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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第二部】 第四章 力と共に
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第35話 悪夢の正体

第17話、第24話でも見られた悪夢再び。

まるで現実のような不思議な夢とは一体……?


悪夢の正体


どうぞ。

 玉座の前に立ち並ぶ、忌まわしき黒甲冑の兵士。


(また、夢なのか? 今度は一体——)


 それは、俺が度々見ていた悪夢の映像だった。

 はっきりとした意識で辺りを見渡すと、そこには、無数に転がる死体の中心で膝をつく——懐かしき青髪の騎士。


(マルクじゃないか! じゃあ、ここはバルナか……?)


 彼を最後に見たあの戦いを思い出したが、俺はある違和感に気づく。


 横たわる白銀の鎧には、まるで女性が祈るように手を合わせる姿が形取られていた。

 玉座を見ても、壁を見ても、何一つ見覚えのあるものがない。


(バルナ兵じゃない……? それにこの紋章は——女神?)


 やがて、マルクの周りにいた数人の帝国兵達は、ギチギチと音を立て、おぞましい姿へと変わっていった。


「くっ……化け物め!」


 手足を鋭い刃物のように変形させる者

 筋肉が膨れ上がり肥大化を遂げる者。

 その姿は様々なものだった。


(半妖だ! マルクが危ない——)


 例の如く、体の自由は効かない。

 俺は居ても立っても居られないこの状況を、黙って見ているしかなかった。


 ——すると、俺の体は()()()に動き出し、彼の前へと駆けつけ言い放つ。


「マルク……女神の騎士達は全滅しました。あなただけでも早く逃げなさい。これは()()()()です——」


 耳に響いたその音は、紛れもなく女性のものだった。

 考える暇もなく、俺はマルクの震えた声を背中に受ける。


「いやだ! 僕も最後まで残ります! 女神の騎士だからじゃない——母の様に接してくれたあなたを、大切に思っているから……」


 溢れんばかりの彼の想いに、俺の胸は無性に熱くなっていた。


「……レイスと、同じ事を言ってくれるのですね——」


 呟く俺は振り返り、視線の先にあった、涙で歪む顔を優しく抱きしめる。


「あなたはこの国の最後の希望。それに私は、いざとなれば逃げられる()を持っています——」


 そして、抱き寄せた彼の耳元で一言だけ囁いた。

 とある少女の顔を、瞼の裏に映しながら……。


()()()の事——頼みましたよ」


(え……? 今のは、ル——)


 ——俺が()()の顔を確認した、次の瞬間。

 引き剥がされたマルクの体は、突風により窓の外へ放り出された。


(マルク⁉︎ そんな……!)


 風を纏い吹き飛ばされる彼の姿は、ガラスの割れる音と共にすぐに見えなくなってしまう。


「……——ステラ様ぁ!」


 遠ざかるマルクの口は、誰かの名を呼んでいるように見えた。


 ——矢継ぎ早な展開の中、再び半妖軍団と対峙させられた俺は、少しずつ()()を理解する。


(そんな……これはまさか——)


 味方もいない絶体絶命の危機に冷や汗をかいていると——突然、辺りの空気が凍りつくような感覚に包まれた。


「——ククク」


 ゆっくりと開かれた扉の奥からは、聞き覚えのあるあの不気味な笑い声。


(——っ⁉︎ 野郎……こんなところにまで!)

 

 真っ黒のローブを纏う白髪の男。

 ゆっくりと歩を進めるのは——皇帝だった。


「会いたかったですぞ。女神様——」


 帝国兵達が道を開ける中、その男の悪意と欲望に満ちた眼差しが、刺す様にこちらに向けられる。


 ——しかし、奴が刺したのは、視線だけではなかった。


(——ぐ、あぁぁぁ……!)


「あぁ!」


 俺の体に打ち込まれたのは、何本もの骨のような触手。

 反撃の暇さえ与えてもらえず、激痛に苛まれながらも、俺は()()を理解した。

 だが——。

 

(それより——ああ……い、痛ぇ……!)


 みるみるうちに思考は停止していく。

 真っ赤に染まっていく走馬灯と共に、俺はただ意識を遠のかせていくのだった。


* * *


(——うぐぐ! 痛い……ああ!)


『カガミさん! しっかりして!』


 視界を見失ったまま聞こえてきたのは、マリラの声。

 彼女は暴れる俺をどうにか抱き留めていた。


(うぅ——マリラ……?)


 情けない声を上げた俺は、癒しの抱擁に包まれながら、辺りが明るくなっていることに気づく。


『——怖い夢でも見たのね。でももう大丈夫。カガミさんを怖がらせるものは何もない。落ち着いて、私の声だけを聞いて……』


 マリラはしばらく、子供をあやすように俺の体をぽんぽんと叩いていた。


 その温もりにあてられていた俺は、徐々に落ち着きを取り戻す——。


(……俺、さっき何か言ってたか?)


 彼女は静かに答えた。


『——いいえ、特には何も。ただ、マルクさんの名前を……叫んでいたわ』


(……そうか)


 俺も一言だけ返し、その先の言葉を飲み込んだ。


 女神の騎士として、押し寄せる帝国から俺を守ろうとしていたマルク。

 間違いない、あれは——アリヴェルだった。


 そして、このはっきりとした痛みの感覚——。

 それもまた、紛れもない現実。


 この悪夢の正体はおそらく、過去に起きた記憶そのもの。

 ヨヨの()()()()だった。


『何かあったの? カガミさん——』


 長い沈黙に、心配そうに尋ねるマリラ。

 だが俺は、そのことを考えないようにした。


 今優先すべきは——マルクの方だ。


(心配かけてごめんな、マリラ。俺はもう大丈夫だから——)


 気遣うように微笑んだ彼女は、俺の体をそっと離した。


『……そう、ならよかったわ。でも何かあったら、いつでも私やラキに話してみてね』


(ああ。必ず話すよ……ん?)


 その瞬間——俺は気づいた。


(——け、気配だ……感じるぞ!)


 それは儚く、そして力強く燃え上がる命の炎。

 俺はようやく、マルクの目覚めを感じ取る事ができた。


(よかった……まだ、生きていたんだ——)


 失いかけていた希望を取り戻し、ホッとしたように笑うマリラと共に、俺はその方向を見据える。


『——さぁ、行きましょうカガミさん。マルクさんが待ってるわ』


 その温もりを胸に残したまま、彼女と俺は、再び北の地へと飛び立つのだった。

悪夢の正体——。

それは誰かの記憶でした。

しかし、今は考えている暇はありません。

いつか嫌と言うほど向き合わなければいけませんから……。


お次は金曜日!

では——。

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