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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第29話 見えない温もり

場面は変わりまして、こちらはジーンとニーテのパートです。

遂行すべきは護衛の任務。

相変わらずの彼らでしたが……。


見えない温もり


どうぞ。

 一方その頃。


 ジーンとニーテの二人は、食料や薬草を調達する数人の里人の護衛のため、再び風の止んだ谷道へと足を運んでいた。


「——道が荒れていますので、足元には気をつけてくださいね」


「……言われなくても分かっている」


 先頭を歩くジーンの言葉にも、返ってくるのは素っ気ない返事。


「なんですかあれ……感じ悪い」


 相変わらずの様子だった里人たちに、ニーテは明らかな不満を見せていた。


「それより、さっさと行きましょうよ——例の場所に」


 彼らの歩調などお構いなしに、彼女は一人、先を急ごうとする。


 だが——。


「いけません。皆様のそばにつき、無事に里まで護衛するのが本来の役目——」


 すぐに首を振るジーン。


「亡(・)骸(・)の(・)確(・)認(・)は、そのついでです」


 里人たちの護衛を名目に、谷へ降りる許可を得ていた二人には——もう一つの目的があった。


 それは、先日の騒動が起きた場所に残された、謎の男たちへと繋がる手掛かりの確認である。


「……分かりましたよ」


 ニーテが少し不満げにため息をついた——その時。


「昨日の死体なんて、熊やカラスに食べられてるんじゃないかな?」


 その時、里人の中にいた一人の少年が口を挟んだ。


「デイン——余計なことは言わなくていい」


「……ごめんなさい」


 しかし、すぐさま隣を歩く男に咎められ、デインという少年は、しょんぼりと俯いてしまう。


 ——そんな中、ジーンは彼へと歩み寄った。


「なるほど……この辺りには、熊も出るのですね」


「えっ?」


 そして、優しく微笑みかける。


「教えていただき、ありがとうございます」


「う、うんっ!」


 たちまち顔を明るくしたデイン。


 照れ臭そうに笑う彼と共に、一同は再び歩みを進めるのだった。


* * *


「——あった……ジーンさん! 多分こっちです!」


 振り返ることもなく、木々が生い茂る中を進んでいたニーテが声を上げた。


「待ってくださいニーテさん——皆さんから離れすぎていますよ」


 早足になっていく彼女の背中を、遠目ながら見守るジーン。


 すると——。


「うわぁぁぁ‼︎」


「えっ? 今のって……」


 僅かに聞こえた悲鳴に、ニーテが振り返る。


 しかし、その時すでにジーンの姿はなかった。



 ——少し離れた場所。


 薬草を摘んでいた里人たちに、すでに脅威が迫っていた。


「父さん……たすけ……て」


 腰を抜かし、全身を震わせるデイン。


 緑色の瞳で見上げていたのは、熊よりも大きな体を広げた二足歩行の化け物——妖魔だった。


「デイン! 待ってろ、今——」


「誰か来てぇ!」


 茂みへ入っていた少年の悲鳴を聞きつけ、里人たちも次々と駆けつける。


 だが、あまりの巨体を前に、誰一人として近づくことができない。


「グルル……」


 ズシン——ズシン——。


 大地を揺らしながら、妖魔がデインへと迫る。


 やがて、その巨大な手が小さな獲物を掴み取ろうと伸ばされた——その瞬間。


「——はぁぁぁっ!」


 一閃。


 細身の剣が、妖魔の分厚い胸板を薙ぎ払った。


「グウッ……!」


 勢いをつけたジーンの斬撃。


 しかし、圧倒的な体格差を前に、その体は僅かによろめくだけだった。


 だが。


「まだまだぁ!」


 もう一撃の刃が返される。


「このまま——切り刻む!」


 さらに、二撃三撃と、間髪入れずに繰り出される剣先は、加速しながら幾重にも重なっていく。


 大輪の花が咲き広がるようなその軌跡は、あっという間に妖魔の巨体を覆い尽くした。


「グガ……ガ……!」


 そして。


 最後の剣閃と共に、その花弁は閉じていく。


 無数の傷を刻まれた妖魔は、やがて力を失い地面へと崩れ落ちていった——。


「あ……ああ……」


「デイン!」


 目の前の脅威が去ったことを確認し、すぐさまデインの元へ駆け寄る父親。


「大丈夫か⁉︎」


「う、うん……」


 肩を借りながら立ち上がるも、彼の視線は、美しい剣技を披露した女戦士へと釘付けになっている。


「ジーンさん!」 


 そこへ——ようやくニーテが駆けつけた。


「何かありましたか⁉︎」


 足を止めた先には、純白の布で、汚れた剣を拭っていたジーンと、その足元に転がる巨大な亡骸。


 その光景だけで、彼女はことの全てを理解した。


「ニーテさん! 彼の治療をお願いします」


「……あ、はい!」


 迅速な指示により、すぐさま少年の元へと歩み寄るニーテ。


「痛っ……」


「男の子でしょ。我慢して」


 擦りむいた膝へと手を添え、マナを流し込む。


 幸い、大した怪我ではなかった。

 淡い光に包まれた傷は、みるみるうちに塞がっていく。


「——もう大丈夫」


「立てるのか? デイン?」


「うん! もう痛くない!」


 確かめるように、自分の足を何度も動かすデイン。

 その傍らで、父親は驚いたように目を丸くしていた。


「こんなに早く、治せるなんて……」


「当然よ。このくらい」


 二人を前に、ニーテはただ得意げに胸を張っていた。


 すると——。


「おそらく、他に仲間はいないようですね——」


 周囲を一通り見回っていたジーンが、再び彼らのもとへと戻ってくる。


 そして。


「それに、無事で何よりです」


 元気を取り戻したデインを見て、彼女は柔らかく微笑んだ。


「……」


 その言葉に、ただじっと黙り込んでいた父親。


 しばらく何かを言い淀んでいたが、彼はやがて、渋々と口を開いた。


「当然だ。そのための護衛だからな……」


 出てきたのは捨て台詞のような言葉。

 

 しかし——その瞳を、もう一度だけジーンたちへ向ける。


「だが、デインのこと……礼を言う」


 それだけを残した彼は、逃げるように背を向けて歩き出した。


「ふん。またあんな態度とって……」


 その背中を不満そうに見送るニーテ。


 だが——。


「……まあでも、ちゃんとお礼は言えるんですね」


 先ほどより幾分か柔らかくなったその表情を、ジーンは見逃さなかった。


「当然です——」


 そして、薬草を摘む里人たちへと目を向け、彼女は静かに微笑んだ。


「共に支え合って暮らす皆さんにも、きっと温もりはあるはずです——ただ、それが外の人間には見えていないだけです」


「……そんなに心を閉ざさなくたっていいのに」


 武力を恐れ、外界から隔絶された場所で暮らし続ける風の民——。


 そんな彼らを見つめるニーテの瞳には、先ほどまでとは違う、僅かな同情の色が浮かんでいた。


「さて——」


 ジーンは改めて周囲を見渡す。


「先ほどのこともありましたから、今日は皆さんのそばを離れるわけにはいきませんね」


「えっ?」


「盗賊たちの亡骸を確認するのは、また次の機会にしましょう」


 するとその言葉に、ニーテが思い出したように顔を上げた。


「——それなら心配いりませんよ。私、さっき見てきましたから」


「本当ですか……⁉︎」


 思わぬ報告に、目を見開くジーン。


 しかし。


「はい。あの場所から——死体は跡形もなく消えてました」


「……消えていた?」


「きっと、さっきの妖魔が食べちゃったんでしょうね」


 誘拐犯の手掛かりになるはずだった亡骸。


 その消失に、ジーンは残念そうに目を伏せる。


 だが——。


「……変ですね」


 彼女は、ある違和感に気づいていた。


「もし、奴が食べたのだとしたら——」


 視線の先には、先ほど自らの手で倒した妖魔。

 切り刻まれたその巨体。


 その中は——確かに空っぽだった。


 三人もの人間を喰らった形跡など、どこにも残されてはいなかったのだ。

彼らの心にも、ちゃんと温もりはあります。

しかし、それでも外界を恐れる風の民とは……?


お次は火曜日!

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