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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第40話 嵐を呼ぶペスト

己の想いを吐露するペスト。

里のど真ん中で追い詰められた彼は、一体どうなるのでしょうか。


嵐を呼ぶペスト

 ナギ——。


 カームの妻であり、帝国の手によって無惨な姿へと変えられた、風の里の悲しき犠牲者。


 その名を口にしたペストは、血が滲むほど強く拳を握りしめていた。


「本当に、お優しい方だった……」


 噛みしめるように、静かに言葉を紡いでいく。


「そんな彼女の光を——帝国は奪った」


 語られる忌まわしき過去。

 誰もがその悲しみに目を伏せていた。


「皆、辛かったはずだ……それなのに」


 血の滲む拳を震わせ、やがて彼は声を荒げる。


「お前たちは戦おうとしなかった! 最もナギ様を愛していたカーム様——あなたでさえも!」


 皆が胸の奥に押し殺してきた怒りを、ペストだけは今も抱き続けていた。


 すると——。


「それよりも、今まで攫ったみんなはどうしたの⁉︎ 答えてよ、ペスト!」


 その怒りに怯むことなく叫んだのは、エルリアだった。


「エルリア様……」


 しかし彼女へ返されたのは、温もりの欠片もない言葉。


「ナギ様の心を裏切った者に——生きる価値はありません」


「そんな……!」


 ペストの瞳は、暗く澱んでいた。


「高く売らせてもらったよ。皆も知っているだろう? 我々の力を欲する者がいることを」


 怒りに顔を歪ませながらも、口元には笑みを浮かべる。


「なんということだ……」

「ペストさん……嘘だろう」


 明かされた悪魔のような所業。


 そして、民衆がざわめく中——ついに一人の戦士が動き出した。


「ナギ様の件は気の毒でしたが——その他の行動は同情に値しませんね」


 毅然とした表情で、ペストの前へと出るジーン。


 観念したように肩を落とした彼は、ただ目を瞑るのみ。


「ペストの……ばかぁ」


 エルリアは瞳いっぱいに涙を滲ませる。


「ちゃんと罪を償ってください……この子のためにも」


 すすり泣く彼女の頭にそっと触れながら、ルミナは彼に最後の言葉をかける。


 風の里で起きていた、妖魔による誘拐事件。

 それは、里の内部にいた者の仕業だと判明した。


 ギルバディアの戦士の計らいにより、とうとう事件の幕が下ろされようとしていた——その瞬間。


「風よ」


 ペストの足元から突風が巻き上がった。


「やはりそうきますか!」


 皆が目を覆う中、カームを庇うようにして剣を抜くジーン。


「くっ……!」


 砂煙を必死にかき分けながら、辺りを見回すニーテだったが——。


「あいつ……逃げた⁉︎」


 視界が晴れた頃、彼女たちの眼前から敵の姿が消えていた。


 すると——。


(上だ! 上に飛んだぞ!)


 ルミナの耳元に、カガミの声が響く。


「上ねっ!」


 さらに彼女の言葉に反応した一同は、一斉に顔を上げた。


「お前たちに捕まるつもりはない」


 そこには、風の力を纏い、岩壁に佇むペストの姿。


「奥の手は残してある」


 その隙に、彼は高らかに腕を掲げていた。

 まるで、何かの信号を送るように。


「無駄なことを——ここら一帯に、妖魔の影はありません」


 ジーンが言い放つが、それでもペストは腕輪を振る。


 だが、妖魔を呼び出す例の魔具など、肝心の妖魔がいないと意味がないと、誰もが理解していた。


「観念なさい! すぐに私が撃ち落としてやるわ!」


 手のひらにマナを込めたニーテは、標的へと狙いを定めている。


 しかし——。


「馬鹿め……負けるのはお前たちだ」


「なんですって……!」


 四面楚歌の中、彼の表情にはまだ余裕が残っていた。


「残念でしたね……族長」


「何?」


 その不気味な笑みは、カームへと向けられる。


 そして——。


「あなたが里に作った——闇(・)のせいですよ」


 意味深な言葉と同時に、里の裏手から破裂音が響いた。


「爆発⁉︎」

(いや……これは、建物が崩れ去った音のようだ)


 さらに響く不可解な地鳴りに皆が振り返る。


 すると、腕輪を振り続けるペストが、冷たく声を落とした。


「無風の刑を言い渡されたエルリア様を——私がなぜ守ったと思う?」


 里の裏手にある木造の部屋にて行われる、無風の刑。


 力を誇示する者を戒めるため、風と光を断つ——里の闇とも言える牢。


(あの野郎……)

「まさか、あそこに……」


 二人は気づいた。


 その破壊音は、何者かが無風の牢を破った音なのだと。

 あの時エルリアを庇った彼の行動は、決して優しさからくるものではなかったのだと。


「そう。私は無風の牢に隠していたのだ——見られたくなかった兵力(妖魔)を」


 言葉を終え、ペストはゆっくりと腕を下ろす。


 だが、もう遅かった。


 その破壊がもたらす地鳴りは——すでに風の里へと、足を踏み入れていたのだ。


「妖魔だぁぁぁ‼︎」


 突如上がった叫び声に、民たちが振り返る。


 里の裏手から土煙を巻き上げ、異形の影が次々となだれ込んできた。


 無風の牢から解き放たれた——妖魔の群れだった。


「みんな、逃げろ!」

「こいつら、なんで⁉︎」

 

 一匹、また一匹と、里の裏口を塞ぐように踏み込んでくる悪魔たち。


 その巨体を前に、誰もが逃げ惑い、顔を恐怖に歪ませる。


「ぐぁ……!」

「あ、あんた!」


 やがて人々が混乱する中、一人の男の身が大きな手に捕らわれた。


「うぐぐ……!」

「いやぁぁぁ!」


 身動きの取れない獲物を前に、鋭い牙の並ぶ大きな口が、ゆっくりと開かれていく。


 女の瞳に、男の最期が映ろうとした——その時。


「止まりなさい!」


 悲鳴の向こうから、一筋の閃光が走る。

 さらに一人の戦士が光と共に飛び込んだ。


「……グッ……ガァァァ!」


 雷撃を浴び、体を硬直させた妖魔の首が切り落とされる。


「まずは一匹——」


 血飛沫の中へ着地し、敵の死を確認したジーンは振り返り、声を張り上げた。


「あなた方は、上へと逃げてください!」


「こいつらは私たちで何とかしますから! みんなも早く——!」


 手のひらへとマナを込め直すニーテ。


 そして彼らは、再び動き出した。


「そうだ。高いところに逃げよう!」

「わかった……それならあそこ!」


 風を纏い、次々と岩壁を飛び登る風の民。

 妖魔すら手の届かない高みを目指して。


「カームさん!」


 エルリアの肩を抱き寄せていたルミナは、その小さな体をカームの元へと預け、ようやく戦場へと足を向けた。


「エルリアをお願い! それと——さっきはあんなことを言って、ごめんなさい」


「……いいんだ。すべては私のせい——」


 肩を落としていたカームは、エルリアを見つめる。


「エルリア……行こう」


「うん」


 伏せていた顔を上げた彼は、その小さな手を引いて歩き出した。


「ナギ様の痛み……思い知れ」


 ——その一方で、逃げ惑うかつての同志たちを眺めながら、呪いの言葉を吐くペスト。


「お前達には、当然の報いだ」


 里に嵐を巻き起こした彼は、やがてその場を後にした。


「くっ……!」


 その背をキッと睨みながらも、再び彼に背を向けるルミナ。


「行くわよ、カガミ!」

(ああ。いつでも来い!)


 今優先すべきは、危険にさらされた民たちの安全。

 歯がゆい気持ちを押し殺し、目の前の敵へと集中する。


 しかし——。


「ペスト……許さない!」


 混乱に乗じて逃げ出そうとするペストの背中を、エルリアはただ一人、ジッと見つめていた。

無風の牢を利用して、ペストは妖魔を管理していたのです。

悪人となってしまいましたが、彼からすればただナギを想っていただけなのでしょう。

同情に値しませんが


てなわけで!こっからはバトルパートが続きます!

風と共に編。ラストまで、どうぞご覧ください。


お次は火曜日〜

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