第31話 別れは笑顔で
第三章 出会いと共に
最終回です。
一時、彼女と別れてしまいます。
別れは笑顔で
どうぞ。
「そういうわけで、期待しているぞ転生者よ」
「今度こそ——頼むぜ」
『カガミさんが行ってくれれば、安心ですね!』
三人の羨望の眼差しが、俺へと降り注ぐ。
(——お、おう。任せろ……)
「声が震えてるじゃねえか……本当に大丈夫なんだろうな?」
今まで彼らに期待される事がなかった俺は、何とも頼りない返事を返してしまう。
(いやぁ、急だったもんだから、びっくりしただけだよ——帝都の偵察がてら行ってくるよ。じゃあ——)
すぐに切り替え、その場を後にしようとする俺は、ある事を思い出す——。
(あっ! ルミナ、ルキ——)
二人には、聞いておくべき事があった。
(——あいつに、マルクに伝えたい事があったら、俺から伝えるが……?)
今は遠くにいるマルクだったが、声だけなら届けることができる。
伝えたい言葉が山ほどあると思い、俺が彼らに問うと——ルキはすぐに首を振った。
「俺はもっかい会うつもりだからな、特にはねーよ。でも——早く帰って来いって、それだけ伝えといてくれ」
彼は仲間の帰還を信じて疑わなかった。
だが、隣にいたルミナは不安げな表情を浮かべる。
「伝えたい事なんて……そんなの」
彼とは、二度と会えない事だってありうる。
最後になるかも知れない言葉を、彼女は必死になって絞り出そうとしていた。
しかし。
「ルミナ!」
ルキの掛け声により、何かから目が覚める。
そして、涙を拭ったルミナは、力強く笑って見せた。
「うん——私も会って伝える事にする。だから絶対に……絶対に帰って来てって、私からも伝えて欲しい——」
(ああ、わかった。——絶対に伝えるよ)
彼への想いを背負い旅立つ俺を、彼女は最後に笑顔で見送ってくれていた——。
* * *
——王宮の屋根の上には、十字架を掲げた国旗が激しく靡いている。
(帝都は——こっちの方か……)
マルクの気配を探り当てた俺は、目的地である北の山々を見据えていた。
『——さぁて、行きますか!』
(……すまないが——二人はここに残ってくれ)
抱えた腕を強気に振り回すラキに、俺は冷たく言い放つ。
『どうしてですか⁉︎ 私達も力になりますよ——』
二人の事を信頼していないわけではない。
俺の中には——あの時の恐怖が残っていた。
(俺達の体は、決して無敵なんかじゃない。この体に触れる事ができる力が、この世にはある——)
それは、実体のないはずの俺が経験した“衝撃”。
只事じゃない声色に、ラキも体を震わせる。
『……エギルだけの、私達に——?』
(俺はあの時、皇帝の発する“黒い力”に弾き飛ばされた。もしかしたら——次はないかもしれない)
死——。
一度は通り過ぎ、どこか遠くの存在に見ていたそれを、俺達は再び思い出した。
(それに、これは俺の請け負った仕事——俺一人でなんとかする)
彼女達には、あの時の悲しみを、二度も味わって欲しくなかった。
——俺は二人を突き放し、王宮を後にしようとするが、その体は彼女の手によって止められる。
『待って——私は行くわ』
振り向くと、こちらを見つめるマリラ。
その瞳には覚悟が宿っていた。
(マリラ……気持ちは嬉しいが、心配はいらない)
俺はその手を振り払うが、彼女は頑なに首を振る。
『私の心を救ってくれたルミナさんを……私、どうしても救いたいの——』
マリラには、決して譲れない彼女への想いがあった。
『大切に思っているマルクさんが帰って来れれば——彼女の心だって、きっと救われる』
レオンとのすれ違いで傷ついた心を癒してくれたルミナに、彼女は言葉にできないほどの恩を感じていた。
(ルミナの事……そこまで考えてくれてるんだな——)
『ええ。それに、私なら傷ついてるマルクさんを癒す事だってできる。ちゃんと力にもなって見せるわ——』
マナの光を宿し、勇ましく微笑むマリラ。
俺は——彼女の力に賭ける決意をした。
『わ、私だって——』
ルミナへの想いに便乗し、恐怖に固まる体を動かそうとするラキ。
しかし——。
『ラキ! あなたはここに残って——』
『えっ……?』
それはマリラによって止められた。
『確かに、カガミさんの言う事にも一理あるわ。何かあった時の為にも、あなただけは、ここでみんなを見守っていてほしいの——』
『何かあった時……』
彼女の言葉を、無理やり飲み込むラキ。
『でも……マリラさん』
別れを惜しみ肩を落としていたが——俺達には、そんな時間はなかった。
(……マルクも待っている。早速帝都に向かおう——)
『じゃあ、行ってくるわね——大丈夫。きっとラキが思ってるような事にはならないわ』
先を急いでいた俺は、マリラと共に北の方角へと踵を返した。
——すると、その背中を止めるように、彼女は叫んだ。
『待ってください……!』
振り向くよりも先に、俺の体を力一杯抱きしめるラキ。
『カガミさんも……絶対に、帰ってきてくださいね』
背中に見える彼女の瞳からは、涙がこぼれ落ちていた。
『絶対ですよ……?』
(ああ。わかってるよ——)
これ以上は迷惑をかけると思ったのか、溢れる不安を抑えながら、ラキはすぐに手を離す。
いつになくしんみりとした空気がその場に流れたが、俺は彼女に——いつも通り、言葉をかけた。
(ラキ。俺がいないからって、お菓子ばかり食べるんじゃないぞ? すぐに飛んで、叱りに来るからな——)
その言葉に、彼女は一瞬だけ目を丸くする。
だが——。
『——も、もう! 私、子供じゃないんですから! カガミさんったら……』
頬を膨らませて言い返すその顔は、いつもの彼女だった。
気の抜けた別れの言葉に、王宮の空に笑い声が響き渡る。
——そうだよ、ラキ。
お前には、その顔が一番似合っている。
その笑顔に見る為に、俺は必ず帰ってくるから。
再会の誓いを胸に灯した俺とマリラは、手を振るラキに見送られながら北の地へと赴くのだった。
悪魔の巣食う帝都から——マルクを救出する為に。
ラキを一人残し、戦場へと赴くカガミとマリラ。
帝都には、一体どんなに恐ろしいものが待っているのでしょう……。
てなわけで!
ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
次回からはついに、だだ転シリーズ第二部の最終パートになります。
それでは、お次は金曜日。
お待ちしております。
最終章 力と共に 編
お楽しみに!




