第42話 日頃の行い
前回に続きカガミパートが、真ん中に入ります。
マリラの助けを借りたガンツ。
一体どうなるのでしょう。
日頃の行い
どうぞ。
「グググ……こんのでくのぼうがぁ……!」
妖魔の力で肉体の再生を図るシュダ。
蘇る剛剣の脅威に、思わず攻撃の手を止める帝国兵達だったが——すぐに冷徹な一刺しが入れられる。
「何をやっている無能共……! 回復の間を与えるな——」
ガンツに施される治癒の光が、デノイルには見えていた。
「へっへ。なんだか知らねーが、これも日頃の行いってやつだな……!」
『もうっ! 自分で言うかしら——』
マリラが漏らすため息にも気づかず、当の本人は鼻高らかに言い放つ。
やがて。
「今度はこっちから行くぜぇ!」
大剣を振り上げ、自ら敵陣へと飛び込むガンツ。
癒しの衣を纏った剛剣は、ついに攻めへと転じた。
* * *
その頃、俺は足取りの重いマルクの前を舞うように飛び、唯一の逃げ道である地下水路へと導いていた。
(マルク! こっちだ。もうすぐ見えるはずだ——)
「ああ。だが……本当に間違いないのか?」
迷うことのない案内に疑問を持ちながらも、彼は声のする方へと歩を進めていく。
——俺には、進めば進むほどにこの地下の景色を鮮明に思い出すことができた。
なぜなら俺は、ここに来たことがある。
マルクがいた地下牢も、水路までの道のりも——全てはその時に見た。
(確か——あの先だ……!)
一足先に曲がり角を抜ける。
やがて、それに追いついた青髪が、赤い光に包まれた。
そこには——。
「夕日……外が見える——」
(……間違いない)
それこそが、マルクが目指していた終点。
ついに俺たちは、水路の流れ着く先に——外界へと続く、希望の光を見つけ出した。
さらに、足元には、あの時の血の痕。
俺の記憶の答え合わせも、そこで終わる。
——皇帝に囚われ、苦痛の日々を強いられた彼女は、何かをきっかけにその場から抜け出し、特殊な力でこの世から離脱した。
(何が女神のさらし首だ……まるで、自分の手柄のように言いやがって)
ここにきて、俺はやっと気づくことができた。
過去に見てきたあの悪夢は、女神アリステラの記憶だったのだと。
そして、彼女は皇帝の手によって首を刎ねられたんじゃない。
奴の力に屈することなく、この場所を最期に——転生者となる道を選んだのだ。
* * *
——大広間では。
剛剣ガンツが、水を得た魚の如く、その猛威を奮っていた。
「おらおらぁ! 天下の帝国様が、こんなもんかよ!」
『おっと! ……守護霊ってのも楽じゃないわね』
右往左往を繰り返しながら、攻める様に動き回る彼の背には——それに振り落とされまいと、必死にしがみつくマリラ。
『それより、マルクさんは無事にたどり着けたのかしら——』
癒しの手を添え、地下への階段を見つめていると——。
『——キャ!』
彼女の胸を貫くように刃が突き立てられた。
『——何⁉︎ ……氷?』
思わず声を上げるマリラだったが、自分がエギル体だと言うことを思い出し、その正体を確認すると。
そこには。
「うぐぐ……がはっ!」
氷の刃に左肩を刺し貫かれ、膝をつくガンツ。
「——狩られる時より、狩る時に隙を見せるとは……まるで動物だな」
冷気の煙の先には、まっすぐと手をかざすデノイルの姿があった。
「遠くからこそこそと——女みてぇな野郎だな……!」
『ひどい……早く治療を——あっ!』
しかし、新たな氷が腹部へと被弾し、問答の時間すら与えられない。
「ぐぁぁぁ‼︎」
「後方支援は魔法使いの基本。そんな事は常識だ——知能まで動物並みか?」
冷徹で鋭い言葉。
彼の快進撃も、“氷の男”によって止まってしまった。
「グヘヘ」
「コレマデだな」
すると、傷を押さえ足を止めたガンツの元に、笑みをこぼす兵たちが群がる。
「くそっ! 血も涙もない、連中共め……」
「フフフ……裏切り者が、何を言ってるのですか?」
やがて、腕の再生を終えたシュダも立ち上がった。
そして——。
「さあ! あなたたちは水路に逃げたマルクを追いなさい!」
『どうしてその場所が⁉︎』
数人の部下に号令がかけられる。
それを受けた男たちは、焦るマリラの横を通り過ぎ、次々と階段の方へ駆けていった。
「おい、てめえら! 相手はこの俺だぁ……!」
手を伸ばすガンツだったが、壊れた肩ではそうすることすらできない。
『だめ。回復なんて、間に合わない……』
ついに、マルクのいる地下への進路を許してしまった。
その時、二人の上に大きな影が覆いかぶさる。
「——フヘヘ。四天王の首はいただきだ」
見上げた先には、手柄に目をぎらつかせ、大きな爪を振り上げた半妖兵。
「ちくしょう……! ここまでか——」
一瞬の隙を見せたために、戦況は逆転してしまった。
いや——もとより、こうなる結果は見えていたのかもしれない。
観念する彼の背中で、マナを込め続けていたマリラも、ようやく目を瞑った。
『……カガミさん!』
そして、死神の鎌のような剛爪が、彼の首元に落とされようとした——その時。
「——ガンツさんを守れぇ!」
折り重なる掛け声と共に、何かを受け止める金属音が響いた。
「……お前ら」
ガンツが顔を上げると、見覚えのある帝国兵。
「おらぁぁぁ!」
「この悪魔がぁ!」
「クギャァァァ‼︎」
数の力で半妖を押し返した男たちは、すかさず首を跳ね、その心臓を刺し貫いた。
『どうなってるの? これ……』
恐る恐る目を開けたマリラが見たのは、こちらを守るように並び立つ黒甲冑の兵士たち。
「まさか、あなたたちは……どういうおつもりです⁉︎」
その状況に、シュダは怒りをあらわにする。
謀反行為を行う男たちの正体を、彼もよく知っていた。
増援の中に紛れ込んでいたはずの彼らの正体、それは——ガンツ直属の部下たちだった。
「——バカやろぉ! お前ら、何勝手なことしてる⁉︎」
やがて、震える背中に、怒声を浴びせられる。
「裏切りもんなんか助けたら、どうなるかわかってんだろぉ!」
彼らの行動は、明らかな無謀。
その悲しみを覆い隠すように、ガンツは叫ぶ。
だが、そんなもので揺らぐ者など——ここにはいなかった。
「わかってるさ! だけど、俺たちはあんたのおかげで——人間でいることができたんだ!」
彼の怒りに動じない部下。
その横で、もう一人の男が言葉をつないだ。
「この国は、血も涙もない人間しかいなかった……けど、あんただけは……あんな奴らが持っていない人間の心を、確かに持っていた!」
「——人間の心……くだらない感情ですね」
片翼の男は吐き捨てる。
それもそのはず、部下の命を道具として扱う者にとっては、“他者を助ける”など到底理解できない行為。
——だが、ガンツはそうではなかった。
何かに裏切られ、孤独を感じる辛さを誰よりも知っていた彼は、今まで部下を見捨てることをしなかった。
その心を、ちゃんと受け止めていた人間が、ここにはいた。
「あんたが国を裏切るってのは、何か理由があるんだろう? だったら、俺たちはあんたを信じるぜ! 命だって捨ててやる! ここは、俺たちに任せて行ってくれ!」
死の恐怖に縛られることのない、心から放つ彼らの覚悟。
「……バカ、やろう」
それを大切に受け取り、ガンツは——ゆっくりと立ち上がる。
——思いの丈を響かせた彼らは、二人の悪魔が率いる軍団を見据えていた。
「はぁ……面白くない茶番だ」
「つまり、それが最後の言葉ということですね?」
度重なる裏切りの連続に、呆れる様子の四天王。
既に敵だと認識された男たちに、帝国兵迫ってくる中、ガンツの背中でマリラが囁く。
『これも——日頃の、行いね……』
そして、歩くほどの回復を終え、彼はようやく踵を返した。
「……それでいいんだ、ガンツさん」
そのまま、階段の方へと駆ける彼は——何も言わなかった。
口を開けば、きっと何かが溢れ出す。
今生の別れに、言葉なんてものはいらなかった。
「マナと共に、逃げたか。さて——」
守護霊を背に、暗闇へと消える姿を見送るデノイルは——一人の男に手をかざした。
「うぐぁぁぁ‼︎」
心ある人間の命を、一瞬にして断ち切る氷の弾丸。
躊躇いもない非情の一撃に、ガンツの部下たちの覚悟は一瞬揺れ動く。
「命など惜しくないのだろう?」
手のひらの上に、次なる刃を生み出すデノイル。
再び放たれた“死の言葉”が、彼らの心を恐怖で包み込み、理性を塗り潰していく。
だが——。
「しゃぁぁぁ‼︎」
「いくぞこらぁぁぁ‼︎」
「なめんじゃねぇぞぉ‼︎」
力の限りの叫ぶ男たち。
心をむき出しにした彼らは、そんな死の束縛すらをも跳ね除けていた——。
——階段を駆け降り、かすかに聞こえる断末魔に、ガンツの足は少し止まる。
「——すぐに、そっちに行く……待ってろよ」
『ガンツさん……?』
この時、悲しい背中にしがみつくマリラには、彼が残す言葉の意味を、まだ理解できていなかった。
大事ですよね、日頃の行い。
実は、過去の彼が出る回などにも、人間味あふれるセリフを撒いていたつもりです。
あまり意識はしませんでしたがね笑
ってなわけで!
ここは彼の部下たちに任せます。
お次は火曜日に!




