第32話 氷の男
始まりました第四章!
開幕は、作者もお気に入りこの男の登場です。
氷の男
どうぞ。
——その土地は、凍てつくような寒気に包まれていた。
吹きつける風は肌を刺し、地面には枯れ木ばかりが立ち並ぶ。
大地は痩せ、作物も育たない。
人が長く暮らすには、あまりにも厳しい土地だった。
さらに、北にそびえる山々は古くから——妖魔発祥の地と言われている。
真偽は誰にもわからない。
だが、この地から妖魔の姿が絶えることはなかった……。
——マルク救出隊がギルバディアを発つしばらく前。
悪魔が巣食うと言われるこの帝都に、おぞましい御叫びが響き渡っていた。
「グオォォォ……!」
皇帝の間と呼ばれるそこには、苦痛に這いつくばり、憎悪をむき出しにする悪魔の姿があった。
「体が、熱い——おのれ……おのれ“レイス”!」
親の敵と言わんばかりに、ある男の名を叫ぶ皇帝。
一人でに蠢く彼の腕は、まるで檻の中の猛獣がそれを叩き壊そうとしているようだった。
「——皇帝様!」
彼の異変に気づいた数人の兵士と、医者と思しき男達が、すぐに扉を開き駆け寄る。
「また、痛むのですね……すぐに診ますから、こちらへ——」
苦痛に歪む主の暴走に、すぐに手当ての準備をする男達だったが——。
「ウググ……黙れぇぇぇ‼︎」
その手が触れた瞬間——感情のままに咲き散らされる鋭い触手。
「ぎゃぁぁぁ‼︎」
「皇帝さまぁぁぁ‼︎」
辺りには鮮血が飛び散り、その場にいた数人の男達は一瞬にして肉片と化してしまった。
——一方扉の向こうでは、呆れた様子で、彼らの断末魔を見守る二つの影があった。
「あーあー、またやっちまったぜ。あーなった皇帝さんは、手がつけられねーからな——」
壁にもたれかかり、同情の声を漏らす大男の名はガンツ。
そして、その隣にはあの“半妖”の男もいた。
「皇帝様は先の戦いでお力を使いすぎましたからね。忌まわしいバルナの虫共め……あそこまで食い下がるなんて——」
千里眼の異名を持つ男、シュダ。
ガンツに並ぶ、“帝国四天王”の一人である。
「そうかい? 俺はもっと抵抗してくれた方が面白かったけどな」
呑気に笑う同僚を、彼は鋭い目で見上げた。
「何を不謹慎な事を! 皇帝様が、苦しんでおられるのですよ……」
「おーおー。そう怒りなさんな——」
——すると、二人の男の問答を、一つの影が横切った。
「そこをどけ——」
それは、低く、氷のように冷たい声。
二人の視界に入ったのは、真っ白の肌に流れる長髪に、凍りつくような眼差しの男。
彼はそのまま、皇帝の間へと続く扉を開いた。
「ばか——今は……」
ガンツの心配とはよそに、その男は皇帝の前へと歩を進めていく。
部下だった者達の蔵物に、全く目を向けずに……。
「ガ……ハァ——」
——もはや、人の形を成していない皇帝。
やがて、木の根のように広がっていたその触手は、その男の方へと伸びていった。
「ぐっ……」
一本、二本と、その先端が次々と彼の体に突き刺さる。
ようやく顔を上げた皇帝は、自らが傷つけた部下の顔を遅れて確認した。
「デ、ノイル……?」
「それでいいのです……皇帝様。私の命、どうかお喰らいください——」
デノイルと呼ばれる男に突き立てられた骨針は、何度も膨らみ縮みを繰り返し、何かが流れる音を立てていた。
「ハァ……はぁ」
みるみるうちに正気が蘇る皇帝とは裏腹に、だんだんと青ざめていくデノイルだったが——相変わらず、その表情だけは変わらない。
「——デノイル!」
そして、何らかの吸収を終えた皇帝は、彼に刺さった触手を引っ込め、膝をつくデノイルに駆け寄った。
「よかった……あなたの苦しみが和らいでくれるなら、私の命など軽いもの——」
「何を言う——四天王である貴様の命は、失うわけにはいかん。早く手当てをしろ」
「もったいないお言葉。それでは……失礼いたします」
そう言って、ヨロヨロと歩きながら皇帝の間を後にするデノイル。
——扉をゆっくりと閉じ、虚な瞳で二人の四天王を再び横切る。
「おいおい……お前、平気かよ——」
「デノイルさん。皇帝様はご無事ですか?」
「……問題、ない」
二人の問いに立ち止まることもせず、デノイルは一言だけ言葉を捨て去っていく。
——すると彼は、少し歩いた先で、一人の帝国兵を呼び止めた。
「おい、貴様」
「はっ! デノイル様!」
姿勢を正した一介の兵に、彼はある仕事を命じる。
「皇帝様の間に散らかったゴミを、即刻片付けろ。あんなものが転がっていたら、皇帝様も気分を害される。大至急だ——」
そう言い残し、部下の返事も待たずに歩みを始めた。
その手に放たれたマナの光で、主から受けた傷を癒しながら。
「ゴミ……ですか?」
——言葉を受けた兵は首を傾げながら、早速皇帝の元へと足を運ぶべく扉を開ける。
「失礼いたします! うっ!」
男の前に広がっていたのは、仲間達の残骸の数々。
そのうちの一人は、まだかすかに息があり、ピクピクと指を動かしていた。
「デ、デノイル様のご命令で……前を失礼いたします!」
ガタガタと震えながら、ゴミと吐き捨てられたそれを片付ける一介の兵士。
その時男は、四天王デノイルがなぜ“氷の男”と称されるかを理解した。
そう——彼にとっては、動かない部下の命など、たとえ息があろうが汚いゴミと同価値であった。
——一方皇帝は、その様子を見守るでもなく、一人ぶつぶつと呪いの言葉を吐いていた。
「許さん……許さんぞ。貴様のおかげで——」
彼は古傷を抑えながらも、まだかすかに残る苦痛を噛み締めながら、永遠とも言える憎しみを抑えきれずにいた。
「この傷の恨みは、貴様の血筋で償ってもらうぞ——レイス」
帝国四天王、三番目の戦士は、氷の男ことデノイル。
なんとも冷たい目をしてる不気味な男でした。
第四章力と共に編では、四天王達の活躍が見られるかもしれません。
お次は火曜日!
お待ちしてます!




