130 剣の基礎能力
(ルーク)
本当に、どうしてこんなに違うんだろう……。
どうにも自分の記憶の中の出来度と合致せずに、頭を抱えた。
大丈夫か大丈夫か〜?
これから先、攻略対象様達と一緒に勉強したり、戦ったりして、世界救うんだろ〜?
なんだか小さな違和感の一つ一つに不安を感じてしまい、これから大丈夫かと心配にはなるが……。
「……まっ、なるようになるだろう。」
「「?」」
俺に引き離されている二人がキョトンとした顔で俺を見つめたが、『なんでもな〜い』と口笛を吹いて誤魔化した。
「────次!セレン!」
試験官から名前を呼ばれると、先程の試験でアッシュを除けば最高得点だったセレンに、受験生全員がザワッとする。
「ほら、セレン出番だそ。頑張って来いよ。」
セレンを離して、ポンッと背中を叩いてやると、セレンは目を光らせ拳を握った。
「はい、護衛として恥ずかしくない結果を出して、全員に見せつけてやります!」
気合十分、やる気満々なセレンは意気揚々とリングの上に登ると、自分のレイピア……ではなく、試験官から木刀を借りて構える。
この木刀は、魔法特化の人は剣を持っていないために準備されているモノで、もちろん威力は真剣よりかなり抑えられるモノ。
この時点でセレンは魔法特化だと思われた様で、周りの空気は張り詰めたモノから若干緩んだモノへと変わった。
「そりゃ〜魔法特化だよね。女の子だし、」
「魔法特化か。あんな子とチーム組めたらな〜。なにより可愛い♡」
セレンの可愛らしい見た目に騙されている受験生達に、アッシュは呆れた様子で鼻を鳴らしている。
「────では、始め!」
試験官から上がった開始の合図に、木刀を大きく後ろに引いたセレン。
そしてそのまま木刀を────横に一気に振り切る!
「……っきゃっ!!」
「うわっ!!な、なんだ!?け、剣圧……??!うわぁぁぁ!!」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」
その木刀から飛び出した剣圧は凄まじく、会場内はまるでサイクロンに襲われたかというくらいの凄まじい風が吹いた。
すると、どうやら木刀を振った事すら見えなかった者達もいた様で、そこら中から悲鳴と驚きの声が上がる。
────ズバンッ!!!
その後、大きな音が的の方から聞こえたため、全員の視線は一斉に音がした方へ。
スピードが早すぎて衝突音がかなり遅れて聞こえたせいで、一部を除いた受験生達は、的から正体不明な音が聞こえた様に思ったらしい。
「え、な……なに……?」
「えっ…?え…??」
呆けている受験生達の前で、人型人形は剣圧の衝撃によってズズズッ!と後ろに後退したため試験官達も大層驚いたのか、目と口を大きく開いた。
「そ、測定不能。ま、またしても……。ど、どうなっているんだ??」
点数が表示されたプレートには、先程のアッシュ同様に『測定不能』の文字が。
試験官の一人が頭を抱えながら他の試験官に命じて人型魔道具を調べさせたが何の異常もない事を知ると、そのまま汗をダラダラ垂らした。
「……セレン、計測不能だが、問題なし。」
試験官がそう告げた瞬間、水を打ったように静かになってしまったが、セレンは堂々とリングから降りてくる。
「……ふっ。ざっとこんなモノだ。護衛として目にもの見せてやりました。
木刀にしたのは、レイピアの性能が良いからだと言わせないためです。」
セレンはドヤ顔で俺に報告し、チラチラと見つめてきたので、とりあえず頭を撫でておいた。
すると、ビビッ!と体を震わせ撫でられながら、なんだかうっとりした顔になる。
セレンは撫でられるのが好きらしく、いつも撫でるとこんな感じだ。
前に飼っていたドーベルマンもこんな感じだったな……。
昔を思い出してニッコリ笑うと、アッシュが「罪な男……。」と言って、俺達を呆れた様子で見つめていた。
「────つ、次〜……アッシュ……さん。」
心無しかビクビク怯えた様子の試験官が、アッシュの名を何故か『さん』付けで言うと、アッシュは「はいは〜い。」と軽い返事を返し、リングの上に登った。
その瞬間、さっきまでの静かな空気はなんのその。
『きゃあぁぁぁぁ〜♡』という黄色い悲鳴が響いて、会場内はピンク色のハートが飛び交う。
「アッシュ様〜♡」
「頑張ってくださ〜い♡」
ライバルなはずのアッシュを、キャピキャピと応援し始める女性受験生達と、『チッ!』と盛大な舌打ちと恨みがましい目で睨む男性受験生達との間に、かなりの温度差を感じた。
流石は攻略対象様!
そういや〜ゲーム内でもキャーキャー言われていたっけな!コイツ。
朧気なゲームの内容を思い出しながら、モテないカテゴリーに見事インしている俺、男性受験生に混じって舌打ちをしておいた。
どこに行っても注目の的である攻略対象様達。
ちなみに主人公のリリスは、当然そんなモテモテな後略対象達とよく一緒にいるせいで、他の女子生徒達から酷いイジメを受ける。
『いつもいつも目障りなのよ!』
『流石平民は、男を誑かす才能がお有りだわ〜。アナタの才能って、そういった能力もあるのね。すご〜い。』
などなど、そんな悪口や呼び出しての暴言、果ては暴力まで多種多少なイジメに合うわけだが、それもまた恋のエッセンスというか……要は後略対象の好感度を上げるイベントになるのだ。
大抵のこういったゲームでは定番だよな、こういうの〜。
ハハッ!と笑いながら、俺はフッとある事を思いつき、アッシュを男性生徒達よりも殺意が籠もった目で睨んでいるセレンを見た。




