第24話 牙の男達
早速始まる急展開!
謎の男たちに謎の少女。
文字数多めですがスピード感ある戦闘回です。
牙の男達
どうぞ。
ギルバディア南部に広がる山岳地帯。
その一角に、外界から隔離されるように存在する限界集落があった。
空が近く感じられるほど標高は高く、周囲では絶えず強い風が吹き荒れている。
その村は——“風の里”と呼ばれていた。
「お婆様に聞いた通り……これじゃ外部のものが近づかないのも頷けます」
「依頼主である族長カーム様によると、もう少ししたら風が止むようですが」
彼女たちが見据える木々のうねりが、その谷道の空気の激しさを物語っていた。
「マナの流れが……?」
ふと、何かに気づくルミナ。
すると——。
「ジーンさん。多分そろそろ——」
その言葉とほぼ同時に、激しく揺れていた木々が、少しずつ動きを弱めていく。
そして、生き物のように暴れ回っていた風もまた、眠りにつくように静けさを取り戻していった。
「よくわかりましたねルミナさん。では、今のうちに——」
「むむ……私には見えなかった」
風が止むと同時に、一同は早速歩みを進める。
マナの流れに呼応するように変化した、不自然な環境。
その仕組みに疑問を抱きながらも、ルミナに先を越されたニーテは、少し悔しそうに唇を尖らせていた。
* * *
——足場の悪い山道を慎重に歩いていく。
先ほどまで吹き荒れていた風も、まるで意思を持っていたかのように、鳴りを潜めていた。
すると——。
(むっ?)
声を漏らす転生者カガミ。
それと同時に、道の脇に生い茂る木々の向こうから、甲高い声が響いた。
「——助けてぇ! ……んぐっ!」
慌てた皆は、木々の間から下を覗き込む。
そこにはなんと、暴れる少女が袋の中へ押し込められようとしていた。
「お待ちなさい!」
すぐに呼び止めたのはジーン。
剣に手をかけ、斜面を一気に駆け下りる。
「……何者だ!」
今にも駆け出す寸前だった三人の男たちは、声のする方へ一斉に剣を構えた。
そして、彼女の後ろに続く——二人の魔法使い。
「盗賊ね——これでもくらいなさい!」
敵を見るなり、ニーテはすぐさま手をかざした。
急速に温度を下げていく空気が刃と化す。
だが——。
カキーンッ!
「なにっ⁉︎」
「あぶねぇ……魔法使いだな」
男に飛来した氷は、いとも簡単に弾き飛ばされた。
それもそのはず。
彼らとの間には、十分過ぎるほどの間合いがあった。
「ギルバディアの者だな?」
「なんでそれを⁉︎」
「……図星か」
うっかり口を滑らせたニーテ。
しまった、と言わんばかりに表情を歪める。
そのまま、彼らの睨み合いは——始まった。
「——少しは……やるようですね」
ジーンは警戒を強めながら、牙の首飾りを下げた男たちの傍らへ目を向ける。
そこには、先ほどの少女が押し込められた袋。
すると、バタバタと中から動くそれに、一人の男が剣先を突きつけた。
「動くな! ……お前たちの目的は、これだろう?」
「……っ!」
その行動に、三人の足が止まる。
「こいつら、本当に盗賊……?」
追いつめられた様子など微塵も見せず、すぐさまこちらの動きを封じる早い判断。
牙を携えるこの男たちは一体……。
——やがて、一人の男が剣を向けるのは、先頭にいた女戦士。
「武器を捨てて貴様だけ来い——後ろの魔法使いどもは動くなよ」
男は一方的な要求を投げかける。
薄ら笑いを浮かべる彼らを、一同はただ黙って睨みつけていた。
「何をバカなことを……ジーンさん、こんな奴らの言うことなんか——」
たまらず声を荒らげるルミナ。
だが、少女を盾にされている以上、迂闊に魔法を放つこともできない。
完全に主導権を握られた彼女の表情にも焦りが滲む。
わずかな沈黙が続く——そんな中。
「……えっ?」
ドサリと鳴る音に、ルミナは目を見開く。
ジーンはすでに——次の行動へと移っていた。
「そんな……ジーンさん!」
彼女が投げ捨てていたのは、身につけていた剣や鎧。
無抵抗を選んだ隊長の姿に、ニーテも絶望を覚える。
「これで……よろしいですか?」
「話のわかる女だ——そのままこちらに来い」
言われるがままにジーンは歩を進めようとするが、ルミナはその腕を止めた。
しかし——。
「ここは、一度引いて——」
「ルミナさん、優先すべきはあの子供の命です。いいですね? 今見るべきは、あの子供の方ですよ」
彼女はその手を押しのけ、ただ託すような言葉を残すのみ。
さらに。
「安心しな——お前らの身柄は全ていただく。一人一人ゆっくりと縛り上げてやるぜ」
「なんですって⁉︎」
彼らの視線は、無抵抗の女戦士の後ろにまで伸びていた。
「私、たちも……?」
その目つきに背筋を凍らせたニーテは一歩身を引く。
それを横目に見ていたルミナは、仲間の危機に業を煮やし、密かに拳に熱を込めていた。
(待てルミナ——その炎をしまえ)
だが、そんな彼女の耳元には、転生者の声が響く。
「カガミ……あなたまで何を言ってるのよ」
(今魔法を放っても、男の剣が袋の子供を刺し貫く方が早い——)
これまで黙って様子を見ていたカガミだったが、今にも飛び出しそうな彼女の前へと出る。
(それより思い出せ——ジーンが残した言葉を)
「ジーンさんの……?」
男たちのもとへ離れていくジーンの背中を目で追うルミナ。
「確かさっき……“子供の方”って——」
やがて、彼女は静かに目を閉じる。
焦りで狭まっていた意識を落ち着かせ、今一度——人質の入った袋へと意識を集中させた。
——そこでようやく、ジーンの言葉の意味に気づいた。
「そんな……いや!」
一方、肩を震わせながら男のもとへ歩み寄るジーンから、ニーテはとうとう目を背ける。
そして——その足が、男の目の前で止まった。
「良い女だな——」
「ん……!」
男の手が、無抵抗な女戦士の顎へと伸びる。
「戦士にしておくにはもったいない——こういう女は、俺の元で徹底的に服従させてやる」
「なんだと……?」
品定めでもするように、その青い瞳を覗き込んだ。
ジーンは目を潤ませながらも、精一杯の抵抗を込めて言葉を絞り出す。
「……くっ、私は戦士——さっさと殺せ」
「くくく……」
だが、その反発は男を喜ばせるだけだった。
すっかり優位に立ったつもりなのだろう。
欲望を滲ませ、堪えきれず笑みを漏らす。
——その時だった。
怯えていたはずのジーンの口元が、すっと吊り上がった。
「こういうのが——お好きなんでしょう?」
目の前の女の震えが止まっている。
男がそれに気づいた——その刹那。
「がぁぁぁっ‼︎」
極められた腕を捻り上げられ、男の体は強引に後ろへと向かされる。
一瞬のうちに、掴んでいたはずの女に背を取られていた。
そう——すべては彼女の思惑通り。
「てめぇ! 何を⁉︎」
男の腕を容赦なく締め上げるジーン。
突然の反撃に隣の男も危機を察し、人質の袋へ突き立てていた剣に力を込めた。
だが——。
「んぐっ!」
次の瞬間、その男の呼吸が止まる。
「——おい! 何をした、女!」
状況が読めない三人目の男は、迂闊に切り込めず声を荒らげていた。
その目に映っていたのは、腕を極められた仲間の陰から伸びたジーンの後ろ蹴りが、もう一人のみぞおちへ深々と突き刺さる光景だけ。
そして。
ゴキッ——!
「うぁぁぁぁっ‼︎」
骨の軋む音と共に、腕を極められた仲間の悲鳴が響き渡る。
そこへ、ジーンの冷たい声が遅れて届いた。
「あなたは——見ているだけですか?」
「なっ……!」
その言葉に男が怯んだ瞬間。
青い瞳が——目の前を通り過ぎる。
「——男が、聞いて呆れますね」
一瞬の出来事だった。
気づけばジーンは、一人目から奪い取った剣を振り抜き、その先へ軽やかに着地していた。
「……ぐぅ」
遅れて、背後から苦悶の声が漏れる。
三人目の男は傷口から血を噴き出し、その場へ力なく倒れ伏すのだった。
すべてが終わったと思われた——だが。
「ぐぐぐ……野郎……!」
みぞおちを蹴り抜かれた二人目の男が、腹を押さえながら立ち上がる。
そして、すぐさま近くの袋へ向けて剣を振り上げた。
「人質は……ぶっ殺ぉす!」
「ジーンさん——‼︎」
ようやく状況に追いついたニーテの悲鳴。
すると——。
「んぁぁぁぁっ‼︎」
一閃の光が、剣を振り下ろそうとした男の体を刺し貫いた。
「ま……魔法……」
全身を駆け巡った雷に焼かれ、その場へ崩れ落ちる最後の男。
そして——何事もなかったかのように、ジーンが振り返る。
「さすがはルミナさん——完璧な援護でしたよ」
その視線の先には、真っ直ぐ手をかざしたルミナの姿。
伸ばされた腕の周囲では、未だ小さな雷光がピリピリと弾けていた。
そう。
ジーンの言葉を受けたルミナは、ずっと、子供の方にいた男だけに狙いを定めていたのだ。
「ジーンさんが隙を作ってくれたおかげよ。立てる? ニーテ」
やがて彼女は、何もできず腰を落としていたニーテへと手を差し伸べる。
「は、はい……すみません」
こうして、三人は無事戦闘を終え、その場の制圧に成功した——。
「……うう」
腕を破壊されながらも、まだ息のあった男のもとへ、ジーンはゆっくりと歩み寄る。
「——女だと思って甘く見ましたか? 武装解除したとはいえ、敵を簡単に間合いへ入れるなど……愚かでしたね」
目の前に立つ女を、男は地面から見上げていた。
完全に逆転した立場。
今さらながら、後悔だけが胸を駆け巡る。
しかし——。
男はすでに、ある手を打っていた。
「んぐっ……! が、はっ!」
口から溢れ出す大量の血。
彼はなんと、自らの死を選んでいたのだ。
「こいつ……自分で舌を——!」
思い切ったその行動に、ルミナも驚きを隠せなかった。
これまで出会った盗賊の中に、ここまでの覚悟を持って敵に臨む者など、一人としていなかったからだ。
「答えなさい! あなたたちは一体、何者なのですか!」
ジーンの問いに返ってくるのは血飛沫だけ。
やがて男は、不適な笑みを浮かべたまま息絶えた。
「……恐ろしい奴ら」
自らの命を投げ出すことさえ恐れない男たち。
その胸元で揺れる牙の首飾りだけが、不気味な存在感を放っていた。
得体の知れない恐怖が、あたりの空気を包む。
だが——その背後から、沈んだ空気をかき消すように歓喜の声が上がった。
「——ジーンさん! ルミナさん! 人質の子は無事です!」
振り返るとそこには、袋に詰め込まれていた少女をいち早く助け出していたニーテ。
さらに、心に何かを引きずる二人のもとへ、天の声が言葉を添えた。
(不安なのは分かる——でも今は、人質を助けられたことを喜ぼう)
カガミの言葉に、ジーンとルミナは顔を見合わせる。
そして、ようやく表情を和らげた二人は、眠れる少女のもとへと、歩み寄っていくのだった。
ジーンの起点により、三人は無事勝利を納めました。
しかし、なかなかの強敵。
牙の首飾りを持つ彼らとの因縁は、今後もずっと続くかも……。
お次は金曜日!
新しい出会いです!




