第30話 信じてくれるだけで
ここで彼女を行かせるわけには行きません。
それなら俺が……
信じてくれ
どうぞ。
俺の提案に、ルミナは足を止めた。それに気づいたアバンも、彼女の手をそっと離す——。
「お前一人で、帝都に出向くのか……?」
「——そもそもお前、なんでマルクが生きてる事を知ってんだ?」
一緒になって疑問を投げかけるアバンとルキに、俺は一つずつ答えた。
(まずは、マルク生存の情報についてだ。人の気配を察知する能力を持つ俺は、彼がついさっき目覚めた事を確かに確認した——)
「さっきって……それ、本当かよ——」
信じられない様子のルキだったが、アバンが言葉を添える。
「……偵察隊によると、彼が帝都に運ばれたのは数日前だ。今頃目が覚めたというのも、あり得なくはない——」
(いつもルキやルミナの前に飛んでこれたのも、この力があってこそだ。信じてくれたか? ルキ——)
「まあ、そう言われれば……」
アバンの助言もあり、ルキはどうにか俺の言葉を飲み込んでくれた。
(そこで俺は——誰にも見られる事のないこの体を使って、帝都に潜入しようと思っている。俺だからこそ出来る事もあると思うが、どうだろうか?)
目視されない転生者の能力を生かした俺の作戦を、アバンはすぐに察する。
「ふむ——確かに、見えないお前が目となり、声をかける事ができれば、マルクの脱出を手助けできるかもしれない……」
彼の早い理解に感心する俺だったが——こちらを見つめるその目つきは、急に鋭くなった。
「だが、一つ聞かせてくれ——この世界の行く末を知る転生者。いよいよ、お前は何者だ?」
当然の疑問だった。
嘘などつこうものなら、今にも食ってかかりそうな勢い。
だが俺は、はっきりと答える。
(それは俺にもわからない……。だけど、ヨヨに聞いたところ、この世には魂だけが残った“転生者”という存在がいるらしい)
ヨヨの名を聞き、アバンの疑いの目は少しだけ和らいだように見えた。
それから俺は、転生者以前の俺自身の事について語り出す。
(この世界の全てを知っているのは、俺の生前の世界の書物に、この大陸の人物や出来事がすべて記されていたからだ——)
信じられない話に聞こえるかもしれない。
それでも、俺は彼らに伝えた。
「神様だとか言って色々知ってたのは、本当はそういう理由があったんだな——」
今まで半信半疑だったルキの目からは、疑いの色がなくなっていく。
「以前にもチラッと聞いた話だが、俺が聞きたいのは——」
(ああ——わかってるよ)
俺が皆に肩入れする理由。
アバンが知りたかったのは、その事だろう。
だが、それには俺の譲れない想いがあった。
(俺はな、この物語が本当に好きだった。毎日、毎日——この世界とずっと向き合っていた。誰にも負けないくらい、愛していた——)
どこか遠くから聞こえてくるようなその言葉を、二人は不思議そうな表情で受け止める。
(その物語には、帝国が勝利する未来は描かれていない。だけど今、この世界は帝国に支配されつつある——俺はそれを変えたいんだ)
それは俺の、悲痛な願いでもあった。
すると、俺が独りよがりの想いを語っていると——そこに寄り添ってくれた。
「——難しい事はよくわかんねぇけど、とにかく味方って事でいいんだよな?」
(ルキ……信じてくれるのか?)
頭をかきながら優しく微笑むルキに、アバンもつられて笑う。
「まぁ、嘘をつかれたところで、こちらは痛くも痒くもないからな——今は信じるしかあるまい」
(アバンも……二人とも、ありがとう)
自分の言葉を信じてくれる。
これほど嬉しい事が、他にあるだろうか。
しかし、俺の言葉を一番に信じてほしかったのは——彼女だった。
(そういう事なんだが、ルミナ……ここは、俺一人に行かせてくれないか?)
ずっと背を向けていたルミナ。
彼女はまだ、決めあぐねていた。
わかるよ——ルミナ。
君は責任を背負ってマルクを助けに行きたいんだろう?
でも、アバンの言う通り、今一人で帝国に立ち向かったって何もできない。
(今一度……俺を信じてくれないか?)
ルミナはまだ恐れていた。
すべてを知る者と名乗った俺を信じ、その結果がまた裏目に出る事を。
——だが、彼女には、もうこうする事しかできなかった。
「……助けて」
涙をいっぱいに溜めた顔を上げ、助けを求めるルミナ。
「お願い——あの人を助けて。このままじゃ私……」
この時の彼女の瞳は——俺を捉えているように見えた。
それが単なる偶然なのかはわからない。
だがこの時、俺の存在が初めて彼女に認めてもらえたような、そんな気がした——。
(ルミナ……ありがとうな)
そして、一言だけの言葉を——彼女に添える。
俺はここから、命をかけるだけだ。
うまくいくなんて、無責任な事は言わない。
だめかもしれないなんて、弱音だって吐かない。
一度裏切られた彼女が、こうして勇気を出して頼ってくれている。
たったそれだけの事が——俺にとって大きな力になるだろう。
彼女の願いは、天の声が叶えてくれるでしょう。
第三章も、残すところあと二話!
お次は火曜日!
では




