↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第三章 風と共に
115/133

第24話 牙の男達

早速始まる急展開!

謎の男たちに謎の少女。

文字数多めですがスピード感ある戦闘回です。


牙の男達


どうぞ。

 ギルバディア南部に広がる山岳地帯。


 その一角に、外界から隔離されるように存在する限界集落があった。


 空が近く感じられるほど標高は高く、周囲では絶えず強い風が吹き荒れている。

 その村は——“風の里”と呼ばれていた。

 

「お婆様に聞いた通り……これじゃ外部のものが近づかないのも頷けます」


「依頼主である族長カーム様によると、もう少ししたら風が止むようですが」


 彼女たちが見据える木々のうねりが、その谷道の空気の激しさを物語っていた。


「マナの流れが……?」


 ふと、何かに気づくルミナ。

 すると——。


「ジーンさん。多分そろそろ——」


 その言葉とほぼ同時に、激しく揺れていた木々が、少しずつ動きを弱めていく。


 そして、生き物のように暴れ回っていた風もまた、眠りにつくように静けさを取り戻していった。


「よくわかりましたねルミナさん。では、今のうちに——」


「むむ……私には見えなかった」


 風が止むと同時に、一同は早速歩みを進める。


 マナの流れに呼応するように変化した、不自然な環境。


 その仕組みに疑問を抱きながらも、ルミナに先を越されたニーテは、少し悔しそうに唇を尖らせていた。


* * *

 

 ——足場の悪い山道を慎重に歩いていく。


 先ほどまで吹き荒れていた風も、まるで意(・)思(・)を持っていたかのように、鳴りを潜めていた。


 すると——。


(むっ?)


 声を漏らす転生者カガミ。


 それと同時に、道の脇に生い茂る木々の向こうから、甲高い声が響いた。


「——助けてぇ! ……んぐっ!」


 慌てた皆は、木々の間から下を覗き込む。


 そこにはなんと、暴れる少女が袋の中へ押し込められようとしていた。


「お待ちなさい!」


 すぐに呼び止めたのはジーン。

 剣に手をかけ、斜面を一気に駆け下りる。


「……何者だ!」


 今にも駆け出す寸前だった三人の男たちは、声のする方へ一斉に剣を構えた。


 そして、彼女の後ろに続く——二人の魔法使い。


「盗賊ね——これでもくらいなさい!」


 敵を見るなり、ニーテはすぐさま手をかざした。

 急速に温度を下げていく空気が刃と化す。


 だが——。


 カキーンッ!


「なにっ⁉︎」


「あぶねぇ……魔法使いだな」


 男に飛来した氷は、いとも簡単に弾き飛ばされた。


 それもそのはず。

 彼らとの間には、十分過ぎるほどの間合いがあった。


「ギルバディアの者だな?」


「なんでそれを⁉︎」


「……図星か」


 うっかり口を滑らせたニーテ。

 しまった、と言わんばかりに表情を歪める。


 そのまま、彼らの睨み合いは——始まった。


「——少しは……やるようですね」


 ジーンは警戒を強めながら、牙の首飾りを下げた男たちの傍らへ目を向ける。


 そこには、先ほどの少女が押し込められた袋。


 すると、バタバタと中から動くそれに、一人の男が剣先を突きつけた。


「動くな! ……お前たちの目(・)的(・)は、これだろう?」


「……っ!」


 その行動に、三人の足が止まる。


「こいつら、本当に盗賊……?」


 追いつめられた様子など微塵も見せず、すぐさまこちらの動きを封じる早い判断。


 牙を携えるこの男たちは一体……。


 ——やがて、一人の男が剣を向けるのは、先頭にいた女戦士。


「武器を捨てて貴様だけ来い——後ろの魔法使いどもは動くなよ」


 男は一方的な要求を投げかける。


 薄ら笑いを浮かべる彼らを、一同はただ黙って睨みつけていた。


「何をバカなことを……ジーンさん、こんな奴らの言うことなんか——」


 たまらず声を荒らげるルミナ。


 だが、少女を盾にされている以上、迂闊に魔法を放つこともできない。


 完全に主導権を握られた彼女の表情にも焦りが滲む。


 わずかな沈黙が続く——そんな中。


「……えっ?」


 ドサリと鳴る音に、ルミナは目を見開く。

 ジーンはすでに——次の行動へと移っていた。


「そんな……ジーンさん!」


 彼女が投げ捨てていたのは、身につけていた剣や鎧。

 無抵抗を選んだ隊長の姿に、ニーテも絶望を覚える。


「これで……よろしいですか?」


「話のわかる女だ——そのままこちらに来い」


 言われるがままにジーンは歩を進めようとするが、ルミナはその腕を止めた。


 しかし——。


「ここは、一度引いて——」

 

「ルミナさん、優先すべきはあの子供の命です。いいですね? 今見るべきは、あの子(・)供(・)の(・)方(・)ですよ」


 彼女はその手を押しのけ、ただ託すような言葉を残すのみ。


 さらに。


「安心しな——お前らの身柄は全ていただく。一人一人ゆっくりと縛り上げてやるぜ」


「なんですって⁉︎」


 彼らの視線は、無抵抗の女戦士の後ろにまで伸びていた。

 

「私、たちも……?」


 その目つきに背筋を凍らせたニーテは一歩身を引く。


 それを横目に見ていたルミナは、仲間の危機に業を煮やし、密かに拳に熱を込めていた。


(待てルミナ——その炎をしまえ)


 だが、そんな彼女の耳元には、転生者の声が響く。


「カガミ……あなたまで何を言ってるのよ」


(今魔法を放っても、男の剣が袋の子供を刺し貫く方が早い——)


 これまで黙って様子を見ていたカガミだったが、今にも飛び出しそうな彼女の前へと出る。


(それより思い出せ——ジーンが残した言葉を)


「ジーンさんの……?」


 男たちのもとへ離れていくジーンの背中を目で追うルミナ。


「確かさっき……“子供の方”って——」


 やがて、彼女は静かに目を閉じる。


 焦りで狭まっていた意識を落ち着かせ、今一度——人質の入った袋へと意識を集中させた。


 ——そこでようやく、ジーンの言葉の意味に気づいた。


「そんな……いや!」


 一方、肩を震わせながら男のもとへ歩み寄るジーンから、ニーテはとうとう目を背ける。


 そして——その足が、男の目の前で止まった。


「良い女だな——」


「ん……!」


 男の手が、無抵抗な女戦士の顎へと伸びる。


「戦士にしておくにはもったいない——こういう女は、俺の元で徹底的に服従させてやる」


「なんだと……?」


 品定めでもするように、その青い瞳を覗き込んだ。


 ジーンは目を潤ませながらも、精一杯の抵抗を込めて言葉を絞り出す。


「……くっ、私は戦士——さっさと殺せ」


「くくく……」


 だが、その反発は男を喜ばせるだけだった。


 すっかり優位に立ったつもりなのだろう。

 欲望を滲ませ、堪えきれず笑みを漏らす。


 ——その時だった。


 怯えていたはずのジーンの口元が、すっと吊り上がった。


「こういうのが——お好きなんでしょう?」


 目の前の女の震えが止まっている。

 男がそれに気づいた——その刹那。


「がぁぁぁっ‼︎」


 極められた腕を捻り上げられ、男の体は強引に後ろへと向かされる。

 一瞬のうちに、掴んでいたはずの女に背を取られていた。


 そう——すべては彼女の思惑通り。


「てめぇ! 何を⁉︎」


 男の腕を容赦なく締め上げるジーン。


 突然の反撃に隣の男も危機を察し、人質の袋へ突き立てていた剣に力を込めた。


 だが——。


「んぐっ!」


 次の瞬間、その男の呼吸が止まる。


「——おい! 何をした、女!」


 状況が読めない三人目の男は、迂闊に切り込めず声を荒らげていた。


 その目に映っていたのは、腕を極められた仲間の陰から伸びたジーンの後ろ蹴りが、もう一人のみぞおちへ深々と突き刺さる光景だけ。


 そして。


 ゴキッ——!


「うぁぁぁぁっ‼︎」


 骨の軋む音と共に、腕を極められた仲間の悲鳴が響き渡る。

 そこへ、ジーンの冷たい声が遅れて届いた。


「あなたは——見ているだけですか?」


「なっ……!」


 その言葉に男が怯んだ瞬間。

 青い瞳が——目の前を通り過ぎる。


「——男が、聞いて呆れますね」


 一瞬の出来事だった。


 気づけばジーンは、一人目から奪い取った剣を振り抜き、その先へ軽やかに着地していた。


「……ぐぅ」


 遅れて、背後から苦悶の声が漏れる。


 三人目の男は傷口から血を噴き出し、その場へ力なく倒れ伏すのだった。


 すべてが終わったと思われた——だが。


「ぐぐぐ……野郎……!」


 みぞおちを蹴り抜かれた二人目の男が、腹を押さえながら立ち上がる。


 そして、すぐさま近くの袋へ向けて剣を振り上げた。


「人質は……ぶっ殺ぉす!」


「ジーンさん——‼︎」


 ようやく状況に追いついたニーテの悲鳴。


 すると——。


「んぁぁぁぁっ‼︎」


 一閃の光が、剣を振り下ろそうとした男の体を刺し貫いた。


「ま……魔法……」


 全身を駆け巡った雷に焼かれ、その場へ崩れ落ちる最後の男。


 そして——何事もなかったかのように、ジーンが振り返る。


「さすがはルミナさん——完璧な援護でしたよ」


 その視線の先には、真っ直ぐ手をかざしたルミナの姿。


 伸ばされた腕の周囲では、未だ小さな雷光がピリピリと弾けていた。


 そう。


 ジーンの言葉を受けたルミナは、ずっと、子供の方にいた男だけに狙いを定めていたのだ。


「ジーンさんが隙を作ってくれたおかげよ。立てる? ニーテ」


 やがて彼女は、何もできず腰を落としていたニーテへと手を差し伸べる。


「は、はい……すみません」


 こうして、三人は無事戦闘を終え、その場の制圧に成功した——。


「……うう」


 腕を破壊されながらも、まだ息のあった男のもとへ、ジーンはゆっくりと歩み寄る。


「——女だと思って甘く見ましたか? 武装解除したとはいえ、敵を簡単に間合いへ入れるなど……愚かでしたね」


 目の前に立つ女を、男は地面から見上げていた。


 完全に逆転した立場。

 今さらながら、後悔だけが胸を駆け巡る。


 しかし——。


 男はすでに、ある手を打っていた。


「んぐっ……! が、はっ!」


 口から溢れ出す大量の血。

 彼はなんと、自らの死を選んでいたのだ。


「こいつ……自分で舌を——!」


 思い切ったその行動に、ルミナも驚きを隠せなかった。


 これまで出会った盗賊の中に、ここまでの覚悟を持って敵に臨む者など、一人としていなかったからだ。


「答えなさい! あなたたちは一体、何者なのですか!」


 ジーンの問いに返ってくるのは血飛沫だけ。

 やがて男は、不適な笑みを浮かべたまま息絶えた。


「……恐ろしい奴ら」


 自らの命を投げ出すことさえ恐れない男たち。


 その胸元で揺れる牙の首飾りだけが、不気味な存在感を放っていた。


 得体の知れない恐怖が、あたりの空気を包む。


 だが——その背後から、沈んだ空気をかき消すように歓喜の声が上がった。


「——ジーンさん! ルミナさん! 人質の子は無事です!」


 振り返るとそこには、袋に詰め込まれていた少女をいち早く助け出していたニーテ。


 さらに、心に何かを引きずる二人のもとへ、天の声が言葉を添えた。


(不安なのは分かる——でも今は、人質を助けられたことを喜ぼう)


 カガミの言葉に、ジーンとルミナは顔を見合わせる。


 そして、ようやく表情を和らげた二人は、眠れる少女のもとへと、歩み寄っていくのだった。

ジーンの起点により、三人は無事勝利を納めました。

しかし、なかなかの強敵。

牙の首飾りを持つ彼らとの因縁は、今後もずっと続くかも……。


お次は金曜日!

新しい出会いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。