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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第33話 鏡のみぞ知る怒り

五日目の滞在。

恐れを持つ彼らの瞳の色も、徐々に変わっていくのですが、ついに彼の逆鱗に触れてしまいました。


鏡のみぞ知る怒り


どうぞ。

 風の里滞在、五日目。


 一匹の妖魔を退治したきり、里には大した危機も訪れず、皆の心も徐々に元の平和な暮らしへと戻ろうとしていた。


「カガミ——もっとマナを送れないの?」


(むむむ……)


 辺りは夕暮れ。


 門番を任され、再び二心同体のマナ融合を試みていたルミナとカガミは、いまいち煮え切らない成果に四苦八苦していた。


(体はちゃんと任せてるんだけどな……肝心のマナだけを渡すってのが、どうにも難しい)


 夢中になり、その体を酷使していく二人。


(すまない……また俺が、足を引っ張ってしまって——)


 いつにも増して気弱な声が脳内に響く。


「仕方がないわ。別に今は急ぐことでもないんだし、ゆっくりやりましょう」


 いちいち目くじらを立てることもなく、ルミナは優しい言葉を掛ける。


 すると——。


「……あっ、そろそろ帰ってきたみたい」


 独り言のように会話をしていた矢先、谷へと続く道から、一人、また一人と里人が姿を見せ始めた。


(もうこんな時間か——ルミナぁ……隠れるのも面倒だし、この状態のまま休んでてもいいか?)


 彼(・)ら(・)の瞳がマナを視認できることを知ってしまったカガミは、彼女の中から呟く。


「いいけど、うっかり変なこと考えないでよね」


(大丈夫だよ——そんじゃ)


 かくして彼の滞在を許したルミナ。


 その思考が眠るように鎮まる中、里へと帰ってきた人々が次々と横切っていく。


「ただいま戻りました」


 そして、その最後尾に見えてきたのは、二人の護衛役。


「ルミナさんの方は、いかがでしたか?」


「里の方は平和そのもの。妖魔の“よ”の字もないわ。そっちは——?」


 ジーンの問いに首を振るルミナだったが、ニーテもすぐに同じ反応を見せる。


「活動範囲を広げているのですが、こっちも全くです。やはり犯人は逃げたのでしょうか……」


 今日もまた思うような成果を得られず、どんよりとした様子で呟くニーテ。


 そんな彼女の肩に、ジーンは優しく手を置いた。


「気に病むことはありません。結果的にこの里が平和になれば、それでいいじゃありませんか」


「ジーンさん……ありがとうございます」


 ニーテは少し微笑み、気持ちを切り替える。


 やがて三人は、再び里の方へと足を運んでいくのだった。


* * *

 

「わぁ! ブルーベリーがこんなに!」


 妖魔が現れて以降、採取もままならなかった山菜や薬草の数々。


 それだけに彼らは、ここ数日の調達ぶりに胸を高鳴らせていた。


「今日もずいぶんと採れたな」


 地面いっぱいに広げられた食材を選別しながら、横目でギルバディアの戦士たちを見つめる。


「あの人たちの、おかげだな」

「本当に……悪魔なのだろうか」


 その瞳には未だ警戒の色が残っていたが、これまで教えられてきた外への認識を疑い始める者も、確かに現れていた。


「また見てますよ……得意の視力があれば、悪魔かどうかの見分けぐらい簡単につくでしょうに」


「何——私たちはただ、尽くすのみです」


 半信半疑の視線に気づきながらも、相変わらず縮まらない彼らとの距離に不満を漏らすニーテ。


 すると——。


「——ルミナ殿! ルミナ殿はおられるか⁉︎」


 突然、里を包み込むような怒号が響き渡った。


「えっ? 私⁉︎」


 その声に振り返ると、そこには鬼の形相をしたカームの姿。


「お主は、なんてことを——!」


「何のこと……エルリア?」


 彼の後ろには、腕を引かれてやってきたエルリアが、小さな体を震わせていた。


「なぜこの子に、戦う術など与えた⁉︎」


 怒りの正体。


 それは、ルミナが教えた——風の刃の術だった。


「最近こそこそしていると思って問い詰めてみれば、お主がこの子に——良からぬ技を教えたそうだな?」


「それは……」


 ルミナは俯き、言葉を詰まらせる。


 するとエルリアが、鋭い視線を向ける祖父の前へと飛び出した。


「違うのおじいちゃん! ルミナは悪くないの!」


 震える両手を広げる。


「私がルミナに、“戦いたい”って言ったの! だって、里のみんなが危険な目にあって、何もしないなんて嫌だもん——」


 そして、緑色の瞳を真っ直ぐ向け、言い放った。


「それに、里の外のことだって——私、この目で見てみたい!」


 孫娘の口から飛び出したその言葉に、カームは思わず息を呑む。


「……エルリア。お前——」


 掟に背き、あまつさえ彼女が望むのは、危険に満ちた外の世界。


 真っ赤に紅潮していた顔は、みるみるうちに青ざめていった。


「そんな恐ろしいことを考えていたのか……この大陸には、悪魔のような人間がたくさんいるんだぞ」


「そんなことない! 外の世界には、きっとルミナたちみたいに、いい人だっていっぱいいるよ!」


 風の里に吹き渡る、自由への叫び。


 その想いは、周囲の里人たちの心にも僅かに吹き込んでいく。


 しかし——それでもカームは、動じなかった。


「何を言おうが、里の掟に背くことはこのわしが許さん! 戦うことも、里の外に出ることもだ!」


 何も言えず、唇を噛み締めるエルリア。


 掟という枷で自由を奪おうとする祖父に、憎しみすら覚えていた。


 ——すると。


「なぜだ……」


 不意に、ルミナの口から言葉が漏れる。


「なぜ、この子の言うことを、ちゃんと聞いてあげないんだ?」


(……えっ?)


 しかし、当のルミナは戸惑っていた。


 そう——それは、彼女の意思で発した言葉ではない。


 体の中に眠っていた、もう一つの魂——カガミのものだった。


「ルミナ殿……一体何が言いたい?」


(わ、私じゃないのに……!)


 自分の体の中で、必死に声を響かせる。


 だが、彼の心はそれすら届かないほどの昂りを見せていた。


「子供は、お前たち大人の都合のいい道具じゃないんだ——」


 止まらないカガミの叫び。


 そして。


「自分たちの考えを押しつけて、何も知らない子供をこれ以上縛りつけるんじゃない!」


 ルミナの体を通したその言葉が、容赦なくカームへと浴びせられた。


「……」


 里人たちをはじめ、その場にいたジーンやニーテさえも、ぽかんと口を開ける。


 突然豹変したように見える彼女の姿に、誰もが戸惑いを隠せなかった。


(カガミ……あなた、どうしてこんなに)


 その憤りを誰より近くで感じているルミナですら、なぜ彼がここまで怒るのか、その理由まではわからない。


 ——すると。


「……お主の言い分はわかった。だが——」


 歯噛みをしていたカームが、その睨み合いに背を向けた。


「この子の処遇は、里の掟に従って決める」


「待て! まだ話は——」


 まだ何かを言いたげなカ(・)ガ(・)ミ(・)が一歩踏み出すが——。

 

「無用だ。これはこの里の問題——エルリア……わかっているな?」


 有無を言わせぬよう言葉を被せられ、やがてエルリアは観念したように肩を落とす。


 そして——。


「風の掟により、“無風の刑”に処す」


「「「……っ!」」」


 その言葉が落ちた瞬間、場の空気が凍りついた。


 怯えるように俯く者、顔を強張らせる者——誰一人、その口を開こうとしない。


 まるで触れてはならない何かを恐れるように、里人たちは一斉に沈黙を貫いていた。


「なんなのよ……無風の刑って?」


 ただ事ではない彼らの様子を、ニーテは不思議そうに見つめる。


 そこに——。

 

「光も差さない、風も吹かない部屋の中で……ただ丸一日過ごすんだ」


 いつの間にか隣にいたデインが、恐怖に怯えながら彼女の袖を掴んでいた。


「そんなところにいたら、精神を壊しかねない……随分と前に、この刑はなくなったんだけどねぇ」


 さらに、彼の元へと歩み寄ってきた一人の老婆が、その言葉を繋ぐ。


 風と共に生きてきた者にとって、それを失い、暗闇の中で時を過ごすということは、この上ない苦しみ。


 それが——無風の刑だった。


「ジーンさん!」


「可哀想ですが……余所者の私たちには、どうすることもできません」


 必死な声を上げるニーテだったが、ジーンは静かに首を横へ振る。


 そしてエルリアは、族長にいざなわれるまま、その地獄の部屋へと重い足取りで進んでいった。


「エルリア……」

「……なんてことだ」


 まだ年端もいかない一人の少女に、哀れみの視線が集まる。


 その時——。


「いけません、族長!」


 群衆を掻き分けて現れたのは、必死の形相で息を荒らげるペストだった。

掟を破ったエルリアに気づき、激怒するカームでしたが、それは彼だけではありませんでした。

突如カガミが見せた怒りとは一体。


そして駆けつけるペスト。

風の里はこのまま、空中分解していくのでしょうか……?


お次は火曜日!


風の里に起きた悲しみが、ついに明かされていきます。

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