第31話 魔具再来
続く二人の修行。
そんな中現れたのはあの少女。
そして、彼女が知っていた事実が一つありました。
魔具再来
どうぞ。
——翌日。
再び里の門番を引き受けたルミナは、マナ融合の修行に励んでいた。
「はぁぁぁっ!」
(おおっ……!)
手のひらから放たれる火炎。
その身に憑依していたカガミも、彼女と共に魔法の手応えを確かめていた。
(うむ、エルリアの言った通りだ。心の持ちよう一つで、ここまで成果が出るなんて)
「本当ね——ある程度は、私の意思で動けるようになったわ」
転生者のマナを宿しつつも、なんとか体の自由を得るまでに至ったルミナ。
だが——。
「マナ融合は、まだできていないけど……」
いつもと変わらない魔法を放つだけでは、意味がない。
彼らの目標は、二人のマナを共有し、より強大な魔法を放つ——二心同体の技。
完成はまだまだ程遠かった。
——すると。
「今度は火が燃えた! 魔法って、そんなこともできるんだね⁉︎」
いつの間にか顔を出していたエルリアが、鮮やかな魔法の数々に目を輝かせていた。
「エルリア——あなたまさか、ずっとここにいたの?」
「うん。やることなくて退屈だから……見ててもいいでしょう?」
「もう。遊びじゃないんだからね」
呆れた様子を見せるルミナ。
しかし——エルリアの無邪気な笑顔は、やがて暗く沈んでいった。
「ルミナはいいなぁ……私も、ルミナみたいに戦いたい」
風を纏った拳が強く握られる。
「戦うって……あなたはまだ子供じゃない」
「そんなの関係ないよ。いざって時に戦えないと——また、里のみんなが不幸になる」
幼いなりに、里の人々を想ってこその言葉。
決してただの好奇心から出たものではなかった。
すると——ルミナの体に宿っていたカガミが、ふわりと外へ飛び出した。
(何を言ってるんだ? 風の魔法だって、うまく使えば戦えるんだぞ)
「ほんとに⁉︎」
喜びを抑えきれず、彼の方へと顔を向けるエルリア。
期待に満ちた瞳で、その光へ手を伸ばす。
(本当だとも。風を凝縮させれば、剣みたいに鋭く尖るんだぜ——ルミナ、ちょっとやって見せてくれよ)
戦うことを禁じられている風の民に、その術を教えるなどもってのほか。
ルミナはすぐに首を振った。
「だめよ! そんな、勝手に……」
しかし、そばへと近づくカガミ。
(ちょっとだけ頼むよ。エルリアのためなんだ)
妙な肩持ちをする彼の横から、緑色の瞳がこちらを覗き込む。
やがて。
「……分かったわよ」
その熱意に押し負けたルミナは、深く息を吸い込み、岩壁の方へと体を向けた。
「あまり上手くできないけど……ねっ!」
だらりと下げた腕から手刀を振り抜く。
その手からは、三日月型にも見える空気の塊が飛び出していた。
だがそれは——刃と呼ぶには、あまりにも鈍い。
飛んでいった空気は岩壁へと激突し、鈍い音を響かせただけだった。
「すごい! 空気を飛ばしたの?」
(——とまあ、こんな要領だ。もっと鋭く研ぎ澄ますことができれば、岩をも切り裂く刃にもなる)
「よぅし——私も!」
興奮冷めやらぬエルリアは、早速その小さな手に風を纏わせる。
そして、思い切り腕を振り抜いた。
「それっ!」
再び鈍い音が響く。
先ほどのルミナと同じように、放たれた空気の塊が岩壁へと打ち込まれていた。
「いきなり、あそこまでできるなんて……すごいわエルリア」
(驚いたな……さすがは風の民)
「やったぁ!」
風と共に暮らしている彼女にとって、空気を操ることなどお茶の子さいさい。
「これからもぉーっと練習するぞぉ!」
嬉しさのあまり、彼女はぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
——すると。
「それはいいんだけど……あなた、デインたちと一緒に薬草を採ったり、何か手伝わなくてもいいの?」
優しく見守っていたルミナに、エルリアは少しむすっとした表情を見せた。
「私も外に出たかったんだけどさぁ……おじいちゃんがダメだって——」
彼女は誘拐事件に巻き込まれたばかり。
族長カームの命により、しばらくの里からの外出が禁じられていた。
だが——その話を聞いたカガミは、ふと思い出したように口を開く。
(エルリア……聞きにくいことなんだけど、君を攫った奴らについて、何か覚えていることはないか?)
「攫った奴ら?」
突然の問いに眉を顰め、あの日のことを思い返すエルリア。
「うーん……あの時は、いきなり後ろから袋を被せられたから、あんまりよく分かんないなぁ」
(妖魔はいたか? 盗賊は三人だけだったか? どんな小さなことでもいい。何か思い出せないか?)
「うーん……」
次々と投げられる言葉に、さらに記憶を辿っていく。
その時。
「あっ!」
彼女はパッと目を開き、顔を上げた。
「人数までは分かんないけど、袋の隙間から一瞬だけ見えたよ——黒い……腕輪みたいなのが」
「腕輪……⁉︎」
覚えのあった情報に、ルミナは表情を一変させる。
「ごめんね……私が覚えてるのは、それくらいかな」
エルリアは頭を掻いていたが、彼女は黙ったまま視線を落としていた。
その様子に、すぐに言葉が添えられる。
(ああ——ありがとうエルリア。それだけで十分だ)
「ほんと?」
彼女は不思議そうに首を傾げていたが——二人にとっては十分な手がかりだった。
(さて……俺たちは修行の続きをやるから、エルリアもあんまり邪魔するなよ?)
「うん、分かった——」
やがて、元気よく答えると、エルリアは飛び出すように駆けていった。
「よーし、私も修行だぁ!」
——笑う背中を見送るカガミ。
(……ルミナ)
沈黙するルミナに、そっと声をかける。
(君が考えてることは分かってる。あの日のことだろ?)
「……うん」
ルミナの脳裏に蘇っていたのは——バルナの国境での苦い記憶。
帝国の妖魔軍団と対峙した時の、戦いの記憶だった。
(あの時確かに——やつらも着けていたな)
「間違いない……!」
妖魔へ指示を送り、その動きを操っていた帝国兵。
その腕にもまた、同じような黒い腕輪が嵌められていた。
これまで散らばっていたいくつもの点が、二人の中でまた一つ繋がっていく。
「——やっぱり、あいつらしかいないわ」
盗賊たちの消えた亡骸。
里の近くに度々現れる妖魔。
そして——エルリアを攫った者が身につけていた、黒い腕輪。
この時二人は、帝国が秘めている強大な力の一端を、ようやく知ることができた。
徐々に見え始める敵の影。
しかし、犯人はどこで、なにを、どのようにして……。
次回は、深まる謎に歯痒い思いをする少女のお話。
火曜日にお待ちしております。




