第4話 笑顔をもう一度
序章の最終回になります。
文字数が増えましたが、最後まで読んでいただけたら少しびっくり展開もあると思いますのでぜひ!
笑顔をもう一度、どうぞ。
俺の名は、白銀鏡。
自作ファンタジーの世界の“天の声”として、神様的ポジションに転生した、元小説家である。
現在俺は、叶えられなかったこの物語の“続編”の世界を見るために、目の前にいる彼らと共にアリヴェル復興を目指しているのだが……。
——マルクたちがいた森は今、焼け野原と化し、以前の自然あふれる景色の面影はなかった。
ひょんなことから放たれたルキの暴言に怒り狂ったルミナが、魔力を暴走させ辺り一帯を焼き尽くしてしまったのだ。
「ごめんね、マルク……」
回復魔法をマルクへと施すルミナ。
「ああ……気にしてないよ」
相変わらずマルクは心が広い。
一方、すでに治療を終えたルキは——。
「あんなに怒ることねえだろ……ったく」
隅の方に腰掛け、文句を垂れていた。
(今回のはお前が悪いぞ。ルキ)
「なっ⁉︎ またてめえかよ!」
思わず漏れてしまった言葉だったが、俺はこの機に彼へと言葉を続ける。
(女の子に対しあんな発言をしたら怒るに決まってる。お前はもう少し女心というものを知れ——ラキが聞いたら叱られるぞ)
「……わかってるよ」
(神様として教えてやるが、お前は今後——とある女の子と結婚しないといけない使命がある。だからこれは、お前にとっても必要なことだ)
「はぁっ⁉︎ け、結婚って……余計なお世話だよ!」
ルキは赤面し、その場を離れていった。
まあ少し余計だったかもな……俺の声は語り出すと止まらなくなる傾向があるな。
しかし、マルクにはルキに剣を教えてもらわないといけないのに、肝心のマルクが負傷してしまった。
さて——どうしたものか。
マルクに語りかけようとしても、今はルミナがつきっきりだし、俺の声が聞こえた途端、彼女はまた怖がってしまう。
下手をしたら、また辺りが爆炎に包まれかねないからな——。
とうとう手詰まりとなった俺は、再び彼女の元へと飛んでいった。
* * *
一瞬のうちに、俺はラキの元へと視点を移す。
——すると。
バイーン!
(おおっ!)
服をたくし上げていたラキが、その身を露わにしていた。
——しまった⁉︎
思わず声を漏らした俺に、ラキは慌てて胸を隠す。
「誰ですか⁉︎」
(いやいや、俺だよ俺。“神様”だ)
「神様……」
早々に着替えを済ませた彼女は、赤らめた顔をこちらに向けた。
「あの……見てらしたんですか?」
(……ごめんなさい、見てました)
「もうっ! 神様はスケベなんですね!」
怒っているようでいて、どこか照れ臭そうなラキ。
ラキって、こんなキャラだったのか……。
(そんなことより、ルキは見つかったぞ)
瞬間移動できる俺にとって、人探しなどお茶の子さいさい。
俺は話を逸らすように言葉を被せた。
「本当ですか⁉︎ 一体どこに?」
(無事マルクのもとへ、剣を教わりに行ってる。まあ実際のところ、一度黒焦げにされて無事とは言えないかもしれないが……)
「黒焦げですって⁉︎」
(色々不都合があってな……まあ、大袈裟に言っただけだから気にするな)
「……本当かしら? まあ、無事ならいいのだけど」
弟の心配ばかりをするラキに、さらに言葉をかける。
(ルキはきっと強くなるよ……ラキのことが大好きだからな)
「神様……」
瞳を潤ませながら、彼女は横を向いた。
「もうっ! お世辞がお上手ですね」
(はは! 本当だぞ。神様の俺が言うんだからな)
姿の見えない俺との談笑も束の間。
遠くから、誰かの悲鳴が聞こえた——。
「ぎゃあああああっ——!」
「今のは⁉︎」
(なにっ⁉︎)
ラキは慌てて外へ飛び出した。
俺もすぐに外を覗き——全てを把握した。
(……なんてことだ)
なぜ俺は、こんな大事なことを忘れていた……。
火を放たれた村の家々。
奪われる金品。
はびこる盗賊たち。
間違いない。
この日はラキを含む村の人たちが——皆殺しにされる日だった。
(逃げろ! ラキ!)
状況を知った俺はすぐにラキへ呼びかける。
「でも、ルキたちが……」
ルキを気にかける彼女は、なかなか動こうとしない。
そこへ、一人の盗賊がラキに近づいた。
「へへっ……いい女だな」
盗賊はラキを壁際に追い込み、顔の横へ手をつく。
「ひっ!」
(こいつ!)
ラキに壁ドンなんかやりやがって——しかし、やばい。
早くラキを助けないと。
だが、俺にできることなんてこれしかない。
(おいコラ! 盗賊のくせに、我が物顔で人の村に立ち入ってんじゃねえぞ! このクズ! タコ! 脳足りん野郎!)
俺はありったけの言葉で盗賊にしがみつき、幼稚な罵声を浴びせた。
「なんだぁ? この声は……一体どこから?」
盗賊は一瞬だけうろたえ、隙を見せる。
そして。
(今だ、ラキ!)
ラキは盗賊を押し退け、逃げようとするが——。
「逃すかよ!」
「いや!」
彼女の腕を掴んだ男は、そのまま羽交い締めにした。
(くそっ! 離せ!)
「へっ……どっから喋ってるかわかんねえが、関係ねえ」
「離して!」
必死に抵抗するラキだったが、男の力を振りほどくことはできない。
すると。
ガブッ——!
「ぎゃああっ!」
彼女は男の手に噛みつき、その腕をなんとか振りほどいた。
すると。
「女のくせに……調子に乗りやがって」
男はついに——剣を抜いた。
(ラキ! とりあえず抵抗をやめろ! 大人しくしてたら、こいつも命までは奪わない! しばらくしたら、きっと助けだって——)
「嫌よ!」
ラキは涙目になりながらも、迫る男に石つぶてを投げつける。
(……どうして)
「私たちは、盗賊に母さんを奪われたのよ! だから、こんな奴らにあげるものなんて、何一つないわ!」
親の仇でもある盗賊を相手に、一歩も引かず抵抗を見せていた。
そして彼女は、落ちていた棒切れを手に取り、ついには盗賊へ殴りかかる。
だが。
(ラキ!)
ズバッ——!
俺の叫び声も虚しく、ラキの体は——切り捨てられてしまった。
「こいつ……余計な抵抗しやがって」
彼女の捕縛を諦めた盗賊は、捨て台詞を吐き、再び村の金品を漁り始める。
俺はただ——倒れるラキを見つめていた。
「……あ、う」
原因はわかっている——全部、俺のせいだ。
本来のこの場面は、村の黒煙に気づいたマルクたちがいち早く駆けつけ、ラキが襲われる前にルキが飛び込んできて助けるという筋書きだった。
そろそろ来てもいい頃なのだが、マルクたちは現在負傷しているため、黒煙に気づくのが遅れている。
俺が起こした、物語のズレのせいだ。
ラキを助けるために散々盗賊を煽ったが、それも今、裏目に出てしまった。
(ラキ……)
無力な自分を呪う俺の元に、力無く倒れるラキがゆっくりと口を開く。
「……神……様、……そこに……いるの?」
(……いる! 俺は近くにいるぞ、ラキ!)
「ルキに……伝えたいこと……あるん……です」
(わかった! すぐに連れてくる!)
「まって! ……ゴボッ」
痛みと戦い吐血しながらも、ルキのもとへ飛ぼうとする俺を呼び止める。
(ラキ?)
「まに……あわないから……神様に……伝言」
(大丈夫だ! この黒煙なら、あいつらもこっちに向かって来てるはずだ! きっと間に合う!)
俺は、ラキが伝えたかったことを、直接ルキの前で伝えさせてあげたかった。
伝えられない“後悔”を、俺は何よりも痛感していたから。
だが、時間とは無常にも過ぎていくもの——。
「お願い……します——」
(ラキ⁉︎)
やがて、瞼を下ろしていくラキ——。
「……神……様」
(……いやだ)
徐々に鳴りを潜める彼女の光——。
「……」
ラキの命は、ここに潰えた。
(いかないでくれ……)
俺は彼女の死に顔を見つめながら、再びあの時の胸の痛みと戦っていた。
(……母さん)
——そして、少し遅れて、マルクたちが駆けつける。
「——姉ちゃん? そんな……姉ちゃぁん!」
全てが終わってしまった村には、絶望を目の当たりにしたルキの叫び声が、いつまでも響き渡るのだった。
* * *
——それから、翌日。
村に残っていたのは、いくつも並ぶ墓標だけだった。
燃え盛る村へと駆けつけたマルクたちだったが、盗賊をすべて片付けた頃には——ラキを含む村人たちは、皆殺しにされてしまっていたのだ。
そして、姉の墓の前で立ち尽くすルキ。
その背中にかける言葉を、俺は見つけられなかった。
……ごめんな、ルキ。
俺のせいなんだ。
全部、俺が招いた結果だ。
ラキを死に追いやり、最後の言葉すらルキに伝えることができなかった。
それに——。
ここでラキが死に、村が滅ぶ物語を作ったのは他でもない、この俺だ。
本当は、ラキがここで死ぬことをわかっていた。
変えようのない物語で、全て無駄な努力になるかもしれないとも、心のどこかではわかっていたんだ。
それでも俺は、ラキを。
俺の話を、疑わずに笑って聞いてくれた彼女を——。
救いたかった。
どうして俺は、こんな物語を書いたんだ?
人が死ねば、別れがあれば、それだけで感動してもらえると思ってたのか?
ちっとも面白くなんかない。
感動なんかない。
そんな物語にされた人間の気持ちなんて、考えたこともなかった。
……ひとつ、わかったかもしれない。
俺は、人の気持ちを考えることができないんだ。
いつも誰かとぶつかってきたし、自分の感情ばかりを優先させていた。
ラキのことだってそうだ——。
最後の最後まで、俺は彼女の気持ちを無下にした。
もう時間がないってあの時わかっていたのに、最後の願いくらいちゃんと聞くべきだった。
伝言でも何でも、彼女の気持ちをルキに伝えるべきだったのに、俺は最後まで自分の選択だけを優先してしまった。
でも、全部遅かった。
こんな俺が、人を感動させる物語なんて描けるわけがない。
どうして俺は、誰かを失わないと何も気づけないのだろう。
怖がらせて、傷つけて、命まで落として、それでもまた——大切な人を、失ってしまった。
(ラキ……)
もう一度、君に会いたい。
君は俺を、受け入れてくれた。
もう一度だけでいい。
君の笑顔を。
(……もう一度)
俺は何度も心の中で、“ラキ”の名前を呼んでいた。
すると——。
ポンッ!!!
突然、何かが生まれるような音がした。
『——呼びましたか?』
目も耳も、何もかもを疑った。
目の前に出てきたのは——ラキ。
(え?)
『今、私の名前呼びましたよね? 神様』
(呼んだけど……ええ?)
『やっぱり! やっと会えましたね! 神様!』
えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!
どうなってんだぁぁぁ⁉︎
死んだはずのラキが、確かに目の前にいる。
なんで……なんでラキが……。
彼女はあの墓の下に、確かに埋められていたはずだ。
(ラキ……お前、死んだんじゃなかったのか?)
『はい。確かに死にました——』
『ですが、死んでからしばらくその辺を飛んでいた時に……神様の呼ぶ声にだけは応えることができて——出てこれちゃいました! ……へへ』
(なんだと……!)
出てこれちゃいましたじゃねえよ!
俺がどれだけラキのことを心配したと……!
ん? ……待てよ。
(ラキ、お前いつから近くにいたんだ?)
『確か神様が……“もう一度君に会いたい。……君は俺を——”のところから……』
(こらぁぁぁ! いたんなら早く出てこんかい!)
『えへへ……私がいなくなって寂しかったですか?』
俺はニヤニヤしているラキを見て、声を怒らせていた。
だけど——。
(ふんっ! 神様は忙しいからな。……もう次のことを考えていたところだ)
だけど、内心は……嬉しかった——。
(でも……どうして)
俺と同じく神様ポジションになったのか。
それとも、成仏できない幽霊のような存在なのか。
どういうわけでラキが“復活”に至ったのかは、まだわからない。
だが。
辛い出来事に一度は絶望し、それでもアリヴェルの復興を目指す一人として戦っていかなければならない俺は確かに——。
彼女の笑顔に、再び救われた。
(……さて。やることは山積みだな)
『こうして会えて私、うれしいです! 神様!』
隣で満面の笑みを見せるラキ。
胸につっかえていたあの痛みがいつの間にか和らいでいたことに、この時の俺はまだ——気づいていなかった。
なんとびっくり!
死んでしまったラキが謎の復活をとげ、神様のヒロインとして登場した回となりました。
どうでもいいですが表紙イメージの女の子は実はラキでした笑
今後はヒロインのラキを含めた楽しくもちょっと切ない旅が始まりますので、この先も彼らを追っていただけたら嬉しいです!
第一章は、
“異なる世界と共に”始まります!
5〜13話の構成になっていて、主人公が抱く様々な葛藤を元についに目的を定め、ラキと共にそれを目指していく物語になっております。
続いてのご愛読お待ちしておりますm(_ _)m
白銀鏡でした。
序章 〜笑顔と共に〜 完結




