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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第四章 力と共に
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第37話 ガンツ

第13話“大きなズレ”にて、たった一度だけ登場した彼のお話です。


ガンツ


どうぞ。

 ——数日が過ぎた。

 帝都の一室。

 椅子に腰掛け、何かを待つ二人の男がいた。


「……ふぁーあ。ヴェルドのやつ、まだ帰ってこねぇのかよ?」


 大きなあくびを噛み殺しながら、ガンツがぼやく。


「異国遠征ですからね。……しばらくは戻らないでしょう」


 対するシュダは、淡々と答えた。


 取り留めのない会話。

 だがその空気は、どこか張り詰めている——その時。


 シュダの視線が、ふと扉へと向いた。


「来ましたか——」


 静寂を裂くように、ゆっくりと扉が開く。


「デノイルさん、皇帝様のご容態は?」


 現れたのは、“氷の男”デノイル。

 シュダはすぐさま問いかける。


「問題ない。徐々に回復しておられる。それより——女神の情報だ」


 二人を呼び出したのは、拷問の進捗を確認するためだった。


「全く——彼は何も吐いてくれません。それどころか、最近は反応も薄くて……」


 肩をすくめ、シュダがため息を漏らしていると、その視線は隣の男へと流れる。


「俺もだめだな——あの野郎、ぶっ叩いても蹴飛ばしても、何一つしゃべらねぇ。相当な訓練を受けてるぜ」


「……それだけか」


 変わらず答えるガンツに、デノイルは冷ややかな目線を送る。


「やれやれ……情けない。今日もお前の担当だったが、くれぐれも皇帝様のおもちゃを——」


「わかってるよ——“殺さず苦しめろ”だろ?」


 軽く遮るように、ガンツが言った。


 ——皇帝の目的は、情報だけではない。

 

 生かしたまま、苦しめること。


 それほどまでに、彼はマルクの()()に深い執着を抱いていた。


「あの野郎……今日はどうやって遊んでやろうかなぁ——」


 拳を鳴らしながら、ガンツは部屋を後にする。


 ——だが、その背中をデノイルの視線は最後まで追っていた。


 まるで、何かを測るように……。


「……シュダ」


 低く呼びかけたデノイルは、わずかに身を寄せ、耳元で短く囁いた。


「……フフ——承知しました」


 シュダの口元が歪む。

 その笑みは、不気味なほどに愉悦に満ちていた。


* * *

 

 ——とある村にて。


「うっ……うっ」


 若者たちに囲いをつくられ、涙を流す少年。

 そこに——。


「お前らぁぁぁ‼︎」


 その様子を見るや否や、叫び勇むもう一人の少年。

 ドサリと何かを落とし、勢いよく地面を蹴り進む。


「やっべぇ、ガンツだ!」

「逃げろ!」


 鬼の形相で迫ってくるガンツという少年に、先程まで踏ん反り返っていた若者たちは、一目散に消えていった。


「くっそ……!」


 誰もがいなくなったというのに、それでも彼は走り続ける。


 ——そして。


「——痛ぁ!」


 あろうことか、涙を浮かべる少年の頭上へと拳を振り落した。


「バカ野郎! 男なら——なんで殴り返さねぇ⁉︎」


 ガンツの怒りの矛先は、やられたままの少年へと向いていた。

 

「うぅ……だってぇ」


「こいつ……まだ……!」


 頭を抑え、次の拳骨がつくられる様を見ていた少年は、肩をビクリと反応させる。


「ひっ……! もう殴らないでよ、兄さん——」


 ますます拍車のかかる、弟の泣きっ面。

 それを睨みつけていたガンツも、そのあまりにも惨めな姿に、握りしめていた拳をゆっくりと解いていった。


「全くよぉ——」


 やがて、背中を見せた彼は、か細いその手を掴み——力強く引き寄せる。


「……ほら。泣いてねえで、帰るぞ——」


 乱暴な言葉とは裏腹に、その手は決して離されることはなかった。


 先ほど落とした獲物を背負い直し、ガンツは歩き出す。

 そして、引かれるようについてくる、小さな足音。


 その手に残る、弱々しく頼りない温もりだけが——いつまでも、消えずに残っていた。


* * *


「——むにゃむにゃ……ちゃんと、歩け……!」

 

 地下牢の壁にもたれながら、寝言を呟くガンツ。


「……ふっ。一体どんな夢を——」


 彼が仕事をサボっているこの時間は、マルクにとっての安息の時間となっていた。


「んあ? ……はぁ、また夢かよ」


 やがて、大きな肩をビクリと動かし、目を開けるガンツ。

 ボーッとしながら頭をポリポリとかいていると、マルクが問いかけた。


「君は——女神の国を、どう認識しているんだ?」


「……お前、起きてたのかよ」


 眠そうな目でその質問を聞き流すが、彼はさらに続けた。


「アリヴェルの地に住みながら、君はあの国を憎んでいるように言っていたな——どうか聞かせて欲しい」


 まっすぐと、ガンツを見つめる瞳。

 揺るがぬ意志を見せ続けていたマルクに、彼は観念し、ため息を吐く。


「はぁ……同郷のよしみだ。冥土の土産に教えてやるよ」


 そしてガンツは、憎しみを込めて——言葉を並べた。


「俺はな……“最果ての村”の出身だ」


「最果ての村……! そう、だったのか——」


 彼の出生を聞いて、そっと目を伏せるマルク。

 その目には、同情と悔しさが滲んでいた。


 ——最果ての村。

 アリヴェルが統治する村の中でも、最も離れた辺境の村。

 妖魔の発生源と言われる北の大地から最も近く、危険の多い村である。


 ——そして今、その村はすでに滅びていた。


「これだけ聞いたらわかるだろ? お前ら偽善者どもが見捨てた——かわいそうな村さ」


 当時、少年兵としてアリヴェルにいたマルクも、その事実は知っていた。


「田舎だったけどな、いい村だったぜ……そんな中妖魔が現れるようになって、俺たちは急いで国に救助要請を出した。だが——」


「助けは、来なかった……」


 マルクは目を瞑り、その無念を呟く。


「へっ……てめぇの落ち度をよくわかってるじゃねーか。返ってきた手紙にはこう書いてあったぜ。”この村は、今日を以ってわが国の統治から外れた”ってな——」


 女神の国を信じていた村にとって——それは、絶望そのものだった。


 この日、ガンツの中で描かれていた“慈悲の女神”は、完全に消え失せた。


「これが女神様のやることか? 慈悲を謳っといて、手の届かねぇ土地は見捨てる——そういうのを、偽善って言うんだよ!」


 言い放つと同時に——ガンツは腕を振り抜き、怒りを叩きつけるように壁へ拳を打ち込んだ。


 重く鈍い音が地下牢に響く中、鋭い眼光がマルクへと向けられる。

 国に見捨てられ、すべてを失った彼の怒り——あまりにも当然のものだった。


「結局、迫り来る妖魔になす術もなく村は滅びた。俺は幸運にも、今の皇帝さんに拾われたがな——」


 怒りを鎮めるように拳を見つめるガンツ。


 ——だが、この事実には裏があることをマルクは知っていた。


 最果ての村が滅びた原因は、アリヴェルの内部に潜んでいた裏切り者の仕業。

 帝国の手先であったその男は、女神の国で信頼を勝ち取り、裏で妖魔を操り兵や村を襲わせていた。


 すべては、国の評判を地に落とすために。


「……違う」


 かすれた声で、マルクが口を開く。


「村を滅ぼしたのはアリヴェルじゃない……内部に、帝国の手先が潜んでいたんだ。そいつが妖魔を操って——」


「あぁ?」


 否定の意思を見せたその瞬間——ガンツが動いた。


「てめぇ! 苦し紛れの出まかせなんざ、見え見えなんだよ!」


「——ぐっ!」


 胸ぐらを乱暴に掴み上げられ、傷だらけの体が無理やり引き起こされる。


 もはや——原因などどうでもよかった。

 結果は、すでに変えられない。


「俺がこうして帝国にいる——それがすべての答えだ! だからさっさと吐けって言ってんだよ——何も救えねぇ女神のことなんかなぁ!」


 恨みつらみを吐き続けるガンツ。


 アリヴェルをここまで憎んでしまった彼に、これ以上の何を言っても届かなかった。


 やがて、彼は悲しげに——。


「……全部、奪われたんだよ」


 何かを押し殺すように。


「村も……仲間も……」


 思いの底を見せるように。


「——弟もな」


 呟いていた。


「弟……!」


 すると、最後に放った一言に、マルクは大きく目を見開いた。


「弟と、言ったのか……?」


「そうだよ——俺が帰ったときには、もう()()()はいなかった。きっと妖魔の腹ん中にいたんだろう……」


 マルクの脳裏に、ひとつの記憶がよぎる。


 最果ての村——あの地には、たった一人の生き残りがいた。


 救出されたその少年は、アリヴェル兵に志願し、やがてマルクの部下となり、共に剣を振るうまでになった。


 そして、国の崩壊後、ルミナ達との旅の中で、一度出会ったことがある。

 生き別れた兄を探していると言う、あの少年と。


「どうした? とうとう何も言い返せなくなっちまったか?」


 ガンツの希望は——すでにすべて失われたものだと、マルクは思っていた。

 しかし、ようやく彼を救うことができる言葉が見つかった。


「——フラッツは……生きてるぞ」


 彼が言い放ったその言葉に、怒りに震える大きな肩は、ピタリと止まっていた。

弟と死に別れたと思っていたガンツ。

彼こそがフラッツが探していた兄だったのでしょうか……?


お次は金曜日!

では!

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