表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第二章 鏡と共に
109/112

第18話 女神の系譜

これで俺も戦える!?

そう期待していたカガミでしたが、彼にできることは……。


女神の系譜


どうぞ。

「魔法を? あんたがかい?」


 滑稽そうに俺を見つめるヨヨ。


(実体はなくとも、俺にはマナがある。剣は握れなくても——魔法を使って戦えるはずだ)


 胸いっぱいに期待を膨らませた俺は、子供のように声を弾ませていた。


(女神様の力を持つ俺だ。魔法をなんて覚えたら、きっとみんなの役に立てるぞ!)


 しかし、言葉を並べていく俺に、ヨヨは冷たく首を振る。


「そいつはできないよ」


(ええっ⁉︎ なんで……)


 ようやく皆の力になれると思っていた俺にとって、それはあまりにも絶望的な答えだった。


「そんなことができちまったら、転生者は真っ先に敵の寝首をかくだろうね——残念だけど、魔法なんてのは生きた人間にだけ当てはまる力なのさ」


 追い打ちをかけるようなその言葉に、俺は肩を落とす。


(そんな……俺は結局、何もできないのか)


 やはり俺は、どこまでいっても死人。

 戦うことなど許されない無力な存在だと、今一度思い知らされた。


 ——すると。


「ただし——」


 落ち込む俺を見かねたヨヨが、手を差し伸べるように優しく微笑んだ。


「ルミナの体を使えば、話は別だがね」


(……ルミナか)


 彼女の言わんとしていることはすぐに分かった。


 人の体を借り共に戦う。

 ラキたちがよく使う、憑依というやつだ。


 しかしそれには——問題があった。


(ヨヨ……一度試したんだけど、俺にはできなかったぞ)


 俺の魂は、彼女の体に干渉できない。

 過去に起こした好奇心から、それは実証されている。


 だが。


「いや——必ずできるはずだよ」


 それでもヨヨは言い切った。


「過去にあんたが失敗した理由はわからないけどね——この力は、先代の転生者たちが成し遂げてきた()()()()なんだ」


 ——全てを知る彼女の口ぶりにすぐにピンときた俺は、一つの答えを導き出す。


(女神の系譜……力の継承か)


「その通り」


 女神の転生者とは、ただ目となり口となるだけの存在ではなかった。


 それは、死を超えて、女神の力を次の時代へ受け継ぐ力の一つ。


 ——さらに彼女は、それを可能とさせる確かな情報を俺に打ち明ける。


「女神の力を使いこなせれば——あの妖魔の力を、簡単に退けられる」


(妖魔を退ける……)


 その言葉に、不可解なあの出来事を思い出した。


 国境の森にてルキが殺されかけたあの日。

 叫ぶことしかできなかった俺とルミナが、妖魔の動きを止めた。


 あれは偶然なんかじゃない。


 あの時確かに、俺とルミナの中で何かが重なっていたんだ。


(できる……かもしれない)


 ヨヨの言葉に確信を抱いた俺は、少しずつ覚悟を固めていく。


 アリステラがいなくなり、この世から女神の力は失われたと思われていた。

 だが、彼女は転生者となり、その力を残していた。


 何らかの理由で彼女の魂を受け継いだ俺が、その意志を継ぐ。


 これこそが、俺の存在する意味なのかもしれないと。


(俺……やっと、自分のやるべきことが分かってきた気がする)


「おやおや、そうかい。でも、ここからが大変だよ」


 進むべき道は見えた。


 だが、その途端に一つの不安が頭をよぎる。


(そうだよな……問題は、ルミナ——)


 俺は慎重になっていた。


 器となる彼女には、どう話せばいいのか。

 突然”俺はアリステラだ”なんて言えば、混乱させてしまうに違いない。


 ——しかし。


「アリステラ……いや、カガミ——」


(はい……!)


 ヨヨの言葉に、思わず背筋が伸びるような返事が漏れた。


「そんなことより、問題はあんただよ——」

 

 ルミナへの伝え方を考えるより先に、俺には決めなければならないことがあった。


「あんたはもう、こちら側の人間……その覚悟が、あんたにはあるかい?」


 それは——命を懸ける覚悟。


 鋭い眼差しが、俺の覚悟を推し量るように、まっすぐ突き刺さる。


 そこにいたのは、いつものヨヨではない。

 

 法王——。


 数え切れない修羅場を越えてきた彼女の言葉だからこそ、その重みは胸に深く響いていた。


(俺にできることは少ないかもしれない。だけど——)


 魂が震えるほどの圧に、不安がよぎる。

 それに、戦いが生む残酷な結末も、俺はこの世界で何度も見てきた。


 それでも——。


(俺も……命を懸けるよ)


 俺はもう、傍観者じゃいられない。


 目を見開く彼女に、強く言い放った。

 

(この世界を救うために——俺はここにいるんだ!)


 みんなを救えるのは、俺しかいない。

 

 それは、誰よりもこの世界(物語)を愛し、描き続けてきた俺の、譲れない想いだった。


「ひっひ。よく言った——」


 ——ヨヨを包んでいた空気が、ゆっくりと綻んでいく。


「久しぶりに、()()()の本気を見た気がするよ」


 俺の覚悟を受け止めてくれた彼女は、優しく目を細めていた。


 そして。


「夜になったら王宮へ来な——ルミナには、私からも話してあげるよ」


 どこか吹っ切れた様子で、踵を返す。


(ヨヨ……ありがとう)


 去っていくその背中へ、俺は何度も感謝を伝えていた。


(……()()()、支えてくれて)


 どれだけ礼を言っても、決して足りない。


 胸の奥から溢れ続けるその想いを、俺には止めることはできなかった。


* * *

 

 一方、その頃。

 少年少女が集う訓練場にて。


「——今日は負けないからね! ルキ君!」


「へへっ。かかってこい!」


 頬傷をつけた緑髪の少女と向き合う、一人の少年。


 その姿を、懐かしそうな眼差しが見つめていた。


『——あのガキ、バルナん時の……こんなところにいやがったのか』


 壁にもたれかかるガンツ。


 彼はバルナで、自分より遥かに強大な相手へ飛び込んでいったルキの姿を、今でもよく覚えていた。


『あんなに小せぇのに、もう戦うことを覚えてんだな』


 辛い戦いを経験しながらも、曇りのない瞳で剣を振る少年が、彼には眩しく映った。


『はぁ……』


 やがて、大きくため息を吐く。


『……なんで、あんな馬鹿なことしたかねぇ』


 国に見捨てられたと思い込み、すべてを恨み、悪魔の組織へ身を投じた。


 死んだ今になって、その選択を心の底から恥じていた。


 ——すると。


『ガンツ君!』


『うおわっ!』


 明るい声と共に、背後からマリラが現れる。


『急に出てくんじゃねぇよ! この幽霊女!』


 怒鳴るガンツに、彼女はすぐさま頬を膨らませた。


『だからぁー! 私はマリラだって、何度も言ってるでしょう!』


 相変わらずの彼女に、ガンツは呆れたように顔を背ける。


『うるせぇなぁ……一体ここに何しに来たんだよ、()()()


 背後の物陰に隠れる黄色い少女の気づきながらも、彼はぼやいていた。


『私たちは、あの子を見に来たのよ』


 すると、か細い指で訓練場を指差すマリラ。


 その先にいたのは、先ほどまで眺めていた少年兵だった。


『あいつを? ……へぇ。女にしちゃ見る目があるじゃねぇか』


 二人の目的を聞いたガンツは、小さく笑う。


『あのガキは大したやつだぜ。あの歳で、もうそこらの大人にも引けを取らねぇ実力だ』


 その意外な反応にマリラは少し驚いた。


 しかし、すぐに悲しげな視線を後ろへ向ける。


『そうじゃないわ。彼は、あの子の弟なの』


『……弟』


 ガンツは小さく呟き、ゆっくりとラキへ視線を向けた。


 震えながらも、必死に弟を見守るその姿。


 その光景が、自分とどこか重なって見えた。


『あいつも……()()なのか』


 大切なものを失い、一人取り残された悲しみ。

 その痛みを背負っているのだと、彼はすぐに悟る。


 そして脳裏に蘇るのは、自分へ浴びせられた罵詈雑言。


『まさか……あいつがここにいるのは』


 その言葉に、マリラは静かに頷いた。


『あの子も死によって——弟と引き裂かれたの』


 ガンツは俯き、拳を固く握り締める。

 そんな彼に、マリラは悲しげに続けた。


『この地には、盗賊が増えたからね……』


 その一言だけで十分だった。


 ガンツの胸に、一つの答えが重くのしかかる。


『それから、そこに居合わせたマルクさんに、こっそりついていったのよ』


 ラキは、マルクたちへ牙を剥く自分の姿を、その目で見ていたのだ。

 帝国の横暴によって、この大陸に増えた悲劇でさえも。


 彼女の罵声は、憎しみではなく悲しみだったのだと、彼はようやく理解した。

 

 ——そして。

 

『俺のせいだ』


『えっ?』


 苦しげに顔を歪めたガンツは、静かに背を向ける。


『やっぱり俺は、あいつの言う通り……血も涙もねぇ人間だ』


『ちょっと……待ってよ!』


 今まで見せなかった彼の表情。


 立ち去ろうとするその腕を思わず掴むマリラ。


『どうして一人になろうとするの? 私たち、同じ痛みを背負う仲間じゃない』


 優しく諭すような声が響く。


 彼女の言う通り、この場にいる誰もが、それぞれの悲しみを抱えていた。


 だが、それでもガンツは、彼女の手をそっと外す。


『止めるな。俺は……お前らから、奪いすぎた』


 それだけを言い残し、彼は飛び去っていった。


『ガンツ君! 死んだ人間に帝国も何も関係ないじゃない!』


 背中へ投げかけたマリラの叫びが、虚しく響く。


 しかし——。


『あの人のエギル……』


 二人と向き合うことができなくなった彼の中に渦巻く悲しみの光。


 その深さに気づいたのは、ラキただ一人だった。

一人では戦えないカガミにできるのは、ルミナを支えることだけ。

後は彼女に受け入れてもらえればいいのですが……。

さらに、孤独に走るガンツの行方は??


お次は火曜日!

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ