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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
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第26話 歓迎されぬ者たち

恐怖の瞳で見守られながらも、隊長を務めるジーンの指揮の元、クエストは進んでいきます。

だが、彼女は……。


歓迎されぬ者たち


どうぞ。

「こちらに乗れ」


 ペストが示したのは、足場にするには頼りないほど薄い岩板だった。


「……これに?」


 ニーテが怪訝そうに眉をひそめる。


 だが、三人が恐る恐る乗り込むと、彼は足元へマナを流した。


 次の瞬間——。


「わっ!」


 岩板が風にさらわれるように、一気に宙へと浮かび上がる。


「すごい……風で岩そのものを動かしてる」


「なるほど。こういう使い方もあるのですね」


 目を輝かせる二人をよそに、岩板はそのまま高い壁を越え、一軒の幕屋の前へと滑るように着地した。


「着いたぞ。この先にカーム族長がいる」


 何事もなかったように降りるペスト。


 その背中を見ながら、ルミナはもう一度、足元の岩板へと目を落とすのだった。


* * *


 ——布扉を掻き上げ、三人は室内へと招き入れられる。


「カーム様、ギルバディアの者を連れて参りました」


 幕屋の中には、背を向け腰掛ける一人の老人。

 振り向くこともせず、彼はすぐに口を開く。


「ペストは下がって良い。それから御三方——かけられよ」


「はっ。失礼します」


 その場を去っていくペスト。

 三人はこの異様な空気に違和感を感じながら、ゆっくりと腰を下ろした。


「エルリアの件は聞いている。女性だけだと言うのに、なかなか腕の立つ方々のようだ」


「……っ⁉︎」


 目視するまでもなく全てを言い当てるこの男に、ニーテは息を飲む。


「恐れ入ります……もうご存知だったのですね」


「風(・)は、全てを教えてくれるのでな——」


 カームはそっと答えた。

 

 すると。


「一応礼は言っておく——だが、はっきり言わせてもらうが、我々はおぬしらを歓迎するつもりはない」


「な、なんですって!」


「ニーテっ……!」


 遠慮のない物言いに肩を動かすニーテ。

 それに気付いたルミナは小声で抑止する。

 

 しかし。


「その怒りはごもっともだが、我々の一族は武(・)力(・)などと言う物騒なものを、少しでもこの里には入れたくない」


 彼は微動だにせず、そのまま続けた。


「任務が終わり報酬を受け取ったならば——速やかにここを去ることや約束してほしい」


 カームが言うには、この里の人間は戦いそのものが御法度。

 ルミナが見た彼らの瞳に映る恐怖は、力そのものだった。


「ええ——そのようにいたします。私たちもそのために来たのですから」


 その問いにすぐに頷くジーン。


「背中越しで失礼した——」


 やがて、三人へと向き合ったカームは、本題へと入る——。


「では、この里で度々起きている事件についてだが——」


 彼がギルバディアの戦士を呼んだ理由。

 

 それはこの風の里にて、数ヶ月ほど前から、妖魔出現による誘拐事件が起きていたためであった。

 

「——誘拐? それは本当に、妖魔の仕業なんですか?」


 破壊のみを求める妖魔の奇行に、妙な違和感を覚えるジーン。


「間違いない……逃げのびたものの中に、それを目撃した者もいる。だが、奴らは痕跡を残さない」

 

 数々の目撃情報により、彼は今回の所業を妖魔によるものだと言い張る。


 そんな中、眉をひそめたルミナが拳を握り、ぼそりと呟いた。


「……帝国」


 妖魔の力を有する国——。


 彼女の脳裏には、先(バルナ)の戦いでの忌まわしき記憶が残っていた。


「やはり……帝国の者の仕業なのだろうか」


「そう考えるのが妥当でしょうね。奴らが妖魔を操っているのを、我々も確認していますし——」


 この里にも知れ渡っている帝国の噂。

 

 するとニーテは、その言葉の後押しをする。


「ジーンさん——きっと今朝倒した奴らが犯人ですよ。だからもう、妖魔はここには現れないはず」


 牙を携えた盗賊らしき男たち。

 エルリア誘拐を企てていた彼らこそが、裏で妖魔と繋がっていると彼女は考えた。


「それが本当なら、私としても問題は無いのだが……」

 

 確信を持てない話に、皆が息を呑む。

 しかし、解決に進みつつあったそれに、ジーンがある提案をする。


「しばらく、この里の調査をさせていただけないでしょうか?」


「何?」


 一度は終わったと思われたが、彼女は何か引っかかる表情のカームに言い放った。


「カーム様もご心配でしょう——ですので、私たちで里の見張りをやりながら谷の調査をいたします。いかがでしょう?」


 ルミナと、あまり乗り気ではないニーテは言葉を待つ。


 ——やがて。


「……一週間」


 指を立てるカーム。


「それだけあれば、何かも手がかりは見つかるだろう——お前たちをここに置いておけるのは、それが限度だ」


「一週間ですね……承知いたしました」


 ジーンの交渉により、その手は打たれた。


 許されたのは七日間の滞在。

 この期間内に三人は妖魔の手がかりを見つけなければならない。


* * *


 カームの了承を得たジーン一行は、里のはずれの最も低くに位置する小さな蔵の一室にて、ようやくその腰を落ち着けていた。


「全く……客人の私たちがこんなところに押し込められるなんて、あり得ません」


 室内を見ると、手入れのされていない埃の被った寝床。

 歓迎とは程遠い扱いに、ニーテはますます口を尖らせる。


「確かに変わっていますが……誰しもが我々を歓迎するとは限りません。初クエストですし、こういうことにも慣れていかないと」


 微笑みながら、つまむような手つきで剣を磨くジーン。

 

 すると、しばらく下を向いていたルミナが口を開いた。


「ジーンさんは……やっぱり敵は他にもいると思う?」


 彼女が懸念するのは、裏で糸を引いている第三者の存在。

 だが、その仮説は既にジーンの中でも組み立てられていた。


「その可能性は大いにあると考えています。それに……最後まで妖魔を使わなかった、やつらの謎の行動——」

 

 最もわからないのは、自害した盗賊たちの動機。


「よほどの忠誠心なのか、恐れなのか——何か奥を感じましたね」


「ジーンさん……考えすぎじゃないですか?」


 呆れるような顔で、古びた寝具をポンポンと叩くニーテ。


 ——するとそこに、ある声が響いた。


(俺も、ジーンの意見に賛成だな)


「——ひゃぁ⁉︎」


 突然のカガミの発言に皆が注目する中、ニーテだけは尻餅をつく。


「こそこそしてると思ったら、なんで急に出てきたんですか⁉︎」


(俺の存在は部外秘なんだ。アバン達にも念を押されてるし、仕方ないじゃないか……)


 転生者である彼は、外部の人間とのおしゃべりは御法度とされていた。


「興味深い。カガミさんの意見も聞きたいですね」


 声のする方へと身を寄せるジーンによって、カガミはようやく言葉を並べる。


(ルミナも見ただろう? 帝国の人間が腕を振り上げるだけで、妖魔を操る瞬間を——)


「……そういえば」


 ルミナと共に思い出すのは、妖魔を操る術をもった彼らは、ただ腕を振るだけの簡単な仕草でそれを行っていたこと。


(突然の危機に立たされたとは言え、今朝の奴らがそれぐらいのことができないとは思えない)


「カガミさんも、バルナでの戦いを拝見されていたのですね……ルミナさん、間違いないですか?」


 ジーンの質問に顔を顰めつつ、ルミナはあの時の光景を細かに思い出す。


「ええ……まるで指揮者のように妖魔を導いて——何かの力か、道具とかを使っているんだと思うけど」


 彼女の言葉で、皆の確信が定かになりつつある。


 さらに——。


(それから、これはあまり当てにしないで欲しいんだが——)


 カガミは不可解なことを呟いた。


(あの時あそこに、大人の気配を四(・)人(・)感じたんだ)


 明かされた真実。


 彼が人の気配を察知できることを知らされていたジーンも、その情報に食らいつく。

 

「四人目……黒幕の帝国兵が、やはりどこかに——」


 炙り出される四人目の敵。

 彼らは徐々に、今回のクエストの核心となる存在へも近づいていく。


 しかし——。


「ばかばかしい!」


 ニーテが声を荒らげた。


「そんなことに一週間も振り回されるこっちの身にもなってくださいよ——」


 彼女にとってのそれは、不確かな情報。


「私もう、寝ますからね」


 ついには背を向け、カガミの声から遠ざかるようにして寝床に着いてしまった。


(——ニーテ……そんなにイライラしなくても)


「今日はいろいろあったから、疲れてるのよ——」


 少し心配そうな目を向けるルミナ。

 やがて彼女も、寝支度を始める。


「私たちも休みましょう——言っとくけど! 寝顔なんて覗いたら許さないからね」


(へいへい。わかってますよ)


 そして、カガミに睨むような視線を送り、そのまま床に着いてしまった——。

 

 次々と仲間が寝静まる中、言われるがままに外へ出ようとする転生者。


 だが、彼の目には肩を落とすジーンの姿が映る。


「はぁ……ニーテさんの言う通りかもしれませんね」


(ジーン……?)


 胸に刺さった言葉。


「確信があるわけでもありませんし、私の判断で皆を動かしてよかったのでしょうか……」


 彼女も思わず、弱音をこぼしていた。


 そこに——。


(そんなの大丈夫だよ——)


 カガミは言葉をかける。


(ジーンはしっかりみんなを守れていたし、その判断もきっと間違っていないと思う)


 気丈に振る舞っていたジーンにとって、初めての隊長を務めるクエスト。

 当然、不安も大きかった。

 

 そんな彼女に、彼はある言葉を贈る。


(女の子だって強い——そうだろ?)


「……っ!」


 それは、今ここにはいないあ(・)の(・)子(・)の言葉だった。


「女の子は……強い——」


 彼女にとって、最も大切な言葉。

 その言葉の後ろに、ジーンは亡き友の姿を映す。


「……そうでした」


 そして、天を仰ぐように微笑んだ彼女は、小さく拳を握った。


「カガミさん……あなたも(・)、優しい方なんですね」


 ——やがてジーンは、すっきりとした様子で寝床へ着く。


「ふふ——よろしかったら、私と一緒にお休みしますか?」


 小さく手を差し伸べ、冗談混じりに笑っていた。


(いいよ。ルミナに怒られるから——じゃあおやすみ)


 微笑む彼女に、ようやく胸を撫で下ろすカガミ。

 役目を終えた彼は、そのまま幕屋の屋根へと体を運び、星空の下で眠りにつくのだった。

気丈に振る舞っていたが、うっかり弱みを見せるジーン。

しかしカガミは、そんな彼女を親友のマリラの言葉で支えるのでした。


お次は、金曜日!

風の里の調査と、ルミナの修行が始まります!

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