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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第39話 ナギの無念

風の里の滞在も残りわずか。

しかし、ルミナとカガミは、何かに気づいたようです。

この回にて全てが明かされます。


ナギの無念


どうぞ。

 ——半日が経ち、迎えたのは六日目の朝。


 里の裏手には、窓一つない古びた掘っ立て小屋が建っていた。


 風を通さぬよう、隙間なく閉ざされたその小屋は、無風の刑を執行するための部屋である。


 戦うことを望む者がいなくなった今では、滅多に使われることがない暗闇の牢。


 だがこの日、固く閉ざされていたその扉は、悲しくも開かれてしまった。


「そろそろだな」

「いつもよりは短かったけど、これで何度目だろう……」


 ——少し離れた場所で、二人の見張りが言葉を交わす。


 やがて見えてきたのは、十二時間に及ぶ刑を終え、久方ぶりの風を全身に浴びるペストの姿だった。


「お勤めご苦労様です! 大丈夫ですか? これを」


 見張りの一人が駆け寄り、杯を差し出す。


 ペストはそれを受け取ると、中の水を一気に喉へ流し込んだ。


「ふぅ……ありがとう」


 乾ききった体に冷たい水が染み渡っていく。


 すると彼はすぐに扉へ振り返り、木製の閂を横へ滑らせた。


 ゴトリと鈍い音を響かせながら——。


「さあ、行こう。カーム様の元へ」


 そして、その扉が固く閉ざされたことを確かめたペストは、何事もなかったように里へと歩き出すのだった。


* * *


 ——風の里。


「ペストさん!」

「お帰りなさい!」


 安堵の空気がペストを包む。


 生還した彼を迎えるべく、里のほとんどのものが早朝から顔を出していた。


「皆……心配をかけた」


 丁寧に挨拶を交わしていくペスト。


 やがて彼は、その中心に立ち尽くすある男の元へと歩み寄った。


「カーム様。無風の刑——ただいま終えました」


 首を垂れるその姿に、顔を顰めるカーム。


 怒りなどではない何かの感情を、ただひたすらに押し殺していた。


「何も言わないでください。カーム様は族長として——正しい判断を下しただけ」


 しかしペストは、そんな彼を立てるように言葉を添える。


 すべてが終わり、再び穏やかな風が流れようとしていた——その時。


「お待ちください。皆様」


 一つの声が、その場の空気に割って入った。


「ここにいるルミナさんから、報告があります」


 やってきたのは、妖魔退治の依頼を受けた三人の戦士たち。


「報告だって?」

「今頃何を……」


 名乗りを上げたジーンに注目が集まる中、紹介を預ったのはルミナ。


「カームさん」


 その歩を進め、族長の前へと出る。


「私の無責任な行動のせいで、迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした——そして、ペストさんも」


 二人の前で、彼女は深々と頭を下げた。


「……」


「私ならかまわない。エルリア様のことを気にかけてくれて、礼を言う」


 眉を顰めるカームだったが、その横では一人微笑むペストの姿。


 すると——。


「失礼ですが、族長——」


 ルミナは再び視線を戻した。


「あなたの腕を見せてもらえますか?」


「……腕? 何故そんなことを」


 カームをはじめとした風の民たちは、彼女の問いに首を傾げる。


 その戸惑いの視線を受けながら、ルミナは一歩前へ進み出ると、集まった彼らを見渡した。


「皆さん聞いてください。あの日、エルリアをさらった盗賊たちには——協力者がいました」


「協力者……?」

「どういうことだ?」


 突然の報告に、民衆はざわめき立つ。


「彼らは私たちを、ギルバディアの者だと言い当てました。つまりそれは——初めから私たちの来訪を知っていたということ」


 クエストを依頼し、一行をこの地へ招き入れたのは、他でもない里の人間。


 その事実に気づき、民たちは互いに顔を見合わせた。


「まさか、里の中に……?」

「そんなはずは……」


 困惑の声が次第に広がっていく。


 ——そして。


「エルリア」


 ルミナの呼びかけに応じ、一人の少女がその背後から姿を現した。


「その手がかりは、この子が持っていました」


「エルリア……?」


 怯えるように祖父を見つめる、小さな瞳。


 口をつぐんだままの彼女に代わり、ルミナが言葉を続ける。


「袋の中へ押し込まれながらも、エルリアは見たんです——犯人の特徴的な腕を」


 そこまで告げると、ルミナは鋭い視線をカームへ向けた。


「カームさん——その腕、ここで見せてもらえませんか?」


「……何?」


 一瞬、誰もが言葉の意味を理解できずに静まり返る。


 だが、疑いの矛先が敬愛する族長へ向けられたと知った瞬間——民衆の怒りが爆発した。


「ふざけるな!」

「よそ者の分際で!」

「カーム様を疑うつもりか⁉︎」


 嵐のような怒号がルミナへ浴びせられる。


「貴様……!」


 その光景を見ていたペストの表情も、鬼の形相へと変わっていた。


「これ以上、カーム様を侮辱することは許さんぞ!」


 身を乗り出し、ルミナへと詰め寄っていく。


 だが、彼女はひるまない。


 背後に立つ二人の戦士と共に、ただまっすぐとカームを見つめていた。


 ——すると、民衆の怒りに包まれながら沈黙していたカームが、ゆっくりと両袖をまくり上げる。


「……これで良いかな?」


 静まり返る一同。

 民の視線が、恐る恐るその両腕へと集められる。


 しかし——。


「違う……おじいちゃんじゃない」


 エルリアは首を振っていた。


 彼女が見た祖父の腕は、犯人のものとは似ても似つかぬもの。


「当然だ!」

「仲間を売るような者など、この里にはいない!」


 その反応に再び湧き上がる風の民。

 

「ふっ……」


 族長への疑いが晴れ、安堵と怒りが入り混じる中、ペストは一人、笑みを浮かべていた。


「見ろ! 腕には何もつ(・)け(・)て(・)い(・)な(・)い(・)ではないか!」


 見当外れな推理を嘲る声に、里の者たちも同調していく。


「やはりお前たちは悪魔だ!」

「そうだ!」


 ——だが、飛び交う怒号の中で放った彼の言葉を、ルミナは聞き逃さなかった。


「私は“特徴的な腕”と言っただけよ」


 ペストの笑みが止まる。


「何かをつけていたなんて、一言も言ってないわ」


「……っ!」


 その途端、彼の背筋に冷たいものが走った。


「もしかして、あなたは知っていたの? 犯人が腕に何かをつけていたことを」


 さらに一歩近づくルミナに、ペストは思わず後ずさる。

 飛び交っていた怒号も、いつの間にか鳴りを潜めていた。

 

 そして、里の者たちの視線が二人へと集まった——その瞬間。


「例えば——こんなものとか!」


 ルミナが彼の腕を掴むと、その袖を一気にまくり上げた。


「あっ! そ、それ……」


 あらわになった腕につけていたのは——漆黒の腕輪。


「私が見た、黒い腕輪……!」


 ビクリと反応したエルリアが指をさす。


 やがて、腕輪に釘づけになったその瞳を、震え上がらせた。


「ち、違う! これは……ただの私物だ!」


 ルミナの手を振りほどき、慌てて腕を隠すペスト。

 しかし、怯えるエルリアを見た彼らの視線には、すでに疑いが混じり始めていた。


「カーム様、エルリアさん。こちらへ」


 ジーンが二人を後方へと促す。


「まさか……本当にこの人が——」


 ニーテもまた、戸惑いを隠せないまま魔導書を構えた。


「カーム様! エルリア様! こんなよそ者の言葉を信じてはいけません!」


 離れていく二人に、必死に訴えるペスト。

 だが——。


「残念ね。私は、妖魔を操るその道具を見たことがあるの」


 ルミナがすぐさま切り捨てる。


「くっ……貴様!」


 みるみる焦りをあらわにするペスト。

 もはや、彼のクロは明白だった。


(あの時感じた気配の正体は——やはりこの男だったようだな)


 ルミナの中に響く声。


 彼女がすべてを確信していたのは、人知れず彼らを見守っていたカガミの存在があったからだ。


「自分から口を滑らせてくれるなんてね」

(うまくいったな)


 芝居を終えた彼女は、男の内に靡く光を睨み据える。


 すると——。


「ペストよ……」


 口を閉ざし、俯いてしまったペストに、そっと声がかけられた。


「お前……なぜ、こんなことを——」


 カームだった。

 いや、彼だけではない。


「……嘘だろ」

「まさか、ペストさんが……」


 おぞましく輝く腕輪に、肩を震わせるエルリア。


 出揃った証拠を前に、皆が抱いていたのは、怒りではなく悲しみだった。


「ペストよ……正直に答えてくれ。これまで攫われた者たちも、すべて——」


 責めるわけでもなく、静かに言葉を待つカーム。


 これまで信じていた者が、この里に災いをもたらしていた。

 何かの間違いであってほしいと、里の皆がペストを見つめる。


 しかし——。


「カーム様」


 重い沈黙の中、ペストが顔を上げる。

 そこに浮かぶのは、皆と同じ悲しみではなかった。


「あなたが……いや、ここにいる全員が——」


 青筋を立てた顔を、醜く歪ませる。


「ナギ様の無念を、踏みにじったからですよ」


 それは、愛する者を想うあまりの——怒りだった。

なんとなんと!

黒幕は里の中にいた重鎮ペストでした。

風の民たちにとっては、なんと悲しいことでしょう……。

そしてついに、決着の時……?


お次は金曜日!

お待ちしてます!

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