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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第27話 二心同体

ついに始まりました二人の修行!

しかし……まあ、仕方ありませんね。

これも必然……誰も責められません。


二心同体


どうぞ。

 風の里での滞在、二日目。


 里の護衛を任されたルミナとカガミの二人は、入り口付近の広場にて——何かに燃えていた。


「さ、早速やるわよ。カガミ」


(うむ。今度こそ——成功させる)


 向かい合う二人。


 だがルミナは一歩引いた体勢のまま、どこか疑うような目を向けていた。


「またあ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)考えたら、許さないからね!」


(本当に悪かったって言ってるだろう! それに男にとってのあ(・)れ(・)は、仕方のないことなんだよ)


「……どうかしら」


(ほんとだって!)


 早速始まる何かの問答。


 彼らがこれから行おうとしていたのは、ある日を境に始まった——修行の続きだった。


* * *


 ——数日前の魔導院にて。


 ヨヨの目の前に並ぶルミナとカガミ。


「マナの融合なんて、本当にそんなことできるんですか……⁉︎」


「うん。まあ、私自身が成功させたわけじゃないがね——」


 頷くヨヨ。

 自分の肩を抱きしめていたルミナは、腫れ物を見るような目でカガミを見る。


 彼の憑依には、未だ抵抗があるようだった。


「干渉の力——アリステラから聞いてるだろう?」


「はい……」


「女神の一族は、マナやエギルを通じて他者からの干渉を受け入れることができる。この大陸へ渡り魔法の力を広めたっていうあの伝説も、この力を使ったと言われているんだ——」


(そうそう——その話なら俺もよく知っている)


「じゃあ……私にも、その力が?」


 師の言葉を信じたルミナも、おおよその理屈は理解する。


「——すべては、あんた次第さ」


「……分かりました。やってみます」


 やがて胸元へ目を落とした彼女は、ヨヨから少し距離を取る。


 そして目の前に浮かぶ光をじっと見つめ——覚悟を決めた。


「言っとくけど、変なことしたら焼き殺すからね!」


(分かってるよ——さあ、行くぞ!)


 その言葉を合図に、カガミは勢いよくルミナへ飛び込んだ。


 かつてラキが見せた、他者への憑依を真似るように——。


(それっ!)


 カガミそのものであるマナとエギルが、ルミナのそれと重なり合っていく。


「ん……!」

(おお……⁉︎)


 今まで何一つ触れることのできなかった彼の意識に、初めて宿る確かな感覚。


 肌を撫でる空気。

 魔導院に漂う匂い。


 触れていた温もりが、自分のものになっていく。


 それは、誰かの体を通して伝わってくる——生きているという実感だった。


「——うわぁぁ……」

(——あっ……!)


 二つの大きな光が重なり合った瞬間、辺りには突風のような力が吹き荒れた。


「うっ……!」


 ヨヨは咄嗟に腕を上げ、顔を庇う。


「まったく……さすがは女神の力ってところかね——」


 やがて風が収まり、彼女は顔を上げるが、そこにカガミの姿はない。


 代わりに——一つに重なり合った、二人のマナが映っていた。


(成功……したの?)

「ああ……多分」


 拳を握っては開き、体の自由を確かめるルミナ(カガミ)。


「すごい……俺にも憑依ができるなんて」

(なぁんだ。案外簡単なのね)


 カガミは自分のものとなった手を見つめていた。


 しかし——。


「その人格は……もしかして、カ(・)ガ(・)ミ(・)の方かい?」


 ヨヨは目の前のル(・)ミ(・)ナ(・)を、不思議そうに見つめる。


「ああ。間違いなく俺だよ」


「……だとしたら、あの子の人格は一体どこに——?」


(何を言ってるの、ヨヨ婆様! 私はここにいる——)


「ルミナ……君の声、多分外には聞こえてないぞ」

(えっ……?)


 どうやら、内側から響くルミナの声は、体を動かすカガミにしか聞こえていないらしい。


「なるほど……二つの人格が、一つの体に同居しているってところかね」


 だが、ヨヨの目には未だ完全には混ざり合わない、二つのマナが映っていた。


「まだ完全な融合には至っていないようだね——こりゃ、練習が必要そうだ」


(練習って、次は何を——? ……って、これも聞こえないのよね)


 歯がゆい思いをするルミナ。


 その一方で——。


「……」


 カガミは何も言わず、ただ空を見上げていた。


「俺……今……」

(ちょっと……どうしたのよ)


 ルミナは気づく。

 自分の——いや、彼の胸が熱を帯びていることに。


 そして、その想いが涙となって頬を伝っていたことに。


「急に泣き出して……どうしたんだい?」


「俺……まるで——」


 優しい風が鼻を通り抜け、大地の香りを運んでくる。


 肌に触れる空気も、地面を踏み締める感覚も、頬を流れる涙の温度さえも——。


「まるで、生きてるみたいだ」


 なにもかもを受け止めるように、両手を広げるカガミ。


 生きる者にとっては当たり前のそれが、一度命を落とした彼には、この上ない喜びだった。


「うう……母さん——」


 久しく忘れていた生の感覚を噛み締めながら、カガミは小さく呟く。


(ふふ……カガミったら、大袈裟なんだから——)


 その喜びは、ルミナの心にも直接流れ込んでいた。


 ——やがて。


「感動してるところ悪いけど——体はちゃんと動くのかい?」


「あ……ああ。この通り——」


 ヨヨの声で我に返り、ルミナの腕を左右に動かしてみせる。


 すると——。


「……ん?」


 ふと、その視線が下で止まった。


「おおっ……これは——!」

(……?)


 視線の先にあったのは——かつての自分にはなかった、二つの膨らみ。


 姿こそ見せていなかったが、白銀鏡はれっきとした男なのである。


 つまり——そういうことなのである。


「……ゴクリ」


 生唾を飲み込み、そっと右手を伸ばしていくカガミ。


 ——しかし。


「いっ⁉︎ いでででで——!」


 魔が差した右手を、ル(・)ミ(・)ナ(・)の左手が思いっきりつねり上げた。


「ルミナだな⁉︎ 何すんだ一体!」

(何すんだはこっちよ‼︎ ほんっと最低! スケベ! 私には何も隠せないんだからね! ……痛たた)


「一人で何やってんだい……」


 ヨヨがキョトンと見守る中、一つの体で喧嘩を始める二人。


(やっぱりあんた、ずっとこんなこと考えながらついてきてたのね! 私が止めてなかったら、何してたのよ⁉︎)


「えっ……」


 その問いに、カガミの思考が止まった。


「何って……それは——」


 そして次の瞬間——カガミ、もといルミナの脳内に何かが流れ込む。


 無論、これは彼の本意であって、不本意でもある。


 突然女性の体を得た男の思考が、一度くらいこ(・)こ(・)を通ることは避けられなかったのだ。


 しかし——桃色に染まる男の欲望を受け止めるには、ルミナはあまりにも純粋だった。


「いやぁぁぁぁぁ‼︎」


 叫びと共に、ありったけのマナを込めるルミナ。


 振り上げた両手から、真っ赤な炎が燃え上がった。


(うそだろぉ⁉︎)


「まずいね……!」


 危険を察したカガミは、いち早く彼女の体から飛び出す。


 ——直後。


 ギルバディア中に、凄まじい爆炎の音が響き渡った。


(……やって、しまった)


 弾ける感情の具現化とも言える大爆発。 


 やがて轟音は鳴りを潜め、立ち込めていた黒煙も少しずつ晴れていく。


 熱気の中、カガミはただ一人——放心していた。


 しかし——。


「ふぅ……まったく、心臓に悪いね——」


(……え?)


 焼け野原になったかと思われた魔導院。


 だが黒煙の向こうには、周囲を取り囲むように氷の如き半透明の壁が聳え立っていた。


「自分ごと魔導院をぶっ壊すつもりかい?」


 煙の中から姿を現したのは、両手を地につけるヨヨ。


 咄嗟に結界を張り、爆炎を内側へ封じ込めていたのだ。


「うう……」


 煙の中心では、軽い火傷を負ったルミナが蹲っている。


「まったく……世話が焼けるね」


 ヨヨが治療を施そうと手を伸ばす。


 だが——。


「私もう、お嫁に行けなぁい……ううう」


「……そんな無駄口が叩けるなら、問題ないね」


 泣きじゃくるルミナに呆れ、彼女はその手を引っ込めた。


「これに関しては、私が教えられることはもうないよ。あとは二人で鍛錬を積むんだね」


(えっ……そんな。ヨヨがいてくれないと——)


「甘ったれるんじゃないよ。私は女神族じゃないんだからね」


 ヨヨが教えられるのは、あくまで伝え聞いた知識まで。


 二つのマナを重ね、その力を使いこなす方法は——二人自身で見つけるしかない。


(くっ……こんなに難しいものなのか……)


「ううぅ……お嫁に……」


 震えるルミナを見下ろしながら、カガミは早くも途方に暮れていた。


 ——するとヨヨは、ふと思い出したように口を開く。


「言い忘れてたけど——あんたたちに頼みたいクエストがあるんだった」


「ぐすん……クエスト?」


「場所は風の里。ジーンが請け負う、妖魔退治の任務さ」


(風の里……)


 聞き覚えのある名に、カガミは僅かに反応する。


(ヨヨ……今の状態の俺たちが行っても——)


「いいや。行ってもらうよ」


 ヨヨはぴしゃりと言い切った。


「少し変わった連中が暮らしている場所だけどね——きっと、何かを掴めるはずさ」


「何かって……?」


(……なんだ?)


 揃って首を傾げる二人。


 しかし、ヨヨは答えず、その眼差しをルミナへ向けた。


「ルミナ——あんたの力は、みんなが必要としているものなんだ」


「……」


「遠くにいるあの子にも、誓ったんだろう?」


 その一言に、ルミナの瞳が揺れる。


「……マルク」


 いつか自分たちの手で、失われたアリヴェルを取り戻す——。


 あの日交わした約束が、胸の奥に蘇る。


「……分かりました」


 残っていた涙を袖で拭い、ルミナは今度こそ力強く頷いてみせた。

久々にやってきたラッキースケベからの爆炎パニックでした笑

しかし、これは仕方のないことなのです……。

みんなカガミを責めないでね。


お次は火曜日!

場面は風の里に戻ります。


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