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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第三部】 第二章 鏡と共に
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第17話 女神転生

帰ってきたカガミが初めに訪れたのはここ。

ルミナよりも先に、どうしても彼女に会わなければいけませんでした。


女神転生


どうぞ。

 ギルバディアに昇る太陽が朝を知らせる頃、俺は空に向かってあくびをするように声を吐き出していた。


(うーむよく寝た。これでバッチリだ!)


 本来、眠ることのできないはずの俺は、マリラとの長い旅の中で一つの特技を覚えた。


 ——それは、思考の停止。


 エギルだけの存在の俺たちも、活動を続ければエギルを消耗していく。


 ラキたちが時折眠るように姿を消すのも、その力を回復するためだった。


 俺も帝都までの長旅で、初めて疲労というものを味わった。


 眠気はない。


 だが、思考は鈍り、体だけが重くなっていく。


 だから俺は、意識だけを眠らせる術を身につけた。


 ——完全な眠りにつけないのは、おそらく俺の中に、()()()()()()()()が眠っているからだろう。


(思考を休めるだけでも、体の軽さが全然違うな——おや?)


 あたりをくるくるとまわっていると、俺の懐を飛び出すように二つのエギルが声を上げた。


『やぁ! おっはよーございまーす!』


 いっぱいの笑顔で拳を突き上げるラキ。


『んー。やっぱり、ギルバディアの朝が一番ね!』


 空気を抱くようにして手を広げるマリラ。


 懐かしい目覚めを喜び合う少女たちだったが——俺はやけに軽くなっていた体に違和感を覚えた。


(あれ……ガンツ! どこいきやがった……)


『カガミさん? 一体?』


 彼を呼び出そうと何度も名前を呼ぶ声に、ラキはとっさにマリラの影へと隠れる。


『もしかして……彼が見つからないの?』


 震えるラキの肩を抱きながら、心配そうな顔を向けるマリラ。


(ああ。俺が寝てる間に、一人でどこか行きやがった……ったく、ガキの家出かよ)


『……そう』


 原因は昨日のこと——それは皆も察していた。


 ガンツにとっても、敵国だったこの国にはいづらいのだろう。


『あんな怖い人が……ギルバディアをさまよってるなんて』


 彼のことをいまだ受け入れられなかったラキは、ますます青ざめていた。


 今すぐじゃなくても、共に戦う仲間を、彼女にもいつかわかってもらわないとな……。


 やることが山積みだった俺はやがて——マリラに声をかける。


(マリラ…… 二人の事、君に任せていいか? 俺はそろそろ——)


 今回の遠征で、報告しなければならないことがたくさんあった。


 そして、すぐにそれを察してくれたマリラは、微笑み、背中を押してくれた。


『ええ、大丈夫。カガミさんは心配しないで行ってきて』


(ありがとうマリラ——本当に頼りにしているよ)


 この場を預けた俺は、早速()()の気配のする魔導院の方へと体を進めるのだった。


* * *

 

 爆炎が散り、氷塊が放たれ、雷光が走る——。


 様々な色が飛び交う魔導院の訓練場に、彼女はいた。


 杖をつき、魔法使いの弟子たちを見守っていた彼女は、やがて何かを察したように小さく肩を揺らす。


「ひっひ。よく帰ってきたね……カガミ」


(やっぱり——見えてたか)


 すぐそばへと歩み寄っていた俺に、ヨヨは驚く様子もなく微笑んでいた。


 デノイルの時もそうだったが、優れた魔法使いにはマナを感じ取る力があるのだろう。


「事情はルミナに聞いたよ。あの子には、ちゃんと報告したのかい?」


(まあ、そのことについては……)


 魔導院にいたのは、ニーテと数人の魔法使いだけ。


 ルミナがここにいないことを知っていたからこそ、俺は真っ先にヨヨのもとへ来た。


「おや、まだ報告してないのかい? ……なるほど。何かに怖気付いて、ここに来たって顔だね」


(違う違う。まあ、それもちょびっとはあるけど……どうしても先に、ヨヨへ伝えたいことがあったんだ)


 心を見透かしたような言葉に苦笑すると、ヨヨは少しだけ表情を引き締める。


「何でも言ってみな、アリス……いや、カガミ」


 そう呼ばれることが、どこか嬉しかった。


(構わないよ)


 俺は静かに首を横へ振る。

 そして、言い放った。


(だって俺は——アリステラだから)


 彼女に一番に伝えたかったこと。


 それを聞いたヨヨは、一瞬だけ目を細めると、優しく頷いた。


「……そうかい」


 何度聞いても、その声は温かかった。

 その理由が、ようやくわかった気がする。


 俺の中には——転生者アリステラの魂が生きている。


 だからこそ俺は、彼女の恩師であったこの人に、深い信頼を寄せていたのだ。


 ——さらに俺は、悩みを打ち明けるように彼女に呟いた。


(時々、()を見るんだ。アリステラの——)


「あの子の夢を? どういうことだい、そりゃ」


 ヨヨは首をかしげる。


 俺も彼女に会うまでは、それをただの夢だと思っていた。


 だが、今は違う。


 ずっと夢だと思っていたそれは、おそらくアリステラが実際に体験した記憶そのもの。


(ひどい夢ばかりだ。城の中で妖魔に囲まれたり、牢の中で拷問を受けたり……最初に見た夢では、自ら命を絶っていた)


「自ら命を……? それは間違いないんだね?」


 ヨヨの顔から笑みが消える。


 俺がそれを夢ではないと確信したのには、ある理由があった。


(その夢は……全部、痛いんだ)


 静かに目を閉じるヨヨ。

 杖を握る手は、わずかに震えていた。


(冷たい牢屋の空気も、体を裂かれるような痛みも……全部、現実だった)


 さらに、その言葉が紡がれるたび、眉間に深い皺が刻まれていく。

 握り締めた手には、白くなるほど力がこもっていた。


 そして——。


(あの時感じた痛みも悲しみも全部、きっと彼女が感じた——)


「もう充分だよ!」


 俺の言葉を遮ったヨヨ。


 その一声には、押し殺していた怒りと悲しみが、すべて込められていた。


 ——皇帝の手に落ちてしまったアリステラ。


 彼女がどれほど残酷な仕打ちを受けてきたなんて、ヨヨには想像するまでもなかった。


(ヨヨ……ごめん)


 伝わってきたのは、怒りだけではない。


 姿のない俺ですら感じ取れるほど、周囲の空気が震えていた。


 すると——。


「——おばあさま! 一体どうしたの?」


 孫娘のニーテがその異変に気づいた。

 慌てて駆け寄った彼女は、不安そうに祖母の顔を覗き込む。


 しかし。


「ひっひ……大丈夫。怖がらせてしまったね、ニーテ」


 すぐに我に返るヨヨ。

 柔らかく開いたその手で、彼女の頭を優しく撫でた。


「さあ、あんたは訓練へ戻りな」


「は、はい——」


 いつもの穏やかな声に安心したニーテは、小さく微笑むと、再び広場の方へ戻っていった。


「やれやれ……私としたことが、つい熱くなっちまったよ」


(いやぁ……こっちは肝が冷えたよ)


 一時はどうなることかと思ったが、重苦しかった空気も、ようやく落ち着きを取り戻していく。


 ——だが、俺がここへ来た理由は、それだけではなかった。


(ヨヨ……俺に魔法を教えてくれないか?)


 それは、俺が見出した可能性。


 もし、この体に女神アリステラの魂が眠っているなら、俺もみんなの力になれる。


 俺は悲しい知らせばかりを伝えにきたのではない。

 新たな希望を持って——彼女のもとを訪れたのだ。

俺はアリステラの転生者である。

どうしてもヨヨに伝えたいことでした。

しかし、それならば彼は魔法使いとして活躍できる……!?


お次は金曜日!

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