第6話 好きなんて言えない
後日となりまして。
恋愛相談を友人に持ちかけるテゴラ。
そこにもやってきたのは……?
好きなんて言えない
どうぞ。
——ここは、“法王の書庫”。
魔法使いの頂点——法王の叡智が眠ると言われる大書庫である。
魔導院のすぐ近くに建てられたその場所には、魔導書をはじめ、歴史書や異国の文献など、数え切れないほどの書物が収められている。
「……はぁ」
長椅子に腰掛けたテゴラが、曇った表情のまま机に突っ伏していた。
「……」
その向かいには、ただ黙々と魔導書をめくる——紫お下げの少女。
「困ったなぁ……」
「……」
しばらく無視していた彼女だったが、やがて本を開こうともしないテゴラへと視線を向けた。
「さっさと話しなさいよ——」
「えっ?」
その少女の名はニーテ。
魔法使いである彼女とは、幼い頃、魔導院で共に学んだ縁もあり、今でも付き合いが続いていた。
「『えっ?』じゃないわよ……何か聞いてほしいことがあるんでしょう?」
「……うん」
友人の言葉に顔を上げたテゴラは、ようやく口を開く。
「私……好きな人が、できたかも」
告げた途端、気恥ずかしくなったのか、頬をぽりぽりとかいた。
すると、ページをめくるニーテの手がぴたりと止まる。
「好きな人って——ナポルのこと?」
「違うわよっ……!」
すぐに否定するテゴラだったが、その先の言葉が続かない。
やがて彼女は、気まずそうに視線を落とす。
「……他の人」
ある少年に対して、理性では抑えきれない感情が芽生えていた。
だが、湧き上がるこの想いを、どうすればいいのかもわからない。
だからこそ、こうして友人を呼び出したのだ。
しかし、そんな彼女に対して、淡々と言葉が並べられる。
「簡単な話よ——抱きしめて、耳元で“好きです”って言うの。嫌でも伝わるわ」
それを聞いたテゴラは——。
「そ、そんなことできるわけないじゃない!」
勢いよく立ち上がり、顔を真っ赤にしていた。
「私の気持ちもわかってよ……! 好きなんて、言えない……だから悩んでるんだよ——」
大切な気持ちだからこそ、簡単には伝えられない。
だがニーテは、それをただ冷たい視線で見つめていた。
「私にはわからないわね——そんな生産性のない行動を起こす気持ちなんて」
「うう……」
湧き上がる感情を打ちのめされ、恋する乙女は再び腰を下ろす。
書庫に流れる沈黙に、ただ啜り泣く声だけが静かに響いていた。
そして。
「……私も、ニーテみたいになりたかったよ」
顔を伏せた腕の隙間から、こもった声が漏れる。
「魔法が使えて、賢く立ち回って——私には、できないもん」
「テゴラ……」
テゴラは自分の肩を抱きしめ、小さく震えていた。
——そんな友人の姿を見かねて、そっと本を閉じるニーテ。
「口で言うのが無理なら——贈り物でもしてみたらいいんじゃない?」
ふと聞こえた優しい言葉に、突っ伏した肩がピクリと動く。
「“想いの紐”なんて、ぴったりだと思うわよ」
「想いの……紐?」
そして、顔を上げたテゴラは、すんと鼻を吸った。
「マナを込めた手編みの紐を贈ることで——自分の想いを相手に伝えるの」
——想いの紐。
主に女性が、想いを寄せる相手へ贈る品だ。
数日かけてマナを込め続けた紐は、やがて緑色へと変色するという。
「異国では“ミサンガ”とも呼ばれてるわ。手首につけるお守りのようなもので、この国では結構有名な話よ」
「私の、マナを……?」
テゴラは、開いた手のひらを見つめた。
そこに揺らぐのは、緑色のマナの光。
「……ルキ君」
さらに、ボソッと呟く。
あの日、握った手を引っ張ってくれたルキ。
その時の彼の温もりは、よく覚えている。
だって、この気持ちが生まれたのは——間違いなくあの日だったから。
「私……」
彼へ伝えたい想いはある。
けれど、それを言葉にする勇気は、まだ持てない。
だからこそ、この紐があれば、自分の気持ちを少しだけ伝えられる気がした。
——やがてテゴラは、開いた拳を握る。
「……私、やってみる!」
そして、その決意のままに、勢いよく立ち上がった。
「ありがとう、ニーテ!」
「勇気をしっかり持って——頑張ってね」
にっこりと八重歯を見せたテゴラは、すぐに踵を返す。
ようやくニーテも、笑顔を取り戻した友人を見送ることができたのだった。
——すると、再び魔導書を開いていた彼女の元に、もう一つの足音が近づいた。
「あら……今日はここにいたのね」
「ルミナさん……」
現れたのは、銀髪の魔法使いルミナ。
ニーテの顔を見るなり、丸い目をそっと細める。
「ふふ——何か嬉しいことでもあった?」
「えっ……?」
眉を上げるニーテ。
表情に出しているつもりはなかったが、内心を見抜かれた彼女は、恥ずかしそうに口元を隠した。
「いえ……さっき、“恋”の相談を受けてまして」
「——恋ぃ⁉︎」
その単語を聞いた途端、ルミナはずいっと顔を近づける。
「ええ。私の友人の話ですが——」
「なになに——聞かせて!」
そして、目を輝かせたまま彼女は椅子へと腰掛けた。
さらに——。
『私も聞きたいです‼︎』
二人の間に、突然顔を出す少女——ラキ。
今日は一日中、ルミナにくっついていたようだ。
「は、はい。その子、最近好きな人が——」
再び魔導書を閉じたニーテは、ゆっくりと説明を始める。
『——むふふ』
——こうして二人は、聞き耳を立てる悪い幽霊に気づくことなく、友人の恋話に花を咲かせるのだった。
結果、恋バナが大好きな女の子たちの回になりました。
そして、飛び出したテゴラは……。
お次は金曜日!




