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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第一章 恋と共に
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第6話 好きなんて言えない

後日となりまして。

恋愛相談を友人に持ちかけるテゴラ。

そこにもやってきたのは……?


好きなんて言えない


どうぞ。

 ——ここは、“法王の書庫”。


 魔法使いの頂点——法王の叡智が眠ると言われる大書庫である。


 魔導院のすぐ近くに建てられたその場所には、魔導書をはじめ、歴史書や異国の文献など、数え切れないほどの書物が収められている。


「……はぁ」


 長椅子に腰掛けたテゴラが、曇った表情のまま机に突っ伏していた。


「……」


 その向かいには、ただ黙々と魔導書をめくる——紫お下げの少女。


「困ったなぁ……」


「……」


 しばらく無視していた彼女だったが、やがて本を開こうともしないテゴラへと視線を向けた。


「さっさと話しなさいよ——」


「えっ?」


 その少女の名はニーテ。


 魔法使いである彼女とは、幼い頃、魔導院で共に学んだ縁もあり、今でも付き合いが続いていた。


「『えっ?』じゃないわよ……何か聞いてほしいことがあるんでしょう?」


「……うん」


 友人の言葉に顔を上げたテゴラは、ようやく口を開く。


「私……好きな人が、できたかも」


 告げた途端、気恥ずかしくなったのか、頬をぽりぽりとかいた。


 すると、ページをめくるニーテの手がぴたりと止まる。


「好きな人って——ナポルのこと?」


「違うわよっ……!」


 すぐに否定するテゴラだったが、その先の言葉が続かない。

 やがて彼女は、気まずそうに視線を落とす。


「……他の人」


 ある少年に対して、理性では抑えきれない感情が芽生えていた。


 だが、湧き上がるこの想いを、どうすればいいのかもわからない。

 だからこそ、こうして友人を呼び出したのだ。


 しかし、そんな彼女に対して、淡々と言葉が並べられる。


「簡単な話よ——抱きしめて、耳元で“好きです”って言うの。嫌でも伝わるわ」


 それを聞いたテゴラは——。


「そ、そんなことできるわけないじゃない!」


 勢いよく立ち上がり、顔を真っ赤にしていた。


「私の気持ちもわかってよ……! 好きなんて、言えない……だから悩んでるんだよ——」


 大切な気持ちだからこそ、簡単には伝えられない。

 だがニーテは、それをただ冷たい視線で見つめていた。


「私にはわからないわね——そんな生産性のない行動を起こす気持ちなんて」


「うう……」


 湧き上がる感情を打ちのめされ、恋する乙女は再び腰を下ろす。


 書庫に流れる沈黙に、ただ啜り泣く声だけが静かに響いていた。


 そして。


「……私も、ニーテみたいになりたかったよ」


 顔を伏せた腕の隙間から、こもった声が漏れる。


「魔法が使えて、賢く立ち回って——私には、できないもん」


「テゴラ……」


 テゴラは自分の肩を抱きしめ、小さく震えていた。


 ——そんな友人の姿を見かねて、そっと本を閉じるニーテ。


「口で言うのが無理なら——贈り物でもしてみたらいいんじゃない?」


 ふと聞こえた優しい言葉に、突っ伏した肩がピクリと動く。


「“想いの紐”なんて、ぴったりだと思うわよ」


「想いの……紐?」


 そして、顔を上げたテゴラは、すんと鼻を吸った。


「マナを込めた手編みの紐を贈ることで——自分の想いを相手に伝えるの」


 ——想いの紐。


 主に女性が、想いを寄せる相手へ贈る品だ。

 数日かけてマナを込め続けた紐は、やがて緑色へと変色するという。


「異国では“ミサンガ”とも呼ばれてるわ。手首につけるお守りのようなもので、この国では結構有名な話よ」


「私の、マナを……?」


 テゴラは、開いた手のひらを見つめた。

 そこに揺らぐのは、緑色のマナの光。

 

「……ルキ君」


 さらに、ボソッと呟く。


 あの日、握った手を引っ張ってくれたルキ。

 その時の彼の温もりは、よく覚えている。


 だって、この気持ちが生まれたのは——間違いなくあの日だったから。


「私……」


 彼へ伝えたい想いはある。

 けれど、それを言葉にする勇気は、まだ持てない。


 だからこそ、この紐があれば、自分の気持ちを少しだけ伝えられる気がした。


 ——やがてテゴラは、開いた拳を握る。


「……私、やってみる!」


 そして、その決意のままに、勢いよく立ち上がった。


「ありがとう、ニーテ!」


「勇気をしっかり持って——頑張ってね」


 にっこりと八重歯を見せたテゴラは、すぐに踵を返す。


 ようやくニーテも、笑顔を取り戻した友人を見送ることができたのだった。


 ——すると、再び魔導書を開いていた彼女の元に、もう一つの足音が近づいた。


「あら……今日はここにいたのね」


「ルミナさん……」


 現れたのは、銀髪の魔法使いルミナ。

 ニーテの顔を見るなり、丸い目をそっと細める。


「ふふ——何か嬉しいことでもあった?」


「えっ……?」


 眉を上げるニーテ。

 表情に出しているつもりはなかったが、内心を見抜かれた彼女は、恥ずかしそうに口元を隠した。


「いえ……さっき、“恋”の相談を受けてまして」


「——恋ぃ⁉︎」


 その単語を聞いた途端、ルミナはずいっと顔を近づける。


「ええ。私の友人の話ですが——」


「なになに——聞かせて!」


 そして、目を輝かせたまま彼女は椅子へと腰掛けた。


 さらに——。


『私も聞きたいです‼︎』


 二人の間に、突然顔を出す少女——ラキ。

 今日は一日中、ルミナにくっついていたようだ。


「は、はい。その子、最近好きな人が——」


 再び魔導書を閉じたニーテは、ゆっくりと説明を始める。


『——むふふ』


 ——こうして二人は、聞き耳を立てる悪い幽霊に気づくことなく、友人の恋話に花を咲かせるのだった。

結果、恋バナが大好きな女の子たちの回になりました。

そして、飛び出したテゴラは……。


お次は金曜日!

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