第35話 奪われた光
お待たせしました。
明かすことができなかった世界の一部を、風の里の歴史と共にお見せします。
⚠️微グロ注意⚠️
奪われた光
どうぞ。
瞳や髪の色が異なる者、人とは変わった力や特徴を持つ者。
今でこそ知る者は少ないが、この大陸に暮らすほとんどの人々には、かつて海を渡ってきた様々な種族の血が混ざり合っている。
癒しの力に長けたエルフ族。
天翔ける翼を持つ竜族。
そして、この大陸に魔法を伝えたとされる女神族なども、その一つだった。
これは、その中でも不思議な力を持つ、ある一族が背負った闇——。
海を越え、この地へとやってきたその一族は、マナという光を豊富に宿し、それを視認できる緑色に輝く瞳を持っていた。
“風の民”と名乗る彼らは、至って温厚な種族だったが——その特殊な力はやはり、恐れの対象となってしまった。
「この大陸の人間からすれば、我々は悪魔のように見えるのだろう——仕方のないことだ」
それでも、不必要な争いを避け、ただ平穏に暮らすことだけを望む風の民。
それが、当時の族長の意向でもあった。
だが、そんな彼らにも戦わなければならない時があった。
妖魔という異質な存在が、この大陸に蔓延っていたためである。
どこからともなく湧き出し、人も土地も見境なく襲いかかってくる本物の悪魔。
強力な風魔法を扱うことができた風の民は、時にはそれらを退けながらも、平和な暮らしを守り続けていた。
——しかし。
「くくく……なんと面白い種族だ」
やがて、その力に目をつける者たちが現れた。
非道な手段を用い、妖魔すらもその支配下に置いた“悪魔の軍団”。
それが、旧帝国軍である。
* * *
「半妖って……私たちが知ってるものとは、少し違うようですね」
ニーテが思い浮かべたのは、帝国軍が用いる、あの人造兵器。
「その言葉は本来、異国民族との交わりによって生まれた——特殊な力を持つ者たちに使われていたんだ」
かつて差別的な扱いを受けていたにもかかわらず、ソヨは穏やかな口調で語っていた。
しかし、その傍らで、ルミナは強く拳を握る。
「力があると知れば、すぐにそれを求める——そういうところは、昔も変わってないのね」
重い宿命を背負う彼女だからこそ、他人事とは思えない悲しみの数々。
帝国の横行に、内なる怒りを燃やしていた。
すると。
「ソヨおばさん」
不安そうに揺れる——緑色の小さな瞳。
「風の民は……やられちゃったりしないよね?」
先祖たちに迫った危機を聞いて、エルリアの胸は不安でいっぱいになっていた。
「もちろん、私たちはやられてなんかいないさ。なんたって風の民は——みんな強かったからね」
力強く微笑むソヨ。
だが——その笑みは、すぐに消える。
細めていた瞳を伏せ、彼女は静かに呟いた。
「でもね……その“強さ”ってのが、問題だったんだよ」
* * *
力を求めた旧帝国軍は、風の民へと、武力を背景とした圧力をかけていた。
しかし、彼らはそれに応じない。
やがて両者の対立は激しさを増し——ついには戦いへと発展する。
だが、その結果は——。
「——さて、どうする? 帝国のお人よ」
空気を制圧し、空を支配する風の民たち。
緑色の鋭い眼光が、妖魔を率いる軍団へと降り注いでいた。
「くっ——この悪魔どもめ!」
特別な力が生み出す、歴然たる戦力差。
数ばかりの帝国軍など、まるで相手にならなかった。
「仕方がない……退却だ!」
「賢明だ」
——こうして風の民は、帝国の力に屈することなく、自らの故郷を守り抜いた。
それ以来、彼らに手を出す者はいなくなり、風の里には再び平和な日々が訪れる。
だが。
数年が経った、ある日のことだった。
若かりし頃のカームが、里の男たちを引き連れ、集団で狩りに出ていた——その時。
「大変です! 若様! 風の里が——!」
「なんだと……皆の者、急げ!」
里から届いた凶報を耳にするや否や、一行は急いで帰路につく。
しかし、すべては遅かった。
「——くそっ! 一体、誰がこんなことを……!」
カームが戻った頃、その眼前に広がっていたのは、破壊し尽くされた家々と、辺りに倒れる多くの負傷者たち。
そんな惨状の中、一人の青年が彼の元へと駆け寄ってきた。
「カーム様……ナギ様、ナギ様がぁぁぁ!」
「ペスト! ナギがどうしたというのだ⁉︎」
その場に泣き崩れる青年の名はペスト。
彼の話によれば、突如現れた黒甲冑の者たちによって、里の多くの女子供が連れ去られたという。
そして、その中にはカームの妻であるナギの姿もあった。
「まさか——」
そう。
里を襲ったのは、あの日以来、影も形も見せなかった帝国軍。
敗北を喫してなお、彼らは風の民が持つ特別な力を諦めてはいなかった。
その力に執着し続け、水面下で風の里へ奇襲をかける機会を窺っていたのだ。
「帝国め……!」
——それからというもの、風の民は恐怖の日々を過ごすことになる。
時折姿を現す帝国軍を撃退しながら、雲を掴むような思いで捜索隊を送り出し、攫われた仲間を探し続ける毎日。
「ナギよ……どうか、生きていてくれ」
族長カームの妻であり、皆からも母のように慕われていたナギ。
たとえ望みが限りなく薄くとも、心をすり減らしながらも、里の誰もが彼女の生還を願っていた。
そしてついに——彼らの願いが届く日がやってきた。
カームの妻ナギが、生きて発見されたのである。
捜索隊からの報告によれば、命からがら逃げ出した彼女は、里から離れた北の雪山に倒れていたとのこと。
その吉報を聞き、カームはすぐさま彼女の元へと駆けつけた。
「ナギ!」
自宅へと飛び込む彼が見たのは、世話係たちに囲まれ、静かに横たわる妻の姿。
その声を聞いた彼女は——むくりと体を起こした。
「この声は……カーム? カームなの⁉︎」
声のする方へ顔を向けるナギ。
その顔には痛々しく包帯が巻かれていた。
「ナギ……生きていてくれて、本当によかった」
しかし、それはカームにとって関係のないこと。
どれほど傷ついても。
どれほど酷い怪我をしていようとも。
ただ、生きて帰ってきてくれた。
それだけで、もう何もいらなかった。
やがてカームは、震える妻の肩をそっと抱き寄せようとする。
その時——。
緩んでいた包帯が、するりと解けた。
「……っ!」
そして、露わになった妻の顔を見て、カームは言葉を失う。
「うっ……うぅ……」
静まり返った部屋に、ただ虚しく響く泣き声。
「ナギ……お前——」
あるはずのものが、そこにはなかった。
かつて緑色に輝いていたそれは失われ、残されていたのは——吸い込まれるように窪んだ、深い闇。
カームの目の前にいたのは、緑色の瞳をくり抜かれた——愛する妻の姿だった。
人とは違う種族や力は、時には狙われ疎まれる。
私たちが生きている世界と何ら変わりはない。
悪魔のような心はどこにでも存在するものです。
お次は火曜日。
もう少し続きます。




