第46話 力をもう一度
第四章、力と共に編のクライマックスのお話になります。
満身創痍の彼らの元に再び現れたのは——新たなる力。
お待たせしました。
力をもう一度
どうぞ。
激闘は終わった——。
夕陽も落ち、水路を漂っていたエギルもマナも、何一つ残さず、その場から消え失せていた。
一仕事を終え、月夜に照らされた滝壺を、ただじっと見つめるデノイル。
「……帰ってきたか」
水柱の音に重なる羽音に気づき、空を見上げる。
そこには、索敵を終え舞い戻るシュダの姿。
「こちらは駄目ですね、デノイルさん。そちらはどうなりましたか?」
探し物は見つからなかった。
その報告にも、デノイルは眉一つ動かさず答える。
「やつの始末は完了。転生者は——逃した」
その言葉を聞き、シュダは水路へと着地する。
意外な結果にわずかな疑問を抱いた——その時、激流を見つめたまま、デノイルが呟いた。
「すまないが、もう一度探しに出て欲しい——」
さらに捜索を命じられ、彼はため息をつき、呆れたように両手を広げる。
「デノイルさん……いくら探したって無駄ですよ。彼のエギルは見当たりません。おそらく、死んでいるか——」
「違う——金魚の糞の方だ」
被せるように言い放つデノイル——。
「……なるほど」
その一言に、何かが腑に落ちたシュダは、鋭く口角を吊り上げる。
「フフ——では、行って参ります」
そして、落下するように、再び水路から飛び、笑みを浮かべながら羽ばたいていった。
「お前たちは——死体の回収を急げ」
やがて、デノイルは部下たちに命令を下し、ようやく踵を返す。
——その狙いは、一体どこにあるのか。
* * *
明け方。
帝国の城を抜けた俺は、水草靡き、魚の遊泳すら許さない激流の中を、ただひたすらに進んでいた。
(——む? あそこか⁉︎)
そして、ある気配を察知した俺は、飛魚のように水面から飛び上がる。
(……ふぅ、この激流の中を生き残るなんて、すごい生命力だよ)
目を配った先には、川下に広がる木々。
そのすぐそばに——水浸しになり倒れ込む彼を見つけた。
(マルク……! 生きてるか?)
「……はぁ……はぁ」
朦朧とする意識の中、何とか息をし、生にしがみつくマルク。
ようやく一安心した俺は、少女の名前を——小さく呟く。
(……マリラ)
『キャッ……!』
パッと姿を現したマリラは、驚いたように声を上げた。
わずかに疲れが見える。
だが状況を察し、すぐにマルクの元へと舞い寄る。
(マリラ……すまない、頼む——)
俺の言葉を待つまでもなく、彼女は傷ついた体に手を当てた。
——彼の体を包み込む、淡い光。
その横顔を見つめながら、俺は思わず声を漏らす。
(ごめんな……マリラ。最後まで、君の力にばかり頼ってしまって)
人の力に頼るしかない自分が、ひどく情けなく感じられた。
『……カガミさん』
マリラは手を止めずに、こちらを見つめる。
やがて、弱った俺の心を見透かすように、そっと微笑んだ。
『いいのよ——無理を言ってついてきたのは、私なんだから』
そう言うと、再び視線をマルクへと戻す。
『それに、私がこうして役に立てるのは、全てカガミさんのおかげ——』
(俺の?)
ふと空を仰ぐマリラ。
その瞳は、わずかに潤んでいた。
『あの日、空からやってきて、私をこの世に留めてくれた。人の想いを大切にするその優しさこそが——カガミさんの力そのもの』
優しさ——か。
そんなつもりで動いた覚えはない。
それでも、彼女にはそう見えていたらしい。
言葉に詰まる俺に、マリラはもう一度、そっと背中を押すように声をかける。
『だから、力がないなんて思わないで。私、今——生きていた頃より楽しいのよ』
そして——包み込むように、優しく微笑んでくれた。
『それより……』
——だが、彼女はやがて、目を伏せ呟く。
『あの人は……どうなってしまったの?』
(——ガンツ……か)
かすかに震える声だった。
優しく笑っていたその奥で、ずっと彼のことを気にかけていたのだろう。
『私にはわかるの……あの人は、本当に優しい人。最後までマルクさんを救おうとして……帝国に利用されて——それなのに、あんな風に殺されてしまうなんて、かわいそう……』
言葉とともに、震えが肩へと伝わってくる。
その思いは、痛いほど伝わってきた。
最後まで仲間を見捨てず、あの場に残ったガンツ。
マリラはきっと、そんな彼を救ってあげたかったのだ。
だけど——彼女が、意味のない慰めを望まないことを、俺は知っている。
(——彼の命は……救えなかった)
その言葉を聞くと、彼女はすぐに首を振り、涙を拭った。
そして、ほんのわずかに笑みを浮かべる。
強かに振る舞うマリラ。
逃れられない死があることなど——彼女はとっくに理解していた。
——すると。
不意に、二人のもとへ別の声が割り込んだ。
「……また、誰かと話しているのかい?」
(マルク……っ!)
治療の甲斐もあり、ようやく目を覚ましたマルク。
その傍らで、マリラは穏やかに微笑みながら、さらにマナを注ぎ込む。
「ああ、ありがたい——君の力に感謝するよ」
癒しの光に包まれながら勘違いをする彼に、思わず笑みがこぼれた。
(ははっ——実は、これは俺の仲間の力だ。ギルバディアに帰ったら、マルクには話すよ)
——その時。
「鬼ごっこはおしまいですよぉ——」
安心を分かち合う間もなく、あの声が追いつく。
「くそっ……! またか——」
羽音を響かせ、三度現れるシュダ。
さらに、複数の部下も、遅れて姿を現した。
(やれやれ……お前か)
——しつこい刺客に、俺はもう驚きもしなかった。
だが、隣のマリラは顔を強張らせる。
『そんな……どうして居場所がわかったの?』
(あいつの、エギルを感知する力だ……だけど、なぜ——)
疑問を口にしかけたが、地面に降り立ったシュダが相変わらずの笑みで続ける。
「感知したのはあなたのエギルですよ——転生者さん。デノイルさんが、なぜあなたを逃したのか……お分かりになりませんでしたか?」
(……そういうことか。ご丁寧にどうも)
頭の切れるやつだ——。
デノイルは俺を泳がせた。
弱りきって感知できないマルクのもとへ向かわせ——その“痕跡”を、こいつに辿らせるために。
思考を巡らせる俺を見て、シュダは小さく首をかしげた。
「おやおや? ずいぶんと余裕ですねぇ。あなた方の盾になっていた木偶の坊も——もうこの世にいないというのに」
その言葉に、マリラの表情が曇る。
そしてマルクは、怒りのまま立ち上がった。
「——やはりガンツは、お前たちが……!」
くすくすと笑うシュダ。
——しかし、俺は二人の間に、体を割って入れた。
『……カガミさん?』
力のない俺が出たところで、何も変わらない。
誰もがそう思ったはずだ。
それでも——。
(大丈夫だマリラ……命は救えなかった。だが——想いだけは救えた)
その言葉に、一同は困惑していた。
「あなた……一体、何を?」
先頭にいたシュダも、俺の余裕に後ずさる。
(俺の力を信じてくれて、ありがとう——そして今、見せてやる)
『まさか……』
マリラ……君の言葉があったから、俺はあいつを見つけられた。
「君は下がれ——ここは僕がなんとかする!」
ふらつく体で、それでも前に出るマルク。
いつも何かを守ろうとするその背中に、応えるように、俺は叫んだ。
——いや。
呼んだ。
(さあ——もう一度、お前の力を見せてくれ! ガンツぅぅぅ‼︎)
叫びとともに、膨大なエギルが弾ける。
光は渦を巻き、やがて人の形を成していく。
一度は失われたその力が——今、ここに再び顕現する。
『うおおおおぉぉぉ——‼︎』
——大地を揺るがすほどの、剛き咆哮が響く。
現れたのは——ガンツ。
この地に転生を果たした、”剛剣”の異名を持つ戦士である。
なんと!
四天王ガンツが、あらぬ形での復活です!
でも皆さんなら予想してましたよねぇ?笑
さぁ! お前の力を見せてくれガンツ!
お次は火曜日!
残すところ、あと三話ぐらい……?




