204 覚えておこう
(ルーク)
ニヤニヤと意地が悪い顔で笑ってやれば、エリオは感情を完璧に消し薄ら寒い笑みを浮かべて俺の手を払う。
「────名は?」
「聖グラウンド学院ピチピチ一年生のルークで〜す。好きなことは喧嘩。好みのタイプはムチムチ巨乳セクシー系女性で〜す。
あと精霊の世界ではどうか知らねぇけど、人に名前を尋ねる時は自分からが基本だからな?次から気をつけろよ、真っ白白助くん♡」
ナ〜ハッハッ!と煽るように笑ってやると、周囲の人間達は真っ青な顔で白目を向いて固まっていたが、エリオは感情が読めない目で俺を見つめながら口端を上げて笑顔をつくる。
「そうか。私は光の精霊王<エリオ>。……ルーク、覚えておこう。」
「はいはい。どうも〜。」
ヒラヒラと手を振ると、エリオは全く目が笑っていない不気味な笑みを浮かべたまま、また一瞬でリリスの前に移動しその場で跪いた。
「私は光の精霊王の<エリオ>。君が私を呼んでくれたんだね。」
そしてエリオはゲーム上で言うセリフと全く同じセリフを吐き、リリスに微笑む。
その美しい笑みを見て、リリスは顔を真っ赤にさせながら、慌てて立ち上がった。
「────あ……え、えっと……。
『ひ、光の精霊王エリオ様……。何故私の元に来てくださったのでしょうか?私には、人から好かれる様なモノは何も……。』」
かなり戸惑っている様子だったが、とりあえずはゲーム上の中と同じ言葉を吐くリリスに、エリオは優しげな表情を浮かべ首を横に振る。
「君はとても清らかで美しい魂を持っているね。君が何を望み何を成すのか、それを見届けたい。」
「『私が美しい魂を────……。?』」
またしても同じセリフを言い合っていたのだが、ここで俺はあることを思い出し、『あれ……??』と首を傾げた。
『清らかで美しい魂』。
ゲームプレーヤーにそれを感じさせる場面は、この時点では一つ。
それは────……。
『孤児院襲撃事件』
リリスは親友のセレンと親代わりであったシスター達、そして家族同然に育った孤児院の子供たちを殺され、悲しみのどん底へ。
しかし、恨み憎しみはあれど、それでも周りの人間や世界を憎むことなく、必死に戦おうとする姿が『清らかで美しい』。
それに心を打たれて────みたいな匂わせ発言がどこかであった気がする。
「……???」
その事件はこの現実世界では起きていない。
俺が潰したから。
セレンも孤児院の皆も全員が生きている。
なら────エリオはリリスのどの部分を見て、『清らかで美しい』と思ったのだろうか?
「……ぶっちゃけ正反対の性格してるぞ〜?アイツ。」
だよな〜?と賛同を求めて後ろを振り返ると、何故かセレンは胸を押さえたままショックを受けた様に固まっているし、アッシュは足先でトントンと地面を叩きながら警戒モード全開でエリオを睨みつけていた。
賛同得られず。────まぁ、いっか!
結局いつも通り俺は心の中で流す。
もしかして精霊の清らかで美しい〜なんて、適当なのかもしれないし、エリオの趣味が壊滅的に悪いのかもしれないし〜。
分からないことは、とりあえず頭の隅に置いておこう!
結局考えるのを放棄し、エリオ達の行動を見守る。
するとエリオはリリスの手を握り、皆が見守っている前でリリスを切なげな目で見つめた。
「リリス、私と契約してくれる?」
「『私と?────でも、私は精霊王様に見合う様なモノを持っていません。
元は孤児なので、お金も身分も……。それに契約コストもきっと払えないでしょう。』」
リリスは悲しげに目を伏せると、エリオは首を横に振る。
「精霊にとって、そんなモノに価値はないよ。
契約コストは……そうだな、いつか僕の願いを叶えるために協力してほしい。駄目かな?」
エリオはそれはそれは綺麗な笑みを浮かべて、ゲームの通りの甘ったるいセリフを吐く。
これが外見が気障ったらしい男なら、女性を口説いている様にしか聞こえないが、エリオからそういったモノは感じない。
なんていうか、純粋?っていうか、人間の持っている様な、相手から同じ想いを返して欲しい的な欲を感じない。
そういえば、それがエリオの魅力なんだと、孫娘は言ってたな……。
エリオのイラストを見てキャーキャー言っていた孫娘だったが、俺としては、相手の欲が見えないというのは、すこし怖いことの様に思えて不気味だと思っていた。
例えるなら、鮫とか感情を感じられない生物の目を見ている時の気持ちというか、何かお互いのコミュニケーションに致命的な欠陥がある様な気がして……。
欲あってこその感情。
感情あっての人間、そしてコミュニケーション……だもんな。
儚げに微笑んでいるエリオを改めて見つめると、ゾゾッと鳥肌が立ち腕を擦る。
そんな俺の感じている不気味さは、セレンとアッシュ以外は感じていないらしく、皆が皆何か神聖なモノを見るかの様な目でエリオとリリスを見ていた。
「『駄目ではありません!こんな私で良いなら、どうか私と契約をして下さい。精霊王様。』」
リリスの返事を聞いたエリオはニコッと嬉しそうに笑うと、そのままリリスの手の甲にキスをする。
するとリリスは真っ赤になって「キャッ!」と小さな悲鳴を上げ、恥ずかしそうに手を引こうとしたが、エリオはその手を離さなかった。
「あ、あの……っ。」
「これで契約完了だよ。我が主リリス。私のことはエリオと呼んで欲しい。」
キスした手の甲には、小さな花模様の魔法陣が刻まれていて、エリオはもう一度そこにキスをすると、真っ赤な顔で手を引っ込めたリリスを愛おしげな表情で見つめていた。
「私が具現化するには大量の魔力が必要なんだ。だから、何も無い時は引っ込んでいる事にするよ。
リリスが呼んでくれたらいつでも出てくるからね。」
「は、はい!分かりました、エリオ様……。」
エリオの名を呼んで恥ずかしがっているリリスを見て、クスッと笑ったエリオは、リリスの髪を一房摘み、そのままそこにキスをする。
「次に呼んでくれた時は呼び捨てにして欲しいな。じゃあ、またあとで、我が主様。」
エリオはそう言い残して消えてしまったが、消える瞬間、俺を殺さんばかりの目で睨んでいた。




