第23話 風の里へ
始まりました第三章!
主人公カガミの、初戦闘となるかもしれません。
舞台は辺境の地——風の里。
共に戦うのは、あの女戦士と見習い魔法使い…⁉︎
※最初だけカガミ視点になります。
風の里へ
どうぞ。
とある森の道中。
そこには、馬車の荷台に腰掛ける三人の女性の姿があった。
「——しかし、驚きました。転生者と呼ばれるものが本当に存在していたなんて……えっと、カガミさんでしたっけ」
(ああ——こちらも驚いたよ。俺の声を聞いて平然としているなんて、さすがは上位六騎士様だ)
馬車に揺られながら、優しく頷くのはジーン。
短く切り揃えた髪に、澄んだ青い瞳を持つ、ギルバディアの女戦士だ。
すると、その隣では、一人の少女が震える手で魔導書を握り締めていた。
「ジーンさん……転生者なんて本当に信じるんですか? ひょっとしたらこの人、私たちの着替えとかを覗くようなやつかもしれませんよ?」
彼女は、魔法使い見習いのニーテ。
「落ち着いてよ、ニーテ。今まで私を助けてくれたり、カガミも結構いい奴だからさぁ……覗きは、分かんないけど」
(神に誓っても、そんなことしねえよ!)
ルミナが必死になだめるが、男の声の透明人間にずっとこの様子である。
「幽霊のような存在だと思えば、面白いじゃないですか」
ジーンはそう言って楽しそうに笑っていた。
だが次の瞬間、その目つきが鋭く変わる。
「無論。覗きなどという不届きなことを致しましたら——私が切り刻ませていただきますが……」
そう告げながら掲げた剣とその眼差しには、明らかな殺意が見えていた。
(……肝に銘じておきます)
どうやら彼女には、俺の姿がぼんやりと見えているらしい。
本来なら気楽な女子旅になるはずだった。
しかし、男である俺が同行しているせいで、どこか落ち着かない空気が流れていた。
——そんな空気を断ち切るように、馬車がゆっくりと止まる。
「お嬢様方。私が案内できるのはここまでですよ」
「ご苦労様です。ここからは徒歩で向かわせていただきます」
荷台を降りたジーンは、御者へ深々と頭を下げ、小袋を手渡す。
そして険しい谷道へ視線を向けた。
「この先ですね。今回のクエストの舞台——“風の里”は」
(風の里……か)
クエスト——。
それは国から依頼される任務の総称である。
その内容は、お店の手伝いや家庭教師といった比較的簡単なものから、要人の護衛や妖魔討伐など命の危険を伴うものまで様々だ。
主に一般兵以上の者だけが受けられる制度であり、報酬で生計を立てたり、実戦経験を積み、自らを鍛えたりと、彼らにとって欠かせない仕事でもあった。
「初めての実戦だけど……大丈夫? ニーテ」
「何を言ってるんですか! このくらい平気ですよ」
期待と不安が入り混じるニーテの背中へ、ルミナが励ましの言葉を送る。
そう。
今回のクエストは、危険を伴う任務。
「私がいますのでご安心も。お二人の強力な魔法、頼りにしていますよ。それに——あなたも」
慌ただしい空気が流れる中、ジーンは静かに俺の方を見つめていた——。
* * *
数日前。
「あの転生者が、アリステラ様だって⁉︎」
「しっ! 声が大きいよ——」
王宮の会議室で顔を合わせていたのは、アバンとヨヨだった。
「あんな声なのに……信じられん」
「私にもよく分からないさ。なぜ女神の転生者に、彼の人格が混じっているのかなんて」
ヨヨは呆れたように息をついていた。
だが、真剣そのものだったその瞳に、アバンの胸には一つの不安がよぎる。
「まさか……この秘密すらも、胸にしまっておけと言うのか?」
その問いに、彼女はゆっくりと頷いた。
「彼女には、話してもいいんじゃないか?」
「いつかは話さないといけないだろうけどね……それにこれは——カガミの意思なんだよ」
彼の秘めた想いを、ヨヨが知る由はない。
ただ、女神の一族へ寄り添ってきた彼女には、頑なに口を閉ざそうとする彼の意思を、無下にすることはできなかった。
「——異世界からの転生者ってことにしたら、説明がつくだろう?」
「むぅ……ヨヨ婆がそういうなら」
その言葉に、アバンは無理やり納得させられた。
やがて全身から力が抜けると、彼は深く頭を抱え始める。
「女神族を二人も匿うなんて……俺は、とんでもない時に帰ってきてしまったな」
すると——。
「——ジーンです」
扉を叩く音と共に、一人の女戦士が部屋へと入ってきた。
「失礼致します。ヨヨ婆様、例の件は——」
「おお。もちろん用意してあるよ」
部屋へ入るなり二人に会釈したジーンは、すぐにヨヨの方へと体を向ける。
「うちの魔導院にいるルミナと……もう一人はニーテ——この子に関しては、まだクエストの経験もないからよろしく頼むよ」
その言葉に、彼女はにこりと笑った。
「ええ——ルミナさんのことは、よく存じております。それから、ニーテさんはヨヨ婆様のお孫様でしたね。優秀な魔法使いの方々とのクエスト。胸が躍ります」
今回、ヨヨがジーンのもとへ派遣するのは、その二人だった。
風の里から届いた依頼に向け、同行者を探していたジーンへ対する、彼女からの強い要望である。
「——風の里からのクエストは、彼女たちとの三人で向かってもらうことになった」
話を聞いていたアバンだったが、彼はわずかに心配そうな表情を浮かべた。
「そういうわけなんだが……本当に、その二人で大丈夫か?」
すると、彼の前へと出たジーンは、眉をひそめて言い放つ。
「どういうことですかアバンさん! まさか、女だけの隊列では、心もとないとでも言うつもりですか⁉︎」
上位六騎士へ就任して以来、初めてクエスト長を任されるジーン。
アバンの言葉は、そんな彼女を心配してのものだった。
「そうじゃない! 俺はただ油断するなと言いたかっただけだ。君のことは信頼している——」
彼女をなだめるように告げると、アバンはさらに言葉を続ける。
「それに、信頼できる仲間は——もう一人いる」
「もう一人? 一体、誰が……」
首をかしげるジーン。
そんな彼女に、アバンはルミナのもとで修行に励もうとしている転生者——カガミについて語り始めた。
異世界から来たということ。
人の体を借り、その力を引き出せること。
そして、この世界の行く末を知っていると語っていること。
——にわかには信じがたい話を一通り聞き終えたジーンは、落ち着いた様子で顎に手を添え、ゆっくりと口を開いた。
「——人の体を借りたり、異世界を渡ったり。転生者とは、実に怪奇な技を使うのですね」
「……へぇ。意外だね」
すぐに疑うことなく話を受け入れた彼女に、ヨヨは驚きを隠せなかった。
「こんな話、あんたなら信じないと思っていたよ」
「お二人が嘘をつくとは思えませんからね。ですが、すべてを信じたわけではありません。私は自分の信じるものは、自分の目で確かめます——」
その言葉を聞いたヨヨは、ホッとした様子のアバンと顔を見合わせる。
すると——。
ジーンは、何かに縋るような笑みを浮かべた。
「死んだ人間が、違う形で蘇る——私はそれを信じたい」
瞳に奥に映るかすかな悲しみ。
それを理解しているヨヨもまた、静かに目を伏せた。
「……そうかい」
沈みかける空気。
しかし、それを払うようにアバンが声を上げる。
「そう思ってくれるなら、俺としてもありがたい——カガミという男には、今後もこの国で戦ってもらうつもりだからな」
彼は安堵していた。
天の声という、信じがたい存在であるカガミが受け入れられることは、この国の勝利に繋がると強く信じていたからだ。
「面白い……ぜひ一度、話をしてみたいものですね」
その異形な存在を、既に受け入れつつあるジーンは笑う。
——こうして転生者カガミは、彼女たちとのクエストの同行を認められたのだった。
* * *
「——お手並み拝見といきますよ。カガミさん」
(まあ、俺はルミナについているだけだから、いないものとして考えてくれたらいいよ)
軽く言葉を返されるが、ジーンは興味深そうにカガミの光を見つめていた。
ルミナとニーテは、そんな彼女の様子を不思議そうに眺めている。
「……ジーンさん、よくそんな平然としていられますね」
「私も初めて知った時は、もっと怖かったんだけど……」
それでもジーンは、どこか嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか?」
生きているわけでもなく、完全に死んでいるわけでもない。
彼女は、生と死の狭間を繋ぐような不思議な存在に、強い興味を示す。
その心に今でも——亡き友マリラの姿が映っていたからだった。
ルミナ、ジーン、ニーテ、そしてカガミ。
今回の彼らの任務は、風の里への遠征。
明かされていく世界の縮図とカガミの過去。
風の里編にて、だだ転ワールドがさらに明かされていきます。
お次は火曜日!
展開が早速進みます!




