第33話 絶望を喰らう者
人の絶望を食い物にする悪魔の様な人間……。
ほんのちょっと過激表現注意ですm(_ _)m
絶望を喰らう者
どうぞ。
目が覚めると、彼は暗く冷たい石畳に横たわっていた。
「……ここは」
肩に重くのしかかる鈍い痛みが、彼の記憶を呼び起こさせる。
バルナの王宮にて、こちらを嘲り笑う皇帝の姿を最後に、生殺与奪の権を預けてしまった事を。
両手の自由を奪われたまま、何とか体を起こし壁に背を預けるマルク。
そして、薄暗い牢の中で——仲間の顔を思い出す。
「ルミナ、ルキ……無事なのか?」
皆を王宮から逃がす為、殿を買って出たのはいいが……。
彼らは無事逃げ出せただろうか。
ギルバディアの援軍は、間に合ったのだろうか。
心配ばかりが募り、彼は藁にもすがる思いで上に向かって声を放った。
「君は——いないのか……?」
期待していた天の声は——返ってこない。
何一つの希望も、そこには残されていなかった。
——しばらく孤独を眺めていると、やがて牢の扉がギィと音を立てた。
「目覚めたようだな——マルクよ」
やってきたのは——全ての元凶、パルメシア皇帝。
その後ろには、初めて見る長髪の男が控える。
「僕を生かすとは……どういうつもりだ」
「何、少し話がしたくてな——そう怖い顔をするな」
柔らかい口調で話す男を、マルクはずっと睨みつけていた。
すると皇帝は、後ろの方へと目を向ける。
「寝起きで機嫌が悪いようだ——デノイル、目を覚ませて差し上げろ」
コクンと頷くデノイルという男。
彼は剣を抜き、なんと刃の先を一寸ばかりマルクの肩へと突き刺した。
「……ぐっ!」
そして、その剣には徐々にマナが込められいく。
緑色の光は軽く燃え上がり、やがてそれを纏った剣は——赤く熱を帯び始めた。
「うっ——あぁぁぁ!」
彼の皮膚は高熱にあてられ、プスプスと音を立て無惨にも灼け爛れてゆく。
その苦悶の戦慄を浴びながら、耳を澄ませ恍惚な表情を浮かべる皇帝。
「あぁ——そうだ、これが聞きたかったのだ」
主の喜びの声を聞いてか、デノイルは剣の柄をぐるぐると回し、灼け焦げる傷口をさらに広げる。
「——んぐっ……がぁぁぁ!」
永遠とも思える地獄の数秒。
彼に許されたのは、その苦痛とただ向き合う事だけ。
「はぁ、はぁ……」
「——ふむ、これで目が覚めたかな」
苦痛はいつの間にか終わり、皇帝は倒れ込むマルクをなじるように見下ろす。
彼の快楽に歪むその表情は、一体心のどこから映し出されるのだろうか。
「さて、そろそろ本題に入ろうか——」
その言葉に、マルクの鼓動が高なる。
彼は予感していた。
自分が生かされていたのは、この男の趣味の悪い道楽の為だけではないと。
そして、その男は——徐に口を開く。
「私が知りたいのは、女神アリシアの行方……」
皇帝が欲するのは、大陸中の人々が心待ちにし、彼が最も恐れる力の行方。
察しのついていたマルクは、地面を向いていた。
「知っているのだろう? 女神の騎士団の一人で、“光速剣”などと大層な肩書を持つお前なら……」
女王の意向により、誰にも知らされず、死んだとまで噂をされていたアリシア。
ルミナと出会い、偶然にもその正体を知ってしまったマルクだったが——彼の答えは既に決まっていた。
「さぁ……僕にはわからないなぁ。そんなに知りたければ、大陸中をしらみつぶしに探してみたらどうだ?」
その一言に——彼の肉が再び灼かれた。
「ぐっ……あぁぁぁ!」
反抗的な意思を、デノイルは見逃さない。
「うん……うん」
しかし皇帝は、その悲鳴に耳を澄ませ、心地よく何度も頷いていた。
「そうだ……アリシア姫はみんなの希望だ。そう簡単に口を割ってはいけない。彼女の為にも——耐えるんだマルク」
彼は口を割らない女神の騎士を、むしろ嬉しそうに見守っている。
「アリシアはどこで何をしているのだろうか……早く会いたいものだ——」
「くっ……!」
女神の存在に執着する男の姿に、思わず憎悪を掻き立ててしまうマルク。
しかし。
「——あぁぁぁ‼︎」
「おお。頑張るんだマルクよ……」
デノイルの剣が、彼の悲鳴を奏でる。
答えようと、黙ろうと——。
どのみち、それは皇帝の愉悦にしかならなかった。
「ぐぅ……あ」
——拷問がしばらく続く中、彼は突然天を仰ぎ歓喜の声を上げ始める。
「素晴らしい……私は今、感動している。——見ているかレイスよ、必死になって女神に尻尾を振る、立派な息子の姿を」
満身創痍だったマルクだったが、その言葉に目を見開いた。
「貴様……父さんに、何をした?」
彼の中で、一気に不信感が膨れ上がる。
父は戦死したと聞いていたが、この男は明らかに何かを知っていた。
すると、皇帝は目頭を抑え、熱く……そして冷たく語り始めた。
「やつは素晴らしい男であった……最後までアリステラを想い耐え続けていた。だから私は、その愛に免じ——やつの命を終わらせてやったのだ」
——その言葉を皮切りに、マルクを繋ぐ鎖は一気に伸び切った。
「うあああぁぁぁ‼︎」
親の仇が目の前にいる。
最後まで邪悪な力に屈しなかった偉大な父が笑われている。
彼が怒り狂うには、十分なものが揃っていた。
「こぉぉぉてぇぇぇ‼︎」
何もかもを忘れ、皇帝へと飛びつこうとするマルク。
その光景に、彼はさらに薄ら笑いを重ねる。
「ククク。なんと恐ろしい……慈悲深き女神の犬は、なぜこうも凶暴なのだ——」
肩に受けた古傷を抑えながら、暴れるマルクの絶望を噛み締め喰らっていた。
「よくもぉ……よくもぉぉぉ‼︎」
もはやその叫びは——怒りとは呼べなかった。
全身の傷から血が吹き出そうと止まる事はない。
自我を失うほどに狂い、その瞳に何かを映す事すら叶わない——まさに殺意の権化。
彼が唯一理解できたのは、目の前にいる男の——底知れない悪意だけだった。
やっと目を覚ましたマルクですが、やはり満身創痍。
彼は無事生き残る事ができるのでしょうか……。
お次は金曜日!




