135 やり過ぎ
(ルーク)
応援する俺の横で憎まれ口をボソッと呟くセレン。
すかさずアッシュがその頭を叩いたが、まぁ、意地悪したから仕方がない。
頭を押さえて恨みがましそうにアッシュを睨むセレンだったが、アッシュの顔を見て今度はドン引きした顔をしていた。
「ああいった曲がり曲がった雑種はさ、根こそぎ刈らないと直ぐに生えてくるし増殖するからね。
やだやだ、雑草が多すぎなんだよね。近くにも遠くにも。
かったるい試験だなって思ってたけど、一回死んでも大丈夫なら少しは楽しめるかな?」
セレンの時とは違い、口端を軽く上げているだけなのに、物凄い悪人面。
俺の弟子達が悪の道を極めて言っている!
「……おい、アッシュ、やり過ぎは駄目だからな?」
「うん、分かった分かった。」
その軽い返事を聞いてその通りになった事はない。
だから、今回も絶対聞いてない。
「大丈夫か〜……?」
訝しげな俺の視線から逃げる様に、アッシュはトンッとリングの上に飛び乗り、同じくスティーブも上がった。
その瞬間、女性受験者達が一斉に、『キャー!』という黄色い悲鳴をあげる。
片やイケメン、もう片方もイケメン。
チートな攻略者同士が並ぶ絵図は、確かにゲームの中ではお宝映像かも……?
「セレンさん、セレンさん。イケメンが二人いらっしゃいますよ。」
「?スポンジ男とスカシ男ですね。どちらもうっとうしい事この上ない。……強風で飛べばいいのに。」
『ね?』とそれ以外の意見なし!なセレンを見て、ちょっと心配になった。
セレンさん、青春できる……?
「……ライアーをよくもっ!復讐のつもりか、護衛を使うなんて姑息な真似をしやがって!」
慰める様にセレンの頭をヨチヨチと撫でている間に、スティーブがアッシュに殺気をぶつけながら恨み節を吐き出す。
しかしアッシュはうっすら笑みを浮かべたまま動揺せず、それどころか笑いだした!
「復讐?……プッ……ハハハッ!あのさ〜復讐って本気で言ってる?
だってアンタさ、ルークの視界にすら入ってないじゃん?
ふ……クククッ、あ〜面白い。」
「────はっ?」
スティーブの顔からは表情が消え、完全な真顔になったが、それでもアッシュは笑いながら、更にスティーブを煽る。
「凄いよね〜ちょっと小耳に挟んだけど、アンタ愛人の子供なんでしょ?
堂々と本妻と子の住む家を乗っ取ってよく住めたよね。
その厚かましさって父親譲り?母親譲り?あ、両方か。
でもそんな厚かましいご当主様と愛人様は、今一体どこにいるのかな?
散々虐げていた相手から逃げて尻尾を巻いて逃げた場所って、どんな所か教えてくれない?」
「────っ!きっ貴様ぁぁぁぁっ!!」
多分怒りのツボをついたであろうアッシュは、怒り狂ったまま結構な威力の火の魔法を打たれる────が、それを簡単に避ける。
そしてスティーブの横を通り過ぎて、リングの外へ向かって歩いていった。
その動きを目で追えた者はいない様で、皆の視線は先程アッシュがいた場所のままだ。
「まぁ、どんな所でもいっか、正直興味ないし。
バイバイ、ルークの元家族さん。これからはルークの視界に入らない所で適当に人生頑張って。」
「────えっ……?」
スティーブは声が聞こえた背後を慌てて振り返るが、アッシュはそのままスタスタと歩いて遠ざかっていく。
それにカッ!となったスティーブがアッシュの背中に向かって魔法攻撃を撃とうとしたが……?
「??……あ、あれ……??」
なんと次の瞬間、スティーブの頭は、既に遥か上にあって、キョトンとした顔で地上にいる俺達を見下ろしていた。
────自分の体を地上に置いて。
「き……っきゃぁぁぁぁぁ!!!」
「あ……あ……あぁぁ……っ!!」
大きく弧を描いて飛んでいく首を見て、受験生達は恐怖に引きつった顔で泣き叫んだ。
「────ヒッ!!」
「な……なんてこと……っ。」
これにはオーティス王子様もエヴァ王女様も驚いたのか、オーティスは腰を抜かしてへたり込み、エヴァは震える足を抑えながらアッシュを睨みつけている。
そんな中、スティーブの頭は、ポンポンッとまるでボールの様に地面に落ちて転がっていき、そのまま体の方も崩れ落ちると、そのまま全く動かなくなってしまった。
それからはとにかく大パニック!
しかし、そんな大パニックを起こした張本人は、平然とリングを降りて俺とセレンの所に戻ってきた。
「ホント凄いよね、再生魔法って。首がなくなっても生き返るんだから。」
アッシュが倒れているスティーブの体を指差すと、頭を失ったはずの体はどんどん傷を修復していき、やがて頭が逆再生する様に元に戻る。
そして転がっていった頭は消えてしまい、元の状態に戻ったスティーブは、その場にへたり込みながら、自分の顔をペタペタと触った。
「俺……死……?……え?……死……??」
初めて味わった感覚に呆然としていたスティーブだったが、直ぐに気絶し、その場にバターン!と倒れてしまう。
「……アッシュぅ〜…………。」
やはりという結果に、目元を片手で覆いため息をついた。
我がパーティーきっての狂犬アッシュ君。
セレン程周りに噛みつかないが、こうしてたまにいき過ぎた事をしては、本人はいつもケロッとしているからたちが悪い!
「馬鹿野郎。やりすぎだ。」
アッシュの頭にゲンコツを落としたが、本人は「生き返ったんだからいいでしょ?」と反省皆無だ。
するとセレンが「私もあれくらい……。」と言いながら、瀕死状態で回復魔法を掛けられているライアーに向かって歩きだそうとしていたので、羽交い締めにして止めた。
なんでコイツらこんなに凶暴なんだ……?
「お前らなぁ〜……そういう事は────……。」
一応注意しようとしたのだが、突然試験官の一人が大きな声をあげたため、言葉が遮られる。




