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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第35話 奪われた光

お待たせしました。

明かすことができなかった世界の一部を、風の里の歴史と共にお見せします。


⚠️微グロ注意⚠️


奪われた光


どうぞ。

 瞳や髪の色が異なる者、人とは変わった力や特徴を持つ者。


 今でこそ知る者は少ないが、この大陸に暮らすほとんどの人々には、かつて海を渡ってきた様々な種族の血が混ざり合っている。


 癒しの力に長けたエルフ族。

 天翔ける翼を持つ竜族。

 そして、この大陸に魔法を伝えたとされる女神族なども、その一つだった。


 これは、その中でも不思議な力を持つ、ある一族が背負った闇——。


 海を越え、この地へとやってきたその一族は、マナという光を豊富に宿し、それを視認できる緑色に輝く瞳を持っていた。


 “風の民”と名乗る彼らは、至って温厚な種族だったが——その特殊な力はやはり、恐れの対象となってしまった。


「この大陸の人間からすれば、我々は悪魔のように見えるのだろう——仕方のないことだ」


 それでも、不必要な争いを避け、ただ平穏に暮らすことだけを望む風の民。

 それが、当時の族長の意向でもあった。


 だが、そんな彼らにも戦わなければならない時があった。


 妖魔という異質な存在が、この大陸に蔓延っていたためである。


 どこからともなく湧き出し、人も土地も見境なく襲いかかってくる本物の悪魔。

 強力な風魔法を扱うことができた風の民は、時にはそれらを退けながらも、平和な暮らしを守り続けていた。


 ——しかし。


「くくく……なんと面白い種族だ」


 やがて、その力に目をつける者たちが現れた。


 非道な手段を用い、妖魔すらもその支配下に置いた“悪魔の軍団”。


 それが、旧帝国軍である。


* * *


「半妖って……私たちが知ってるものとは、少し違うようですね」


 ニーテが思い浮かべたのは、帝国軍が用いる、あの人造兵器。


「その言葉は本来、異国民族との交わりによって生まれた——特殊な力を持つ者たちに使われていたんだ」


 かつて差別的な扱いを受けていたにもかかわらず、ソヨは穏やかな口調で語っていた。


 しかし、その傍らで、ルミナは強く拳を握る。


「力があると知れば、すぐにそれを求める——そういうところは、昔も変わってないのね」


 重い宿命を背負う彼女だからこそ、他人事とは思えない悲しみの数々。

 帝国の横行に、内なる怒りを燃やしていた。


 すると。


「ソヨおばさん」

 

 不安そうに揺れる——緑色の小さな瞳。


「風の民は……やられちゃったりしないよね?」


 先祖たちに迫った危機を聞いて、エルリアの胸は不安でいっぱいになっていた。


「もちろん、私たちはやられてなんかいないさ。なんたって風の民は——みんな強かったからね」


 力強く微笑むソヨ。

 だが——その笑みは、すぐに消える。


 細めていた瞳を伏せ、彼女は静かに呟いた。


「でもね……その“強さ”ってのが、問題だったんだよ」


* * *


 力を求めた旧帝国軍は、風の民へと、武力を背景とした圧力をかけていた。


 しかし、彼らはそれに応じない。

 やがて両者の対立は激しさを増し——ついには戦いへと発展する。


 だが、その結果は——。


「——さて、どうする? 帝国のお人よ」


 空気を制圧し、空を支配する風の民たち。


 緑色の鋭い眼光が、妖魔を率いる軍団へと降り注いでいた。


「くっ——この悪魔どもめ!」


 特別な力が生み出す、歴然たる戦力差。

 数ばかりの帝国軍など、まるで相手にならなかった。


「仕方がない……退却だ!」


「賢明だ」


 ——こうして風の民は、帝国の力に屈することなく、自らの故郷を守り抜いた。


 それ以来、彼らに手を出す者はいなくなり、風の里には再び平和な日々が訪れる。


 だが。


 数年が経った、ある日のことだった。


 若かりし頃のカームが、里の男たちを引き連れ、集団で狩りに出ていた——その時。


「大変です! 若様! 風の里が——!」


「なんだと……皆の者、急げ!」


 里から届いた凶報を耳にするや否や、一行は急いで帰路につく。


 しかし、すべては遅かった。


「——くそっ! 一体、誰がこんなことを……!」


 カームが戻った頃、その眼前に広がっていたのは、破壊し尽くされた家々と、辺りに倒れる多くの負傷者たち。


 そんな惨状の中、一人の青年が彼の元へと駆け寄ってきた。


「カーム様……ナギ様、ナギ様がぁぁぁ!」


「ペスト! ナギがどうしたというのだ⁉︎」


 その場に泣き崩れる青年の名はペスト。


 彼の話によれば、突如現れた黒甲冑の者たちによって、里の多くの女子供が連れ去られたという。


 そして、その中にはカームの妻であるナギの姿もあった。


「まさか——」


 そう。

 里を襲ったのは、あの日以来、影も形も見せなかった帝国軍。


 敗北を喫してなお、彼らは風の民が持つ特別な力を諦めてはいなかった。


 その力に執着し続け、水面下で風の里へ奇襲をかける機会を窺っていたのだ。


「帝国め……!」


 ——それからというもの、風の民は恐怖の日々を過ごすことになる。


 時折姿を現す帝国軍を撃退しながら、雲を掴むような思いで捜索隊を送り出し、攫われた仲間を探し続ける毎日。


「ナギよ……どうか、生きていてくれ」


 族長カームの妻であり、皆からも母のように慕われていたナギ。


 たとえ望みが限りなく薄くとも、心をすり減らしながらも、里の誰もが彼女の生還を願っていた。


 そしてついに——彼らの願いが届く日がやってきた。


 カームの妻ナギが、生きて発見されたのである。


 捜索隊からの報告によれば、命からがら逃げ出した彼女は、里から離れた北の雪山に倒れていたとのこと。


 その吉報を聞き、カームはすぐさま彼女の元へと駆けつけた。


「ナギ!」


 自宅へと飛び込む彼が見たのは、世話係たちに囲まれ、静かに横たわる妻の姿。


 その声を聞いた彼女は——むくりと体を起こした。


「この声は……カーム? カームなの⁉︎」


 声のする方へ顔を向けるナギ。

 その顔には痛々しく包帯が巻かれていた。


「ナギ……生きていてくれて、本当によかった」


 しかし、それはカームにとって関係のないこと。


 どれほど傷ついても。

 どれほど酷い怪我をしていようとも。


 ただ、生きて帰ってきてくれた。

 それだけで、もう何もいらなかった。


 やがてカームは、震える妻の肩をそっと抱き寄せようとする。


 その時——。


 緩んでいた包帯が、するりと解けた。


「……っ!」


 そして、露わになった妻の顔を見て、カームは言葉を失う。


「うっ……うぅ……」


 静まり返った部屋に、ただ虚しく響く泣き声。


「ナギ……お前——」


 あるはずのものが、そこにはなかった。


 かつて緑色に輝いていたそ(・)れ(・)は失われ、残されていたのは——吸い込まれるように窪んだ、深い闇。


 カームの目の前にいたのは、緑色の瞳をくり抜かれた——愛する妻の姿だった。

人とは違う種族や力は、時には狙われ疎まれる。

私たちが生きている世界と何ら変わりはない。

悪魔のような心はどこにでも存在するものです。


お次は火曜日。

もう少し続きます。

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