136 上手くいかない
(ルーク)
「噂通り、随分と汚い手を使うんですねぇ〜グリード家の御子息様はぁ〜!」
特徴あるねっとりした言い方で絡んできたのは、試験官らしき男だった。
歳は多分三十代後半から四十代前半くらい。
シュッと尖った顎は上を向き、特徴的な鷲鼻もそのせいで同じく上を向く。
ダークブラウンの強めなパーマのミディアムヘアは綺麗に整えられていて、柔らかいイメージを人に与えそうだが、……あからさまに人を見下している目で睨んでくるので、それが台無しだ。
あ〜コイツ、そういえば最初から俺の事を、少なくとも好意的じゃない目で見ていたな。
もしかしてルークの父親のお友達か何かか?
はは〜ん?とそう予想し、ソイツの出方を冷静に見守っていると、ソイツは周りの試験官がライアーとスティーブの対応で忙しいのを良い事に、更に続けてペラペラと喋り続けた。
「元々アナタのお母様であるサラ様は、グリード家の財産を食いつぶす悪女だったと聞いていましたが、流石はその実の息子様ですねぇ!
強いお付の者達を雇い、今度はご自身の御兄弟まで公衆の面前で恥をかかせて楽しかったですか?
────ハァ……。どうやら、腹違いである御兄弟であるライアー様とスティーブ様を『愛人の子』と呼び、毎日侮辱し虐げていたという噂も本当のようですねぇ?
御自分が愛されないのは、そういった性格のせいでは?
ルストン様とフルート様にまで酷い暴言を吐き、致し方なくライアー様とスティーブ様を連れて邸から出ていったと……それも本当でしたか。心底呆れ果てましたぁ!」
「…………。」
嘆かわしい!と言わんばかりに頭を抱える試験官の男に、他の試験官の男たちが慌てて止める。
「ガゼイン先生!アナタはまたっ!!そういった過激な発言は控えてください!!」
「えぇぇ〜?私、何か悪い事言いましたぁ〜?だって本当の事ではないですか。
現在ルーク様がルストン様から奪った……おや、失礼、えぇ〜代行して任された領地は、随分と景気がいいと聞きましたが、その裏で<禁止魔法剤>の製造をしているのではとも噂されてもますよねぇ〜?
だっておかしいですもんね?こんな統治の『と』の字も知らない若造になった途端、景気が上向きになるなんて。今やそれで社交界の噂は持ち切りですよ?」
<禁止魔法剤>
多種多様な薬草類や魔法を合わせ作り出す認可されていない魔法剤の事
効能は良くても酷い副作用があるため認められていない
ルークの父親を追放しただけで、景気が勝手に上向きになったけど?
俺、ほぼな〜んにもしてない!
プギャ〜!と頭の中では笑いつつ、ちゃんと顔には出さない様に頑張る。
反論してもいいが、下手に答えると色々上手くやってくれているセブン達に迷惑が掛かるかもしれないので、とりあえず黙っておくことにした。
それに、公共の場で公私混同はするべからず。
これは大人の常識。常識。
そうして余裕の表情を浮かべて黙っていたのだが、それが悪かったのか、黙っている俺を見て周りはヒソヒソと一斉に騒ぎ出した。
「私もその噂を聞いたわ。どう考えてもおかしいって皆言ってる。」
「ウチの領地でもその話で持ちきりさ。ルストン様が領を出た途端景気が急に良くなるなんておかしいもんな。」
「ご自分の御兄弟様に対して酷い嫌がらせを……。真意はわかりませんが、こうしてその所業を目の当たりにすると、信じざるを得ませんね。」
散々言われ放題な俺。
もう俺が悪役でいいんじゃね?コレ、極悪非道の悪役令息だよ!モブなのに!
「散々な言われ様だな……っておいおい。」
ダッ!と飛び出そうとするセレンをまた羽交い締めにして止めると、その試験官……ガゼイン先生と呼ばれている男は大げさに怖がったフリをする。
「わぁ〜!怖い怖〜い。こうして気に入らない事を口にすると、直ぐに暴力に訴えるなんて、これもルストン様に正当性があるという証明ですね!」
ビクビクとわざとらしい怖がり方をし、こちらを見て笑っている姿は頭にくるが、ここで乗ったら負け。
だから青筋を立てているセレンに「どうどう……。」と言って落ち着かせ、冷静に周りを見回した。
試験官の中で、同じ様に思っていそうなヤツらと、そうは思っておらず本気で青ざめているヤツらは半々くらい。
どうやら絶対的な実力主義を掲げてはいるが、完璧に上手くいっている……わけではなさそうだ。
ハァ……と大きなため息をつくと、俺はまだまだ言い足りないとばかりに喋ろうとするガゼイン先生を遮って試験官達に言った。
「とりあえず、俺の事情云々は置いておいて、試験を続けてくれよ。
ここは受験会場、試験官を任された身である以上、それに私情を持ち込むのはどうかと思うぞ。」
「────っなっ!!」
俺が語るド正論に流石に反撃できなかったのか、大きな舌打ちと共にガゼイン先生は一度引く……が、物凄い形相で睨んでくる辺り、全然納得はしていない様だ。
「全く……なんだかんだで上手くいかないな、青春ってやつは〜!」
「……コレ、青春関係なくない?」
アッシュがため息を漏らしながらそう言ったが、ぶっちゃけ絡まれたのコイツのせい!




