第3話 ラキ
ここからは弟思いの素敵なお姉さん、ラキの魅力がどんどん発揮されます。
みなさんもどうぞラキを好きになってあげてください!
——皆寝静まったか。
いつもなら真っ先にルミナの寝顔を見にいくところだが、今日はなんかそんな気分になれないな。
俺は昔を思い出していた……。
——とある家で、親父と息子が言い合いをしている。
そして……それを見て涙している母親。
「——俺は小説家として有名になるって決めたんだ! なんでわかってくれない!?」
「馬鹿野郎! 高い金を出して大学にも行かせ、せっかく就職もしたのになんて事を言うんだ!」
俺は仕事を辞め、小説家として自立したい旨を家族に打ち明けて日々父さんと喧嘩していた。
それを見て、いつも泣いていた母さん……。
ごめんな、母さん。
息子を職に就かせ、安定した生活を送ってほしいと言う父さんの言い分もわかっていたつもりだったが、感情的になっていた俺は、ついに家を飛び出してしまった。
……ただ結局は、夢を掴めずに酒に溺れ命を失った。
本当にバカだったと思う。
今になって父さんが言っていたことが正しかったのだろうと思うが、もう何もかも遅かった。
だが、親の言いなりになり普通の生活を送ることだけが本当に正しいことだったのだろうか?
……いまだに答えは出ない。
アリヴェルの復興の為にはルキの存在は必要不可欠だが、マルクはその“正解ルート”に納得いっていないようだ。
しかし、マルクの言っていることは正しいと俺も思う。
今になって、少しだけ父さんの気持ちがわかった気がするよ……。
——翌朝。
一晩考えたが、クヨクヨしても始まらない。今俺にやれる事だけを考えよう。
目標はやはりアリヴェル王国の復興だ。
マルク達も俺もそれを望んでいるからな。
さて、早速……。
今日もマルクとルミナは山に行き、ルキは一人で素振りをしている。
(おい……ルキ……聞こえるか?)
「誰だ!?」
ルキは振り向くが誰もいない。
「またか……一体なんだってんだ」
(落ち着けルキ。俺の姿は見えないと思うが俺にはお前が見えている)
「どういうことだよ!?」
(驚くのは無理もないが、こうして俺の声は、ちゃんとお前に聞こえているはずだ)
初めこそ戸惑ったが、ルキは一度落ち着いた。
「……お前、一体誰なんだ?」
(俺はこの世界を作った“神様”のような存在だ。今お前には天の声が聞こえると思ってくれたらいい)
——するとルキは突然吹き出した。
「ぷっ!……神様って、子供かよ」
……この野郎、人を子供呼ばわりしやがって……こちとらお前の倍の人生を歩んでんだぞ。
何も知らねえくせに、このガキ……
「あれ? もうどっかいったのかよ?」
いかんいかん、俺としたことが子供相手に大人気なかったな。ちゃんと説明せねば。
(ルキ、お前には強い戦士になってアリヴェル王国を復興させると言う指名がある。だから今、家に滞在してるマルクという青年に剣を習うんだ)
「マルクってやつに? なんで俺が……」
(お前はこないだ、自分で盗賊を倒したと思っているみたいだが、それは勘違いだ。マルクは強いし優しい。お前が頼めば剣の稽古をつけてくれるはずだ)
「はぁ……まあ強くはなりたいけどさ……アリヴェルなんて国は俺は聞いたことねえぞ」
そうか……ルキはこの時点で、アリヴェル王国の事を知らないのか。
「それに知らないやつの言う事は聞くなって姉ちゃんに言われてんだ……なんとかって国の事なら他を当たんな」
むむむ、悔しいがルキの考えもごもっともだ。
仕方がない。
「それとお前、こんな事してよっぽど暇らしいな?他にやる事ないのかよ?」
——なに?
「神様とか訳のわからない事言ってないで、大人だったらちゃんと働けよ」
——なになに?
「透明人間みたいなこと言ってたけど、どうせ女ばっか見てんだろこのスケベ!」
——プツンッ!
俺の中で何かが切れる音がした。
(てめえこのガキ! 黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって! あそこに毛も生えてねえような分際で年上に生意気な口聞くんじゃねえ!)
「なんだとこのスケベ野郎! 相手してやるから出てこいコラ!」
ルキは木剣をブンブン振り回す。
(出てきたくても出れねえんだよガキ! 仮に出てもてめえの下手くそな剣なんて誰が当たるかボケ!)
意味はないが、俺も負けじとルキの周りを暴れ回る。
「なんだと!……へっ! 神様ってのは腰抜け野郎の集まりみてえだな!」
ルキは剣を振り回すのをやめ、今度は言葉で俺を殴りつける。
(知るか! 大体最近のガキは礼儀を知らないみたいだな……全く、親の顔が見てみたい)
俺は大きなミスに気づいた。
「……!」
——その言葉にルキは、ピクリとなり少し涙目でつぶやいた。
「……二人とも、もう……この世にいねえよ」
ルキに両親はすでに亡くなっていた。
ルキは旧ギルバディア王国と言う国の出身で、その国が帝国に滅ぼされた時、両親はルキを逃す為に命を落としたんだった。
思い出させて悪かったよ、ルキ……
——騒ぎを聞きつけ、ラキが来た。
「今度はどうしたのよ!? ルキ」
どうやら今回も失敗のようだ……。
感情的になった結果、ルキを傷つけてしまった。
ダメだ……何をしても、この世界でも結局俺は何も変えられないのか?
神様っぽい立ち位置に移り変わり、ついに俺にも特別な何かを成し遂げられると思ったが、結果はこのザマだ。
どんな世界に行ってもダメなやつは何をやったってダメなんだな……。
——結局ルキはすぐに泣き止みまた素振りを続ける。
ラキは何やら心配そうにするが部屋に戻った。
俺もなんとなくラキについていきラキと同じように椅子に腰掛ける。
まあ掛ける腰もないのだが……。
ラキがいるこの家にいると、何か懐かしい雰囲気を感じるな。
するとラキが突然つぶやいた。
「……あの子、どうしちゃったのかしら?」
(……ごめんな、ラキ……俺のせいだ)
「え!? 誰?」
——またやってしまった。
だが、もうどうでもよくなった俺は続けてラキに語りかける。
(ああ、俺はこの世界の神様だ。ずっとお前たちを見ていた。……だが神様稼業も全然うまくいかない)
訳のわからない神語りにラキは驚いたが、なぜかすぐに受け入れた。
「ぷっ!……面白い方ですね」
(……全然疑わないんだな)
「こうして誰にも言えなかった話を誰かに聞いてもらえるなら、神様でも幻でも構いませんよ」
(そうか……まあ今のはつまらん愚痴だと思って聞き流してくれ)
「じゃあ今度は私の愚痴、聞いてくれますか?」
ラキは笑い、俺に今までの苦労話を話した。
——ラキ達はかつての大国、旧ギルバディア王国に住んでいて、王国騎士だった父親が押し寄せる帝国軍を止める為に死んでしまった事。
それを期に、旧ギルバディアは滅び都を移した事。
新たな都となる街に母とルキの三人で逃げている際に、二人を盗賊から守る為に命を落とした母。
まあ全部、神様である俺は知っていたが黙って聞いていた。
「ルキには、あの子にだけは、辛い思いをさせたくないんです。だから私が、お母さんの代わりにならなくちゃって決めたんです」
(……そうか)
全部知っている事だった。
だが、ラキだって本当は裏で泣いていたりと、母親を亡くしてすごく辛いはずなのに……。
俺は自分自身が作り出したキャラであったが、誰よりも強く生きようとする“ラキ”という女性に何かを教えられた気がした。
なんとも皮肉な話だな。
(……あれ?)
ふと外を見るとルキの姿がなかった。
「あの子……一体どこに?」
(ラキはここにいてくれ、俺が探してくる)
「ふふっ……お願いします“神様”」
ラキは微笑み、あらぬ方向へと会釈する。
まあ、姿が見えないんじゃ仕方がないか。
俺はすぐにマルクのそばに視点を瞬間移動させた。
——ビュン!
——すると程なくして、遠くから誰かが駆けつけてきた……。
ルキだった。
やはり来たか、ルキ。
ルキは強くなりたいと心の底から思ってる。
全ては姉のラキの為に……。
実はルキは、普段しっかりしていても陰で本当は泣いていた姉の姿を見ていた……。
だからこうしてマルクに剣を教えてもらいに行くのは必然だったんだ。
「なあ、あんた……強いんだろ? 俺に剣を教えてくれよ!」
突然の申し出にマルクは驚いていたが……ルミナは。
「この子ったら急に、生意気ね」
「なにー!」
「まあまあルミナ、滞在してる間なら僕は構わないよ」
一時的に弟子入りを許すマルクの言葉を聞き、喜ぶルキ。
よしよし、少し遅れたがなんとかストーリー通りにいった。
「……」
(何か考えているみたいだが、とりあえずはルキを頼んだぞ)
俺はマルクに伝えるが、その瞬間——!
「今のって!?」
ルミナが突然うろたえ、再びパニックになった。
あちゃー。ルミナに聞かれてた……。
「私っ! また覗かれてるわ!」
「落ち着くんだ! ルミナ!」
マルクが隣でなだめる。
だが、ルミナは全く聞いていない。
「そうだぜ、誰もお前みたいな“ブス”なんか覗かねーよ」
……。
皆が止まり、——空気が凍りついた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ——……。
俺は、恐る恐る振り向き……ルミナの顔を覗き込んだ。
ルミナの顔に、もはや“女神”の面影はなかった……。
「なんですってえぇぇっー!」
「ひっ……!」
ドゴォォォォン——!
山一つが吹き飛ぶ勢いで地獄の業火が爆発する。
(……マジでこの子、ヒロインで合ってたよな?)
ルミナの爆発と同時に辺り一体は地獄の爆炎に包まれるのだった……。
……やれやれ。
こんな事で俺はアリヴェル復興など本当に叶えられるのだろうか……。
三人が爆炎に包まれる中俺は一人、頭を抱えるのであった。
次の話にて序章、笑顔と共に編を締めさせていただきたいと思いますのでぜひ次回までお付き合いくださいね!