第47話 爆ぜろ剛剣
復活したガンツ。
果たして、頼みの綱の彼はどう動くのでしょうか。
爆ぜろ剛剣
どうぞ。
帝国の猛攻に、最後まで立ち向かった戦士。
救うことは叶わず、彼は命を落としたが、それでも、残された想いだけは消えていなかった。
それを掬い上げた俺は、ついにその転生を成功させる。
——そして、姿を現したのは。
黒甲冑に身を包み、大剣を背負った男ガンツ。
丸太のように太い両腕を振り上げ、開口一番、彼から放たれたのは大地を揺るがす叫び……ではなかった。
『——ふあぁぁ〜……朝か?』
それは、張り詰めた空気に水を差すような目覚め。
寝ぼけまなこを叩き起こすように、俺は声を浴びせる。
(呑気にあくびなんかしてる場合か! それより、早く誰かの体を使って暴れてくれ!)
頭が回らない彼はまだボーッとしていたが、やがて、その場に高笑いが響いた。
「アッハッハ! あんな死に損ないの名前を叫んで——気でも狂いましたかぁ?」
「なにぃ……!」
仲間の死を笑われ、マルクはさらに一歩踏み出す。
しかしその隣では、事情も知らぬガンツが、のんきに体を伸ばしていた。
噛み合わない空気が流れる中——マリラだけが、たった一人静かに雫をこぼしていた。
『良かった……本当に』
——けれど、彼らに安堵している時間はない。
「さてと、冗談はこのくらいにして——そろそろ観念してくださいますね? マルクさん……」
帝国兵たちが、再び武器を構え始めた。
「これまでだな——」
「へっへ、手柄はすぐそこだ……」
本調子ではない今のマルクでは、これだけの多勢に遅れをとる。
『……っ! いけない——』
この場を切り抜けるには、やはり、彼の力を借りるしかない——。
すぐに涙を拭ったマリラは、ガンツの元へと飛び寄った。
『——お願い! 今マルクさんを助けられるのは、あなただけなの! 力を貸して!』
その声に、彼はハッと振り向く——。
『うおわ! 人魂に……幽霊女⁉︎』
肩を跳ねさせ、大きく身を引いた。
謎の光と、宙を舞う少女。
その目に映った異質な存在に、ガンツはようやっと恐怖を覚えた。
(お前もとっくに死んでんだよ!)
『な、なんだと⁉︎ じゃあ、この俺も……幽霊』
必死に声を送るも、受け入れ難い現実にさらに混乱し、頭を抱える。
呼び出したのはいい。
だが——思った以上に面倒くさい……。
俺はヤキモキしながら、ため息を吐いていた。
「——さっきから何をぶつぶつと……構うことはありません! さっさとマルクを捕えなさい!」
やがて、黒甲冑の男たちに号令がかけられる。
「くっ……!」
天の声などとはよそに、敵の足は確実にマルクへと迫ってきていた。
——もう、四の五の言ってはいられない状況。
痺れを切らしたマリラは、とうとう強行手段にでた。
『——もう! 急いでるんだから、早くしてよぉ……』
ガンツの背後に回り、細い腕で動かなかった背中を押し始める。
『お、おい幽霊女! 俺に触るんじゃねぇ……!』
その勢いに巻き込まれるように、俺もガンツの背を押した。
(うぐぐ……話なら後で聞いてやるから——)
『ううう——えいっ!』
少しずつ、目標に近づく大きなエギル——そして、ようやく。
『うおわ!』
彼をある男の中へと押し込んだ。
「——いてて……なんだよ一体」
その場には、既にガンツの姿はない。
代わりにいたのは、勢い余って倒れる一介の帝国兵。
憑依完了——準備は整った。
(さあ! これで自由に動ける——思う存分暴れてくれ!)
「あーあ……そういうことかよ。やっとわかってきたぜ……」
——部隊の先頭を歩いていた男が、その場で崩れ落ち、何かを呟いている。
突然の出来事に、帝国兵たちは何かの攻撃を受けたのかと困惑していた。
「転生者め! 一体、何をしたのです⁉︎」
やがて、倒れた男は立ち上がる。
「さてと……まずは——」
ポキ、ポキと指を鳴らしながら、体をほぐすように肩を回した。
不気味な様子に、帝国兵たちは未だ動けない。
しかし、その異変を見つめながら、羽音をたて、宙へ浮かび上がる翼の男。
「あなた方は……一体、何をしているのです?」
シュダの鋭い眼光が、男たちを見下ろす。
その瞳には使えない部下への怒りが滲んでいた。
すると、その視線はゆっくりとマルクへと移る。
そして——。
「本当に、役に立ちませんねぇぇぇ‼︎」
ついに、四天王自らが動く。
落下するような速度で、手負いの獲物へと襲いかかった。
だが、部下たちの脇を通り過ぎようとした——その瞬間。
「ぶげぇぇぇ!」
彼の顔面に拳がめり込み、その小さな体は、元いた場所まで吹き飛ばされた。
「あぁ、なんてことを……」
「……シュダ様」
皆の注目が集まる場所には、涙目になりながら、頬を押さえ怒鳴り散らす哀れな男。
「——な、なんの真似だ貴様ぁ! 反逆罪だぞぉ!」
そして、その怒声を背に受けながら、ゆっくりと振り返る男は、拳を打ち鳴らし不敵に笑った。
「へへへ……ずっとぶん殴りたかったんだよなぁ——お前のその、むかつく顔をよ」
突然の反逆行為に、帝国兵たちはさらに困惑し、息を飲んでいる。
「彼は、味方なのか……?」
マルクもまた、呆気に取られたようにその光景を見つめていた。
——勝機は来た。
ガンツが動いたその瞬間、俺は迷わず次の行動へと移る。
(マルクぅ! ここはこいつに任せて、行ってくれ!)
「あ、ああ——頼んだよ」
背中を押すような叫びを受け、マルクはすぐに踵を返し、そのまま下流へ向かって駆け出していった。
(度々すまないが——マリラも一緒に頼む)
マリラもまた、その背を追う。
去り際に——柔らかな笑みをこちらへ向けながら。
『待ってるからね。二人とも』
(ああ——任せろ!)
今度は……見捨てない。
——立ち去る背中を見送り、フッと笑った男は、やがて剣を担ぎ敵を見据える。
「何をしている貴様らぁ! 裏切り者など片付けてやつを追えぇ!」
這いつくばる男の必死な声色に、危機感を覚えた帝国兵たちは、ようやく動き出した。
「うおおお!」
「大人しくしろ!」
何重にもなった怒声と共に、殺意のこもった刃が、ついに一人の男に向けられる——。
「そうそう! 喧嘩はこうでなくちゃなぁ‼︎」
歓喜に満ちた笑みを浮かべ、ガンツは剣を両手に持ち替える。
そして——帝国兵たちを睨みつけた。
再び呼び起こされた剛剣が、今まさに、その想いとともに爆ぜようとしていた。
エギル体、幽霊となったガンツを、ようやく憑依させることができました。
次回ら、蘇った剛剣の活躍が見れる……?
お次は金曜日!
第二部のクライマックスまでどうかお付き合いください!




