自分たちで植えた小さな蕾が開いたのが嬉しくてたまらないようです。私はしゃがみ込んで、娘たちの柔らかな髪をそっと撫でました。
「ええ、あなたたちの優しい心が、お花を元気にさせたのよ」
私がそう言うと、二人は「やったぁ!」と声を上げて、再び花の方へと駆けていきました。
「ホリー、君がそんな風に笑っているだけで、この家には女神の加護が満ちている気がするよ」
いつの間にか歩み寄っていたセイドリックが、私の肩を抱き寄せました。その瞳に宿る熱は、十年経った今も、あの新婚の日と少しも変わっていません。
「……もう、子供たちの前よ、セイドリック」
「いいじゃないか。俺たちが幸せなのが、彼らにとって一番の教育だろう?」
彼は困ったように笑う私の額に、そっと口づけを落としました。
手元には、色とりどりの花が咲き乱れる小さな花壇。
かつて一つの国を支えるために、身を削りながら放出し続けていた私の聖なる力は、今や家族の笑顔を守り、食卓を彩るハーブを健やかに育てるための、穏やかな「幸せの魔法」となっていました。
「ホリー、そろそろお茶にしようか。子供たちもお腹を空かせているようだ」
「そうね。今日は子供たちと一緒にクッキーを焼いたのよ」
「やったー! お母様のクッキー大好き!」
子供たちが歓声を上げて家の中へ駆け込んでいくのを見送り、セイドリックは私の腰をぐいと引き寄せ、額に愛おしげな口づけを落としました。
「……幸せだね、ホリー」
「ええ。あの時、あなたが私の手を引いてくれたから、今の私があるの」
沈みゆく夕陽が、まるで黄金色の加護のように、私たちの家を優しく包み込んでいます。
かつての冤罪も、冷たい仕打ちをされた王国も、今はもう遠いおとぎ話のよう。
私たちがここで築き上げたのは、誰にも奪われることのない、本物の愛に満ちた楽園でした。
私は彼の逞しい腕に寄り添いながら、かけがえのない家族が待つ家の中へ、幸せな足取りで一歩を踏み出しました。




